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こころ  作者: 橋本洋一
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怪しい人 漆原凛のこと その3

 すっかり夕方になって。


 漆原さんと別れて――別れる際にメールアドレスと電話番号を教えてもらった。気が変わったら電話してもいいと言われた――家路へ戻る満員電車の中、ぼくは漆原さんの言っていたことを思い返していた。『シック』のことと『キャリア』になってしまったこと、そして決して治ることのないという事実。再生能力なのに治らないとは皮肉が利いていてなんだか笑えてくる。だけど、受け入れないといけないのだろう。


 そういえば、漆原さんはぼくを保護または抹殺しなくていいんだろうか。いろんなことが有り過ぎて訊くのをすっかり忘れてしまった。


 だけど漆原さんも触れなかったから、それほど重要じゃないんだろう。

 これはぼくの予測だけれど、ぼくよりも重要な『シック』を持つ通り魔を優先しているんだろう。


 さっきから推定することが多いけど、まあ気にしないことにした。

 電車のアナウンスが桜ノ宮駅への到着を知らせる。ぼくは下車したくなかった。家に帰らず遠回りしたい、そんな気分だった。


「はあ、死にたくなるなあ」


 と心の中で呟く。呟いたところで何にも解決しないけど、呟きたい気持ちだった。

 電車が到着し、ドアが開く。

 ぼくは人ごみを掻き分け外に出る。


 もしかすると、この満員電車の中にも『キャリア』が一人か二人いるんだろうか。そう考えてもまったく救われる気がしなかった。


 通り魔が『キャリア』だと知らされて少し驚いたけど、同時に納得した部分もあった。でないと警察や自警団に見つからずに犯行、いや凶行を繰り返すことはできないだろう。

 だけど、これもすぐ終わるだろう。なぜならば、あの漆原さんが関わっているからだ。


 漆原さんの談によると、おそらく通り魔は抹殺される可能性が高いと推測される。

 だから、ぼくが何かしなくても、解決するだろう。

 もう八人も殺されてしまったけど、幸いぼくの関係者は殺されていない。

 ぼくは冷たい人間だと実感する。


 駅を出て、家へと向かう。

 黄昏の空に夜の帳が下りてくる。

 はたして、通り魔は今夜も人間解体に勤しむのだろうか。


 ぼくには関係ないことだ。

 そう思いながら夕日の沈む方向に歩みを進めた。

 さて、ゆめ姉たちになんて説明しようか?


 だけど、ぼくは思い知らされる。

 漆原さんの提案に乗っておけば、良かったと――

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