第33話:複雑な人間関係~中学校の頃の竜二~
高2になった今でこそ、森宮にはかなり申し訳ないことをしたという反省はしているが、森宮こずえはあれ以来、竜二に強い敵対心を持っており…竜二も竜二で妙なプライドや…男子に弱みを握られるのではという恐怖心が邪魔をして…謝ることは今でもできていない。
「そもそも男子が女子更衣室に間違えて入るって信じられるか!?」
だから中学1年生だった竜二は何かと機会をみては森宮こずえの悪口を言い続けていた。森宮とは体力差もあり面と向かっては文句がいえないので陰口を叩くことにしたのである。
まさに高校生の竜二が嫌う性格が悪い女子そのものだったが…そういう自覚は当時の竜二には一切なかった。
「それに森宮の覗きが百歩譲って事実だったとしても…エロい目で俺と鈴川さんのスカートの中、見てたのだけはマジ許せない!男子ってすっごいエロいって聞くし、スカート覗いて興奮するとかありえねぇし…」
そして、これが当時の竜二の立場を脅かしたのは間違いなかった。
「友達の話だけど…吉田さんって小学校の頃から結構、自己中らしいよー。小学校の頃の吉田さんってかなり暴力的で…吉田さんに殴られた子もいるらしいし…たぶん猫かぶりなんだってー」
「暴力!?なんか信じられない」
「吉田さんって何度も先生から怒られてて謝罪慣れしてるって話だよ」
「あぁーその話聞いたことある。なんでも泣き叫ぶ女の子を土下座させたとか…」
「土下座?そういえば今回も森宮君…土下座させようとしたって話だったけど…本当の話だったの?」
「吉田さんって可愛いのに…その話やばすぎるし…ちょっとショックかも…でもどうしてそんな性格になっちゃったんだろ?」
「そういうのって元からだろーけど、吉田さんってT-VIDで相撲できなくなったの…いまだに受け入れられてないちょっと残念な子なんだよねー」
「相撲?」
「そう。今はすごく弱そうに見えて油断しちゃうけど…あぁいう子って変な男とつるんでそうだし…思い込み激しそうだから…できれば前科のある吉田さんとはほどほどに付き合った方がいいと思うよー」
「そうだよね。無視とかしていじめだと思われちゃうと…包丁とか持ってきそうで…なにされるかわからないしね」
女子の間では竜二の噂でもちきりだった。今回の件で小学校のころの暴力沙汰が明るみとなってしまい…竜二が一部の同性から「もしかして怒ると怖い人かも」と思われたのも致し方ないことだったのである。
このように絶体絶命に見えた竜二だったが…幸いなことにいじめや仲間外れにはつながらなかった。森宮好きの女子を敵に見渡したのは事実だったが、男子のことに関して、女子は一枚岩ではないからである。
「でも吉田さんが鈴川さんのスカートめくったって話…それさすがにそれちょっと尾ひれついてない?」
「ほんとだ。吉田さんっていつも恥ずかしそうにしてて…スカートめくりなんてするような人じゃないよね?」
「それに吉田さんが繰り返し言ってる、森宮が吉田さんと鈴川さんのスカート見てたってのは本当の話なんだよね?」
エッチな目で自分たち女子を見てくる男子が嫌いな女子は意外と多い。元女子なのにという想いもあるから、特にである。
「そうそう。微動だにせず…あれ絶対二人のスカートに夢中だったんだよー。二人ともちゃんと履いててて、下着じゃなくてよかったけど…それでも男子って興奮しちゃうらしいしー絶対いやらしい目でみてたはずだよ」
こんな風に竜二を援護する女子も多かった。
「下着じゃなかったって話だけど…くろいあれ履いてたんだよね?男子ってあんなのでも興奮するの?」
「スカートの中見れるならなんでもいいんじゃないー?」
「男子ってバカだからあれのこと黒い下着とかって思ってたりしてー?」
「なんかありえそうー」
「それに先生言ってたじゃん。第二次性徴で、男子は女子が信じられないぐらいエロくなるって…思春期っていうの?どうしょうもないことにむらむらしちゃうらしいよー」
「マジで?私、元男子のはずなのに全然理解できない」
「元男子って言っても…先輩たちと違ってわたしたち8歳までだよ?8歳なんて子供だし…戸籍だってもう書き換わってて先生もあなたたちの世代は生まれつきの女性と変わりませんっていってるしー。わたしたち女子が男子のこと理解できなくても不思議じゃないと思うんだよねー」
「それに性別適応特別講習も終わって『元男子』って言葉も使わなくなってきてるしねー」
「でも、そう考えると吉田さんが嫌いな子の意見もちょっとわかるかな」
「なんで?」
「だって吉田さんって口調かたくなにかえないし自分が女子であることいまだに受け入れてないみたいなんだもん…もう何年たってんだって話だよね?」
「確かに…なんか中学になると自然としゃべり方かわっちゃうしねー。この年で小学校の頃の口調のままってある意味ありえないよねー?」
「そっかー。でも吉田さんのそういうところってなんかクールでかっこよくない?男と戦ってやるぞ!!って感じでさ…」
「吉田さんの口調…意外と男子にも人気あるらしいよー?」
「でも…そういわれるとそこまで違和感ないかも?うちらがあんなしゃべり方したらすぐ男子から乱暴女とか言われちゃいそうだけど…」
「あの口調…吉田さんだから許されるって感じするよねー」
「ところで…話戻るけど、吉田さんが言うようにそもそも男子が更衣室間違って女子更衣室開けるとかって普通あるー?森宮だから許されてるけど…わたしたちだって男子更衣室覗いたら”ごめんなさい”ではすまないんだよー。ほかの男子だったら絶対警察沙汰だよねー」
「やっぱり悪いのは森宮君で、吉田さんなにかの間違いであぁなっちゃったけど…みんなを守ろうとしただけなんだよ。それにふだんの吉田さんってすっごくかっこいいし優しいよ」
こんなふうに事情を知らない女子が竜二の味方をしてくれたり…全員が全員、竜二の敵にまわったわけではなかったが、今回の事件が竜二の人間関係をより複雑にしたことは間違いなかった。
そして、中1の8月に今の家が完成したことで同一校区内で引っ越しがあり…9月になると写真を捨てたことを悔やみ…田沼さんに怒られ…最後は母親に慰められた。
こんな中学1年生の頃からでさえ、あと少しで4年が経過しようとしていた。




