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福徳小学校の七不思議  作者: スネオメガネ
怪4 箱の中の賢者
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百葉箱と後藤少年

 とりあえず、後藤少年のプリントの採点を行なった。


 全問正解だった。


 先程の教頭の言葉が気になり、チラチラと教頭の様子を探るが、特になんの変化もなく、黙々とデスクワークをこなしているように見えた。


 先程の言葉を思い返してみると、暗に『聞くな』という意思が込められているようにも思える…が、気になるものは気になる。

 確かに、教頭の言う通り、自分で考えたり、調べた事は、他人に聞いた時と比べて、記憶に残りやすい。


 それは、単に聞いただけの場合と違い、行動や経験に伴い、記憶につながるヒントが多いのが理由だと考えている。


 聞いた場合は、答えだけの記憶だが、調べた場合は、調べたという過程や行動を思い出すだけで、自然と答えの記憶へと繋がるためだろう、と。


 だが一方で、答えを知っている人間がいるのなら、聞いた方が早いのも事実だ。効率を考えると、聞いた方がベストだろう。

 例え、記憶に残りにくくても。


 だから、聞いて済ましてもいい場合と、考えて、調べて答えを出した方がいい場合があると思う。


 生徒達の勉強や宿題は、明らかに後者だ。やる事が目的ではなく、自分の実にする事が目的なのだから。

 だが、今回の場合、自分の実とする必要があるのだろうか?少なくとも自分は、そうは思わない。

 ならば、聞くべきだ!


 …と、だらだらと自分に言い訳しつつ、教頭に先程の言葉の真意を聞く事を正当化する事に成功した私は、教頭の席へと向かった。


「馬場教頭、ちょっとよろしいでしょうか?」


 少し、ずり下がったメガネを戻しつつ、教頭が顔を上げて、私を見つめる。若干、睨まれているように感じるが、決して怒っている訳ではなく、そういう仕様だ。…多分。


「なんですか?」


「先程の後藤少年のプリントの件ですが…」


 プリントを教頭の席に置いて、様子を確認する。


 教頭に変化はない。


「先程、このプリントを見て、後藤さんに指導するように仰ってましたが、具体的に何を指導していけばよろしいのでしょうか?

 勉強不足で申し訳ありませんが、ご教示いただけないでしょうか?」


 教頭が、こちらをジッと見つめる。


 …決して、睨まれている訳ではない…と信じたい。


「…溝口先生は、このプリントを生徒自身が、回答した、とそう思っていますか?」


「…いえ、思ってはいません」


「それは何故ですか?」


「このプリントは、全問正解でした。本人の学力からすると全問正解というのは、信じられません」


「…一生懸命、勉強して、結果を出したのかもしれませんよ?

 或いは、友達と一緒にやって、わからなかったところを教えてもらったのかもしれません。

 テストではないんですから、全問正解だったから、本人がやっていないというのは、暴論だと思いますが?」


 確かにそうだ。


「…」


「本当は、全問正解だったから、本人がやっていないなんて、思ってないのではないですか?

 溝口先生なりに、そう思った理由があるはずですが?」


 それは、筆跡だ。


 だが、私は筆跡鑑定のプロではない。根拠としては、稀薄ではないだろうか?

 まぁ、それを言っては、全問正解だったから、というのもそうなのだが…。


「…筆跡です。他の宿題の答え合せの字と、プリントに書かれている字の特徴が違っているように感じました。

 …あくまで、感じた程度ですが…」


「…そうですか。

 では、宿題を第三者にやってもらう事は、正当な事でしょうか?」


「いえ」


「…つまりは、そういう事です。

 しっかりと指導してあげてください」


 話としては、わからなくもない。

 だが、なぜ教頭は、あのプリントを本人がやっていないと感じたのか?

 手遅れになる前にとは、どういう事なのか?

 疑問は残る。


「…あ、あの…」


「話は、終わりです。

 頼みましたよ?溝口先生」


 無理矢理、話を終わらせて、教頭は席を立ち、職員室から出て行った。


 結局、わからないという事だけがわかった。


 途方に暮れて、ふと窓を見る。


 教頭の席の後ろは窓になっており、運動場が見える。


 登校日を終えて解放された生徒達が、グラウンドを走り回っている。


 …楽しそうだなぁ。


 なんとなく見ていると、そこに後藤少年の姿を見つけた。


 新学期になってからでもいいのかもしれないが、やはり、みんなのいる前で呼び出すのは、本人にとって嫌なことだろう。ならば、今日、今、雑談混じりに注意を促せば、残りの宿題は自分でやるかもしれない。


 そう思い、運動場に出る事にした。


 職員室用の玄関から、靴に履き替えて運動場に向かう。


 …いない。


 さっきまで、その辺にいたのに。


 小運動場だろうか?


 この学校には、トラックやサッカーゴールなどがある運動場の他に、ジャングルジムやブランコなどの遊具のある小運動場が存在する。


 とりあえず、小運動場に向かうが、やはりそこにもいない。


 帰ったのだろうか?


 最後に芝生と百葉箱がある中庭を覗いて戻ろうと考え、中庭に行くと、後藤少年は百葉箱の前に立っていた。


 柏手を叩き、何か願掛けしているように見えた。


 何をやっているんだろう?


 後藤少年は、願掛けが終わった後、再び、運動場の方へ駆けていった。

 それをこっそりと見送った後、百葉箱に近付く。鍵が壊れている。


 百葉箱とは、気象観測用の箱で、中に温度計などが入れられた白く塗装された木箱が、芝生の上に設置されているのだ。


 百葉箱を開けてみると、そこには一枚のプリントが置いてあった。

 それは、今日出した次回の登校日に回収する予定の国語のプリントだった。

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