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愚か者と怠け者の末路、或いは破滅した王国

残酷描写ありです。

苦手な方はご注意の上、お読みください。

クローディアは活気ある町並みを眺め、優しい笑みを浮かべた。


今は違う国となったが、かつてここには大国とは言えないものの平和であった国が存在した。

しかし、定められた運命の樹(ユグドーシア)を手折り、破滅へと進んだ愚かニズヘッグたちが現れ、平和だった王国は混乱へと叩き落とされた。


愚か者(ニズヘッグ)となったのは、二人の王子と四人の有力貴族の子息、第二王子の婚約者、とある男爵令嬢の八人である。


第二王子ら次代を担う若者たちは、一人の令嬢の寵愛を得ようと互いに貶め合った。第二王子の婚約者であった令嬢は第一王子と関係を結び、第二王子らを諌めることはしなかった。

最後の日。

第二王子らは、婚約者を令嬢を虐げた罪で糾弾した。しかし、婚約者であった令嬢はその全てを否定し、第一王子と結ばれる。

それが最後の選択であったのだ。

彼らは彼ら自身の選択で愚か者(ニズヘッグ)となった。再三にわたった忠告を聞かなかった王たちは怠け者となった。

あの裁きの間を去る間際、クローディアの瞳には彼らの行く末がはっきりと見えていた。


クローディアが去った後、その国は破滅へと転がっていく。

どんなに情報統制をしようとしたとしても、次代を担うとされていた彼らの所業は瞬く間に広がった。道連れになることを恐れた周辺諸国は王国との関わりを絶ち、民は国から流出した。国を出られなかった民たちはいつ破滅するか分からない恐怖に怯え、国から活気は無くなった。

だが、当時の王が生きている頃はまだ良かった。クローディアが去って数年後、王は病で倒れ、そのまま息を引き取った。王を愛していた妃たちは、国葬が終わった後、自ら毒杯をあおった。

それが破滅の始まりであった。

後見は決まらず、貴族たちは権力を手にしようと互いに貶め合った。見る間に国は痩せ衰え、民たちは悲鳴を上げた。


決まらぬ次代の王。

機能しない政。

財政が厳しいからと上げられていく税。


耐えきれなくなった民衆は、立ち上がる。

破滅を齎す者たちを排除せよ、と。

自らの手で平和を取り戻せ、と。


最初はか細かった民の囁きは、やがて国中に轟く大音声となった。

いかに政敵を蹴落とし、自分の私腹を肥やすかということしか見ていなかった貴族たちが気づいた頃には、もう止めることなどできなかった。


そして、一つの王国は終焉を迎え、新しい国が生まれた。



平和で活気に満ちた国を見ながら、クローディアは愚か者(ニズヘッグ)たちの末路を思い出した。

彼らはあの後すぐに処刑されたわけではない。

来たる破滅に向けてやらなければいけないことが山積していた。放っておいても処刑より惨い目に合うであろう彼らに拘っている暇はなかった。

だから怠け者なのです、とクローディアは考えているが。


それはともかく、彼らのその後である。


ロレンス・カーター。

彼は何とか実家に残ることはできたが、家督を継ぐ弟によって飼い殺し、否、それすら生温い扱いを受けた。ロレンスは弟をいつも馬鹿にしており、弟もそんな兄への恨みを募らせていた。弟は今までの鬱憤を晴らすかの如くロレンスを甚振った。四肢を切り落としたり、致死性は無いが、長時間苦しむような毒を飲ませたり。かつて王国にいたという拷問官も恐れをなすほどのものであった。

最期は激しい痛みが一週間ほど続き、死に至るという毒を飲まされ死んだ。その死に顔は苦痛に満ちたものであったという。


アシル・トレヴィス。

彼は家を勘当された。始めの頃は情けで貰った財産を切り崩して生活していたが、それも長くは保たなかった。財産が無くなった後、剣が得意であった彼は傭兵となるが、王国で依頼を受けられるはずもなく各地を転々とする。しかし、どこへ行っても噂はつきまとい、心休まる場所などありはしなかった。とある戦場で敵と戦っていた彼であったが、仲間に裏切られ、捕虜となった。敵国で拷問を受け、情報を全て吐くと殺された。その死体は野晒しにされ、鳥たちに啄まれたという。


ヘンリー・モーゼス。

彼もまた家を勘当された。アシルと異なる点は、女を誑かし、その女の家を転々としているところだった。王都から離れた街であったため、悪評は知っていてみヘンリーの顔を知っている者は少なかったのも要因である。尤も、貴族だった頃の悪癖が抜けず、飽きたら捨てるを繰り返し、最期は捨てた女の一人に刺されて殺された。何度も何度も錆びかけたナイフで刺された彼は、死ぬ瞬間まで激痛を味わっていた。


ダニエル・テール。

彼は、というより、テール家自体が取り潰しとなった。姉弟の二人が愚か者(ニズヘッグ)となり、公爵自身も後ろ暗い所業を行なっていたからである。処刑を辛うじて免れた彼らであったが、生活に困った両親はダニエルを売った。グロリオサでなかったのは、彼女はアーノルドと共にいたからである。見目は良いダニエルはそこそこの値段で売れた。好色で残忍だと有名な商人に、であるが。発狂もできず、散々痛めつけられることになる。最期は足の腱を切られ、猛獣に生きたまま食われた。


アーノルド・ウィル・エーテル。

廃嫡されたといえど、元第一王子である彼は、グロリオサと共に与えられた領地に引きこもった。民衆の反乱を聞き、グロリオサと共に逃げようとした彼は殺された。

他でもない、グロリオサ・テールによって。自身の思い通りにならない世界が耐え切れなかったグロリオサが全てを消せばリセット(やり直し)できると考えた結果であった。アーノルドは、置物で何度も何度も頭を殴られた。

美しかったその顔は滅茶苦茶に潰され、最早ただの肉塊と成り果てていたという。


エディ・ウィル・エーテル。

廃嫡された彼は、パトリシアの生家であるロイン家に転がり込んだ。最早貴族と言えるのはその家名のみだったロイン家は難色を示したが、パトリシアとエディとの間に燃え上がった恋の前には塵に等しいものであった。傾きかけた領地に不安を覚えた領民は国を出るか他の地に移り、ロイン家は彼らを抑えつけ、それに嫌気が差した領民は流出し、それをさらに厳しく抑えつけ……正に悪循環と言っても良い状況であった。

しかし、それも民衆の反乱によって終止符が打たれる。疲弊しきっていたロイン家は碌な抵抗もできず、エディとパトリシア以外のロイン家の者は領民の手によって処刑された。

エディは最後の王族として捕らえられ、王都へと身柄を移され、貴族たちと共に処刑されることとなった。

処刑を受けるため、王都を引き回された彼に民衆たちは罵詈雑言と石を投げつけ、その死を祝った。


パトリシア・ロイン。

五人の優秀な若者の寵愛を受けた彼女は恩人だと思っていた人に殺される。反乱が起こった直後、その混乱に乗じて彼女は逃げた。ロイン家と最後まで自分を愛したエディを囮にして。無事に逃亡に成功した彼女であったが行くあてがあるわけでもなく、彷徨い歩くことになる。

そんな彼女を拾ってくれたのは、とある令嬢であった。困った時はお互い様だと言う優しい令嬢を信じたパトリシアは彼女に言われるがまま、彼女の屋敷についていき、令嬢と仲良くなっていく。情勢が悪いにも関わらず、彼女や彼女の家の者はパトリシアに優しく接した。彼女を完全に信頼したパトリシアは、ある日令嬢の部屋に呼び出され、惨殺される。

パトリシアを助けた令嬢は、かつてヘンリーの婚約者だった。彼がどんなに浮き名を流しても、一途に愛し続けていた彼女は、ヘンリーがパトリシアを一途に愛しているのを見て、ヘンリーにお前を愛することはないと告げられ、発狂した。全て悪いのはパトリシアだと、狂った彼女は判断した。だから、パトリシアを自らの手で絶望に叩き落とし、殺すことを決めた。

真っ直ぐ過ぎた愛ゆえに狂った令嬢は、パトリシアを執拗に切り刻んだ。

嗤いながら、泣きながら。


グロリオサ・テール。

彼女は自殺した。アーノルドに連れられ、共に領地に引っ込んだ彼女は、自分はどこで間違ったのかと考えた。どうすればこの状況を打開できるのかを考えた。そうして、彼女はリセット(やり直せ)ば良いという結論を出した。全てを殺してリセット(やり直し)をしようとしたグロリオサは、まず最初にアーノルドを殺した。アーノルドの血に塗れながら、彷徨うグロリオサは幽鬼のようであった。近くの街に現れたグロリオサは、すぐに衛士たちに囲まれた。そして彼女は悟った。

全てを殺さなくても、もう一度転生し直せばいい、と。

笑いながら彼女は自らの舌を噛み切り、死んだ。転生し直せることなど、できるはずもないのだが。



別の未来が無かったわけではない。


彼女たちが信じていた"シナリオ"とやらのような未来。

グロリオサがエディと恋仲となり、王と王妃となる未来。

パトリシアとグロリオサが友となる未来。

未来は無数に存在していた。

しかし、それを無視し、破滅へと進んだのは他でもない彼らであった。




ーー愚かしいことですね。


ふ、と溜め息を漏らしたクローディアは国を背に、何処かへと歩みを進める。



彼女クローディア・ラプラスは運命の神子。

女神に代わり、運命を見守る存在。


人々は運命の樹(ユグドーシア)に定められた自由を謳歌する。

クローディアは流転する運命を、連綿と紡がれる運命を見守り、愚か者(ニズヘッグ)が現れぬよう忠告を与え続ける。




世界の終わる、その時まで。

これで『乙女ゲーム、或いは茶番劇』完結です。

お読みくださった皆様、ありがとうございました。

クローディアさんは基本は優しいのですが、女神に従わない存在は徹底的に嫌悪します。女神至上主義者です。

作中で語れませんでしたが、第一妃たちはアーノルドを次の王と認めただけで、グロリオサとの婚約を認めたわけではありません。アーノルドとグロリオサは完璧に自分たちの関係を隠していたので、そんな行動を取ることは彼女たちにとっては予想外でした。まぁ、ちゃんと監視していたら気づけたので、その労力を惜しんだ彼らの自業自得とも言えます。


別視点の話は書かないと思いますが、筆が乗れば書くかもしれないです。


最後にもう一度。

読んでくださってありがとうございました!

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