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  清楚系の先輩・野村翡翠 その三

キミはコンビニでプリンを買い、公園で食べることになる。ブランコに座って、また話をする機会が訪れる。キミはとりあえず、自分の家の事を話す。


「オレの婆ちゃん、今入院してるんですよ。だから、今日は母親を助けないといけないんですけど、しばらくしたらお婆さんが良くなって、元の生活に戻りますよ。


好きなテレビ見たり、漫画読んだり……。野村先輩は、普段どんな趣味をしてるんですか?」


キミはようやくシレンさんにアドバイスしてくれた話題を振ることができた。シレンさんも良い振り方だと、うなずく。


(おお! うまい。まず自分のプライベートな事を聞きだすことで、相手のプライベートな事を聞きだし、親しくなっていくテクニックだ。


家族構成や趣味、将来の夢など、恋人を作る上では欠かせないテクニックだぞ。さて、野村はどう答えるかな?)


キミの期待を裏切って、野村先輩は冷淡に話す。何か嫌な事を思い出したのだろうか?


「別に、あなたと同じよ。テレビ見たり、漫画読んだりしてるだけよ」


野村先輩の答えから、重苦しい空気が流れ出す。これは話題を変えて、話を盛り上げないとダメだ。キミはしばらく野村先輩と同じ動きをし、話題作りを考える。それは、シレンさんからのアドバイスの一つでもあった。


(ふっ、透の奴やるな! あれはマッチングという気が合うと思わせるテクニックだ。即席の場合は、相手の行動を合わせるだけでも良い。同じタイミングで食べたり、同じ仕草をしたりな。


こうすることで、相手に好感を持たせることができるんだ。高度になってくると、相手の使っている文房具やペンをチェックして購入し、相手に同じ物を使っていることをさりげなくアピールするテクニックがあります。


一つや二つ、相手と同じにすることで気が合う人なんだというのを思い込ませます。あまりにも同じ商品ばかりだとストーカーのように気持ち悪がられるので、ペンや消しゴムなど小物を一緒にしましょう。


ポイントは、相手が同じ物を使ってるな、と思わせることが大切です。自分で同じ物を使ってるねとは、言わないようにしてくださいね。


後は、相手の言葉を引用して会話するバックトラッキングというテクニックがあります。


相手が話した事をそのまま話して、最後に質問を付けるというテクニックです。


例えば、さっきちょっと野村さんから趣味を聞き出すことができたので、『テレビや漫画を読んでいるんですね。どんな内容の物ですか?』と聞きだすテクニックです。


これを繰り返すと、相手は、自分の話をしっかりと聞いてくれているんだ、と錯覚します。まあ、機会があったら試してくださいね)


野村先輩はキミの動きを見て、しだいに笑い出した。


「もう、さっきから何動きを真似してるのよ」


「いや、ごめん。ちょっと話の話題が無くてつい……。でも、オレと野村先輩が、こうして公園で笑ってプリンを食べているなんて、部活入った時は思わなかったな。ちょっとは運命ってものがあるのかな?」


キミは照れながらそう言う。


(来たか! 運命、これは女性の言葉に響くものだ。人間は本来、自分の理解を超えた偶然の出来事が起きると不安になるものだ。これを納得するために、自ら運命というモノを作り出した。


つまり、運命の正体とは、仕組まれた偶然なのだ。相手の運命を感じさせたいのならば、理解できない偶然がいくつも重なったように演出すればいいだけの事。


さっきのマッチングやミラーリングを駆使すれば、運命を感じさせるのは容易い事だ。後は、昔は全然考えなかったと、過去の事を持ち出すのも良い手だ。相手が出会った頃を覚えているのなら、効果は倍増する! 


こりゃ、野村も落ちたな。自分の才能が怖いぜ、全く……)


野村先輩は運命という言葉に強く反応した。

しかし、ときめくという感じではなく、何か強い口調で否定するような感じだ。


「え! 水上君は運命を信じているの?」


「いや、なんとなくだよ。別に信じてはいないよ……」


(まれに運命を嫌う奴もいるからな。まあ、そういう奴はたいてい努力家だ。話題的には微妙になって来たけど……)


「私は運命なんて信じていないよ! 私は自分の力で、音楽の道に進みたいんだもん! 


音楽の道で成功できるのは、ほとんどわずかなの。運命なんてモノがあるなら、ほとんどの人は音楽家になれないのに無駄な努力をしていることになるよ。私はそれを許さない!


自分の運命は自分で切り開いて見せる!」


野村さんは自分に酔っていて、そう力説する。

何かしらの決意の現れでもあるのだろう。


「そうなんだ。野村先輩は偉いな。オレも見習わないと……。オレも音楽の道に進みたいんだ! 今はそんなにうまくないけど、将来は海外で活躍するために英語に力を入れているんだ!」


キミはそう言ったが、英語はあまり得意でもない。将来は、将来は、と自分を言い聞かせるように、心の内で語っていた。


(おお! 透の奴、うまく話を合わせたな。

しかも、ハロー効果を利用して来るなんてな。


英語ができるからといって、音楽の技術が上がるわけではないが、英語を習って世界に進出するという目標があることを言えば、野村には具体的に音楽の道を目指しているんだ、と錯覚させることができる。


人間は目立った一つの特徴があると、それに引きずられて、全体まで判断してしまう性質があるのだ。何でも平均的な人より、ある一点が特出している人の方が、全体的にすごく見えるんだ。


だから、ハロー効果を使うのなら、目立つ特徴を一つ作れば有利になるんだ。これならニートの方々でも、状況次第によっては彼女を作ることができるはず……。頑張ってくれ!)


「そうなんだ。水上君はすごいね。でも、私は努力してるけど、音楽家としてはダメかもね……。本番前になると、すっごく緊張してうまく演奏できないの。君は知らないかもしれないけど……。人が大勢いるとね、恐くなっちゃうんだ……」


キミはそれを聞き、唐突に理解した。なぜ、さっきキミが趣味を訊いた時に野村先輩が暗くなったかを……。最近、大きなコンクールがあった。彼女はそれに参加し、落選したのだろう。


そのニュースが昨日のテレビでやっていたような気がする。野村先輩はそれを思い出して、表情が暗くなったんだ。


「もう、晩いから帰るね。今日はここまで送ってくれてありがとう。じゃあ、またね!」


野村先輩はそう言って、走って帰ってしまった。意外と速く、あっという間に見えなくなってしまった。さすがは、走ることを提案して来ただけはある。キミは呆然としていたが、シレンさんがキミにこう言う。


「お前、サッサと彼女の家まで走れよ! 筋トレのついでだろ! いきなりサボってるんじゃないよ!」


そう急かされ、キミは彼女を追いかけた。しかし、彼女は速くて、運動をそんなにしていないキミに追い付ける相手ではなかった。キミは彼女の家に行き、彼女の安全を確認してから、ダッシュで自分の家まで帰った。


シレンさんはそのままキミの家に向かったようで、キミが家に着いた頃には、食事を始めていた。

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