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 第七章 俺が絶対助け出すっ!

 第七章 俺が絶対助け出すっ!


 ─── 1 ───


 俺はハザック先生とゼークル先生と共に、夕日に染まる町を疾走した。

 シュエが誘拐されてから、既に3時間は経っている。

 一刻も早く向かう為、身体強化の魔法を使っての全力疾走。普通ではありえないスピードで街を走破していく。

 「驚いたな。まさかオレたちのスピードに着いて来られるたぁー思ってなかったぜ」

 「本当ですよ。ここまでの速度を出せる者は、中々いませんからね」

 「そーなんですか? それよりゼークル先生こそ、無属性は使えないんじゃ?」

 「別に使えないことはありませんよ。適性がないだけです。それにわたしのは身体強化ではなく、風魔法を体の前方に展開させ、水魔法で足の摩擦を減らし、火魔法の熱エネルギーによる推進力を使った複合魔法。【ウインドジェット】を使っているんです」

 「へ~。魔法には合わせ技もあるんですね」

 「この魔法は操作が難しいのと、体の前方、足、背中と、部位に合わせた魔法を使い分ける技術力が必要となりますので、使える者は限られていますけどね。あなたの方こそ、どうやってスピードを上げているのですか?」

 「俺のは簡単ですよ。身体強化で体全体を覆う魔力を、足の方に多めに集中させ、脚力を上げているだけです。その分、体の防御力は下がるんですけどね」

 「なるほど。魔力の配分によって任意の部位を強化するという事ですね。これは凄い発見かも知れませんね」

 「おう。全体を強化するオレの【豪傑魂】や、一点集中の【諸刃の剣】とは違ったやり方っつーか、どっちもの良いとこ取りみてぇーなやり方だな。スゲー思いつきだぜユウト」

 「いや~。あっはははははは……」

 言えない。ハ〇ター×ハン〇ーの念能〇で使われてたのをただ真似しただけなんて。

 まぁ言ったところで理解はされないのだけど。この世界マンガはもちろん、小説すら無さそうだもんなー。


 などと話している内に、街の南門を出てしばらく行った先にある森へと差し掛かった。

 「探索班の報告じゃあ、この森に入った辺りで消息が途絶えたらしい」

 「なら、森の中をしらみつぶしに探すしかないんですか?」

 眼前に広がる森は、『探求の森』と呼ばれ、俺の通うスプランドゥール魔法学園で課題や試練などによく使われている場所だ。

 『探求』の言葉通り、自分自身の力や製薬学などのポーション、魔道具作りなど、新たな力や実力、技術を探求するのに丁度良い森という事でこの名前が付いている。

 奥に進むほど、モンスターは強くなり、その分収穫できる薬草などのレア度も上がってくる。中には湖や洞窟などのダンジョンもあり、結構な広さがある。

 「ユウト。さすがにこの森をしらみつぶしで探すのは不可能だ」

 「だったらどうすれば……」

 俺の知っているヲタ知識の中には、探索系の魔法を使えるアニメは多くあったが、自分では使えなかった。

 魔法自体は発動したのだが、頭の中に流れてくる情報量が多すぎて、一部屋だけでも処理しきれなかった。今後はその情報を識別でき、実際に使える様にするのが課題だ。

 「まぁ黙って見てな。ゼクの野郎がだてに『智略の巨匠』なんて呼ばれてねぇーからよ」

 俺はハザック先生の言葉を信じ、黙ってゼークル先生を見つめた。

 ゼークル先生は一枚のハンカチを取り出した。

 「これはシュエ嬢の持ち物です。これを使って探索を始めましょう。これにはシュエ嬢の匂い、そして魔力が多少なり付いています。ですので、その匂いと魔力がこの辺一帯にないか、調べてみます」

 ゼークル先生はハンカチを持った右手を前に出し、呪文の詠唱を始めた。

 「【空に舞いし風の精霊よ。我が魔力を糧に実態を示せ。形はオオカミ。数は10】」

 詠唱が終わると同時に、ゼークル先生の右手からあふれ出た魔力がハンカチに集まり、それが10に分かれたかと思うと徐々に形作られ、あっと言う間に俺たちの前には十匹の緑色をしたオオカミがおすわりをしていた。

 「今回は匂いも捜索の対象にしましたので、風属性の精霊召喚魔法を使いました。さぁオオカミたち。対象の匂いと魔力を探してくるのです!」

 形はオオカミだったが、走ったりはせず、一斉に扇状に飛び去って行った。

 そして待つこと30秒。斜め前方に飛び去っていた一匹が返ってくる。

 ゼークル先生がそのオオカミに触れると、

 「ふむ。どうやらシュエ嬢は、西の洞窟付近で捕まっているみたいですね。ここからですと、我々のスピードなら約5分で着きます。ですが、直前で止まります。様子を伺いつつ敵の戦力や状況を把握する為です。いいですか?」

 俺とハザック先生は無言でうなずき、それを合図にゼークル先生を先頭に走り出した。

 シュエ。待っててくれ。すぐに助け出すからな!

 

 

 ─── 2 ───


 ゼークル先生の言う通り、5分ほど走った所に開けた場所と洞窟があった。

 その前には黒いフード付きマントを着た、いかにも魔法使いの格好をした二人と、斧を持った男三人が見張りをしていた。

 共通する点は、不気味に笑う鎌を持ったピエロのエンブレム付きの手袋をはめていた事ぐらいだ。

 「どうやらここで間違い無いようですね」

 「おうよ。きっと嬢ちゃんはあの洞窟の中に捕らわれてるんだろう。どうするよ? バッとあの見張りを倒して中に攻め込むか?」

 「ん~。それは得策ではありませんね。見張りに五人も配置するって事は、それだけ中を守りたいって事です。きっと中にも多くの敵がいるのではないでしょうか」

 「なるほどな。中はどれだけの人数がいるか分りゃしねー。デカい魔法も魔力感知されりゃあバレちまう。こりゃーうかつに攻め込めねぇーな……」

 ゼークル先生とハザック先生は、小声で作戦会議を初めていた。

 俺は二人の会話を聞きつつ、気が気で無かった。

 こうしている間にもシュエの身に危険が迫ってるかも知れないと思うと、どうしても焦ってしまう。

 (クソッ。何か無いか。あいつらに気づかれずに倒す方法は!)

 俺は頭をフル回転させ、今まで見てきたアニメやラノベの知識を呼び覚ましていく。

 いくつか思い付きはしたが……。


 ①『強い気を相手にぶつけ気絶させる事』

 ダメだ。魔力感知で洞窟の中の奴にバレてしまう。

 ②『電撃系の魔法で麻痺させる』

 使用魔力は低いから探知され難いが、一撃で全員は無理だ。威力が弱い。

 ③『魔物をトレイン(故意に集め)させて、敵にぶつける』

 これだと他の奴らまで出てきてしまう。

 ④『実力行使』

 これが一番まともそうだがダメだろう。いくらハザック先生たちが強いからって、一瞬で五人を無力化は不可能だと思う。

 (いったいどうすればいいんだ……)

 

 「黙ってても始まらねぇ。ここは強行突破しかねーだろ。二人までなら瞬殺できるぞ」

 「魔法感知以下の魔法ですと、一瞬だと一人ぐらいしか倒せませんね。ユウトさんの無詠唱は発動は早いですが、その分魔力が大きくなるので、こちらも一人が限界。どうしても敵が一人余ってしまいます」

 「そこは気合でどうにかするしかねーだろ!」

 「そんな行き当たりばったりでは、シュエさんを危険にさらしてしまいます。教師としてそれは絶対に出来ません!」

 「た、確かにそうだな……。だがこのまま手をこまねいてるだけじゃ……」

 先生たちも必死で考えているんだ。俺も何か出来る事は…………。

 俺は何か無いのかと辺りを見渡していると、そこには見覚えのある草が生えていた。

 「ゼークル先生、これってミンミン草じゃ無いですか?」

 「? あーそうですね。この前の授業でやった眠り薬を作るのに使われる薬草です。ですが、それがいったい?」

 「お! ならそれで奴らを眠らせりゃあいいじゃねーか! でかしたユウト!」

 パッと顔を輝かせるハザック先生。しかしすぐにゼークル先生に訂正された。

 「ダメですね。ミンミン草は確かに眠り薬の材料ですが、このままでは使えません。煎じて、中にある成分を抽出したのち、しばらく熟成させなければ使い物にはなりません。今ここでは何の役にも立たないのです」

 悔しそうにするハザック先生。しかし俺はの薬草で眠り薬を作ろうとは思っていない。もしかしたらアレが使えるかも……。

 「先生! 俺にいい考えがあります。試してもいいですか?」

 「んー。確かにこのままでは進展はしませんね……。いいでしょう、やってみて下さい。ハザックはいつでも出られる様にしていて下さい。もしもの時の為に……」

 

 俺の指示で風上に移動し、先生たちはいつでも行ける準備を始めていた。

 俺は手にミンミン草を一束持ち、集中し始めた。

 イメージするのは、眠りの風。アニメではよくある眠らせる魔法だ。

 普通にやったのでは、魔力が眠り成分に変わるイメージが出来ない。だけどミンミン草があるなら別だ。

 手に持ったミンミン草に魔力を通して活性化させ、成分を濃厚にしたのちに風で送り出すイメージ。

 森を探索するのに、ゼークル先生がやった精霊召喚魔法の応用だ。

 媒体を使う事で、より繊細なイメージを固め、魔法へと変化させる。

 眠りの風は見張りの周りに眠り成分を散布し、初めは斧使いを、その少しあとに魔法使いたちを眠らせた。


 「お~スゲーな。よくやっだぜユウト!」

 「これは驚きましたね。まさかミンミン草にこの様な使い方があったとは」

 「これはさっきゼークル先生が精霊召喚をした時の応用ですよ。それより早くシュエを助けに行きましょう!」

 「おう、そうだな。さっさと行って助け出してやろうぜ!」

 俺たちはうなずき合って、洞窟の前へと向かった。

 


 ─── 3 ───


 「なぁユウトよ。さっきの魔法で、中の奴らを全員眠らせたら解決するんじゃねーか?」

 ハザック先生が見張り達を縛りながら聞いてきた。

 見張りを縛るのは、逃がさない事と、起きてから中に来られたら挟み撃ちになってしまうから、その対策だ。

 「それは無理ですね。この洞窟は中から外へ向けて風が流れています。強風で吹き込むならまだしも、先ほどの風力では押し戻されてしまいます。そして強風で吹き込んだ場合、眠り成分は薄れ、効果を発揮しないでしょう」

 「なんだよクソッ」

 さすがはゼークル先生だ。一度見ただけで、さっきの魔法の特性をすでに見破っている。

 俺はそこまで気付いては無かったけど……。

 「なら進むしかねーってことだな」

 「そうですね。ここからはより慎重に進んで行きましょう」

 

 ハザック先生を先頭に、俺、ゼークル先生の順で中を進んでいく。

 洞窟の中は真っ暗かと思いきや、結構明るかった。外と比べればやはり暗さはあるが、それでもだいぶ軽減され、戦闘をするにも不便にはならないはずだ。

 ゼークル先生曰く、この洞窟は学園の生徒の訓練用に作られた洞窟で、広さも無く、トラップも設置されていないらしい。

 訓練を始める前に、それぞれの実力に合ったものに変えているので、普段はただの洞穴と同じらしい。

 だが、敵が中をどう改造しているかも知れないので、用心するに越したことは無い。

 ゼークル先生が教えてくれた洞窟内のマップは、入ってしばらくは一本道で、途中に教室ほどの広さの空間があり、そこから二つの通路を経て大広間となっている。

 なぜ二つの通路とも大広間に繋がっているのかというと、どちらからでも攻められる様に、どちらから来ても守れる様にする訓練用だかららしい。

 どちらにしても行き止まりにならないのは好都合だ。

 しばらく進むと、最初の広場が見えてきた。

 岩陰から中を覗くと、武装した男が六人。魔法使いが四人いた。

 「これはさすがに不意打ちで気絶や眠らせるのは無理だな」

 「ええ。戦闘を覚悟しなければなりません。きっと音で大広間の奴らには気付かれてしまいますが、仕方がないでしょう」

 ハザック先生もゼークル先生も今にも飛び出しそうだ。

 なんとか気付かれずに殲滅する方法は無いか……。

 ふっと、頭をある魔法がよぎった。

 「先生。透明化の魔法なんてどうですか?」

 透明。それはいろいろなアニメやラノベで使われてきたもの。

 ハリー〇ッターでは透明マント。ドラ〇もんなら石こ〇帽子。SAОならハイドスキル。

 相手の認識を阻害する系で言えばまだまだある。それを魔法でやればいい。

 「体をガラスの様に透き通らせれば、あいつらだって気付かないはず」

 「体の透明化ですか……。確かにそれが出来ればいいのですが、いくら透明とはいえ物体があるのは明白でしょうから、きっと気付かれてしまいます。仮に本当の透明化が出来るのだとしても、私はその魔法の詠唱も知らなければ、習得する時間などありません」

 だけど俺は出来ると確信していた。体を透明にする。言葉にすると難しそうだが、この世界には光魔法がある。光の屈折を利用して透明に見せると言うのは理科の実験でもやっていたのでだいたいは分かる。光の通過する速度や物質の境界に対しての屈折率がどーのと学校の授業では言っていたが、ここはファンタジーな世界。多少の無理は世界の調整とやらに丸投げでどーにかなるはず。

 論より証拠。俺はすぐにイメージを始めた。体を薄い魔力で覆い、自分を可視化する光が当たると屈折して、結果的に自分が透明になる姿を。

 「ま、マジかよ。ユウトの体がどんどん消えていきやがる」

 「あ、あり得ません。そんな、思いついただけで、そく実行など、出来るわけが……」

 「なんで出来るのかは置いといて、確かにスゲー魔法だ…………。でもダメだな。消えてはいるが、違和感を感じる。ユウト、少し動いてみろ」

 俺はハザック先生に言われるがまま動いてみると、

 「やっぱりだ。そりゃー魔力が体をまとってるんだろ? おめぇが動くと魔力との境界線が若干ズレて見えちまってる」

 「くっ。でもこれ以上魔力を上げると敵に見つかってしまいますし、ゆっくり動けば大丈夫なんじゃ……」

 「いやダメだ。途中で気付かれでもしてみろ、おめぇは袋叩きに合うぜ」

 「じゃあどうすればいいんですか! 早くしないとシュエが……」

 「別に今はおめぇ一人で戦ってる訳じゃねーだろ。俺たち教師を信じろってぇーの」

 「そうですね。ユウトさん、確認なのですがその魔法は魔力を高めればさらに見えにくくなるのですか?」

 「えっと、今は薄皮ギリギリで覆っているだけだから、ちゃんと体を包みさえ出来ればもっと見えなくすることは出来ると思います。でもそれだと魔力を感知されて…」

 「それで十分です」

 「え? 何ででですか?」

 俺が心底分からないって顔をしていると、ガシガシッとハザック先生に頭を撫でられた。

 「バカ野郎。何の為のチームだよ。いいか、ここからは二手に分かれる。俺たちが前に出て戦うから、おめぇーはその後で透明になって奴らをすり抜けて、シュエの嬢ちゃんを助け出して来い」

 「ここでわたし達が暴れれば、大広間にいる他の奴も出て来るでしょう。そうすればシュエさんの救出も容易。もし見張りが残っていたとしても、あなたならなんとか出来るはずです」

 「その通りだ! ユウト信じてるぜ。シュエの嬢ちゃんを救って来いや。まぁこっちも魔力を惜しみなく使えるしよ、早くしねーと俺たちが追いついちまうぜ」

 ニヤっと笑うハザック先生と、優しく微笑んでくれたゼークル先生の表情に、涙が溢れそうになった。

 人から信頼してもらえるのって、こんなに嬉しい事だったんだ…………。

 俺はぐしっと目元を拭って、

 「先生。俺絶対にシュエを救い出してみせるから!」

 「おうよ。そんじゃあちょっくら暴れるとするかな」

 「ほどぼとにして下さいよ。あなたが本気で暴れては洞窟が壊れてしまいますからね」

 「んだよ。細けぇこと気にすんなって」

 先生たちは言い合いながら、広間に足を踏み入れて行った。

 中にいた奴らが一斉に武器を構え、警戒態勢に入る。

 俺はその様子を見ながら、魔力を高め、体を覆っていく。

 先生たちの期待に応える! シュエを無事に助け出す! 待っててシャル。すぐに帰るから!

 俺は自身に活を入れ、戦いが始まった広間へと進んで行く。

 横を通り過ぎる俺の存在に気づく者はいなかった。



 ─── 4 ───

 

 広間を抜けた先。通路を進んで行くと、明かりが見え始めた。

 俺は透明化の魔法を解除して息を潜めて進んで、大広間の手前で止まって、中の様子を伺うと、人の話し声が聞こえてきた。

 中を覗いてみると、そこにはアニメに出てくる様な山賊衣装に大きな戦斧を持った男が椅子に座っている。

 その横にはその部下らしく、似たような衣服にカットラスを持った男と、全身黒ずくめでフードを被った明らかに魔法使いと思われる者がいた。

 そして、椅子に座ったリーダーらしき男の足元には、縄で縛られ、口を布でふさがれたシュエの姿が。

 「──っ!」

 一瞬、飛び出しそうになったがグッと堪えた。

 ここで無闇に飛び出したら、シュエを危険にさらしてしまい兼ねない。

 盗賊たちはまだシュエに手出しはしていない様で、怪我などをしている様子は無い。

 だったら少しでも優位に立てる様に、飛び出すにしても、奴らの気がそれた時かシュエの近くから離れた時が良いだろう。

 (ごめんシュエ。もう少しだけ待ってくれ!)


 「ん? 向こうの部屋が騒がしくなったな」

 「きっと何者かが、この娘を助けに来たのでしょう」

 「何っ! おい大丈夫なのか?」

 「お頭! あっしが見てきやしょーか?」

 「いえ大丈夫でしょう。私の配下を配置しています。そこら辺の兵士や魔法使い程度なら、簡単に一掃出来ますので」

 「本当だろうな。まぁいい、今はこの娘から力を得るのが先決だ。まさか坊の依頼でさらった娘が、魔力を増幅さらる能力を持っていたなんてな。これはラッキーだったぜ。お前もよくその事を知っていたな」

 「いえ、それはたまたまですよ。私がここに来たのは別の用事でしたし、私としても僥倖ぎょうこうでした」

 「まぁこれで晴れて俺様も魔法使いって訳か。盗賊稼業もやりやすくなるってもんよ。ホントに坊さまさまだぜ。がっはっはー」

 どうやら《坊》と言うのが、シュエを連れ去る様に仕向けた奴なんだろう。

 声を聞くかぎりでは、フードの魔法使いが男か女かは判断出来なかった。阻害系の魔法を使っているのかも知れない。

 魔法使いに男女の違いでの優劣は付かないが、男の方が威力が強く、女の方が多彩な魔法を使える傾向にある。

 だがこんな狭い洞窟じゃあ、強大な威力の魔法は制限される。だったら今の内にここで相手をした方がいいんじゃないか? だけど相手は三人。迂闊に動いたら逃げられたり、シュエを人質に取られてしまう…………。

 ここはもう少し様子を見てからにしよう。


 「ところでよ、どうすればこの娘の能力が発動するんだぁ?」

 「いえ、そこまでは存じておりません。伝聞には、認められた者に与えられるとか、特別な儀式が必要だとか、生き血を啜る。接吻をする。など様々なものがありますが、どれも確証に至ってはおりませんので」

 「んだよ使えねーな。まぁとりあえず色々試してみるか」

 「そうですね」

 バシャっ。

 「っっ!!」

 魔法使いがシュエの顔に水をかけると、シュエが意識を取り戻したのか、薄っすらと目を開けた。

 「お目覚めですか、お嬢さん?」

 「…………ここは……いったい」

 目を覚ましたシュエは辺りを見渡し、徐々に思い出してきたのか、顔が青ざめ始めた。

 「おやおや。やっと現状に気づかれたみたいで」

 フードの下から覗く口が、いやらし気に歪んだ。盗賊の頭と部下も下卑た表情でシュエを見下ろしている。

 「今からあなたには【魔道覚醒】を使って頂き、この者の魔力を引き出してもらいます。ちなみにこれはお願いではありませんよ。命令です」

 「そんな事……出来ませんっ!」

 「あぁ~? 言う事が聞けねぇーってかぁ? なんだぁ? 死ぬかぁ?」

 部下の男がシュエに手を近づけ、掴もうとした。

 「まぁー待て。そいつにはまだ死なれちゃ困る。お前は少し大人しくしてな」

 お頭が部下を制止させる。

 お頭の言葉がほんの少しでも遅ければ、俺は飛び出していただろう。

 きっと奴らもシュエにあの魔法を使わせる為に、ひどい事はしないだろう。

 「ではお嬢さん。質問なのですが、さきほどの『出来ない』と言うのは、使いたくないのか、使えないのか、どちらなんですか?」

 魔法使いが言葉を発している時、なんとも言えない圧を感じた。

 それと同時に黒い靄がシュエを包み込む。

 靄に包まれたシュエの瞳から光が薄れ「はい。使えないのです」と答えた。

 「では使用方法やそれに準ずることは知っていますか?」

 「いいえ。私は知っていません。力があることは教えられていましたが、発動方法などは、時期がくれば自然と分かる、とだけ知らされてきました」

 シュエは魔法使いの質問にすらすらと答えていく。

 「さすがシャドーミスト。尋問に掛けちゃあんたに並ぶ者なんていねぇーな」

 「いえいえ。この程度のことなら誰にでも出来ますよ」

 どうやら、何らかの魔法をシュエに使ったようだ。

 多分だが、自白効果や催眠効果のある魔法だろう。さっき感じた圧も、発動するのに高めた魔力だったに違いない。

 そしてあの靄。きっとあれを浴びる事で、効果が発揮されたんだろう。もし対峙するなら、あの靄を受けてはダメだ。

 「どうやらこのお嬢さんは、本当に魔法の発動の仕方がわからない様ですね」

 「なんだ。それじゃあこいつを生かす意味がねーな」

 なんだと! さっきまでは死なれちゃ困るとか言っていたのに、魔法が使えないと知るや、殺そうってのかっ!

 「いえいえ。まだ手はありますよ。とりあえず痛めつけましょう。何が発動のきっかけになるか分かりませんからね」

 っ! 何を言ってるんだ? 痛めつける? 魔法が発動するかも知れないっていう理由だけで、10歳に満たない女の子を傷つけるって言うのか?

 「おぉーそりゃいいな。よし。まずは手始めに殴って、次に骨を二・三本折って、それでもダメなら指先から切っていくか。がはははははっ」

 なんなんだこいつら……。言っている事が分からない。いや、理解したくない。

 何で人を痛めつけるのに躊躇しないんだ? 怪我をさせるのに忌避感はないのか?

 体だけじゃなく、心まで傷つける事になって、それがどれだけ辛い事かって知らないのか?


 分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない…………分かりたくない。


 「お頭。俺もぉーやっちまっていいですか?」

 「おー。さっきは止めて悪かったなぁ。まぁ死なねぇー程度には加減しろよ?」

 「それじゃあまずは、さきほどシャドーさんが言っていた、接吻と生き血を啜るってのを試してみましょうか。へぇっへっへっ」

 「おぉー。そんなんもあったな。よーしやってみろ。がぁーっはっは」

 「い、嫌っ。や…やめて……下さい……」

 下卑た笑いをしながら近づく部下。意識を取り戻したのか、恐怖と嫌悪感から涙を流すシュエ。それをニヤニヤと笑いながら見ているお頭。

 

 ブチッ!!


 俺の中で何かが切れる音がして、意識が深い闇へと沈んでいった。

 意識が途切れる間際に、闇の底からの不気味な怨嗟の声が聞こえた。


 『……サァ…ミナ殺シダ……』 


 ─── 5 ───


◆ ◆ ◆


 がっはっは。いい拾い物をしたぜ。

 坊の指示で娘をさらってきたら、あの伝説の力を持っていたとはな。

 たまたま本部から来てたシャドーがいなけりゃ、坊の指示通り学校のガキを追い出すだけで返していたが、俺様にもやっと運が向いてきたぜ。

 魔法の使い方を知らねぇーってのは誤算だったが、まぁいい。痛めつけりゃあ、なんとかなるだろう。今までもそうしてきたしよ。

 俺様が良ければ、あとはどうなろうが知ったこっちゃねぇー。

 そこらにいるバカ共は俺様を苛立たせない様にしてればいいんだ。

 気が向いたらおもちゃとして使ってやる。いい暇つぶしの道具になれる事を感謝するんだな。

 俺様の部下が娘を痛めつけようと近づいて行く。娘は恐怖から顔を引きつらせ、涙をながしてやがる。ホントにあいつは面白い奴だ。

 何をすれば相手が悲しむか、どう痛めつければ相手はより苦しむかを知ってやがる。

 あ~おもしれぇ。さぁー俺様をもっと楽しませろ。がぁっはっはー。


 「おイ」


 「っ!!」

 部下が手を伸ばしたその時、入口の方から声がかかった。

 洞窟の始めの部屋には、俺の部下とシャドーの配下が守ってたはず。誰が来やがった!

 俺様が入口に目を向けると、そこにはガキが一匹いた。

 黒髪黒目の貧弱な体のガキだ。服から察するに、娘と同じ学校の生徒だろう。

 どうやってここまで来たかは分からんが、驚いて損したぜ。

 「なんだてめぇー。いったいどこから入って来たんだぁぁー?」

 さっそく部下が絡み始めた。

 そうだ。こうゆうのは初めが肝心だ。下手に出て相手を調子に乗らせちゃなんねー。

 たかがガキになめられたとあっちゃあ、盗賊団の名が廃るってもんよ。

 

 ガキは無言のまま全く動かない。

 どうやらこっちにビビって降参しに来た様だ。まぁそんなんで許すわきゃねーけどな。

 「なんだ? 降参すんのかぁ? なら許してやるからこっち来なぁー」

 部下も同じ考えみたいだ。近づいて来たら、後ろ手にしたナイフでブスリとやるだろう。

 俺様はその様子を思い、笑いが込み上げてきた。

 さぁー血しぶきを上げて、盛大に苦しむ姿を俺様に見せてくれ!


 「だっ、ダメ! ユウトさん! これ以上来たらっ。私はいいから逃げてっ!」

 「おぉーおぉー。泣かせてくれるねぇー。自分を犠牲にお友達を守ろうとする態度。気に入っちゃったょー」

 部下は何かを思いついたのか、嗜虐的な笑みを深めた。

 「ならその大~切なお友達が苦しむ様子を見れば、魔法が使える様になったりするのかなぁ~?」

 こいつはいい。苦しむガキを見られ、さらには魔法まで発動させてくれやがる。一石二鳥じゃねぇーか。

 「よし。やっちまえ」

 「へい。お頭。任せて下さい。おいそこのガキ。そこから一歩も動くなよ。じゃないとお前の可愛いお友達の顔が、ズタズタに切り裂かれちまうぜぇ? へっへっへっ」

 部下が娘の近くにより、ナイフを顔に近づけた。ガキは一瞬動こうとしたが、そこで動きを止めた。

 ほぉ。やるじゃねーか。衝動で動かねーのはいいことだ。いや。ビビって動けなかっただけか? まぁどっちでもいい事だがよ。二人とも痛めつけんのに変わりゃしねぇーんだから。

 「シュエ……。目…閉ジろ……。下、向イてろ」

 ガキの方が何かを言い出した。だがなんだ? 何がしたいんだ?

 「あぁ~? 何言ってんだてめぇー。自分の立場を分かってんのか? 今すぐこっちのカギを切り刻んでもいいんだぞ?」

 部下は、自分が相手にされてない。バカにされた。と思って逆上し始めた。

 娘はガキの言われた通り、スッと目を閉じ、頭を下げる。

 いったいこいつらは何がしたいんだ?

 「おめぇー何勝手に動いてんだ? ぶっ殺すぞ! いいか、てめぇーは今からあのガキが苦しめられる様をよーっく見て、泣き叫ぶってゆう、大事な仕事があるんだよ。おめぇーが魔法を使えようがどうしようかなんて関係ねぇー。俺はてめぇーが泣き叫ぶ姿が見てぇーだけなんだからよぉー」

 ダメだ。こいつは残虐性に関しては面白い奴なんだが、キレると目的を忘れるのがよくねー。また今度言い聞かせなきゃならんな。

 「オい。カス共。オ前らの相手ハ俺だ。こっチを見ろ」

 入口のガキがそんな事を言いやがった。

 「おめぇーこそ調子にのってんじゃねぇーぞ。殺すぞ!」

 流石の俺様も、ガキのふざけた物言いだけは勘弁ならねぇー。

 部下も同じだったのか、俺たちは武器を手に立ち上がり、ガキに一歩近づいた。

 するとガキは手を変な形に変え、顔の両サイドへと移動させた。

 いったい何がしいんだ?

 俺様たちが怪訝そうに見ていると、

 「…………【フラッシュ】」

 ガキの呟く様な声と共に、広間が光に包まれた。

 「ぬっあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっ!!」

 とてつもない光に目を焼かれ、俺様はその場でうずくまる。

 なんだあの光は! 目が見えねぇーってもんじゃねぇー。眼球に直接ぶっとい針を刺されたみたいな痛みが続きやがる。

 「目がぁー。目がぁー」

 部下が俺様の横で同じ様に苦しみ悶えている。

 そうかあのガキ。娘に目を閉じろって言ったのはこの為か! クソったれ!

 俺様はとにかく武器を手に取り、立ち上がってガキを仕留めようとした、その瞬間。強い衝撃を後から受けた。

 いったい何がどうなってんだっ…………………………。



◆ ◆ ◆


 これは驚きました。私の部下をどうやってやり過ごしたかも気になりますが、魔力を一瞬で額に集め、魔法名だけでの【フラッシュ】発動。しかもかなりの光量でした。直接見ていたらきっと目の痛みと盲目効果で、しばらくは行動不能となっていたでしょう。

 お嬢さんへ被害が出ない様に、目を瞑らせたのは正しい判断でしたが、そのおかげで私も助かりました。もしあの言葉がなければ、私も行動が多少制限されていたでしょう。

 ここにいるクズ共はまともに受けたので、しばらくは復活しないでしょう。

 

 「っ!!」


 一瞬少年から目を離しクズ共を見ていた隙に、少年から強大な魔力を感じた。

 あれは『無敵の剛腕』の心製魔法【豪傑魂】。何故あの様なお子様が使えるのですか!

 少年は一瞬でクズ共の後ろに回り込み、強化した拳で後頭部を一撃。あれでは確実に意識を飛ばされたでしょう。きっと二時間は使い物にはなりませんね。

 まぁそれでも、流石と言っておきましょう。クズのわりには頑張っていますからね。

 「クッソが! 危うくぶっ倒れるとこだったぜ!」

 少年からの攻撃を受ける瞬間、体を上げて後頭部への攻撃を背中へと反らした。

 腐っていても盗賊の頭と言ったところでしょう。

 少年は即座に頭と距離を取り、同時にお嬢さんの前に立つ。

 攻防一体のいい動きです。


 「よくも俺様をぶん殴ってくれたな。それに部下もやりやがって、もぉー許さねっ。ぶっ殺してやる!」

 お頭さんの恫喝にも、物ともせずに少年はお嬢ちゃんへと手を向けた。

 だが、視線は常にこちらを向き警戒を怠らない。よく訓練されていますね。

 しかし、いったい何をするつもりなのでしょう?


 「【エアークッション!】……コの中………いろ。すぐ……終わ…ル」

 少年の手から風の魔法が放出され、お嬢さんを包み込んだ。

 あれは風魔法による障壁でしょう。しかしまた無詠唱ですか……。それにあの魔力密度。相当なイメージ力と魔力が込められていますね。あれでは並大抵の攻撃は全て弾き返されてしまうでしょう。

 もしや少年はすでにお嬢さんから【魔道覚醒】の秘儀を受けているのでは?

 私どもが知らないだけで、他にも発動方法があったのかも知れませんね…………。


◆ ◆ ◆


 クソッ! あのガキ殺してやる! まさか魔法使いだったとわな。

 坊が言っていた、いけ好かねぇーガキってのはこいつに違いねぇー。だったらここで殺せば問題は無いだろう。

 なぁーに、学園から追い出すのが、この世から追い出すに変わっただけだ。

 はっ! 見ていやがれ! 俺様を怒らせた事を後悔させてやる! 


 「さぁー今度は小細工はできねぇーぞ! はっ! 部下をやったのは褒めてやるが、俺様を倒せなかった時点で、おめぇーの死は決定だ! 存分に後悔しやがれぇぇぇーー」

 俺様はガキに向かって、戦斧を振り切った。

 俺様の戦斧の一撃は、あのジャイアント・ベアラーさえも一撃で倒しちまうほどの攻撃力を持っている。こんなガキ一匹なんざ、なんの抵抗もなく分断しちまうだろうよ。

 ガッ!!!!

 「んなっ! ……バカな。」

 ガキに向かって振り抜いたはずの俺様の戦斧を、ガキが素手で受け止めてやがる。

 なんでそんな事ができるんだ? いったいどうなってやがんだ!!!


◆ ◆ ◆


 どうやらこの勝負は結果が見えてしまっていますね。

 お頭さんはお気付きでは無いようですが、少年は【豪傑魂】により全身を強化しています。名高い剣士や名のある名刀ならいざ知らず、お頭さんの実力にあの武器では、きっと手で止める必要もなく、少年に当たった瞬間に砕けていたでしょう。

 お頭さんは戦斧を奪い返そうと、必死で引っ張っていますが、微動だにしません。

 少年が戦斧を握ると。ガキッという音を立てて握った個所が砕けてしまいました。

 お頭さんは驚愕の表情。あれでは戦意も一緒に砕かれ事でしょう。

 さて、私は高みの見物とさせて頂きましょうか。

 元より、この盗賊団は役に立たないので、主人の名により潰しに来たのですが、まさかオプティマール王家の生き残りを見つけられるとは。それにあの少年のことも気になります。是非ともここは彼の力を見させて頂くことにいたしましょう。


 「いったい何なんだよてめぇーは! 魔法学園の生徒は全員こんなバケモンなのか……。 そうだっ! おいシャドー、てめぇーも加勢しやがれ!」

 「いえいえ、私はここで見学させて頂きます。元より今回の依頼は坊ちゃんが勝手にしたことです。私は主人様の命令のもとやって来ていますので、そちらを優先させて頂きます」

 「なんだその命令ってのは! 俺様は聞いてねぇーぞ!」

 「はい。言っていませんので。しかし、このままでは一方的になってしまいますので、少しだけお力添えをいたしましょう。炎よ。彼の者に、燃え盛る力を。みなぎる活力を。全心炎状。【バーンナップ!】」

 お頭さんの体から炎が上がり全身を包む。

 これは闇の炎による強化魔法。色々と問題はありますが、今はいいでしょう。

 「うぉぉぉぉぉーーー。力がみなぎってきやがるぜ! これならあのガキなんかに遅れはとらねぇー。魔法さえありゃ俺様は最強になれるだ! よーし、決めた。てめぇーをいたぶって半殺しにした後、てめぇーの見ている前でそこの娘を犯しまくってやるよ。どうだ? 楽しみで仕方ないだろ? がぁーっはっはっはっ!」

 お頭さんが下品なことを言い、汚い笑い声を出していると、少年からとてつもない魔力の流れを感じました。

 さすがのお頭さんも異変に気付き、笑いを止めた瞬間。

 少年は忽然と姿を消した。

 いや、消したのではない! 一瞬でお頭さんの後ろに回り込んでいたのです!

 「楽に死ネると思うナよ?」

 少年の口からどす黒い言葉が聞こえると共に、左の手から土の槍が生まれ、お頭さんの左太ももを貫いていた。

 「────っ!」

 お頭さんが声を出す前に、少年は土槍を握り、お頭さんの背中を蹴り、無理矢理土槍を引き抜いた。

 蹴とばされた親方さんは、5メートルも吹き飛ばされ、声を上げる前に今度は無事な方の右足を一瞬で凍らされていた。

 「───なっ、なんなんだよてめぇーは………」

 お頭さんは痛みなど忘れ、ただただ言葉をこぼしていた。

 質問がしたい訳でも、答えが知りたい訳でもない。あれは現実逃避だ。少年の圧倒的な力と、残虐性に恐怖し、現状を直視できないでいるだけだ。

 かく言う私も戦慄していた。10歳そこそこの子どもが、この様な魔法を使うのかと。

 

 「な、なぁー坊主。俺様の仲間にならねぇーか? そぉーしたら娘も無事に帰してやる。それに坊主の魔法と俺様の力がありゃー、国だって征服できるってもんよ。それに今なら副頭として迎えてやるぜ。なっ。悪い話しじゃねーだろ? なっ?」

 少年は黙ってお頭さんの方へと歩を進めた。

 しかし目は冷たく、渦巻く魔力はより暗いものへと変質している様に見えた。

 「ひっ! わ、わかった。金ならいくらでもやるからよ。ほら。こん中の金貨も銀貨も好きにしてくれ……だ、だから、なぁ。た、助けてくれよ……」

 絶望に顔色をにじませ、一歩ずつ近づいてくる少年から逃げようにも、片方の足を土槍に貫かれ、もう片方を凍らされては動こうにも動けない。私の掛けた【バーンナップ】の魔法の炎だけが揺れている。

 少年はお頭さんの前で止まると、スッと手を差し出した。

 「──っ! へ、へへ。そうだよな。金はいくらあってもいいよな。決して裏切らねーもんな」

 初めは何が起こったのか戸惑っていたお頭さんだったが、少年が手を出したことで、金銭に釣られたと思ったのだろう。

 少年の手に袋が触れる瞬間、反対の手に持っていた戦斧で少年に切りかかった。

 「はっはぁ! 何騙されてんだ! しょせんはガキだな。ざまぁーみろ!」

 不安定な姿勢だったが、【バーンナップ】の魔法による強化のおかげで、無理矢理ながらも強烈な一撃が繰り出された。

 だが、やはりというか、初めに私が予想した通りのことが起こっていた。

 「ば、バカな。んなことあっていいのかよ…………。な、なんで……なんで戦斧の方が砕けてんだよーーーーーーーーーーーーーーーー」

 お頭さんはあまりの事態に思考が追いついてはいない様だ。

 私の【バーンナップ】は、身体を強化する魔法であって、武器自体を強化するものではない。したがって、少年の強化された体には勝てず砕けてしまった。ただそれだけだ。

 そして少年は元から金銭など興味は無かった。前に出した手に溜めていた魔力が闇色の刃となってお頭さんの腕を肩から切り落とし、凍っている足をも踏み砕いたのだ。

 芯まで凍っていたらしく、痛みは無かったようだが、その顔には戦意はもとより、生きる気力すら刈り取られ、くすんだ茶色い髪が一瞬で真っ白になってしまった。


 「おや。今度は私ですか?」

 少年は、生きる気力すら失ったお頭さんを無視し、私に対峙した。

 「あなたとはやりたくは無いんですが、聞いてはくれませんかね」

 少年は、お頭さんとの戦いの最中も、こちらから注意を反らすことはありませんでした。

 全く、恐ろしい少年です。


 さて、どういたしましょうか。

 少年の力は計り知れない。強大な魔力量に無詠唱魔法の数々。凶悪にして残忍。

 「いや~。これは将来が楽しみですね。どうです少年。私たちの組織に入る気はありませんか? 好待遇でお招き致しますよ?」

 「………………………………………………………………………」

 「やはり答えてはくれませんか。では仕方がありませんね。少々痛い目をみて頂きましょうか………………」

 私が初めて臨戦態勢をとると、少年からは更に強い殺気を感じました。

 戦う事こそが彼の本能であるかの様に、全身からあふれ出る魔力はとてつもない。並みの冒険者や魔法使いでは、この殺気のこもった魔力を浴びただけで失神してしまうでしょう。

 「──ふっ! 一瞬の間に私の背後に回り込み、蹴りをはなってくるとはやりますね。

 ですが、私には通用しませんよっ」

 「!!!」

 蹴りを弾き、空いた腹部に先ほどから詠唱していた炎弾を打ち込んだ。

「ガッハ!!!」

 少年はそのまま弾き飛ばされ壁面へと打ち付けられる。

 「魔法戦闘はまだまだですね。小声での詠唱。魔法を遅らせる遅延技術。それらを駆使すれば、あなたの無詠唱にだって対応できますよ。それに……、いくら早いとは言っても、私には捉えられる程度ですし、あなた自身の魔力が、次に何をしようとしているのかを教えてくれていますよ。相手に見せない知らせない技術をもっと学びなさいっ!」

 立ち上がった少年は、私が話している間にも、何度も攻撃を仕掛けてきますが、時にはカウンターで。時には真っ向から、次々に返り討ちにしていきます。

 「相性によっては威力が小さくても、相手の魔法を無力化できたりもするんです。あなたがいくら強大な魔力で魔法を放ってきても、炎は水で。雷は土で。相性の良い魔法で当たれば対処は可能なんですよ。今の様な獣じみた戦い方では私には勝てませんよ? ほらこの通りっ!」

 私の繰り出した蹴りに、またもや吹き飛ばされた少年は壁に激突し、その勢いで砕けた石の下敷きとなってしまいました。

 「少しやり過ぎてしまいましたか?」

 瓦礫の下に埋もれた少年は、中々出て来ませんでした。



 ─── 6 ───

 

 ………………ここは……どこだ?

 …………俺は……何をしていたんだ?

 ……何も見えない感じない……辺りは闇に包まれている。

 意識に黒い靄がかかり、思考がまとまらない。

 確かシュエを助ける為に、ハザック先生たちと洞窟に入って……。

 そしたらシュエが盗賊たちに囚われていて、酷いことを…………痛っ!

 頭に痛みが…………。

 いったいどうなっているんだ?


 『……ウ…』


 ん? なんだ?


 『ユ……。………ウト』


 何処かから声が聞こえる。誰? いったいどこから?


 『ユウ…。聞こ……すか。……ユウ…ト。…………ユウト!』


 この声は、女神さま?

 『そう…です、ユウト。よう…やく、呼びかけに答てくれ……ましたね』

 はい。女神さま。はっきりと聞こえます。

 『良かった。ユウトがこちらを意識しなければ、この念話も繋がりません。どうやらまだ大丈夫なようですね!』

 大丈夫って何がですか?

 『あなたは、眼前で少女が苦しめられそうになり、自我が飛んでしまったのです』

 さきほどからする頭の痛みはそれですか?

 『ええ。あなた自身が自分を守る為に行っている防衛本能でしょう』

 防衛本能って……俺の体に何かあったのですか! それだったらシュエは今頃……。

 『あの少女なら、今のところは大丈夫です』

 よ、良かった。……でも早く助けないと。

 『確かにそうですが、今は自身の事を心配なさい。あなたも無事ではいられないかも知れないのですから』

 それはいったい……。

 『今のあなた。外で戦っているあなたは、あなたであってあなたでは無いのです』

 それってなぞなぞ?

 『いえ。ではその一部を見せてあげましょう……』

 俺の意識の中に、誰かの感情が流れてきた。


◆ ◆ ◆


 辛い。しんどい。怖い。苦しい。

 なんで僕がこんな目に合わなくっちゃいけないんだ。

 何もしていないのに。ほっといてくれればいいのに。

 誰か助けてよ。救ってよ。もう無理だよ。誰か…誰か……誰か。

 ねぇ、…………助けてよ。


 もう嫌だ………嫌だ、嫌だ、嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ……。


 あいつラがイナければ、いなけレバよかッタんだ。

 いなクナリさえスレバ。ぼクハ苦シまなクテヨかっタンダ。

 あイツラさエ………………アイツラサエイナケレバ…………。


 消シタイ。潰シタイ。壊シタイ。燃ヤシタイ。破壊シタイ。……コロシタ…。

 ソウカ。ダッタラ…殺セバイインダ。殺セバ…殺セバ…殺セバ…殺セ……殺……殺…ス。

 殺ス…殺ス……殺ス、殺ス殺ス殺ス。殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


 『……ミナ……殺シダ』


◆ ◆ ◆

 

 っっっっっ!!!!!!!

 頭の中に、真っ黒な感情の波が押し寄せてきた。

 なんなんだこれは!

 初めは何かに怯えていた。理不尽な何かに恐怖し、助かりたいって願っていた。

 それが次第に恨みに変わって、狂気になって。最後には……。

 (女神さま……、これは)

 俺は気付いてしまった。いや、本当は気付いていた、知っていた。だってこれは…。

 『そうです。これはユウト、あなた自身です』

 やはりそうだ。これは俺が長年思っていた事。隠して、見ない様にしてきた思い。

 小さい頃からのいじめの数々。辛い、悲しい思いは嫌と言うほどした。

 そして、両親を失い一人になって、寂しさや孤独さがさらに増して。そして思ったんだ。

 誰も助けてくれない。誰も救ってくれない。ならいっそのこと…………。

 俺が自殺を考えたのは、やはり誰かを傷つける事に嫌悪感を抱いたからだ。

 俺をいじめてきたあいつらと同じになりたくなかった。だから俺はせめてもの報いとして、ネットで公開自殺をした。

 でも、やっぱり心の中ではあいつらに辛く苦しい思いを、同じ痛みを与えたかった。

 それこそ「殺したい」って本気で思うほどに…………。

 『そう。あなたの中で、「傷つける事への嫌悪」と「恨みの殺意」がぶつかり、心がそれに耐えられなくなってしまった。そして、いつしかあなたは心の中に「もう一人のユウト」を生み出したのです。あなたが抱いてきた殺意や悪感情はその子のせいだと、そう思い込むことで、あなたは自分の心をコントロールしてきました』

 …………………………。

 『しかしこの世界に来て、あなたは救われました。あの少女たちと出会い過ごした日々。先生方との大変ながらも、やりがいのある魔法修行の毎日。そうした中で過ごすことで「もう一人のユウト」の殺意と破壊の感情は心の奥へと沈んでいき、あなた自身もその感情を忘れかけていました。そして、このまま消えてくれればよかったのですが……。

 あなたは大切なお友達が、理不尽な暴力や狂気にさらされる姿を想像し、過去の自分と重ねたことで、沈んでいた悪感情が浮上してしまったのです。

 そして、この世界にある魔力、魔法の生成の理によって、「誰も傷つけたくない」という思いと「敵は殺し潰し破壊する」という思いが分かれ、「心優しいユウト」と「狂気のユウト」という、二つの人格が生まれたのです。そして戦う為だけの人格として生まれた「狂気のユウト」は、今も眼前の敵を葬らんと、戦い続けています。

 せめてもの救いが「敵」と認識した者のみを狙うので、無差別に人を襲う事がないことでしょうか。ですがそれも時間の問題かも知れません。制御の効かない力は次第に暴走を始め、いつかは魔物と化してしまうでしょう』

 っ。ではどうすればいいんですか女神さま?

 俺の中に恐ろしい感情があるのは分かりました。でも、誰も傷つけたくないってのも本心なんです! 俺にはどうすればいいのか……。

 『受け入れなさい』

 えっ?

 『分かる事、理解する事。それは大切な事です。ですが、受け入れる事とは違いますね』

 ……………………。

 『自分にはそういった感情、思いがあるのだと知ったり、誰かに指摘され気付いた時。それを受け入れるのはとても苦しく難しい事だと思います。何故ならそれは、今までの自分の在り方を否定することになってしまいますから。

 こうだと信じてきたものを変えたり、拒絶していたものを受け入れるのは大変なことです。ですが、それが出来た時。きっとあなたは大きく成長できるでしょう。

 力を振りかざす事、暴力を振るう事。確かに良くない事ですが、誰かを守るため、救う為には、時として必要になることだってあるのです』

 ですが……。やっぱり俺には…………。

 『ではあの娘をほっといていいんですか? きっとこのままでは、あの娘は連れ去られ酷い目にあいますよ?』

 それはそうですが…………。

『……………………っ優人! 何をグダグダ言ってるんですか! しっかりしなさい! あなたが本当に誰かを大切に思うなら、守る覚悟を決めなさい! 傷つけたくないなら、圧倒的な力を身に着けて、相手に怪我をさせる前に止めてみなさい! それが出来ないひよっこのあなたが何を言っているんですか! あなたが言っている事はただの言い訳です。理由をつけて逃げているだけでしょうが! 綺麗ごとだけでは何も解決などしません! 腹をくくって前進なさい! 私は何があっても、世界全てが敵に回っても、あなたの味方です! 一人になんかさせるものですか!』


 っっっっっっ!!!!!!

 そうだ。俺は色々言ってきたけど、本当はただ怖かっただけなんだ。

 「誰か」を傷つける事よりも、それでまた「自分」が一人になってしまう事に。

 「誰か」なんかじゃない、結局は「自分」のことしか考えられていなかったんだ……。

 でもそれでいいや。不特定な「誰か」を守ったり、不確定な未来にビビったりするんじゃない。

 今、その場にいる「大切な人」を守りたいっていう「自分」の為に戦う。それで嫌われる様な事があっても、俺には女神さまが付いている。もう一人ぼっちなんかじゃないんだ!

 女神さま、ありがとう。女神さまの言葉嬉しかった。

 俺、すぐには割り切れなくて、グダグダ言ってしまうかもだけど、それでも精一杯やってみせます! まずは、シュエを絶対に助け出しますっ!


 『うふふ。良い答えです。ではあなたの意識を体に戻します。「狂気のユウト」は一時的は大人しくなりますが、またいつ出てくるか分かりません。もう一人の自分と向き合い、共存していけるように頑張りなさい』

 はいっ! 自分の中の怖い感情も、自分なんだと受け入れ、これからは向き合っていこうと思います!

 『では健闘を祈っていますよ!』

 はいっ!! いってきます!!


 真っ暗だった世界に、小さな光が生まれ、しだいに大きくなっていった。

 きっとあの向こうにシュエが待っている。誰かと戦う事に、傷つける事になるかも知れない。

 でも俺は決意したんだ。大切なものを守る為に戦おうって!

 シュエには待ってもらってばっかりだけど、もう大丈夫。本当にすぐに助け出してみせるからっ!


 『行ってしまいましたか…………。優人。あなたは名前の通りの、優しい人になってくれましたね。ですが、これからは強くもなりなさい。優人ならきっとなれますから。

 これからもずっとずっとあなたを見守っていますからね』



─── 7 ───


 俺は目を開けた。辺りは真っ暗だ。薄っすらとだが『狂気の俺』が戦ってた時のことが思い浮かんできた。俺は今、シャドーとか言う奴に蹴られ瓦礫の下にいる。

 【身体強化α(仮)】の魔力障壁のおかげで、俺は潰されなくてすんでるが、今のままでは到底勝てない。でも大丈夫。なんとかなるっ!

それじゃ、反撃開始だっ!


 ドゴンッッッッ!

 俺は全身から魔力を放出し、のっかっていた瓦礫を全て吹き飛ばした。

 「ほぉー。あれで生きていましたか」

 「まぁね。次は絶対に負けないっ!」

 「ん? 先程とは打って変わって人間的ですね。バケモノ染みた感じの方が私好みだったのですが。くっくくく」

 シャドーは俺を見て、くつくつ笑っていたが、俺はそれ以上何も言わず目を閉じ、意識を集中させていった。

 膨大な魔力で強化するだけじゃ奴には勝てない。より強く、より速くなるんだ! 俺が負けたらシュエを危険にさらしてしまう。それだけはダメだ!

 俺は戦う覚悟を決めた。誰かを傷つけるのは今でも嫌だけど、それでも戦わなきゃいけない時がある。

 俺は自分の中にある狂気に手を伸ばすイメージをする。

 『殺セ。八ツ裂キニシロ。燃ヤセ。潰セ。破壊シロ!』

 殺意と悪意の塊が、俺の意識に流れ込んできて、俺を乗っ取ろうとする。

 この世界ではイメージ力が大切だ。自分より強いイメージがあれば、さっきみたいに飲み込まれる事になってしまう。しかしそれをも取り入れることが出来れば、俺はさらに強くなれる!

 俺は狂気を否定せず、少しだけ今の俺と混ぜる様にイメージした。

 殺意や悪意。狂気の俺も俺なんだ。俺は100%の善人なんかじゃない。嫌なことがあったらムカつくし、相手をぶっ飛ばしたいとも思うことだってある。だったらそれでいいじゃないか。それも俺なんだ。俺が俺を否定なんてする必要ない。誰かに肯定してもらう前に、まずは自分自身を肯定する。認めてやる。善も悪もひっくるめて俺なんだって。

 (今までいろいろと押し付けて悪かった。これからは俺も背負うから、少し力を貸してくれ)

 俺の中の狂気が収まっていく。消えたり沈んだりするんじゃなくて、俺と一体化していく感じだ。

 全体の狂気からすれば5%も無いけど、それでも確かに感じる。相手と戦おうとする意志を。狂気じゃなく、戦意になった気持ちをっ!

 

 「準備は整いましたか? 早く全力のあなたを見せて下さい」

 どうやらシャドーは待ってくれていたみたいだ。

 全力の俺と戦いたいとか、どんなけバトルジャンキーなんだよ。

 「なら見せてやるよ。さっきまでの俺と一緒だと思ったら怪我だけじゃ済まなくなるぜ?」

 俺は、全身の魔力量を増やしつつも、圧縮して濃密にしていった。

 魔力でただ全身を覆うんじゃなくて、洗練した純粋な魔力が体内を巡って、体の内側から強化するイメージ。

 体の表面には薄皮一枚程度の魔力の膜を張る。これは障壁としての防御もそうだが、高速移動の際に問題となる、風圧や重力などの外的負担を軽減させる為だ。

 今までにない全能感に包まれながらも、決して相手を侮ったりしない。倒すことだけを考え、最善を尽くす!

 「ふっ、どうやら私も油断は出来そうにありませんねっ」

 シャドーが構えをとった。さっきまでの小バカにした態度ではなく、本気の構えっぽい。

 俺は格闘の特訓はしていないけど、戦い方や戦闘方法は今まで色々なアニメを見て研究してきた。だから大丈夫っ!

 俺は自分のヲタク知識と、女神さまにもらった莫大な魔力を信じる。この二つがあれば俺は最強になれるんだ!!


 ガッと地面を蹴り、シャドーの前に一瞬で詰め寄って、手始めに右ストレートを放つ。

 シャドーは俺の速さに驚きはしたが、腕でしっかりとガードしていた。

 「ぐっ……。なかなかやりますね。先ほどとは比べものにならないほどのスピードです。ですが、そんな見え見えの攻撃では私は倒せませ…………っ!!」

 シャドーは俺の思惑通りに吹き飛んで壁にぶち当たる。

 「な、なんです今の攻撃は……。確かにガードしたはず……」

 「ただのガードじゃあ、俺の攻撃は防げないぜ?」

 俺はただ殴っただけじゃない。殴った時に自分に返ってくる衝撃。地面を踏みしめた時に向かう力の反動。その全てのベクトルを相手に向けて流し、威力を上げたんだ。

 さすがは一方通行さんの技。強力だわぁー。

 無意識の全反射とかは出来そうにないけど、衝撃を相手に向かわせる事はイメージ出来る。イメージさえ出来れば、この世界の魔法補正によって実現可能だ。

 相手の防御すらも利用した特別な一撃。これは防げまい!

 「驚きましたね。まさか私が負傷してしまうとは。だがその攻撃は当たらなければどうということはありません。私からも行かせていただきます。『闇にて生まれし死の刃。我が前の敵を排除せよ。【ブラックカッター】っ!」

 シャドーが呪文を唱えると、掌から闇で出来た無数の刃が飛来した。

 しかし、俺は防御姿勢もとらず、ただ手を前に出し【盾よ。闇の攻撃より我を守れ。シールド!】と呪文を唱える。

 すると、俺の目の前に、片翼をかたどった盾が現れ、それを中心にドーム状の魔法障壁が展開され、俺を包み込んだ。

 ゴッ! っと盾の正面に闇の刃が衝突するも、障壁はびくともせず全てを受け切った。

 「…………いったいそれはなんなのですか。ただの魔法障壁ではありませんね」

 「これは、守ろうとする意思や気持ちが強いほど力を発揮してくれる特別製でね、本来の呪文とは違うが存分に力を発揮してくれてるよ」

 俺の大好きなCCさ〇らちゃん、マジありがとう。他の51種類の魔法もいつか使ってみたいもんだ。

 「それじゃあお返しに! 異世スマより【スリップ!】」

 シャドーの足元に魔法陣が輝き出した。

 「ふむ。『風よ。我を浮き飛ばせ。【ウインドムーブ】』」

 一瞬のことなのに、シャドーは風魔法の短距離移動。【ウインドムーブ】を使って俺の【スリップ】を回避した。

 人や物を少し動かすことしか出来ない魔法だけど、あんな使い方で回避されるとは。

 「どうやら驚いていらっしゃるみたいですね。ではこの避け方で間違ってはいなかった様で安心しました」

 「ならさっきの魔法の効果は知らずに回避したってことか」

 「相手の近くに出現させる魔法陣は、その場に効果を発揮するものが多いですからね。魔法陣から出てしまえば回避は容易なんですよ」

 確かにそうだ。遠距離魔法なら、わざわざ相手の近くに魔法陣を出す必要はない。

 俺は攻めあぐねていた。

 強力な魔法は洞窟を壊してしまう。使い勝手の良い魔法では効果が薄い。さらに戦闘経験の多さから、こちらの攻撃は読まれて通用しない。

 いったいどうしたらいいんだ……。

 

 「おいユウト大丈夫かっ!」

 「遅くなりました。今助けます!」

 俺とシャドーが互いに出方を伺っていると、入り口から先生たちが入って来た。

 どうやら広間にいた敵に苦労したみたいだが、今となって追いついたみたいだ。

 だがそのおかげでシャドーを挟み撃ちに出来ている。これで形勢は完全にこっちに傾いた。

 「おやおや。あなたたちは『無敵の剛腕』に『智略の巨匠』じゃありませんか。流石にお二人と少年を同時に相手をするのは少々骨が折れますね。ここは一時撤退をさせて頂きましょう」

 「はっ。どこのどいつか知らねぇーが、そう易々と帰れると思ってんのかぁぁ?」

 「そうですね。あなたには聞きたい事が山ほどありますし。大人しく捕まれとは言いませんが、抵抗しても力ずくで捕まえます。それに……。よくも私の大切な生徒に手を出してくれましたねっ。このお礼はきっちりさせて頂きますっっ!」

 どうやらハザック先生だけじゃなく、ゼークル先生も相当キレてるみたいだ。

 「まぁ証拠隠滅の時間稼ぎと、本来の目的の達成も出来ましたので、私にはここに長居をする理由が無くなりました。ですので、早々に帰還させて頂きます」

 シャドーが指を指した先には、闇色の炎が人型に燃えていた。

 先生たちは怪訝な表情だったが、俺はそれがシャドーの魔法によって強化された盗賊団のお頭だと、瞬時に理解した。

 「先生っ。あれは盗賊のお頭だよ! あいつの魔法で強化されてたはずなのに、なんで燃えて……」

 「くっ! あなたは本物の外道の様ですね」

 「え? あれっていったい……」

 「あれは炎と闇の複合強化魔法【バーンナップ】。身体を極限まで強化出来る代わりに、黒い炎によって全身を燃やし尽くされてしまう禁忌の魔法です。本人の意思で魔法を受け入れるという条件はありますが、強大な力を得る代わりに必ず死んでしまう禁じられた魔法なのです」

 「っ! そんな酷いことをするなんて……」

 「過去の大戦争時代には戦略として使われる事もあったと聞きますが、あまりにも外道な魔法故、禁じられ封印されたはずなのですが……」

 「流石は『智略の巨匠』。よくご存知ですね。まぁもっとも極限までの強化とは言っても、本人の実力に帰来するので、効果の割には使い勝手の悪い魔法なのですが、証拠隠滅や時間稼ぎには丁度良いのですよ。この様に──。【ブラックカーテン】」

 シャドーの影が広がり本人を包み込んだ。俺は咄嗟に、

 「…! ス…【スティーーーール】っ!」

 「逃がしませんっ」

 ゼークル先生がすぐさま【ファイヤーランス】を陰に放つが、直撃すると霧散してしまった。

 「どうやら逃してしまったみたいです……。さきほどの魔法は、自分の影の中へと潜伏し移動するもの。影が隣接していれば、他の影の中でも移動は可能です。今やつは影の中を移動しながら、あちらの出口から逃亡しているところでしょう」

 確かにシャドーは壁から出口までつながっている影の中に立っていた。

 どうやら先生たちが来た時には逃げることを決め、詠唱の時間稼ぎの為わざと盗賊のお頭が燃え死ぬところを知らせたのだろう。

 だけど本来の目的って、シュエを連れ去ることじゃなかったのか? シュエはまだ俺の張った魔法障壁の中にちゃんといる。ならいったいどんな目的があったんだ?


 「ユウトさん。シュエさんはいったい今どこに?」

 ゼークル先生の問いかけに応じて俺は壁の近くにある魔法障壁を指さして、魔法の効果を伝えた。

 俺の張った魔法障壁【エアークッション】は、物理魔法攻撃から身を守るだけではなく、風によって熱風や冷風、毒なども無効化してしまう。そして風の回復魔法も展開してあるので、中はとても快適に保たれている。

 それにあの時は、普段の俺と狂気の俺の意見が、シュエを守りたいと一致していたので、より強力に。さらに見られたくないという事から、眠り効果も追加され、シュエは障壁の中で心地よく眠っているのだ。

 この障壁は俺が解除するか、これを上回る力を加えないと破壊は不可能。

 それを聞きゼークル先生は安心したのか、ある提案をしてきた。

 「良いですかユウトさん。あなたはこの魔法で二人を包んでここで待っていなさい。私とハザックですぐにあいつを捕まえて来ますから」

 「っ! 嫌です先生。俺も奴を追います!」

 「何を言っていますか。それでは誰がシュエさんを守ると言うのです。もしかすれば他に敵が潜んでいるかも知れないんですよ!」

 「でも俺だってこのままじゃ…………」

 俺とゼークル先生が言い争っていると、

 「行ってこいユウト。ここは俺が守ってやる」

 「ハザックっ! あなたはいったい何を言っているのです! きっと先ほどの奴の冒険者レベルは私と同等かそれ以上。なんとか魔法使いとしてなら勝てていますが、それでもユウトさんには荷が重すぎますっ!」

 「ならなんで連れて来た。こいつを信じたからだろ。俺はあん時ビビっちまった。大切な生徒を危険にさらす事に。だがおめぇーがオレの背中を押してくれたんだろ。だったら最後まで信じて連れてってやんな。それにユウトは強ぇー。そんじょそこらの魔法使いなんて目じゃねぇぜ。逆に俺は広い場所じゃーあんまし役には立てねぇーし、こん中みたいな狭い方が得意なくらいだぜ。ハハッ」

 「ハザック……。分かりました、私も腹をくくります。ですが深追いはしません。危険と思ったらすぐに撤退しますからね」

 俺は無言でうなずいた。

 「それじゃあユウト行ってきな。そんで、シュエの嬢ちゃんに悲しみや恐怖を与えた奴に、オレの分も合わせてぶちかましてこい!」

 「はいっ! 必ず!」

 俺は送り出してくれるハザック先生に気合の籠った表情で答えた。


 

 ─── 8 ───


 俺とゼークル先生はシャドーを追って洞窟内を疾駆する。

 しかし広間を抜けても、一向に奴の姿は捉えられなかった。

 「いったいどこまで行ったんだ……」

 「もう洞窟から抜け出てしまったかもしれませんね……。ところでユウトさん。あなた先ほど奴が影に消える前、何か魔法を使いましたね。いったいあれはなんなのですか?」

 「あーあれはですね」

 俺は奴が消えてしまう前に、何か手掛かりでもと思い、このすばの主人公が使う、相手から物を盗む強奪魔法【スティール】を発動させていた。

 しかし、【スティール】は運の要素が強いので、何が取れるかは分からない。今回に至っても──。

 「銀貨ですか……」

 「はい。これだけしか取れませんでした。もう少し奴の手掛かりになりそうな物だったら良かったのですが」

 「いえ、これでも役には立ちますよ。それを貸してもらえますか?」

 「それは良いですけど」

 追いかける足は止めず、ゼークル先生に銀貨を渡す。ゼークル先生は何か呪文を唱え始めると、手の中の銀貨が光り出し、その光が一本に収束して伸びていった。

 「先生、これって」

 「これは持ち主を見つけるだけの魔法ですが、こういった使い方だって出来るのです」

 光の線は洞窟を出て、森の中を刺していた。

 そして、その光の進む先から、闇色のオオカミが30頭ほど現れた。

 「どうやら追跡に気づかれているみたいですね。それもご丁寧に、中級の闇精霊召喚魔法まで使ってくるとは……。このままでは完全に逃げられてしまいます。いったいどうすれば」

 ここでオオカミたちを相手にしていては逃げられてしまう。かと言って無視もできない。

 こいつらを一掃して、光の指す先にいるシャドーに追いつくにはいったいどうすれば…………。

 「クソッ。この光の真っすぐ行った先に奴がいると言うのに」

 どうする。どうすればいい。何か、何かヒントは無いか? 考えるんだ。絶対何かある。

 光。真っすぐ。直線。あいつの場所は分かっている。

 オオカミたちを一掃する力。強力な魔法。

 「そうだっ! 先生。さっき渡した銀貨を渡して下さい!」

 「いったい何をするつもりですか?」

 「いいから早く! 奴が逃げてしまいます!」

 俺は光の指す方向をしっかりと頭に叩き込み、ひったくる様に先生から銀貨を受け取り、ある魔法を強くイメージした。

 すると、俺の体からバヂバヂと放電が放たれ、地面へと落ちていく。

 「これは、いったい……」

 俺は右手で持った銀貨を、親指で弾いて上に飛ばした。

 くるくると回って落ちてくる銀貨。

 「あんたはもう終わりだシャドー。そこの駄犬共々、吹き飛びやがれ!」

 銀貨が手と同じ高さまで戻ってきた時、俺は全力でそれを親指で弾いて飛ばした。


 ジュゴッッッッッッッッ!!!!!!!


 俺の弾いた銀貨が、あり得ない速度で飛翔し、直撃した先頭の数匹は一瞬で蒸発し、周辺にいた奴らも余剰波で消し飛ばされ、魔法が通過した所は全て破壊され、新たな一本道を作っていった。

 「ユ、ユウトさん……。今の魔法はいったい……」

 「えっと、今のは禁書や電磁砲に出て来る御坂さんの技で、一応正式名称は『電磁投射砲』や『電磁加速砲』って言われてますけど、まぁ【レールガン】って言うのが通例ですかね?」

 俺は質問の答えを返しながらも、視線は真っすぐシャドーがいたと思われる場所を見つめ、探した。しかしね

 「奴は何処に!」

 「ええ。ええ。もうあなたには何も驚きません。規格外なのは初めからでしたしね。ええそうですともまったく」

 どうやらゼークル先生は俺の魔法に圧倒されたのか、自分の世界にトリップしてしまっているみたいだ。

 だけど今はそんな場合では無い。奴がどうなったのかが先決なのだ。

 「ゼークル先生っ! 奴はどうなったんですか? 分からないなら行って見て来ますよ!」

 「はっ! いけません。奴がいつ反撃してくるやもしれません。ちょっと待っていなさい」

 俺の言葉で正気を取り戻したのか、ゼークル先生は目を閉じ、また何かの魔法を唱え始めた。

 少しして先生は目を開けたが、残念そうに首を横へと振った。

 「どうやら逃げられてしまったみたいです。あなたの強力な魔法の前兆を感じて、すぐさま【ブラックカーテン】で潜伏し、逃げ延びたのでしょう。精霊魔法からの魔力痕跡を辿ったのですが、途中で消えてしまっています。ですが、奴もただでは済まなかったのでしょう。あそこを見て下さい」

 ゼークル先生が指さしたのは、俺たちから80メートル離れた先。レールガンの衝撃範囲からさらに横へ6メートルほど離れた場所に、奴の着ていたと思しき黒服の破片が落ちていた。

 「この服の切れ端には多少の血が付着しています。洞窟内での戦闘では一切の負傷をしていなかった事から、さきほどの【レールガン】という魔法で傷を負ったのでしょう。どうやらハザックとの約束通り、一矢報いる事は出来ましたね」

 「でも捉えることは出来ませんでした……」

 「はぁー……。いいですか? 奴はかなりの手練れです。それをまだ魔法学園に入学したばかりの子どもが傷を負わすなど凄い快挙な事なんですよ。誇りに思ってもいいくらいです。それに何より一番の目的はシュエさんを助け出す事。あなたはシュエさんを無傷で助け出しました。それ以上に何を望みますか?」

 俺は敵を倒す事ばかり考えていた。

 狂気の自分を認め取り入れたからって、そこへ執着していてはまた飲み込まれてしまう。

 そうだ。俺は友達を助けに来たんだ。シュエは無事だった。今はそれで十分じゃないか。

 「すみません。俺何か思い違いをしていました。早くシュエのところに行きましょう。それで、学園で待ってくれているシャルやルフレ王女にこの事を知らせないと!」

 「ええ。そうですね。では戻りましょうか」

 「はいっ!」

 俺はゼークル先生をおいて、ダッシュで洞窟内を戻っていった。

 今度は助ける為じゃなく、迎えに行く為に。

 シャル。ルフレ王女。約束はちゃんと果たしたよ。今から帰るね。


◆ ◆ ◆


 いやまったく。彼には驚かされてばかりです。

 あの魔法はいったいどうやっていたのでしょうか。

 それに彼の中から少し覗いていた黒い魔力。あれはいったい…………。

 どうやらまだまだ様子を見ていく必要がありそうですね。

 ハザック。私たちの教え子はいったいどうなってしまうのでしょう。

 怖くもありますが、鍛えがいもあります。

 ふふ。まったく。楽しくて仕方ありませんよ。

 

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