第17話 最終確認と最終出撃
企業都市で、借金を背負った剣士が日本刀と知略で成り上がっていくSFバトルものです。
テンポと引きを重視して書いています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
「――でも、どうやってそこまでの権限を奪ったんだよ」
全員がロビーに戻ると同時に、座愛が尋ねた。
それに対して電子が答える。
「それはわかりません。もう少し長く、忍城ビルの端末のシステムを覗ければそれもわかったんですが…」
そう言う電子に、瞬が被せる。
「いや、なんにしても、犯人と最終目標はわかった。これはデカい」
「電子とフォースマンのおかげだ。しかも、最終決戦の場所まで突き止めた…」
ふと目をやると、あいが手を挙げている。
「…あの、この証拠を持って然るべき場所へ行けば、偉い人が止めてくれるんじゃ?」
そう語るあいに、“無駄だよ”と言わんばかりに瞬が即答する。
「無理だ。もう上の実権はピリオドが握ってる。通ったとしても途中で揉み消される…」
「それに、こんな話を持っていっても、誰も本気では聞かない。せいぜい、頭のおかしい傭兵扱いで終わりだ」
「事実を知った俺たちで解決するしかない」
その場の空気が、一段冷えた。
そこで、座愛が禁断の言葉を口にする。
「つまり…私たちで、ピリオドとの最終決戦…」
「…ああ」
そう答える瞬に、電子が口を挟む。
「…瞬でも2回勝てなかった相手との本気の戦争です」
「しかも、それに勝たないと、都市はピリオドによって鎮圧される…」
全員が更に震えた。
――ピリオドは都市を乗っ取る。
最終命令は忍城ビル。
それを止められるのは、今ここにいる4人だけだった。
負ければ、都市はそのまま奪われる。
…この重い空気を破ったのは、意外にも瞬の個人端末のコール音だった。
「ドクターキセノンからのコールだ…こんな時に返済の催促か?」
瞬が個人端末を開くと、画面の向こうにはドクターキセノン。
『よぉ、瞬。まだ生きてたか』
「ああ、おかげさまで。…すまないが、借金ならまだ…」
瞬がそう言おうとすると、ドクターキセノンが被せ気味に答える。
『いや、そうじゃないんだ。そろそろフラッシュとスピードーの調整時期だ。診療所まで来て欲しいんだ』
「調整か…わかった。…すまねぇな、ドクター」
ドクターキセノンは笑顔で通信を切った。
そして、座愛の個人端末も鳴る。
「…こっちは工房の江田さんからだ。復帰したのかな?」
「はい、座愛ですが」
画面の向こうには、まだ包帯を腹に巻いている江田が映っている。
『工房主の江田だ。傷もほぼ治った。工房も再開できる』
『そこで、真っ先に“例の物”を用意した。取りに来てほしい。ついでに、蜘蛛脚もメンテナンスだ』
「例の…あれですか!わかりました。…あの、お代は?」
江田が難しい顔をして通信を切った。
そんなやりとりを見ていた瞬が言う。
「座愛、やっぱり江田に気に入られてるよ」
こうして、瞬は診療所へ、座愛は工房へ向かう用事ができた。
そんな2人に、個人端末から目を離さないまま電子が声をかけた。
「2人とも、行くなら早めに行ってきたらどうです?私も、こっちはこっちで最後の仕上げがありますし」
「…それじゃ、それぞれの用事に向かうか。電子とあいはアパートで待機…」
そんな中、あいは買ってきた栄養バーを食べている。
そして、それをゴクリと飲み込み、言う。
「…みんな、一緒に行こうよ」
それを聞いた3人はハッとなった。
「そうだよな。こんな時だからこそ、別行動ばかりしてるのも違うか」
「うん!」
4人とも顔を合わせ頷いた。
夕方の風が、気持ちよかった。
「工房も診療所も、歩いた方が近いな」
湿気を帯びた涼しい風が、4人の長い髪をなびかせる。
都市は少しざわついていたが、まだ表向きは平和だった。
相変わらずうるさい広告が、それを無理やり塗り固めている。
『時間がない!?なら、クリスプの栄養バー!一瞬で、1食分!超高カロリー!』
『さぁ、食事も時短しよう!クリスプの栄養バー!』
それをみたあいが無邪気に跳ねながら言う。
「あ、これこれ、これ美味しいよね!」
「ああ、でも太るから食べ過ぎるなよ」
「大丈夫、糖分は頭に行くから!」
そんな瞬とあいの会話に、座愛がツッコミを入れる。
「だ・か・ら、糖分があまり好きじゃない私は脳筋だとでも!?」
座愛があいに“優しいグリグリ”を繰り出す。
「あう…座愛の場合、栄養が全部胸に行ってるんじゃない!?」
「なっ…なんか、褒めてるようでバカにしてない!?」
座愛のグリグリが両手になった。
また風が吹く。
その風に、どこか焦げのような匂いが混ざっていた。
ほんの一瞬で消える程度の匂い。
「ふふっ」
ゴスロリのフリルが揺れる電子が笑った。
「なんか、いいですよね、こういうの…こういう時間が、永遠に続けばいいのに」
「ははっ、それ分かる」
座愛がそう言うと、少しだけ空を見上げた。
…そして、何かを言いかけて、やめた。
そのまま、何事もなかったかのように視線を戻す。
…遠くで、小さくサイレンが鳴っていた。
日がビル群の向こうで地平線に吸い込まれ、消えた。
――うっすらと暗くなった頃に、工房に着いた。
「よう、お前ら。全員死んでおらんな。結構」
工房をノックすると、すぐに江田が出てきた。
それに、座愛が飛びつく。
「江田さん!よかった!…色々となんてお礼をすればいいか!!」
「いいんだ、俺は、俺が作った物を分かってくれるやつがいたら、それでいい」
江田が続ける。
「例の物もある。蜘蛛脚スタビライザーもメンテナンスしてやる。中で外せ」
工房の中で、座愛が蜘蛛脚を展開して、リリースする。
そして、即座に“例の物”を見せてもらう。
「これだ」
江田が、ベルトごとジャラジャラと、鈍く光る巨大な弾丸を山から取り出した。
「…“50口径高密度芯強装弾”。正規じゃ手に入らねぇ。闇ルートだ。それに、俺が1発1発手を加えた」
「お前さんのスプラッターキャノンから発射できるようにしてある」
江田が、束ねてある弾を差し出す。
「反動も熱量も増すが、腕がありゃ特殊繊維強化アーマーも数発で貫通する」
「…正確に同じ場所を撃てりゃ、だが」
座愛が、その弾が束ねてあるベルトを両手で手にする。
「これが…特殊繊維強化アーマーも貫通する…!」
座愛は震えていた。
今まで通らなかった敵の特殊アーマーを思い出していた。
そこに瞬が言う。
「こんな代物…いくら払えばいい?」
そんな瞬に、江田は首を横に振る。
そして、座愛の方を見つめて声を震わせる。
「いらねぇ…俺はただ、お前が撃ち続ければ、それでいい。…何かデカい覚悟があるんだろ?目で分かるよ」
座愛は頷き、弾の山を受け取った。
そして、しばらくして、蜘蛛脚のメンテナンスも終わった。
瞬の刀も研いでもらっていた。
「江田さん、本当にありがとうございます」
座愛が頭を下げた。
サラサラの髪が、重力で肩から宙に流れる。
そして、江田は親指を立てた。
それに、座愛も立てた親指で返事をする。
…バッグの中で、鈍く光る強装弾を覗いて、電子とあいが唸る。
「強装弾…なんか、すごそう」
「…次は俺だな。診療所へ行こう。ここから遠くない」
工房を出る頃には、もう完全に夜だった。
――診療所は相変わらず狭くごちゃついていて、血の匂いがする。
狭い場所に物と血が散乱している。
「よぉ、瞬。遅いから、てっきり今日は来ないのかと思ったよ」
「すまねぇなドクター、色々と用事があるんだ」
瞬が言葉に詰まる。
「なぁ、借金の件だが、もうすぐ…」
そんな瞬に、ドクターキセノンは瞬の口を押さえるようにして言う。
「あのな、実際、改造医の誇りは金で儲かることじゃない。患者が死なないことなんだ」
「…でも、必ず払うよ」
「ああ、もちろん返してはもらう。じゃ、始めよう」
ドクターが機材から伸ばしたケーブルを、瞬の後頭部に刺す。
「スキャン開始……ふーん…」
興味津々で見ていたあいが、ドクターのそのため息を気にする。
「あの…瞬に何か悪いところでも?」
それに対して座愛が即答する。
「頭だろ。きっと、脳が筋肉に侵食されてるんだよ」
全員が、ふふっと鼻で笑った。
「…スキャン結果は悪くない。ただ、無駄が多いな。何度もオーバーヒートさせてるだろ?…出力を調整してやる」
「安心しろ、性能が落ちるわけじゃない。無駄な部分を削って、オーバーヒートを遅らせてやるだけだ。それと」
「それと?」
瞬が目の裏で無数の警告ポップアップを追いながら聞いた。
「スピードーの方はやはり1度も起動してないな…」
「あくまで生命維持のために入れた補助システムだが、生き残るためには起動するに越したことはない」
ドクターが、瞬に繋がった端末に入力しながら続ける。
「少し、起動条件を緩くする。一定量の出血でスピードーも起動するようにした」
「起動すると鼓動も動きも跳ね上がる。その間に逃げろ。生存率が上がる」
「ありがとうドクター。調整料は今払うよ。ほら」
そう言って、瞬は即座に50万Vicksを送信した。
「まぁ、いいってのにな。瞬、最後の確認だ」
ドクターが瞬の椅子を回し、正面を向かせる。
そして、中指を立てた。
「これは何本に見える?」
「1本だよ。ありがとう。ドクター」
瞬がドクターの肩を叩き、立ち上がり、診療所を後にする。
「瞬」
そんな瞬たちをドクターが呼び止めた。
「何かデカいことをやるんだろ?声で分かる…死ぬなよ」
それに対し、瞬が笑顔で背中越しに中指を立てた。
診療所を出た。
「――ねぇ、缶のコーラ買っていこう」
帰り道であいが言い出した。
「俺はいいが…なんのためにだ?」
瞬が尋ねた。
「いいからさ」
あいは、そこらじゅうにある自販機の1つでコーラを4本買った。
――アパートに帰ってきた。
すると、あいがすぐに切り出す。
「ではこれより、ピリオドをやっつける会の決起会を行います!」
他の3人は最初は少し戸惑ったが、すぐに乗った。
「優先順位3位、ピリオドをやっつける!」
「優先順位2位、他のみんなに被害を出さない!」
「そして、優先順位1位は…」
「誰も死なない!」
4人が声を揃えた。
――揃ったはずだった。
「…ああ、仲間が1番だ。1番大切なものは、いつもここにある」
「すぐ近くだ。そして、永遠に遠ざかることはない。…仲間に乾杯!」
瞬がそういうと、全員がコーラの蓋を開ける。
「仲間に乾杯!」
プシュ!
炭酸が弾けた。
そして、全員でコーラを飲む。
だが、座愛だけが進んでいない。
「どうした?座愛?」
瞬が尋ねるが、座愛の表情はやや曇っている。
「何でもない。炭酸がちょっと強すぎただけ」
そう言って、いつもの調子で笑い、コーラを飲む。
「…うまっ」
…少しだけ、間があった。
――しばらくして、電子が切り出した。
「瞬、ピリオドの件なんですが…」
瞬が電子の方を向く。
「フォースマンで拾ったログ断片を繋いだら、忍城ビルのセキュリティへ食い込めるキーをが見えてきました」
「推測でしたけど、当たりです」
「すごいじゃないか!なら…」
電子が続ける。
「いいえ、握れるのはあくまで、セキュリティだけです」
「システム全体にアクセスできるわけじゃありません。ただ」
「ただ?」
全員が電子の方を向く。
「ログインがあれば、感知できます。つまり、ピリオドが忍城ビルに入った瞬間を追えます」
「しかも、一部の警備システムは無効化できます」
「そして、警備システムを追っていて分かったことがあります。忍城ビルには、通常の警備システムとは別に“完全自律砲台”があります」
電子が、右手端末の画面に忍城ビルの見取り図のような物を表示しながら説明を続ける。
「近寄ったら、敵味方関係なく撃ち落とします」
「つまり、権限のない者は近づいた時点で終わりです。だから、忍城ビルで待ち伏せすることはできません」
「もしそうしたら、私たちが先に撃ち落とされます」
「それじゃ、忍城ビルに入ることもできないんじゃ?」
座愛が頭を傾げた。
電子は続ける。
「いえ、むしろそこが肝です“権限のない者は敵味方関係なく撃つ”――そこです」
「ピリオドが来たら、…例えば増援なんかの味方への誤射を防ぐために、まずこの完全自律砲台を無効化するはずです」
「…その隙が、忍城ビルへ突入し、ピリオドを追う唯一のチャンスです」
これを聞いた瞬が納得する。
「なるほど。つまり、最終決戦は、やはりこちらが追う立場か」
「ええ、ですから、ピリオドが忍城ビルに到達するまで待ちましょう。反応があったら知らせます」
…しかし、忍城ビルからの反応はなく、都市だけが不穏にざわめいていた。
――そこから、数日が経った。
7月14日。
あいの中でも、鎮圧ユニットに対する“考え”は固まりつつあった。
準備も、もう終わっている。
すると、午後に、全員でロビーにいると、電子の個人端末がけたたましい音を上げた。
「来ました!忍城ビル内、ログイン反応…個人識別ID : 07147014…ピリオドです!」
「…航空ログを見ると、ヘリも使っています。間違いありません!」
「うん!」
「いよいよだな!」
「はい!」
「行こう…最終決戦だ!」
――忍城ビル。
最終決戦の時が、とうとう来た。
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