Chapter3ジェイ・カーター
STSクロムウェルの武装システムを即座に起動させ、兵器管制コンソールを操作する。
警報音に気づいたルゥちゃんも慌てて操縦席へ飛び込んできた。
「!?」
窓の外に広がる光景に、ルゥちゃんは息を呑んだ。
十数機のUSSバトルスターが、彼女の故郷であるスラムの上空で爆撃態勢に入っている。
ターヘルはルゥちゃんを横目に素早くすり抜け、オートパイロットを解除。
機首をバトルスター編隊へ向け、急加速させた。
「フュージョス・フォトンキャノン、チャージ完了!」
主砲が輝きを増し、青白い光の奔流が放たれる。
轟音とともに大部分のバトルスターが空中分解した。
しかし、数機の残存機が爆弾を投下しようとしていた。
ターヘルは距離を詰めようとスロットルを全開にするが間に合わない。
重い爆弾が、スラムへと落下していく。
その瞬間。
閃光のようなミサイルが爆弾群を直撃し、連鎖爆発を起こした。
残るバトルスターもろとも、夜空に巨大な火球が咲く。
「……!?」
驚愕に目を見開いたターヘルが窓の外を見ると、STSクロムウェルの横に、見たことのない謎の宇宙船が並走していた。
「あれは……誰?」
「わからないわ、ルゥちゃん。でも……味方みたいね」
二機の艦は並んでスラム上空を降下し、広場の中央にクロムウェルが着陸した。
エンジン音に誘われて、隠れていたスラムの住民たちが恐る恐る顔を出す。
スライドドアが開き、ルゥちゃんが食料と医薬品の詰まった貨物ボックスを抱えて降りてきた。
住民たちの顔に、驚きと希望の色が広がる。
ルゥちゃんは笑顔でボックスを配り始め、ターヘルはその背中を静かに見守っていた。
謎の宇宙船は上空で静かにホバリングし、まるで守護者のようにスラムの空を見下ろしている。
ルゥちゃんはスラムの住民たちに囲まれ、懸命に食料と医薬品を配っていた。
子供たちが笑顔で受け取り、大人たちが感謝の言葉を口にする。
その姿を、少し離れた場所からターヘルは静かに見守っていた。
ふと、上空に残っていた謎の宇宙船がゆっくりと降下し、STSクロムウェルのすぐ横に着陸する。
ターヘルは警戒を強めながら近づいた。
スライドドアが静かに開き、最初にパイロットが現れた。
「……!」
その巨躯に、ターヘルは思わず息を呑む。身長は軽く6フィート(約180cm)を超えているだろう。
パイロットは一歩横に退くと、素早く片膝をついた。
続いて、機内から降りてきたのは、普通の体格の男性だった。
「初めまして、ターヘル・アナトミア。
俺の名はジェイ・カーター、元バルワーク・レギオンの隊員だ。
オスカー・フォックス大尉の命令で来た」
その名を聞いた瞬間、ターヘルはすべてを理解した。
――だから、ブルックス司令官はあんなに苛立っていたのか。
「私の監視役ね?」
「そうだ。これからの任務で、お前が無茶をしないよう見張る」
ターヘルは冷たく鼻を鳴らし、踵を返してクロムウェルの方へ歩き出す。
ジェイは小さく息を吐き、手首のホログラムを起動させた。
「それともう一つ。お前が探している――夫と息子を殺した連中を見つける手助けも、俺の役目だ」
その言葉に、ターヘルは足を止めて振り返った。
ホログラムには、あの日の組織間抗争で目撃した謎の男たちの映像が映し出されている。
全身に龍のタトゥーを刻んだ、複数の男たち。
「……これらは……! あの日に見た……!」
ターヘルは写真を食い入るように見つめ、声が震えた。
ジェイはホログラムを消すと、無言で自分の宇宙船に戻った。
エンジンが静かに唸りを上げ、機体は夜空へと舞い上がっていく。
残されたターヘルは、ゆっくりとネックレスを握りしめた。
夫がくれた、大切なもの。
胸の奥で、新たな決意が燃え上がる。
――今度こそ、必ず。
彼女は静かに空を見上げ、固く拳を握った。
スラムの住民たちへの支援を終えたルゥちゃんとターヘルは、STSクロムウェルに乗り込み、静かに離陸した。
機体は夜のオナルムス市を横切り、インファーナル本部へと戻るコースを取る。
貨物室を兼ねた簡素なキッチンエリアで、ルゥちゃんは大きく伸びをしながら金属製のテーブルに腰掛けた。
視線を向けた先、ターヘルはどこか遠くを見ているような表情を浮かべている。
――ジェイ・カーターの言葉が、頭から離れない。
あの龍のタトゥーを刻んだ男たち。
あの日、夫と息子を奪った者たち。
ネックレスを握りしめ、ターヘルは静かに息を吐いた。
――これは、危険でもやらなければならないこと。
ルゥちゃんはテーブルから軽く跳び降り、棚から古びたウイスキーのボトルを取り出す。
グラスに琥珀色の液体を注ぎ、ターヘルの前にそっと置いた。
「ありがとう、ルゥちゃん」
ルゥちゃんは微笑して、肩をすくめる。
「飲んで、少し眠りなさい」
そう言い残して、ルゥちゃんはキッチンを後にした。
一人残されたターヘルは、グラスを手に取り、ゆっくりと口に運ぶ。
強いアルコールが喉を焼き、胸の奥に温かさが広がっていく。
意識がぼんやりと霞む中、記憶が優しく蘇ってきた。
――まだ、桜の香りがする。
ターヘルは瞼を閉じ、静かに眠りに落ちた。
夢の中――満開の桜並木が続く森の中を、若い日のターヘルは一人で歩いていた。
淡いピンクの花びらが風に舞い、柔らかな陽射しの木漏れ日が地面に降り注ぐ。
穏やかな時間が流れていたその時――カシャ。
シャッター音が静寂を破った。
ターヘルは振り返る。
そこに立っていたのは、カメラを構えた一人の男性。
自分より少し背の高い体躯。
淡い金髪に、空のようなライトブルーの瞳。彼は慌ててカメラを下げ、深々と頭を下げた。
「す、すみません! 許可なく写真を撮ってしまって……!」
照れくさそうに笑いながら、彼は右手を差し出す。
「俺はトニー・ベイシン。君の名前は?」
ターヘルは少し驚きながらも、その手を取った。温かく、優しい感触。
「……ターヘル・アナトミア。よろしく」
二人の出会いは、そんなささやかな瞬間から始まった。




