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 第六章 心創魔法を習得しました

 

 ─── 1 ───


 先生たちからの特訓は、国王様からの高位魔物討伐依頼を受けて、先生たちが討伐へ向かったため一時休止となることに。

 戻って来るまでの間の特訓メニューはもらっているが、走り込みや魔力循環のイメトレ、属性変換の意識など、いつもの日課とそう変わらないので、空いた時間は心創魔法の特訓に費やすことにした。

 前のお披露目会の時に掴んだヒントを元に、俺はアニメやラノベで主人公たちが使っていた技が実行可能なのか、実験を試みる。

 イメージ力と魔力によって、本来なら起こりえないはずの魔法を、世界補正によって実現させる。

 心創魔法の基礎はだいたいこれであってるんだろう。

 あとはどれだけ俺のイメージが、いや、妄想力が強いかによって決まってくる!

 前世で培った15年間のヲタク人生を全て掛けて、あんな事こんな事いっぱい叶えてやるっ!


 俺は放課後、先生たちに許可をもらって借りている教員用特別魔法訓練室にて、修行を始めた。

 まず初めは定番の身体強化魔法。これはハザック先生も使っていたし、何かと役に立つはずだ。

 とにかくやるのは念〇力と同じだ。魔力が全身を包み込み体を強化すること。

 流れ出ていた魔力を全身に留めるようイメージする。

 すると体の表面が魔力に覆われたためか、温かく感じ始めた。

 よし、成功だ。それじゃあ次は、体内の魔力をそれに練り合わせ、強くするイメージ。

 目を薄っすら開けると、まるでスーパーサ〇ヤ人の様に、体の周りを魔力の奔流が覆っていた。

 意識を反らしたり集中力が切れると薄まってしまうので、これを継続する為に、ひたすらこの状態をキープして体に慣れさせていかなければならない。

 これはどのアニメでも通る修行ルートだ。決して諦めたり途中で投げ出してはいけない。

 悟〇や〇飯だって、スーパー〇イヤ人に体を慣れさすのに、『精〇と時の部屋』で長い修行をしたんだから、俺も気張ってやろうっ!

 

 途中、消えてしまったり、不安定になったりしたものの、三日ほどで安定して身体強化が出来る様になってきた。

 初めは3分と持たなかったが、今では30分は安定して出せる様になった。

 よし。次はこの状態で他の魔法も出せる修行だな。

 アニメによくある高速移動しながらの魔法の使用は必須でしょ。防御無双もいいけど、やっぱ魔法使いなんだから、魔法をバンバン使いたいしね。 

 俺は今までの呪文詠唱のやり方をすっぱりと諦めた。出来ないこと、向いてない事に時間を使うより、適応している事を伸ばした方が成長も早いし、達成感とやる気も上がり、結果的に効率よく成長できるからだ。

 

 いつもシャルが使っている【ファイヤーショット】。あれが他のアニメなら、【ファイヤーボール】や【火の玉】って呼ばれる初級魔法だ。

 詠唱は無視。とにかくイメージを強くしていく。


 (掌の上から出した魔力が火に変わり、それが丸い球になる。大きさはドッチボールくらい……)


 熱を感じたので目を開けると、今まで一度も成功しなかった【ファイヤーショット】が、俺の掌の上で浮いていた。

 俺は集中力を切らさないまま、手を前に突き出し、火球が高速で飛翔し壁に当たるイメージをする。

 すると、火球はイメージ通り飛んでいき壁に激突した。

 さすが教員用特別魔法訓練室。壁にはダメージどころか、焦げ跡すらなかった。

 これなら盛大に魔法の特訓ができるっ!

 俺は夢中になって、心創魔法の特訓を続けた。


 特訓開始から半月。イメージ不足なのか、使えない魔法もあったが、ヲタ知識の粋を集めた心創魔法の数々を生み出した。

 「これでようやくシャルたちに追いつくことが出来たっ!」

 やっぱり自分だけ魔法が使えないのは引け目だった。自分のせいでシャルたちの足を引っ張るのは嫌だ。みんなと一緒に学園生活を楽しみたい。ダンジョンへ行ったりする授業もあるみたいだから、できればみんなを守れる様になりたい。

 そのせいで入学してからは、シャルたちとあまり話す時間は取れなかったけど、ようやく自分だけじゃなく、周りを助けることの出来る力を身につけた。

 「よし! これで晴れてみんなと学園生活を楽しめるぞ!」

 そう思っていたのだが…………。

 「ユウトいるか!」

 バンッ! と大きな音を立てて訓練室の扉が開き、ハザック先生が飛び込んできた。

 「先生お帰りなさい。どうしたんですか、そんなに慌てて」

 「はぁ…はぁ……はぁ…はぁ…。いいか、ユウト……落ち着いて聞くんだぞ……」

 息を切らせているのは、それだけ早く走ってここへ来たからだろう。何をそんなに急ぐことがあったんだ?

 「シュエ・フェーヤが盗賊にさらわれた」

 「…………えっ?」

 俺は先生が始め何を言っているのか分からなかった。

 次第に脳が言葉を理解しだしたのか、焦りと不安が、俺を飲み込んでいった。



 ─── 2 ───


 ハザック先生に連れられて行ったのは、会議室の様な部屋だった。

 部屋の真ん中には大きな机があり、その上にはこの街を中心とした周辺の森や湖、洞窟、平原が詳細に描かれた地図が置かれている。

 部屋にいるのは、今入ってきた俺とハザック先生、ゼークル先生にルフレ王女、この学園の学園長、ファーティン・トルヴール先生。見た目はどう見ても10歳前後の少女にしか見えず、セミロングの黒髪に、アホ毛が出ている。何故かそこだけが真っ白で棒付きキャンディー(チュッ〇チャプス?)をくわえて眠たげな半目をしている。本当にこの人が学園長なのか? それよりどこのアニメキャラだよ。盛り過ぎにも程があるわっ!

 そしてもう一人。青い顔で今にも泣き出しそうなシャルだった。

 いまだに俺は状況を掴めないでいる。すると、ゼークル先生が全員を見渡し、シャルに話しかけた。

 「全員揃いましたね。では、シャルラッハ・ロートくん。街で何があったのか、もう一度説明して頂いて宜しいですか?」

 「はっ、はい……」

 シャルは話掛けられ、一瞬ビクッとするものの、ぽつぽつと話し始めた。

 

 シャルとシュエ、それにルフレ王女は、今日の休みに買い物をするため街に出かけていたと言う。ルフレ王女も変装をしていたので、街の誰にも気づかれずに買い物ができ、お昼になったので、食事をとりながらお喋りしていたとのこと。

 昼食も済ませたので、学園に帰ろうとすると、何やら嫌な気配がしたので周りを見渡してみると、明らかに一般人ではない雰囲気の男2人が、じっと見ていたと言う。

 3人は話しを合わせ、気付いていないふりをして大通りを進んでいたが、男たちは一定の距離を空けて付いてくる。

 これは間違いないと思い、さっと脇道に入り追って来た男2人に【エアーショック(空気の球を相手にぶつける魔法)】を放ち、気絶させようとしたらしい。

 姫様の事を悪い奴に知られ、誘拐される可能性があるので、自衛の為に姫様から許可をもらって、魔法の使用をしたのだが弾かれた。

 他にも、街を傷つけない様に、風や光、水系統の魔法で、相手の無力化を試みたが、なんとか二人を押さえ込んでいる間に、後ろから現れた新手にシュエが捕まってしまった。

 ルフレ王女は自分が人質になろうとしたが、どうやら賊の連中は初めからシュエの誘拐が目的だった様に、ルフレ王女には目もくれず、光魔法の目くらましを使って逃走して行ったという。

 シャルはすぐに追いかけようとしたけど、ルフレ王女に相手との実力差があり相手の数も多いから一旦学園に戻り、先生たちから救援部隊を出してもらおうと提案され、追いかけたい気持ちを押さえ込みすぐに学園に戻り、居合わせたゼークル先生に事態を話し、今の現状に至ると言う。

 シュエが誘拐されてから、何の要求も無ければ、犯行声明もない。これは身代金目的ではなく、何かしらの計画的があったのだと予想される。

 身代金目的なら、きっとルフレ王女の方を狙うだろうし、人身売買などを目的にしていたのなら、シャルたちも連れていかれていただろう。

 それがシュエのみを連れ去っているとなると、初めからシュエだけを狙った計画的犯行だと推測される。

 だとしたら…………。

 「だとしたら、いったい奴らの目的はなんなんだ? 増援も来てることから、相当な数のグループでの犯行だ。そういった奴らが狙う理由ってのはいったい……」

 「っ!!」

 一瞬シャルがビクッと反応した。ここにいる誰もがそれに気づいた。

 「なぁーシャル。何か知ってるなら教えてくれないか? 俺もシュエが心配だ。すぐにでも助けに行きたいけど、今じゃ情報が少な過ぎる。もし何か知っているなら教えてほしい」

 俺はシャルに向き合い。真剣な眼差しで話しかけた。

 見た目は9歳の子どもでも、中身は15歳。本当はすぐにでも駆け出したい気持ちはあるが、先走りが危険につながる事ぐらい分かっている。

 きっとシャル自身もすぐに駆け付けたいに決まっている。それを止めている何かがあるはずだ。でなければシャルの性格上、ルフレ王女の制止も聞かずに、その場で追いかけていたのだから。

 しばらくの沈黙が続いた後、シャルは静かに口を開き、話し始めた。

 「…………あの男たちの服装、いや、手袋に見覚えがあるの…………あれはまだ私たちが7歳になったばかりの頃。シュエと広場で遊んでいた時だったわ。今日みたいに知らない男たちに囲まれて、シュエが連れていかれそうになったの。その時はたまたまお母様が近くを通り掛かったおかげで、男たちは全滅。その時男たちが付けていた手袋に、不気味に笑う鎌を持ったピエロが描かれていたわ」

 「『ハントハーベン・ヘンカァ』か」

 「? 『ハントハーベン・ヘンカァ』ってなんですか?」

 ボソッと呟いたハザック先生の言葉が聞こえたので、つい質問してしまった。

 その言葉を聞き、ゼークル先生や学園長にルフレ王女、それにシャルまでもが体を硬直させた。

 「『ハントハーベン・ヘンカァ』。奴らは自分たちの事をそう呼んでいます。鎌を持った笑うピエロ。それが奴らのエンブレムであり、仲間の印にもなっていて、自分たちこそが世界を統べるべきだと考えている集団です。そして、その意思にそぐわない者、自分たちの邪魔になる者には鉄槌をという考えを持ち、必要とあれば略奪も誘拐も、そして殺しでさえも正当化して行う、卑劣な者たちなのです。現国王であるグリューエン・コーニング様を悪の象徴だと訴えもいて、その関係からルフレ王女を狙うならわかるのですが、何故シュエ・フェーヤくんがさらわれたのでしょう」

 ゼークル先生が敵の組織については教えてくれた。どうやら相当にヤバイ組織らしい。現代日本からこっちに来た俺は、盗みや傷害ですら忌避感を持つのに、殺人までも平気でする人間の心理は、全く理解できない。いや、したいとも思わない。

 「痛っ!」

 自身があってきたいじめの数々。殴られ蹴られ、踏みつけらた。そういった過去の記憶がフラッシュバックして、頭痛を感じる。

 幸い、誰にも気づかれることは無かった。

 その間、シャルは何かと葛藤していた様だが、ついに決心がついたのか、何かを話そうとし始めた。

 「……あっ、あの!」

 バッと、みんなの目線がシャルに集まる。

 「っ!」

 シャルもビクッとしながらも、決意は固い様で、話そうと口を開くと、

 「まぁ待ちなよ~。言いにくい事なんでしょうよ~。なんなら代わりに、あたしゃが言ってやるから、静かにしてなぁ~」

 今まで黙って聞いていたファーティン・トルヴール学園長が、初めて口を開いた。

 しゃべり方は、とても間延びしたものだったが、どこか有無を言わせない迫力を感じる。

 「いいか~い。ここで聞いた事は~、他言無用だよ~。もししゃべりでもしたら~、あたしゃと二人っっっきりで! 楽しぃ~お話し会をしなくちゃならなくなるからねぇ~」

 ゴクリッ! と、ハザック先生とゼークル先生の喉が鳴った。

 その表情は青く、引きつってもいた。魔法使いレベル8と9の先生方がここまで怯えるなんて、いったい学園長先生って何者?



 ─── 3 ───

 

 「シュエ・フェーヤ。あの子はオプティマール魔道王国王家の最後の生き残りさ~」

 みんなが息を飲む中、俺だけが理解できずに、首をかしげている。

 「オプティマール魔道王国って何なんですか?」

 分からないなら聞いておこう。が信条の俺。こんな時でも平常運転だ。どこにシュエを助ける情報が隠れているかも分らないしね。

 「ふ~む。オプティマール魔道王国とは~、550年続いた魔法国家だ~。その魔法技術も魔道具制作に関しても、世界一と言われていたさね~。だが、その力を恐れた他国が恐怖から、そして魔法技術を我が物にしよ~と協力し合って戦争を起こし、今から300年ほど前に滅んだと言われているのさ~」

 「でも、そんな事、魔法史学では習っていませんよ?」

 「そりゃ~ね。オプティマール魔道王国を滅ぼした国々は、一時休戦とオプティマール魔道王国に関する情報の緘口令が盟約されたのさ~。それからの270年間は、それぞれの国がオプティマール魔道王国から盗んだ魔法の研究、魔道具の開発を主にしていたのさ~。しかし30年前ある国が、国ごとに分けた魔法資料を自分たちだけで独占しようとして、そして始まったのが第四次魔法大戦なのさ~。もっともオプティマール魔道王国との大戦を合わせれば第五次ってのが正しいんだけどな~」

 相変わらずの間延びしたしゃべり方の学園長だが、この口から発せられた事は、一学生が知ってはいけないような内容だった。さすがに黙っていられなくなったゼークル先生が学園長に異議を申し立てる。

 「学園長! まだ学生である彼らにその様な極秘事項を教えても良かったのですか? これは国家に関わる重大事項──」

 「まぁ~。仕方がないね~」

 学園長はそれでものんびりとした話し方は変わらなかった。

 「この子は、あのシュエちゃんの友人さ、知っておかなきゃならん事だってあるさね。もっとも、この事を口外したりする様ならお仕置きは必要だが、あんたはあの子。シュエちゃんが悲しむ様な事をするか? 真実を知って離れる様な者か?」

 学園長先生は、俺の目を見て聞いてきた。

 ちらっとシャルを見ると、下を向き、何かに耐える様にスカートの裾を握り、唇を噛みしめていた。

 シャルは知ってたんだ。学園長先生より先に話そうとしていたし、やはりシャルはシュエの過去を知っていてなお、友達になったんだ。

 そうしたシャルの姿が見れて嬉しくなった。

 シャルはやっぱり優しくて、友達思いの女の子なんだな。改めて知ることが出来て良かった。

 「ん~?」

 俺が笑顔になっているのを見て、学園長先生が怪訝そうな顔をする。

 ハザック先生とゼークル先生は、一緒に特訓して過ごした時間から、俺の性格を分かってくれていたのか、諦めた様な微苦笑を浮かべていた。

 俺の方を見たシャルに、真剣な表情でうなずいたら、シャルは今まで我慢していた何かが崩壊したのか、頬を一筋の涙がつたい、下に落ちた。

 俺はそのまま、真剣な表情で学園長先生に向き合い伝える。

 「学園長先生! 俺にシュエの事を教えて下さい。付き合いこそまだ短いけど……、それでも彼女を、友達を大切に思う気持ちに嘘偽りはありません! どんな真実が待ってようと、俺は絶対にシュエを、そしてシャルも、絶対に裏切りません。そして全力で守ってあげたいと思っています!」

 俺の言葉が引き金になったのか、シャルがその場で崩れ落ち泣き始めた。

 それからしばらくは、室内にシャルの泣き声が響き、俺はシャルが泣き止むまで、そっと背中をさすっていた。



 ─── 4 ───


 5分ほどでシャルも泣き止み、さらに5分で落ち着きを取り戻していた。

 まだ目は赤いものの、その眼には何かを決意した強い力がみなぎっていた。

 「ではシャルちゃんも落ち着いたことだし、話しを続けましょ~かねぇ~」

 学園長先生は間延びした口調だったが、その声には今までにない凄みを感じた。それに気づいたのは俺だけでなく、ハザック先生たちも次の言葉がいつ発せられるか緊張している様子だ。

 「いいかい? さっき話したオプティマール魔道王国の魔法や魔道具の技術は確かに凄かった。そしてそれを奪った各国の話は緘口令が敷かれた。だが、これだけでシュエちゃんがさらわれる訳ではないのさ~。では何故シュエちゃんが連れ去らわれたかってーと……。ここからは本当に極秘の話さね。実はオプティマール魔道王国王家には、特殊な固有魔法があるのさ」

 「特殊な固有魔法ですか?」

 ゼークル先生も初耳だったようで、険しい顔つきになっている。

 「うむ。その魔法の名は【魔道覚醒】。対象者の魔力量を10倍ほどに跳ね上げさせる、身体強化魔法の魔道版さね。しかもそれは永続的な効果で、どちらかと言えば、魔力を取り込めるキャパシティーを大幅に増強させる魔法ってことさ~」

 「そ、そんな魔法って…………」

 「そんなもんがありゃ、そりゃ『ハントハーベン・ヘンカァ』だって黙っちゃいねぇー……。いや寧ろ国単位で研究されてもおかしくねぇー代物だぞ……」

 ゼークル先生だけでなく、ハザック先生までもが驚いている様子だった。

 「えっと、でも魔力量って、鍛えていけば増えていきますよね?」

 「いいかユウト。確かに魔力量は鍛えれば増える。しかし、大幅に伸びんのは子どもの時だけで、大人になってからは、どれだけ鍛えても年に5ほど増えればいい方なんだ。それが、シュエ・フェーヤの魔法を使えば一気に10倍になるなら、誰だって、それこそ大人になった魔法使いほど、喉から手が出るほどほしいって代物だ!」

 「それに、自国の魔法師団全員に施せば、簡単に戦力強化が行えます。どの国も欲して当り前の魔法なのですよ」

 そう言って先生たちはとても険しい顔をした。

 修行もせずに簡単に魔力量が上がるなら、誰だってその恩恵を受けたいとは思うだろう。それこそ争ってでも…………。

 「だがまぁ~。そう簡単な魔法でもないのさね。魔法の発動方法も発動条件も不明。その生き残りがいる事すら分かっていなかった。現コーニング王と、数名以外にはな。

 300年前、オプティマール魔道王国には5人の英雄がいた。最も国王に信頼され、国を他国から守った英雄。そしてオプティマール魔道王国が滅びそうになった時、王家の跡取りと、【魔道覚醒】の固有魔法を守るために、その5人の英雄達は国を離れ秘匿した。いつの日かオプティマール魔道王国の復活を期待して。

 オプティマール王家の生き残りを守ろうと、数十年ごとに守り人は変わり、全員で秘匿していたが、その内の一家が謀反を起こしオプティマールの秘儀【魔道覚醒】を我が物としようとした。

 しかし、他の四家に阻止され、その家は滅ぼされた。そこからはさらに秘匿性を高める為に、その時随一の力を持っていたコーニング家を筆頭に、残り三家で協力し、国を作ったんだ。それが現コーニング王国の始まりさね。

 そしてコーニング王を支えるべく協力したのが、残りの三家。そしてその内の一家がそこにいるシャルちゃんの家、ロート家だ。そして私のトルヴール家もその一つ。

 シュエちゃんの父君は大戦で戦死、母君は元から病弱だったこともあり、シュエちゃんが2つの時に他界してるよ。身内のいないシュエちゃんは、当時同い年の子がいて、領地も比較的安全なロート家が引き取ることとなり【魔道覚醒】の魔法はこれで完全に秘匿できたと思っていたのだが……」

 学園長先生が話終えると、室内は沈黙に包まれた。

 俺はシュエの過去を聞き、シュエに何かしてあげたいと思った。

 それと同時に、初めて会った時に俺に両親がいない事を知ったシャルが悲しそうにしたのは、シュエの事とダブったからなんだと思い、シャルの優しさに改めて心打たれた。

 この二人を不幸にしちゃいけない。笑顔でいてほしい。その為には俺はなんだってする。

 俺は一人決意を固めた。

 


 ─── 5 ───


 「ともかく、早くシュエちゃんを助け出さんといけないね。ハザック先生。ゼークル先生。さっそく行ってきておくれよ。あたしゃはすぐに国王にこの事を伝える」

 「はい」

 「おうよ」

 先生たちが部屋から出ようと動き始めた時、「待ってください! 行くなら私も連れて行ってくださいっ!」と、シャルが大声で叫んだ。

 その表情には、決意の様なものがにじみ出ていた。きっと怖いのだろう。そりゃ一度戦っているのだから、相手の強さは痛いほど分かっているはず。それでも志願するって事は、それだけシュエが大切だということだ。

 俺もそんなシャルの顔を見て、自分にも何か出来ないかと思った。

 話は国をも動かす大ごとだ。それを俺たちみたいな子どもが入ったって何が出来るんだ……なんて考えていたけど、その時点で間違いなんだよな。

 「俺も是非参加させて下さい!」

 友達が大変な目にあっているんだ。助けるのが当たり前。そこに大人も子どもも関係ない! 自分が助けたいと思った。それだけで十分じゃないか。これ以上に動く理由なんてないっ!

 「ダメだ! これは子どもの遊びじゃねー。俺たちがバッチし救って来てやるから、おめぇたちはここで待ってろ」

 俺たちの決意も虚しく、ハザック先生に止められてしまった。

 「……以前、誰かさんが言っていましたね。無茶をさせたり、危険な目にあってほしくないって言うお前の優しさは良くわかっている。だけど、信じてやるのも大事な事なんじゃねぇーのかと。そして、力のある奴がただ守ってやるだけでは、そいつは成長しなくなる。時には信じて背中押してやるのも必要なことだろっと、さて、いったい誰が言った言葉でしたっけ?」

 「んぐぅ!」

 その言葉は、俺に魔法を見せてくれようとしたハザック先生が、ゼークル先生に止められた時に言ってた言葉だ!

 自分の言った事をそのまま返されて、ハザック先生はうなり声をあげる。

 「確かにこの子たちに危ないことをさせるのは反対です。しかし、このままではきっと勝手にでも着いてきそうじゃないですか。それならいっそ、わたし達の近くに置いた方が安全です」

 「言ってる事は分かんだけどよ。これは遊びや訓練じゃねぇーんだ。相手は本物の殺し屋かも知んねー。そこに連れて行くっててのは……」

 「ええ。ハザックの言う事も分かります。ですのでテストをします。魔力による身体強化を見せる事。そして今回の件に関し、自分に何が出来るのかアピールしなさい。それでわたしやハザック、そして学園長を納得させられたら連れて行ってあげます。しかし、そうでなければ黙って留守番をする事。これが最低条件です」

 グッと拳を握りしめるシャル。そして決意を決めたのか、すっと前に出て、

 「分かりました。そのテスト受けます!」

 そう言ってシャルは足を肩幅に開き、集中力を高めていった。


 シャルの周りに魔力が渦巻いていく。そして、

 【心身より生み出されし魔法の力よ、我が肉体に留まりて、力を発せよ!】

 詠唱の後、渦巻いていた魔力がシャルの体を包み込んだ。明らかにさっきまでとは違う。

 全身が魔力で覆われ、きっと身体能力だけでなく、防御力も上がっているだろう。

 「ほぉ。入学したてのちびっ子にしちゃーよく出来てるな」

 「そうですね。これなら今年の競技会は楽しめそうです」

 先生たちの評価に表情を明るくするシャル。

 「だがそれは、学園の競技会での話だ。おい嬢ちゃん。それをどれくらい維持できる?」

 「えっ、えっと10分ぐらいなら、なんとか……」

 「ではその状態で、他の魔法はいくつまで出せますか?」

 「っ…………」

 ゼークル先生たちからの質問によって、シャルはうつむき、まとっていた身体強化の魔法も、集中が切れた事により安定を失い消失した。

 「いいかいシャルちゃん。あんたの魔法は凄い。その年でたいしたもんさね。だけどね、現実は厳しいの。狂気をもった大人ってのは残酷で、子どもでも容赦はしてくれないよ。だからこそ今は耐えて、力を蓄えな。いつか守れる側になれるようにさ」

 学園長が優しく声をかけるが、シャルはうつむいたままだった。自分の力の無さが悲しくて、シュエを助けに行けないことが悔しい。そんな思いが伝わってきた。

 そんな時。

 「あの、私もテストを受けて宜しいですか?」

 みんなの視線が一斉にルフレ王女に集まった。

 「えっと……、ルフレ王女様も受けるんですか?」

 「はい。私もシュエさんの友人ですもの!」

 さすがのハザック先生も黙ってしまい、テストをすると言ったゼークル先生も苦行を耐える様な顔をしていた。

 学園長先生だけはルフレ王女を冷静な目で見ていたのか、「構わしないよ。やってみな」と、テストを受けることを認めた。

 「はい! シャルさん。見ていて下さいね」

 ルフレ王女がシャルにそう話しかけると、シャルも顔を上げ、ルフレ王女のテストをじっと見つめた。

 

 「まず初めに言っておきます。私はまだ身体強化の魔法は使えません!」

 「っっ??」

 ルフレ王女の発言に学園長を除くみんなが怪訝な表情を浮かべた。

 身体強化が使えないのに、何故テストを受けると言い出したのだろうか……。

 「身体強化は使えません。ですが、他に出来る事ならたくさんあります。シュエさんが帰って着た時に、お腹を満たす温かい食事の準備や、すぐに休める様に寝室を用意しておく事。シュエさんだけでなく、先生方が怪我をしてしまった時の為に治癒魔法や医療を行える者をたくさん集めておくこと。私には現場で戦える力はありません。ですが、他にもやるべきことは、出来る事は沢山ありますっ! ですので帰ってきた皆様を迎える準備をさせて下さい。それが今の私に出来る事です!」

 ルフレ王女はとても真剣な表情だった。

 確かに現場に直行して、直接シュエを助けたいって気持ちはあるのだろう。話している間も、ルフレ王女は自身の手を強く握りしめ、少し震えていた。

 それはきっと、今はここに留まってみんなの帰りを待つことしかできない自分への悔しさなのだと感じた。

 それでも、何かをしたいと思う気持ちから、今の自分に出来ることを必死に考えて出したのが、さっきの答えなんだろう。

 そんなルフレ王女の言動に、現場だけが大事だと思っていた自分が恥ずかしくなったのか、シャルは下を向いた。

 そして、ぐしっと袖で目元を拭って、

 「ルフレ! 私もそれ手伝っていい? 今の私にはシュエを助けに行ける力は無い。それでも何かしたいの。少しでも役に立てるなら私もやりたい! だからお願い。私にも手伝わせてっ!」

 「ええ。もちろんです。人手はいくらあっても困りません。一緒に皆様を信じ、いつ戻られても万全に対処出来るようにしておきましょう!」

 「うん! 私がんばる!」

 ぎゅっと手を握り合っている二人を見ると、とても微笑まし気持ちになった。


 「よし! そうと決まれば、さっそく色々と準備しなくっちゃね。ほらユウト行くわよ」

 そう言って、部屋から出ようとするシャル。でも…………。

 「ちょっと待って。俺もテスト受けるからさ」

 「?」

 みんなが疑問符を浮かべてる。あの校長先生ですら、『何言ってんだこの子は? ルフレ王女の言葉でうまい事いってんのに』って顔をしてる。

 「何いってんだい。せっかくルフレちゃんが上手いことまとめてくれたってぇ~のに、あんたって子は……」

 顔だけでなく、直接言われてしまった。

 ズーンっと落ち込みそうになったけど、ここは気を取り直して。

 「それは見てから判断して下さい! 絶対に役に立ちますから!」

 ここで引き下がる訳にはいかない! シャルもルフレ王女も勇気を出してテストを受けて、自分たちで出来ることを見つけたんだ。俺だってシュエの為に出来ることをしたい。

 それは留守を守ることじゃない。俺には誰かを守れる力がある。ならそれを使わずしてどうするんだ!

 「はぁ~。まったくもぉ~。とりあえずやってみな~。でも時間は無いからさっさとね」

 「はい! なら初めは身体強化からいきます!」

 俺は言葉と同時に全身を魔力で包み、身体強化を発動させた。

 半月もの修行の成果で、今では息をするほどスムーズに身体強化が出来る様になっている。

 「はぁぁぁーーーー」

 さらにそこから魔力を練り上げ、肥大させてから凝縮していく。

 こうする事によって、単なる身体能力の向上だけでなく、強い防御力が身に付き、その固くなった拳や足は、そのまま攻撃にも使えたりする。

 まぁ、この状態になるのには、3秒ほどのタメが必要なのが問題だが。

 俺はこの魔法を【身体強化α(仮)】と名付けている。もう少し完成度が上がったら、ちゃんとした名前も考えなくちゃな。

 これでどうだろうと、みんなの顔を見てみると、


 ……………………………………………………………………………………………………。


 みんな無言で固まっていた。

 先生たちは一様に口をぽかんと開けているし、シャルやルフレ王女は信じられないものでも見たように、目を見開いていた。

 「えっと……何か問題でもありました? あっ、もしかして不合格……とか?」

 声をかけると学園長先生が一番に正気に戻ったのか、

 「お~いユウトちゃん。あんたそれをどこで覚えたんだ~い?」

 「え? ハザック先生たちに許可をもらっていたので、教員用特別魔法訓練室でですが」

 「いやいや場所がど~のでなく~。いったい誰から教わったのかってぇ~事さ」

 「入学初めはハザック先生たちに指導してもらってて、心製魔法のコツって言うか、どういった物かを教えてもらってからは独学で。でもこの【身体強化α(仮)】は1時間しか続けられないので、もっと修行が必要ですけど、短期決戦なら役に立てると思います!」

 学園長先生はキッとハザック先生たちの方を見ると、さっと目を反らす先生たち。

 「まぁシュエちゃんの件が終わってから二人とはじぃぃ~くり話をするとして、無詠唱で魔法を発動するなんてね~…………」

 「そ、それは……。実は俺、詠唱が出来ないんです」

 「詠唱ができないって~と?」

 「詠唱を始めると、唱えることに意識がいって、魔法を具体的にイメージ出来ないんです。だから詠唱はスパッと諦めて、魔法自体をイメージして、技名の発声をトリガーに発動させる様にしたら、出来る様になりました!」

 「はぁ~。まったくあきれた子だねぇ~。まぁいいさ。それで他には何が出来るんだい?」

 「ええっと……」

 今回はシュエの捜索と敵対組織の殲滅。その中で俺が出来る事と言えば。

 「俺は捜索に役立ちそうな魔法はもっていません。ですが、敵を無力化するには役立てるはずです! 例えば【フラッシュ】なんてどうでしょう」

 「【フラッシュ】ってぇ~と、光を発する魔法だったはずだが、あれが何の役に立つってぇ~んだいユウトちゃん」

 「ならハザック先生に試してみてもいいですか? ハザック先生にも防げないなら、盗賊にも有効かと」

 「そ~だねぇ~。よし、物は試しだ。ハザック先生。頼めるかい?」

 「ええ。うっしユウト。おめぇの技見せてみな!」

 「はいっ! では、他の方は俺の後ろに回って、目を軽く閉じていて下さい」

 みんなが位置についたのを確認して、俺は足を肩幅に広げて体制を少し低くした。

 「ハザック先生いいですか?」

 「おうよ! 何が来ようと防いでやるぜ!」

 ハザック先生も本気なのか、【豪傑魂】を発動させていた。

 俺の【身体強化α(仮)】とは比べ物にならないほど、無駄もなく強固になっているのが、魔力の流れから感じられる。

 俺は両手を握りしめ、人差し指と中指だけを開き、おでこの両側面もっていく。

 そう。これは『太陽〇』だ。

 キャラによっては手の開き方やポーズが違うものの、俺はクリ〇ンが初めに使った時のポーズが好きで、『太〇拳』と言えばこのポーズしかあり得ない。

 ハザック先生は俺のポーズに警戒はするものの、その動作に惑わされない様に、しっかりとこっちを見ていてくれる。

 いやーそれってかえって危険なんですけどね……。

 とりあえず、俺の力をみんなに知ってもらう為に、ハザック先生には犠牲になってもらおう。

 俺はさっそく集めた魔力が強い光に変わり、前方に投射される事をイメージし、

 【フラァァーーーーーーーッシュ!】

 と掛け声と共に、魔法を発動させた。

 部屋の中が眩しい光に包まれた。目をつぶって俺の後ろにいた他の人からも、「きゃっ」とか「くっ!」とか声が聞こえてきていた。

 そして、それを正面からまともに受けたハザック先生は………………。


 「め、目がぁーー。目がぁぁぁーーーーー」

 

 と叫びながら目を押さえ、床を転げ回っている。

 『強い光を直接見るのは大変危険なので、絶対に真似をしてはいけません』っというナレーションが俺の頭の中では流れていた。

 うん。これ。大変危険。まぁー、分かっていたけどさ。



 ─── 6 ───


 俺は無事にテストに合格でき、ハザック先生たちと共に盗賊団の討伐に向かう事となった。

 シャルはというと、少し悔しそうにしていた。

 「シャル……」

 シャルに申し訳ないと思い、声を掛けようとすると……。

 「何しけた顔してんのよ! ユウトは入学してから、必死に特訓してたじゃない! その実力が認められたって事でしょ。もっと胸を張りなさい!」

 バッと顔を上げたシャルは笑顔で、さらには俺に頑張る様に言ってくれた。 

 「私だってこれで諦めた訳じゃないわ! 次は絶対に私も参戦出来る様に特訓する! だから今回は引いてあげる。その代わり! 必ずシュエを助け出すこと。いいわね!」

 「……分かった。何があってもシュエだけは必ず助けてくるよ」

 「バカ! シュエだけじゃない。あんたも必ず帰って来るのっ! い、い、わ、ねっ!」

 「そうですよユウト様。必ずシュエさんと戻って来て下さい。そしたら四人でお茶会をしましょう」

 「シャル……。それにルフレ王女も……」

 「うふふふ。まだユウト様の『すいーとぽてと』を頂いてませんし、勝手にいなくなられては困ります」

 「あははっ。そーだったね」

 ルフレ王女の一言には笑わされたけど、ルフレ王女なりに俺の緊張を解こうとの優しさだったんだろう。もしくは本当にスイートポ…………考えるのやめておこう。

 「うん。絶対にシュエも、そして俺自身も無事に帰って来るよ。きっとお腹も空くだろうし、温かいご飯よろしく!」

 俺はそう言ってハザック先生たちと共に部屋を後にした。

 絶対にシュエを助け、自分も必ず戻ろうと決意を固めて。



◆ ◆ ◆

 

 「………………次は私だって」

 私はグッと拳を握りしめた。

 ユウトにああは言ったものの、やっぱり悔しかった。

 魔法を覚え始めてまだ全然経っていないユウトが、私よりも強くなっている事に。親友を助けにすら行けない自分に。

 何より……。学園生活が楽しくて、修行をおろそかにしていた自分自身に腹が立った。

 「これからです」

 不意にルフレの方から声が聞こえた。

 「これからなんです! 守ってもらうのはここまで。もっともっと頑張って、守れる者にならなくては」

 そこに佇むルフレは、ユウトが出ていった扉に視線を向けたまま、自分自身に言い聞かせていた。

 「私も絶対に諦めない!」

 そんな彼女を見ていたら、悔しがってばかりじゃ、落ち込んでるだけじゃダメだと思った。

 ここからだ。ここから頑張ればいい。悔しい思いも、辛い感じも全てを糧にして、私は強くなってみせる!

 「あんたら~、いい目をする様になったじゃないか~」

 声のする方に目を向けると、そこには学園長先生がニヤニヤ笑いながらこちらを見ていた。

 「あんたらにやる気があるんなら~。見てやろうかい? この件が終わってからの修行を」

 私とルフレはビックリして目を合わせたが、お互いにニヤリと笑ってうなずき合う。


 「「はい。お願いします!」」


 今はまだ全然だけど、頑張って頑張って、いっぱい努力して。そしていつか…………。

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