道
この国の長い冬が、来る。
重く、陰鬱さが支配する寒空を想起させながら、近付いてくる。
凍り付いた様な白い息を吐きつつ、七人は歩んだ。
峻厳にそびえ立つ、アーチ状の学園の門。
くぐる瞬間に結生は上を見上げた。
黒く、そして重々しい重圧を見た者に感じさせる、高い門。
これから自分は何度、“門”をくぐるのだろうと、彼女は思った。
何度遠い異国へ旅立ち、または試練に直面し、どの様な敵に出会うのだろう、と。
「街はすっかり片付いたみたいだね。」
石破望はそう言って、歩きながら周りの光景を、俯瞰するかの様に眺めた。
「目が覚めたら記憶喪失状態でバタバタ倒れてるんだもん。この世の終わりなんじゃないかって言うぐらいの、大騒動にもなるさぁ。」
マリーアが若干駆け足気味になりながら言った。
「俺の店はまだこの世の終わりだ。」
「済まない…兄様…。」
ムスッとして語るホセに、ルシーアが短めに謝罪をする。
「場所はここで会ってる?」
「ええ、その様よ。」
ファラフナーズが尋ねて、出淵ナオが答える。
そこは街の中心部にある集会場。
既に政府職員や黒スーツの男達が数十人、物々しい雰囲気を醸し出しながら集まっていた。
…やがて、弱々しい陽の光を微かに反射する、煌めきの塊が近付いて来た。
ロールスロイスがかなりのスピードで突っ走って、結生達の目の前で止まった。
「!」
運転席から出て来た男の顔を見て、全員の表情に、緊張感がみなぎる。
恰幅の良い大柄な体型。
西側諸国製の高級スーツに金の腕時計。
絵に描いたような俗物的な外見を縁取る、太い、濃い眉毛。
この国の最高指導者の姿がそこにあった。
「ズドラーストヴィチェ!」
にこやかにそう、挨拶をして男は結生の目の前に立ち、その太い唇を彼女の顔に近づけてきた…
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
✝
数日後、結生は放課後の帰り道を軽快に、ステップを踏みながら歩いていた。
“君には国営別荘が支給される”
最高指導者は結生にそう告げた。
今回の一件での活躍が、国家に対する英雄的な奉仕と、判断された上での報奨であると。
鼻歌を歌いながら結生は進む。
道端にしゃがみ込む不良共も、今の彼女には愛おしく感じられた。
ようやく家に帰れる。
何故か、そう思った。
状況が許せば、日本に住む両親も呼び寄せて、一緒に暮らそう。
結生は頭の中で、幸せな想像を巡らせる。
簡易式ゲートで手続きを済ませ、街を後にする。
巨大かつ峻厳な、高い尖塔の建つ街を振り返った。
あれだけボロボロになっていた学園が、ものの見事に修復されている。
果てしなく無機質な外見が、息苦しい閉塞感を伴ってそこに鎮座していた。
結生はすっと、緑の森の空気を吸い、一歩を踏み出す。
小道を少し行くと、茂みの向こうにそれが見えて来た。
豪勢な造りの、薄い緑色に塗られた別荘。
チャリ、と結生の手に握られた鍵が、景気よく音を立てた。
ドアの前に立ち、ゆっくりと鍵を開けて、ドアノブを握り締めて中へと入ると…
「ユキちゃん、おかえりなさい。」
ホールの真ん中にファラフナーズが立っていた。
「えっ?」
結生は首を傾げる。
「ようこそ、私の冬季の別荘へ。これから我が家の専属メイドとして、バリバリ働いて貰うわよ!」
「ええっ?」
結生の片手から荷物入れが落ちた。
彼女はファラフナーズが、話しながら指差した先に目を向ける。
質素な作りのイングリッシュ・メイドの制服が、壁に掛けられて吊るされているのが見えた。
「制服も用意したの。ユキちゃんに似合うやつをと思って、選んだのよ!」
結生は叫んだ。
「もう嫌!!!」
ここまでお付き合い頂き、感謝です!
ありがとう!!




