【16】 命より大事な生きがい
六郎「ボートレースの予想だよ」
金塚「えっ! ボートレースの予想?」
六郎「あんたが市民を大事にしているように、俺にはボートレース開催のたびに俺の予想を待ってくれている人が居るんだよ。嬉しいよなぁー」
金塚「……」
六郎「だから入院して寝ているなんてことは出来ないんだ。ただ横になって死を待つなんてできねぇーな。死ぬまで前に向かって突き進んで行く。それが俺の流儀だ」
金塚「『六さん』の予想を、ボートレースファンは待っているんですね」
六郎「まぁ、ほんの2~3人だけど、頼りにしてもらっているお客さんはいるね」
六郎は『2~3人』と謙遜して言った。
金塚「その方たちとは、何年ぐらいのお付き合いなんですか?」
六郎「20年以上かねぇ、この連中たちのお陰で今までやってこられたし、この年齢になると頼りにされているということが、何よりの生きがいなんだよ。若い連中には、わからないだろうけれどな、『頼りにされる』『人のためにする』。これがどんなに嬉しいものか、死ぬ間際になって、やっとわかったんだよ。だから、もう1日だけ生きようと、毎日思うのさ。それが無かったら、とっくに死んでるわな」
金塚「いいですね。死ぬ間際まで出来る仕事があって。私たちは、定年で辞めさせられちゃいますからね」
六郎「そうか、そうだな。俺は短い人生だったけれど、幸せかもな」
金塚「そうですよ。人生『何年生きたか』じゃなくて、命を閉じるときに『幸せだったと思って死ぬ』か、『つまらなかったと思って死ぬ』か、ですよ」
六郎「あんた、いいことを言うな。電話して良かったよ。国民年金は払えないかも知れないけれど、勘弁してくれよな。じゃあな」
電話が切れた。




