第36話:ランチ
「やっぱ補助金なくなったの痛いわ」
「ほんとだ…」
良太もスカートの値札を見ながら驚いている。
「スカートなんて前はどれもワンコインで買えたのにねっ」
今ではワンコインどころか札が必要だ。販売価格の半分以上を国が補助するという感じの補助金だったのが…スカートの急な値上がりの原因である。
「まぁ、今はおれも普通に買うし…スカートとかの補助金打ち切られるのも仕方ねぇんだけど…」
子供服…中でも性差のある商品である女子のスカートは性別適応特別講習の影響もあり補助金の額も多かった。当時の竜二はお金のことをあまり意識していなかったのでボーイッシュな格好をしていたが、鈴川さんのように経済的理由でスカートなど政府が推奨する性差のある服を着ざるを得なかった子たちも多かったのではと…竜二は考えていた。
「スカートって夏場とか涼しくて楽だしねっ」
昔と違い今の元男子は自分を少しでも可愛く見せられるファッションを好む。竜二としては不本意だったが、大人たちが強行した性別適応特別講習は成功したといってよかった。
「こんなことなら、昔からもっとおしゃれを楽しんでおけばよかったって思うわ」
学校指定制服で日常的にはくようになるまでスカートが苦手だったことなど…すっかり忘れてしまったかのように竜二は適当な感想を述べた。
「でも…あぁーどうしよっ」
スカートとにらめっこしながら竜二は悩んだ。
ちょっと高いがバイト代も入ったので買えなくはない。
「サイズだけでも見てみたらっ?」
良太が提案した。
先ほどのイケメン店員は明人に付きっ切りだし、ほかの店員さんはみな忙しそうだ。勝手に試着するのもどうかとも思ったが、竜二が回りを見渡すと結構みんな、好き勝手やっているようである。
「とりあえずちょっと、あっちで試着してくる」
竜二は右にならえで、目当てのスカートを手に取り、試着室に向かったのだった。
「ちょっと疲れたねっ」
3人が服を買い終えるまでに2時間近くかかった。微妙な色違いを見つけてしまい、最終的にどれにするか悩んだからだ。竜二の場合、上着が…胸が大きくてなかなか決まらなかったというのもある。無駄に胸が大きいのも困ったものだ。
「ほんとー。でも竜ちゃん…目当ての服変えてよかったねー」
竜二は悩んだ末、あのデニムスカートを買うことにした。一度手にしたら諦めることができなかったのだ。親…特に年頃の女子の気持ちなどこれっぽっちも理解していないだろう父親にバイト代を無駄遣いするなと苦言を呈されるだろうが…もう買わないという選択肢はなかった。
「お昼どうする?」
竜二は二人に確認した。お昼ご飯の時間だった。
「そうだねっ、あそこのマッスとかどう?」
良太が、ファストフード店を指さしている。マッスというのはハンバーガーチェーン『マッスバーガー』の略で…他のお店よりちょい高めだが…店内はおしゃれだし、味がいいので人気だ。
「おれもあそこがいい」
ファストフードで友達とおしゃべり。
お金や行動範囲に制限の多い小学生や中学生はこうも気軽にはいけない。
これぞ高校生活の醍醐味なのだ。
「竜ちゃんや良ちゃんってさぁー。海外って行ってみたくないー?」
ハンバーガー片手に明人が口をひらいた。
「海外…パスポートいるんだっけ?」
「戸籍の証明書持っていけば簡単に作れるって聞いたよー」
「ぼく、戸籍と住民票の違いがわからないんだよねっ」
ポテトを頬張りながら、良太が呟いた。
「戸籍…」
長男から長女に変わったこともあり、竜二は戸籍に対してはあまりいい思い出がなかった。どうしても戸籍と聞くと昔の嫌なことを思い出すのだ。
「あっ、竜二また…昔のこと考えてるでしょ?また笑顔崩れてるよっ…」
ちょっと沈んだ表情をしてしまっていたのだろう。
良太に指摘された。
「えっ?そうなのー?竜ちゃんいつも通り可愛いけど?」
明人が不思議そうに顔をのぞき込んできた。幸いなことに明人にはバレていないようだ。
前から思っていたが…良太はポーカーフェースを見抜くのがとにかく上手い。良太がポーカーをしているところはあいにくと見たことがないが…明人の嘘泣きだって見抜くし…とにかく良太に隠し事はできない…というのが竜二の認識だった。
「あっなんかごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」
なるべく違和感のないよう自然の表情に戻しながら竜二は急いで謝った。
「と、ところでおれたち、T-VIDで戸籍変わったけど…なんでおれたちって名前かわらなかったんだっけ?おれ『竜二』のままだし…」
それから雰囲気をこれ以上悪くしないよう慌てて話題を変えた。




