第7話:女子トイレ~男女の差~
学校のトイレは男女別に分かれている。子どもたちが一斉に性転換した直後は男女共同トイレの増設が叫ばれていたが、性犯罪の増加や設置予算といった現実的な問題もあり、結局、実現せぬまま今に至っていたのだ。
竜二はみんなと一緒に、ピンク色のタイルで覆われた女子トイレに足を踏み入れた。
何もためらうことない。
もう何年も女子をやっているのだ。
女子トイレに入ることにはすでに戸惑いは全くなかった。むしろいまさら男子トイレに入れと言われたほうが、戸惑い拒否してしまうだろう。いたるところで行列を作り並ぶことの多い不便な女子トイレだが、自分が男子トイレに入るのは恥ずかしくてもってのほかだった。
「あっ、ラッキー今日空いてるよ」
竜二が中に入ると誰かの声がした。最近、連日のように混んでいた女子トイレは珍しく空いていた。
元女子はあまり意識しないかもしないが、男子と女子ではトイレ事情が大きく異なる。
身体の構造から小便器が使えない元男子すなわち女子は、大だろうが小だろうが個室を使わねばならない。トイレットペーパーで拭き取らなければならないということぐらいは多くの男子も知っているだろうが、女子には生理の際のナプキン交換という男子には存在しないトイレの利用事情もあった。生理の量の多さに個人差があるのもまた事実だが、量が多いと、一日何度もナプキンを交換しなければならない。
それに蒸れも問題だ。
生理用ナプキンは朝と夜だけ交換すればいい、などという簡単なものではないのだ。
このようにさまざまな事情から一日あたりのトイレの総使用時間には男女によって大きな違いがあるといってよかった。つまり、この考えに基づくと本来であれば男子トイレの2倍、いや3倍は女子トイレが必要なはずなのである。
しかし、街を見るとどうだろう?
商業施設でも、駅でも、ここ学校でもそうだが、小便器と大便器を足した男子トイレの便器の数が、女子トイレの個室の数を下回ることは極めてまれだ。これは公共トイレの外に設置されている案内板をみていればおのずと気づくことだ。
大人たちがこのことをあまり指摘せず、女子になった元男子やもともとの大人の女性も諦めてしまっているのかもしれないが、この世界には男女のトイレ格差が間違いなく存在しているといってよかった。
その背景には土地の狭さや初期投資、維持管理などきれいごとでは済まされない空間的、金銭的な問題もある。女子トイレの個室を増やせば、より広い空間が必要になるし、水回りのメンテナンスだって男子トイレの小便器以上にコストがかかるだろう。清掃スタッフだってもっともっと必要だ。
だから、単純に施設管理者を責めることはできないのであるが、竜二はこの男女の違いを全く知りもしないくせに「女子は優遇され過ぎていて男女平等ではない」「男性差別だ!」ということが平気で言える大人たちがあまり好きではなかった。最低限そういうことは知ってから言えと言いたい。
「ほんまや。ここんとこ、いつも満員やったしな」
空いているトイレを見て、信二が嬉しそうに言った。
「でもこれでようやくひと段落着いたんだな」
「今回の件で、男子側の無理解も露呈しちゃったもんねー」
「うち男女でぎくしゃくするんすきやないから…ほんま助かるわー」
実は数週間ほど前より、別の階の女子トイレの一部が水回りの緊急工事で使用停止になっており、ただでさえ不足していた校内の女子トイレの数がさらに少なってしまっていた。このことが発端となり、校内では緊急の全校集会が行われるほど、一部で緊張が高まってしまったのだ。
『トイレが全部使えないわけではないので、みんなで仲良くトイレを使いましょう』
この一部女子トイレの緊急工事に関する問題が発生したとき、教師たちは綺麗ごとを述べるだけで、元男子である女子に対し何ら具体的な配慮をしなかった。
「職員用や来客用のトイレも使わせてほしい」という女子生徒複数人の訴えは、「規則だからダメです」という教師の一点張りで無視されてしまったのだ。女性教員が一応の理解は示してくれたが、校則は男性教師の担当になっているらしく、誰も生徒たちの代わりに声を上げてはくれなかった。
そんなわけで一部の元男子である女子は署名活動をはじめ、生徒会を巻きこみ校則を変えようとしたらしい。議題にあげるところまではよかった。しかし、ここに大きな障害が立ちはだかった。
生徒会の大半が元女子である男子で占められていたからだ。
会議の途中、「女子ってそこまでトイレ近かったっけ?」とか「女子トイレが少ないって今にはじまったことじゃないだろ?」「1か月ぐらい我慢できないの?話してる間に工事終わるよ?」という個々人の妙な過去体験を持ち出され、女子側の事情は全く理解されなかったという。
元女子の生徒会メンバーからセクハラまがいの言葉をかけられ、精神的なショックを受けた元男子の生徒役員の存在も一部では明るみにはなったが、結局のところ、この議題は議題にあがったというだけで反対多数で否決されてしまったのだった。
そして、問題はそれだけでは終わらなかった。
現実世界でも起こりうる問題が登場していますが、本作はご存じの通り世界中の少年少女が性転換したらをコンセプトに書いているネット小説であり、作者に政治的意図はございません。
読者の皆様の受け止め方はさまざまかと思いますが、フィクションとして考えていただけると幸いです。




