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こころ  作者: 橋本洋一
10/17

親友 桃山さくらと森下ななみのこと その3

 時間のことを気にせず長々と話続けたけどもう六時に近く帰らないといけない。朝、ゆめ姉から買い物を頼まれて――生理用品とトイレットペーパー。近所のドラックストアだと安く買えるのだ――お暇しないといけなかった。


「そうかい。なら解散としよう。桃山ちゃんは何か借りたい本はあるかい?」

「うーん、そうだねえ。じゃあこの『二人の食卓』って本借りようかな」


 借りる本も決まり、帰り支度を済ませ、玄関へと向かう。


「あら、もうお帰り? また来てね」


 あけみさんにそう言われたので、「また来ます。スコーン美味しかったです」と挨拶をした。

 靴を履き終えて家から出るときに、ぼくは出迎えにきた七色さんに振り返って言った。


「七色さん。ぼくはいつまでもキミの親友だから」

「…………」

「ぼくは七色さんのこと、すっごく好きだしいつまでも仲良くしていたいと思う。だから危険なことはしないでね」


 言外に通り魔のことを探るなと釘を刺していたのだけど、七色さんに伝わったのだろうか。


「……うん。私も伏見ちゃんのこと好きだ」


 七色さんは本当に嬉しそうに笑った。


「あたしもななちゃんのこと好きだよー」


 モモは七色さんに抱きついて親愛の情を伝える。七色さんはモモの頭を撫でてニコニコしていた。


「それじゃあ、さようなら」


 玄関の扉が少しずつ閉まっていく。ぼくとモモは閉じ終わるまで見送って、そして家路に着いた。


「まっさか、ななちゃんにあんな趣味があるなんて知らなかったなあ」

「ぼくもびっくりだよ」


 ぼくたちはモモの家に向かっていた。一人で帰るのは流石にモモが危なかったし、ドラックストアもモモの家から近い。


「でもころくん。軽く引いてたでしょ」

「まあね。それでも七色さんのこと好きだから、気にならないよ」

「それって恋愛感情?」

「友情だよ。モモ、ぼくをどう見てるんだ」


 呆れて物も言えない。友情以外の感情があるはずもない。


「ふうん。まあいいや。ころくん、脚の具合良くなった?」


 ドキリとした。なぜ分かった?


「だって前のときより歩くスピード速くなってるもん。あたし結構ころくんのこと見てるよ。小学校からの付き合いだもん」


 流石ぼくの親友。ぼく以上にぼくのことを知っているみたいだ。


「ああ、良くなっている」


 ぼくは事実を偽らず嘘をつく。


「でも良くなった原因は良く分からないし、医学的には完全に治らないみたいだ」

「そっか。大変だね」

「えっと、モモ」

「なあにころくん?」

「治ったら嫌?」

「うん? 嫌じゃないよ。逆に嬉しいよ」

「ぼくは、治らないほうがいい。治ったら二人に申し訳なく――」

「ころくん、そんなこと言っちゃ駄目だよ」


 モモは真剣な顔をしてぼくを見つめる。


「あたしもななちゃんもそれにゆめさんも、ころくんのことを大好きなんだから、そんなこと言っちゃ駄目。分かった?」


 モモの言葉がぼくに突き刺さる。ぼくの秘密を知っても、三人はぼくのことを好きでいてくれるのかな。


「分かったよ。もうそんなこと言わない」

「うん、よろしい!」


 モモの笑顔はまるで太陽みたいにぼくの心をぽかぽかさせてくれる。モモの笑顔がぼくは好きだ。


「それじゃあ、さようなら」

「また明日学校で会おう」


 モモの家の前で別れ、ぼくはドラックストアに向かう。

 それにしてもぼくに生理用品を買わせるのはいくら肉親としてもどうかと思うなあ。

 そう考えながらもドラックストアに向かった。


 『キャリア』のぼくが薬局に行くことに可笑しさを覚えつつ。

 空が曇ってきたので急ぎ足で向かった。雨が降る前に行こう。




 そして翌朝。

 疲れが溜まってしょうがない木曜日。

 いつもの目覚まし時計と違った機械音で目を覚ます。


 なんだろう? 時計を見ても午前五時八分でまだ起きる時間には早い。

 寝ぼけた頭で確認するとどうやら機械音はスマホから鳴っている。

 ぼくはスマホの設定音を変えたりしない。


 とりあえずスマホを見てみる。

 表示されているのは桃山さくらの名前。


「なんだモモか……こんな時間になんだよ」


 そう毒づいてスマホの通話ボタンを押す。


「なんだよモモ。こんな時間に――」

「ころくん! ななちゃんが!」


 ぼくの声を遮ってモモは言う。

 まるで世界の終わりのように。

 まるで人生の終わりのように。

 冷静さを欠いた声音で言う。


「ななちゃんが死んじゃった! 通り魔に殺されちゃったよ!」


 ぼくはモモが何を言ってるか分からず。

 そして分かった瞬間――


「ああ、あああああああああああ!」


 ぼくは――絶望した。

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