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第十四話「今日乗り切れば連休です。〜後編〜」

作中に登場する固有名詞は、実在の物とは一切関係ありません。

「…〜♪〜………♪♪」

帰宅途中のアイドル、三階堂愛。

「はぁ…はぁ…なんとか追い付いたわっ!」

「追い付いたわね〜。」

「追い付きましたね。」

その三階堂愛をこっそり尾行する、フィーア、ウィング、ストーカー少女。

「今の所他のストーカーは現れてないわね…第二チェックポイント、無事通過…と。」

「…何書いてるのよ。」

「何、って。三階堂愛、帰宅ルート隠密護衛記録よ。」

「へ…?護衛?」

「あなたは、ストーカーじゃないんですか?」

「ストーカーよ。私は、毎日こっそり彼女の後をつけて、他の悪質ストーカーから彼女を護っているストーカーなのよ。」

「…それって、ストーカーじゃなくて、ボディーガードじゃないの?」

「違うわっ!私はストーカーなの!」

「ストーカーって、決して褒め言葉ではないんですけどねぇ…。」

「いいのよ!私はストーカーとしての自分に、大いに誇りを持ってるの!」

「…まぁ、いいけどね。」

「価値観は人それぞれ、ってことですか…まぁ、彼女は害はなさそうですね。」

「当たり前よっ!周囲が見えなくなってる迷惑極まりない悪質ストーカーと、一緒にしないでっ!」

「おいおーい。そんなこと喋ってるうちに、三階堂さん角曲がっちゃったわよ〜。」



……………。



「ああーーーっ!ちょっと邪魔しないでよっ!」

「それは失礼しました。」

「すっごい素直に謝ってるわねぇ…。」

「こうしちゃいらんないわっ!」

凄まじい勢いでダッシュして、角を曲がっていくストーカー少女。

「すごい勢いですねぇ。」

「…いや、感心してる場合じゃないから。私たちも仕事しないと。」

「ですね。私たちも追い掛けましょう。」

「…ここにきて、あなたが冷静なのか天然なのかわからなくなってきたわ。」




「…え〜と…。」

「…なかなか凄い光景ですね。一人でやったのでしょうか。」

「ねぇ、あのコが角曲がってから私たちが角曲がるまで、どれくらい時間差あったかしら?」

「ん〜…。せいぜい三十秒、ってとこじゃないでしょうか?」

「三十秒で、これ?」

「なかなかに常人離れしてますね。」

二人が角を曲がった先で見た光景。それは、完全に気を失い、路上に倒れている数人の男達の姿だった。

「ん〜…どいつもこいつもオタク系な風貌ねぇ。まぁ、間違いなくこいつらが悪質ストーカーね。」

「こめかみに痣…皆、一撃で仕留められてるみたいですね。」

「ひぃふぅみぃ…全部で五人。三十秒で五人を倒しながら、次の角まで走り抜けるとなると…。」

「多く見積もっても、一人辺り五秒で仕留めてることになりますね。」

「あのコって、無茶苦茶強いのね…さすがボディーガード自称してるだけあるわ〜。」

「…っていうか、こめかみ狙いって危ないですね…。下手すれば死人がでますよ。」

「え、そうなの?」

「正確に急所を撃ち抜く技術と、一撃で打ち倒す実力…。彼女が殺人を侵してしまう前に、早く追い付かなければ、です。…で、彼女は…。」

「もう、先の角曲がっちゃったみたいね。しかも丁字路…。」

「厄介なことになりましたね…。とりあえず、そこまで向かってみましょうか。」




「あら〜…」

「わかりやすい道標ですね〜。」

「っていうか、何人いるのよ悪質ストーカー。」

「さすが、局地的人気なアイドルさんですね。」

彼女の足取りは簡単に掴むことが出来た。丁字路の左の道だけ、男達が倒れていたからだ。

「まぁ、足跡を残していってくれてるのはありがたいわね。さっさと追い掛けましょ。」

「………。」

「…どしたの?」

「…いえ、ちょっと疑問が浮かびまして。」

「どんな?」

「あのアイドルさんですよ。悪質ストーカー達は、彼女を狙って行動してるわけですよね。」

「そりゃそうでしょ?」

「とすると、あのストーカー少女は、彼女に割と近い距離で男達を仕留めている、って考えられますよね。」

「まぁ…そうかしら?」

「なんで気付かないんでしょうね?」

「………あ。」

「可能性として考えられるのは、あのアイドルさんが異常に鈍感である。もしくは、ストーカー少女が暗殺者レベルに気配を殺して、声も物音も立てずに一瞬で男達を倒している。もしくは、…アイドルさんは、最初から全てを知っている。」

「………へ?…知っている?」

「可能性としてはある、ということですよ。それなら納得もできますし。」

「でも、彼女はこっそり護衛してる、って言ってたけど…。」

「彼女はこっそり護衛してるつもりでも、実は気付かれてるのかもしれませんよ?」

「な、なるほど。確かにあのコ、思い込み激しそうだし、ばれてるとしても気付かなさそう…。」

「とはいえ…」

「…?」

「アイドルさんが気付いていてもいなくても、私たちの仕事にはあまり関係ないから、意味のない推測ですけどね。」



……………。



「じゃあなんで喋ったわけ!?わけったらわけ!?」

「ふと思ったから喋ってみました。さ、追いましょう。だいぶ引き離されてしまいましたし。」

「あんたが意味のないお喋りしてたからでしょーがっ!」




「あら。」

「あら?」

「あら…。」

二人が、いくつかの角と十数人の失神した男たちを通過してきたとき。こちらに歩いてくるストーカー少女と鉢合わせた。

「お二人さん、やっと来たの?残念だけど、もう三階堂愛は自宅に入っちゃったわよ。」

「え!?」

「悪いけど、これ以上先には行かせられないわよ!あなたたちが悪質じゃないって、まだ断言できないからね。」

「いや、まぁ、彼女が無事なら別にいいんだけど…。でも、家に悪質ストーカーが押しかけるとか、そういう心配はしてないの?」

「それは大丈夫よっ!彼女がストーカーに狙われてるのは、あくまで帰宅途中の路上だけだから。ここ三年のデータが実証してるわっ!」

「…ずいぶん長い間ストーカーやってんのね。」

「…しかし、あの男達も懲りないですよね。あなたが三年以上もあんな護衛してるんなら、危険だって噂になっててもいいはずなのに。」

「諦めてくれれば私も楽なんだけどね〜。なんかますます増えてんのよね〜。」

「…え?」

「へぇ〜。チャレンジャーが多いのねぇ。」

「ホントよね〜!しかも増えてる割には弱い奴らばっかりなのよね。あんなんじゃ、私の魂を揺さぶることは出来ないわっ!」

「いや、それ主旨変わってますから…。」

「まぁ明日もあるから、私はもう帰るわね。じゃ!」

そう言うと、ストーカー少女は二人の脇を通り抜け、さっさと帰っていった。

「………。」

「あ〜あ。なんか今日の私たちって目立ってないわね〜。ちょっと不満〜。」

「………。」

「でも、まぁいっかな。仕事が楽に終わる、っていうのはいいことだし。」

「………。」

「でも、これって仕事完了って言っていいのかな?ストーカー連中はこれからも懲りずに現れるだろうし、まぁ、あのコがいれば平気だろうけど、根本的な解決にはなってないみたいだし…。」

「………。」

「………ウィング?」

「………。」

「ウィングっ!!!!」

「はい?」

「気付くときはあっさり気付くわね…。ところで、さっきから何黙りこくってんのよ?」

「あぁ…ちょっと引っ掛かることがありまして…。」

「何?」

「帰る前にちょっとだけ時間をいただきますね。」




「………。」

「はぁ…。ウィングがこれやってる間、私、暇なのよね〜。」

「………。」

「まったく、急にストーカー連中の頭の中を覗きたいって…何を思い付いたのやら…。」

「………。」

「まだかなまだかな〜。連休前の仕事よ〜。早く終わらせて休みを長くしたいんですけど〜。」

「………。」

「私だけ帰っちゃおうかな〜。」

「終わりました。」

「また唐突に終わったわね…。で、なんか衝撃の真実でも見つかったわけ?」

「はい。」

「へ〜そぉ〜………え?まさか、なんか見つかっちゃったの?」

「ちょっとこれは意外でしたね。念のため何人かチェックしてみましたが、ここまで一致するとは…。」

「…ね、ね、何がわかったの?」

「そうですね…これは私達の今日の仕事の根幹に関わる事実ですから、あなたにも話しておいた方がいいですね。」

「こ、根幹って…一体どんな事実よ。まさか!この後さらにボスキャラ的なストーカーが存在するとか!?」

「違います。」

「…あっさり否定してくれちゃってまぁ…。んで、なんなのよ?」

「はい。簡単に言うと…」




「………はい〜?」

「そういうことなんです。」

「……マジっすか?」

「マジです。」

「…じゃあ、今日の私達の仕事ってなんだったのよ?」

「まあ…、ディスティーナ様の勘違い、ってことだったんじゃないんですか?」

「…勘違いで二話も引っ張ったわけ?」

「まあ、いいんじゃないですか?連休前ですし。」

「関係ないと思うけど…。」

「とりあえず、ディスティーナ様に真実の報告しに帰りましょうか。」




「…マジですか?」

「マジです。ディスティーナ様。」

「じゃあ、三階堂愛のストーカーは、あの超格闘少女だけだった、ということですか?」

「そういうことです。他の男達は、みんな、その超格闘少女のストーカーでした。」

「いや〜、びっくりな真実よね〜。でも、あんな死ぬ思いしながらでも、やりたいものなのかしら、ストーカーって。」

「だから、みたいですよ?」

「へ?」

「彼らの頭の中を覗かせていただきましたが、彼ら、揃いも揃って、それが快感になってるみたいなんです。」

「…それって。」

「揃いも揃って、超ドM、ってことです。」

「………。」

「………。」

「ま、趣味嗜好は人それぞれ、ってところでしょうかね。」

「…私には理解できない世界だわね。」

「と、とりあえず、お疲れ様でした。」

「はい。お疲れ様でした。」

「お疲れ様でした〜。まあ、理解できない世界のことはほおっておいて、明日からの連休を満喫せねばっ!」

「そういえば、明日から二連休でしたね。ゆっくり体を休めてきてくださいね。」

「は〜い、お疲れ様でした〜。」

「お疲れ様でした。」




「う〜〜〜〜〜んっ!やっとお休みね〜〜〜〜〜。いや〜、今週も長かったわね〜。」

「ですね。しかし、連休前最後の仕事が、あんなオチでよかったんでしょうかねぇ?」

「いいんじゃないの?私は無事に休みに入れたから、なんの不満もないわよ。」

「まあ、こちらの事情だけ言えば、そうなんですけどね。」

「というわけで、明日からのお休み、どう過ごそっかな〜。」

「あまりダラダラしないようにしてくださいね。仕事に戻るときが大変ですよ。」

「わかってるわよ〜…」


というわけで、


今回も、なんとなく救済完了…?

時間かかっちゃいましたが、なんとか完成しました。次回は連休の模様でも…どんなのにするかはまったく考えていませんが(^.^;)

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