Chapter14龍のタトゥーの男の謎
数週間が過ぎ、ディネックス大佐の捕獲任務は成功裏に終わっていた。
インファーナル本部・司令室。
ジェイ・カーターは、窓辺に立ち、手のひらに載せた小さな金属徽章をじっと見つめていた。
龍の頭蓋骨を模した、冷たく光るマーク。
「……どうして、こんなものが……」
脳裏に蘇るのは、五年前のあの戦場。
カトルガン市の廃墟で、巨大な金属の巨体を狙撃した瞬間。
スコープ越しに捉えた頭部へ、確実に弾丸を撃ち込んだはずだった。
なのに――
ハイテクのスライドドアが開く音に、ジェイは反射的に徽章をポケットにしまい、背筋を伸ばした。
入ってきたのはトーマス・ブルックス司令官。
ジェイの姿に気づくと、軽く頷く。
「楽にしろ、カーター」
ブルックスは司令官用の椅子を引き、腰を下ろした。
ジェイは一歩前に出て、拳を固く握る。
「司令官……これを見てほしい」
彼は徽章をテーブルに置き、ブルックスの方へ滑らせた。
ブルックスはそれを拾い上げ、じっくりと観察する。
龍の頭蓋骨のマークを認めた瞬間――司令官の顔色が変わった。
椅子から勢いよく立ち上がり、低く鋭い声で問う。
「どこでこれを手に入れた!?」
「最初の任務で、ラスキー・ギャングとの戦闘中です。ダーク・ファーティルの隠れ家から……」
ジェイはこれまでの任務――龍のタトゥーを持つ謎の男たち、ディネックス大佐の変形装甲、そしてこの徽章の出現までを、淡々と報告した。
ブルックスの表情は、聞くほどに険しくなっていく。
やがて、彼は小さく呟いた。
「……まずい。これは本当にまずい……」
司令官は立ち上がり、壁の武器ラックからボイド・マシンガンを取り外す。
同時に手首のコミュニケーターを起動させ、誰かへ急ぎの通信を入れる。
「こちらブルックス。コムリンク・タワーの旧友か? 緊急だ。すぐに――」
ジェイは徽章を素早く回収し、司令官の後を追う。
「司令官! 一体何が――」
ブルックスは振り返り、ジェイを鋭く見据えた。
「説明は後だ、カーター」
「今すぐウォー・エンジェルス全員を招集しろ。目的地はコムリンク・タワーだ」
その瞳に宿るのは、紛れもない危機感。
インファーナル本部の東側居住区、整備バラクの一角。
ターヘル・アナトミアは、床に座り込み、自分の義足を丁寧に調整していた。
工具の金属音が静かに響く中、彼女の視線は壁に投影されたホログラムファイルに釘付けだ。
ジェイ・カーターの軍歴記録――特に、五年前のカトルガン市戦闘に関するページ。
もう何日も、同じファイルを開きっぱなしにしている。
居住区の反対側、共用ラウンジでは、ニキ、ラキ、ルゥちゃんの三人が小声で話し合っていた。
「最近、ターヘル……ジェイ隊長のことばっかり調べてるわよね」
ニキが腕を組み、眉を寄せる。
「ラキ姉に聞いたときから、もう四日もまともに寝てないみたい」
ラキも心配そうに頷いた。
「私もびっくりしたよ。あんなに真剣に誰かの過去を調べるターヘル、初めて見た」
ルゥちゃんは立ち上がり、静かに決意した。
「……私、見てくる」
彼女はそっとターヘルの作業スペースへ近づいた。
ターヘルはちょうど義足の調整を終え、ホログラムをスクロールしていた。
ある1ページで、指が止まる。
――カトルガン市最終戦、戦場写真。
崩れた柱の下に閉じ込められた女性――自分。
そして、遠くに映る、夫と息子を殺した金属の巨体。
ターヘルの記憶が、鮮明に蘇った。
あの日の最後。巨体が夫と息子を殺した直後、誰かの銃撃が巨体の顎を直撃した。
金属の巨体は顎を押さえ、苦痛にのけぞったが、すぐにフラックス・ファイア・グレネードを投擲。
爆発的な火の雲が広がり、視界を覆う。
大量の出血で意識が遠のく中、誰かが重い柱をどかし、自分を抱き上げた感触。
医療用STSサンダーボルトの内部。
医療ロボットが必死に自分の破壊された身体を安定させようとしている。
ぼんやりとした視界の端で、ジェイが指揮官へ報告している声。
「はい、フォックス大尉。スティール・センチネルのリーダーは逃走しました」
「それはまずい……」
「ヴァンガード・シールドをこちらへ向かわせます」
「了解、大尉。感謝します」
ジェイが医務室を出ようとしたその時――弱々しい手が、彼の腕を掴んだ。
ターヘルは朦朧とした意識の中で、必死にその腕を離すまいとした。
ジェイは一瞬立ち止まり、小さく息を吐く。
そして、優しく、しかし確実にその手を外し、医務室を後にした。
――記憶から戻ったターヘルは、ホログラムの写真をじっと見つめた。
あの時、巨体を撃った銃口の方向。
そして、自分を救った人物のシルエット。
すべてが、ジェイと一致していた。
「……あなたが……」
ターヘルは静かに呟き、ホログラムを閉じた。
ルゥちゃんがそっと近づき、肩に手を置く。
「……ターヘル、大丈夫?」
ターヘルはゆっくりと顔を上げ、珍しく穏やかな笑みを浮かべた。
「……ええ。やっと、わかったことがあるの」
彼女は立ち上がり、義足の動作を確認しながら、決意の瞳で呟いた。
「ジェイ・カーターに……話がある」
その時――インファーナル本部全体に、赤い警報音が轟き渡った。
ラウンジにいたニキとラキが椅子から跳ね起き、顔を見合わせる。
「何!? 緊急事態!?」
ターヘルは即座に立ち上がり、ルゥちゃんの手を掴んだ。
「ルゥちゃん、自分の部屋に戻ってドアをロックして! 絶対に出ないで!」
ドアが勢いよく開き、ジェイ・カーターが息を切らして飛び込んできた。
「ウォー・エンジェルス! 全員、武装を! 目的地はコムリンク・タワーだ!!」




