第38話:はじめてのスカート
「ところでー。竜ちゃんが最初に着た女の子の服ってどんなのだったのー?」
にやにやと明人に聞かれた。
「親にどんなのがいいって聞かれて、『スカート以外』って答えて。確か、デニムのハーフパンツと普通のTシャツだった…」
竜二は淡々と答えた。
「えー?じゃぁ、竜ちゃんが最初にスカート買ったのは?」
明人がびっくりしている。
「性別適応特別講習の試着が一応、最初だけど何回かだけでほとんど履かなかったし、自分で最初に買ったのは中学に入ってからだと思う。それまでは下着以外は結構男女兼用のやつとかですませてたし…」
竜二達が性転換したのは思春期の前の前思春期のさらに前、「小学生低学年」と呼ばれる年ごろだ。学生服がなかった竜二達は性別適応特別講習に私服で参加した。
内容も「おままごと」からはじまる本格的な調理実習や、「ぬいぐるみ」を持つことからはじまる本格的な裁縫といった講義が中心だ。一応、衣類メーカーの社員が講師を担当し、女子の下着の付け方から、スカートの履き方、サイズの測り方から買い方さらには破れた箇所の縫い方まで教育されたが、最後までスカートを強制されることはなかった。
「中学―!?わたし女子になってすぐだよー。夏場とか涼しいからみんなスカート履いてたしー」
「ぼくはスカートしか履くものがなくて、裸よりましって感じで仕方なしに履いてたら自然と慣れた派かなっ。でも中学入るまで抵抗できたなら、竜二が今でも短いスカート恥ずかしがるのなんとなくわかる気がするっ」
当時、同じデニムでもスカートとパンツではかなりの価格差があった。竜二は深く意識していなかったが、補助金という経済的理由は間違いなくあり、それが親からの強要を生んでいたのだろう。
「だけど竜ちゃん、スカートじゃなくて周りから何も言われなかったのー?今でこそ可愛いパンツとか売ってるけど当時のパンツスタイルってザ男子って感じだったでしょー?」
「そういえば、明人が言うようにぼくたちの学校も誰かがパンツスタイルで登校したら『性別適応できてません宣言じゃないの?』とかみんなで結構ひどいこと言ってたっけっ」
「周り?いやおれ、可愛いものとかぬいぐるみとかみんな以上に大好きだったし、別に服装ぐらい好きにしたらいいだろって感じだった…もしクラスの誰かにださいとか言われたら構わずすぐにぶっ飛ばしてたし…」
当時の竜二は派閥のようなものを作っていた。
竜二のファッションセンスにつられた元男子も多かったので気づかなかったが、当時の小学生女子向けのパンツは、今考えるとありえないぐらいださい。
「当時の竜二ってかっこよさそうでなんかうらやましいっ」
周囲の変化に気づき、T-VID直後に現実を受け止めた明人や良太たちの方が一般的なのだ。
小学校のころの竜二はファッションセンス含め性別のことなど深く考えず、自慢の体力と腕力にものを言わせていた。小6の運動会のころからうすうす感じていた体力の限界についても、はっきりと理解したのは竜二が森宮こずえにケンカを挑み、周囲の大人や鈴川さんに「竜二は女の子なんだよ」と諭された中学1年の夏になってからだ。
「男女の違いも理解せず、ただ腕力にものいわせてたただのバカだったけどな…正直滅茶苦茶リスキーなことしてたし、今じゃありえねぇって思ってる。あんだけ挑発してよく無事だったなって昔の自分に言ってやりてーぐらいだぞ」
あの時、大半が森宮の味方だった。陰で森宮に滅茶苦茶にされても…だれも助けてくれなかった可能性すらある。それに当時、教師たちが言っていたように相手が森宮じゃなかったらどうだっただろう。
相手が森宮のような奴ではなく本物の変質者だったら。
か弱い女子である竜二はその変質者を適切に処罰できただろうか?
相手は変質者だ。
よしんば警察に突き出せたといえ…そのあと、変に逆恨みされて…ひどいことをされなかっただろうか?
正義は大切だが、正義だけでは戦えないことは鈴川さんに取り押さえられ痛感している。あの時、竜二必死に抵抗したが結局、手も足もでなかった。
同じことをもし変質者にされていたらと思うとゾッとする。
竜二はただただ運がよかっただけなのだ。
「ぼくはそういう反省できるところも含めて竜二のいいところだと思うけどっ」
良太がうらやましそうに竜二を見ているように、小学校時代に自由気ままに過ごすことができた竜二のような元男子は極めて少数派なのである。
「でも竜ちゃん可愛いもの大好きなのになんでスカートだけ抵抗したの?今日だって嬉しそうにスカート買ってるんだしー別に本気で嫌いってわけじゃなかったんでしょー?」
「み、みんなと同じように普段からスカートなんて履いたら負けだと思ってた」
その言葉に明人が爆笑した。
「スカートに勝つも負けるもないと思うけど、それ、ゲーマーな竜ちゃんらしーかも…」
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