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戦場だった。

魔族との激戦。

王直属部隊と魔族の精鋭が真正面からぶつかり、爆発音と剣戟が絶え間なく響く。

「左翼押せ! 後衛は結界維持!」

隊長の怒号が飛ぶ。

「了解!」

レオは笑いながら魔族を蹴り飛ばした。

「はいはい、次いこー!」

その時だった。

敵の将が、不意に詠唱を切り替える。

「……っ、隊長!!」

副隊長が叫ぶ。

「避け――!」

遅い。

巨大な漆黒の槍が、一直線に隊長へ放たれた。

避けきれない。

そう判断した瞬間。

「よいしょ。」

軽い声と共に、一つの影が割り込んだ。

「レオ!?」

槍はそのままレオの身体を貫いた。

鈍い音。

一瞬、時間が止まる。

「……あ。」

レオ自身が、一番驚いたような顔をした。

口から血が零れる。

「レオォォォ!!」

隊長の怒声が響いた。

次の瞬間、隊長は目の前の魔族を力任せに叩き潰し、レオを抱き止める。

「おい!」

「へへ……。」

レオは苦しそうに笑った。

胸を貫かれ、血が止まらない。

「いーじゃん。」

咳き込みながら、それでも笑う。

「隊長じゃなくて……僕なんだからさ〜。」

「喋るな!」

「僕のほーが若いし……。」

また血を吐く。

「治りも……早いし?」

隊長の表情が凍りついた。

「……医療班!!」

「今向かっています!」

副隊長が結界を展開し、周囲を守る。

隊長はレオの傷口を押さえる。

止まらない。

血が、指の隙間から溢れていく。

「隊長。」

「喋るなって言ってる!」

「そんな怒んなくても……。」

「怒るに決まってんだろうが!!」

戦場中に響くほどの怒鳴り声だった。

レオは目を丸くする。

「お前……!」

隊長の声が震える。

「なんで前に出た!」

「え?」

「なんで庇った!」

「だって。」

本当に不思議そうだった。

「隊長死ぬじゃん。」

「だからって!」

「僕なら平気だし。」

「平気じゃねぇ!!」

隊長が怒鳴る。

「見ろ!」

レオの胸を指差す。

「これのどこが平気なんだ!」

「えー。」

レオは困ったように笑う。

「痛いけど。」

「そういう話じゃねぇ!」

「僕、丈夫だし。」

「丈夫でも死ぬ時は死ぬ!!」

レオはきょとんとした。

「……死ぬ?」

「当たり前だ!!」

隊長は歯を食いしばる。

「お前、自分が死なないとでも思ってんのか!」

「いや。」

レオは首を傾げた。

「死ぬよ?」

あまりにも自然な返答だった。

「いつか。」

「……。」

「どうせみんないつか死ぬし。」

その言葉に。

隊長の中で、何かが切れた。

「ふざけるな。」

低い声。

「隊長?」

「どうせ死ぬ?」

もう一度。

「ふざけるなって言ってんだ。」

レオは初めて、その声に怯んだ。

隊長は普段怒鳴る。

でもこれは違う。

静かだった。

静かすぎて、怖い。

「お前。」

隊長は血だらけのレオを抱えたまま睨む。

「それは自分の命を粗末にしていい理由にはならねぇ。」

「……。」

「若いから?」

「……。」

「治りが早いから?」

「……。」

「俺じゃなくてお前だから?」

隊長の拳が震えている。

「そんな理由で、自分を投げ出すな。」

レオは黙って見つめる。

「お前は!」

隊長は叫んだ。

「俺が拾った時より、何年生きたと思ってる!」

「……三年?」

「三年だ!」

「たった三年。」

「たったじゃねぇ!」

隊長の声が掠れる。

「三年も生きたんだ!」

「……。」

「お前が『まだ面白い』って笑ってた、その三年全部、お前の人生だ!」

レオは何も言えない。

「俺はな。」

隊長は目を逸らさない。

「その三年を無駄にするために、お前を拾ったんじゃない。」

「……。」

「国益だから拾った。」

「うん。」

「危険物だから拾った。」

「うん。」

「面倒だから拾った。」

「うん。」

「……でも。」

隊長は息を吐く。

「今は違う。」

レオが目を瞬かせた。

「お前が死ぬのは嫌だ。」

その一言だった。

レオは固まる。

「……え。」

「嫌なんだよ。」

隊長は言い切る。

「部下だからとか、戦力だからとか、そんな話じゃない。」

「……。」

「お前だから嫌なんだ。」

レオの思考が止まる。

そういう言葉を。

真正面から向けられたことがなかった。

「隊長……。」

「二度と。」

隊長は額をレオの額へ軽くぶつける。

「二度と『僕でよかった』なんて言うな。」

「……。」

「お前がいなくなるくらいなら。」

隊長は苦笑した。

「俺が怒鳴られる方が百倍マシだ。」

その時だった。

「医療班です!」

治癒術師たちが駆け込んでくる。

「搬送します!」

「頼む!」

担架へ移されるレオ。

その途中。

レオは隊長の袖をちょん、と掴んだ。

「……隊長。」

「なんだ。」

「ごめん。」

素直な謝罪だった。

「怒らせるつもりじゃなかった。」

隊長は大きく息を吐く。

「知ってる。」

「……。」

「だから余計に腹が立つ。」

レオは少しだけ眉を下げた。

「僕。」

しばらく考えて。

「自分が死ぬの、あんまり怖くないんだ。」

「……ああ。」

「でも。」

ゆっくり笑う。

その笑顔は、いつもの無邪気な笑顔ではなく、少しだけ照れくさそうだった。

「隊長に嫌だって言われるのは。」

ほんの少しだけ声が震えた。

「なんか、嫌だった。」

隊長は目を閉じる。

「……そうか。」

「うん。」

「だったら覚えとけ。」

隊長は担架の横を歩きながら言った。

「俺はこれからも嫌だと言い続ける。」

「何回でも怒る。」

「何回でも止める。」

「お前が『僕でよかった』なんて言うたびにな。」

レオは小さく笑った。

「……そっか。」

その笑顔は、以前なら「面白い」で終わっていたものとは少し違っていた。

怒られるのは好きじゃない。

でも。

自分が傷ついたことを、本気で怒ってくれる人がいる。

その事実は、不思議なくらい胸の奥に残った。

担架で運ばれていくレオを見送りながら、副隊長は静かに呟く。

「隊長。」

「……なんだ。」

「彼、あなたの言葉だけはちゃんと聞いていますよ。」

隊長は苦く笑う。

「だったら最初から無茶するなって話だ。」

「ええ。」

副隊長も苦笑した。

「ですが今ので、少しは変わるでしょう。」

隊長は担架の先を見つめる。

「変われ。」

誰に聞かせるでもなく、静かに言った。

「今度は、自分の命も大事だと思えるくらいには。」

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