第一章 女神さまとのご対面
第一章 女神さまとのご対面
─── 1 ───
ふと目を開けると、そこには真っ白な空間が広がっていた。
上も下も、右も左も、見えている場所すべてが白く、どこまでも続いている様な、すぐそこに壁がある様なそんな不思議な場所で、自分だけがはっきりと見え、認識できていた。
「いったいここはどこなんだ?」
意識がはっきりしていくにつれ、さっきまで自分が何をやっていたのかを、鮮明に思い出し、自分が自殺したのだということを、もう一度確認する事になったのだが……
「……どうして俺は生きてるんだ?」
「いいえ。あなたは先ほど、学校の屋上から飛び降り、本当に死んでしまいました」
っっ!?
ふと口にした疑問に誰かが答えてくれた。
声のする方へ目を向けると、そこには光の球が浮かんでいた。
ただそこに浮かんでいるだけの光る球。だけど何故か心が引き寄せられる。どうしても目が離せない。ずっと見ていたい。もう他には何もいらない…………。
すると、目の前にいた光の球は、女性のシルエットに変わった。
そして、変わったと同時に、なぜあそこまで心をひかれたのか疑問に思ってしまう。
「申し訳ありません。どうやらあの姿は、あなたたち人の心では魅了されてしまう様ですね。この人に近い姿なら大丈夫でしょう」
ハープの音色のような澄んだ声が、女性のシルエットから聞こえてきた。
とても暖かな光に包まれた姿で、心を癒してくれ、落ち着きと安らぎを与えてくれた。
「どうやら落ち着いたみたいですね」
「はい。……ですが、えっと、ここはいったいどこですか? それに俺は死んだはずじゃ……」
「今から順を追って説明いたします。神代優人さん。あなたは先ほど学校の屋上から飛び降り自殺をして、本当に死んでしまいました。そしてここは女神である私の領域なのです」
どうやら俺が死んだのは間違いないらしい。でもどうして意識がはっきりしているのだろう? それに女神さまの領域っていったい…………。
「あなたは確かに死んでしまいました。そして本来死んでしまった人間は、そのまま記憶や意識を消されて転生するものです。生前のおこないによってその転生先は変わりますが、その転生方法は自動的なものとなっていますので、この様に女神である私と会うことなどまず在りえません」
「それじゃあなんで俺はこうして女神さまと話ができているんですか?」
「それは私が望んだからです」
「女神さまが望まれた?」
俺は女神さまの考えがわからず首をひねっていた。
生前の俺は女神さまに会えるような信者でも無いし、むしろ自殺するにあたって、復讐、仕返しをしたのだから、天罰を食らっても良さそうなものなのだが……。
すると、女神さまが優しく微笑んだように光った。
「確かにあなたがおこなったこと全てを褒めることは出来ません。自ら命を断つというのは、それだけで罪となります。しかし、あなたのおこなった事によって多くの命が救われたり、助かった人たちが沢山いるのです」
「俺の自殺で救われた?」
どうゆうことだ? 俺はただ自分を苦しめてきた奴らに復讐しただけだ。誰かの為にやったなんて事はない。自分勝手に振る舞っただけなんだが。
「あなたが飛び降りる前におこなっていたライブ配信によって、今までいじめに対して動かなかった教育の現場や、いじめをしていた子たちの心を少なからず変えたのです。テレビでも連日放送され、いじめを受けていた子たちは、それこそ自分たちの心の代弁者だと君に感謝し、生きる希望を見い出しました。それでも、いまだにいじめが無くなった訳ではありませんが、世界規模で減っているのは事実です。あそこまで大々的に、それも確証や根拠、証拠も合わせて放送し、自殺する人などいませんでしたから、教育機関や政治でも、二度と同じ過ちを犯さなぬ様、本腰を入れて取り組まざるを得ませんでした」
そう話す女神さまは、どこか楽しそうな雰囲気を出していた。どうやら女神さまもいじめに苦しんでいる人たちを何とかして救いたかったのかもしれない。俺の行動が少しでも人の為になったのなら、それはやはり嬉しく思う。
「さて、それでは優人さん。少し質問をしても宜しいでしょうか?」
「? はい。構いませんが……」
「では、あなたは生まれ変わったらどんな人生を送りたいですか?」
「そーですね。今度は楽しく生きていければ良いなと思います」
「楽しくとは具体的にどの様な?」
「今までの俺は、周りの視線や思いにビクビクして、思ったことも言えず、行動も出来なかった。最後の最後、死ぬ寸前にならないと覚悟も決められなかった。だから次があるならば、日々を楽しみたい、思った事を気兼ねなく話し、行動できる。そんな人生を歩んでみたいんです」
「それは自分勝手な行動したいという事ですか? 周りの事を考えず、ただ思った通りに行動し、自分の意見を押し通す。そんな生き方がしたいと──」
「違いますっ!」
俺は女神さまの言葉を食い気味に否定した。
「言葉が合っているのかはわかりませんが、俺は自分勝手ではなく、我がままに生きたんです」
俺の中で「自分勝手」は周りの迷惑も考えず、自分の都合にいい身勝手な行動をする事で、「我がまま」はありのままの自分で生きる。周りに流されず、自分の信念を貫く生き方をする事だと思っている。聞く人によっては同じではと思うかも知れないが、俺の中では、この二つには天と地ほどの違いがある。
説明が下手ながらも、ぽつぽつと言葉をつむぎ、女神さまに伝えていった。今まで思ってはいても言葉に出せなかった思いを。心から渇望する願いを。この女神さまならバカにせずに聞いてくれると思ったから。
だから、どんなに時間が掛かろうとも話し続けた。これだけは誤解されたくはなかったから。
別に願いを叶えてほしい訳ではない。ただ聞いてほしかった。聞いてくれるだけでよかった。自分のありのままの思いを。ずっと押さえてきた気持ちを。
─── 2 ───
かれこれ15分ほどかけて、なんとか説明ができた。できた気がする。できてたらいいな~。
「ふふふっ」
?????
急に女神さまが笑い出したことに俺は戸惑ってしまった。
俺何か面白いこと言った?
「すみません。実はあなたの思いはすでに知っていました」
「は? へ? どーゆうこと?」
女神さまの突拍子もない言葉に、俺は面食い、ついタメ口になっていた。
「これでも私は女神です。あなたの思いを知ることなど造作もありません。ですが、こうしてあなたから直接思いが聞けて、本当に嬉しくなり、ついつい笑ってしまいました」
どうやら女神さまは俺が15分もかかってしたつたない説明を、聞く前からすでにお見通しだったようだ。
何この羞恥プレイっ! 穴があったら入りたい。っつかベットがあったらゴロンゴロンと身悶えしてるよ俺っっっっっ!
「さて、本心も聞けたところで、あなたにはいくつかの選択肢を与えます。これは特例中の特例です。あなたのおこないが多くの人を救った事へのサービスです。
では、一つ。前世の記憶を無くし、通例通りに転生する。
二つ。現在のあなたのままで異世界に転移する。お好きな方を選びなさい」
そう言うと、女神さまは、にっこり微笑んだ様に光を照らされた。
「えっと、一つ目のは分かるんですが、二つ目の異世界って、いったいどんな所なんですか?」
「では説明いたしましょう。異世界の名は、エレフセリア。中世のヨーロッパの様な建物が多く、発展も同じぐらいです。そして、この世界では科学の代わりに魔法が発展しており、魔法を使える者の地位が非常に高いです。さらには魔物などのモンスターも多く存在しており、あなたの好きなアニメやライトノベルなどによくある、ファンタジーな世界と概ね同じと考えていただければ大丈夫です」
女神さまの言葉は俺にとって衝撃的なものだった。今までオタクと呼ばれる様なものは全て好きで、ドハマリしていた。中でもファンタジー系、バトル系。そして魔法ものが大好きで、何度異世界に行けたらと妄想していただろうか。それが今まさに叶うかも知れないのだと、叶えてくれると女神さまは言っている。
俺が呆けていると、女神さまが、
「もちろん危険だって伴います。モンスターもいますし、場所によっては盗賊なども普通にいますので。行くのであれば覚悟を持っていただかないといけません」
と、真剣な声色で諭してくれた。
確かに、現代でずっといじめられっ子だった俺が、異世界に行って生き残れる可能性は非常に少ない。むしろ零と言っても過言ではないのだ。
だが、やはり、どーしても異世界へ行くことを諦めきれない。
ずっと夢見てきた世界に行けるという、もしかしなくても最初で最後のチャンスだ。
だから俺は女神さまに向かって、自分の思いを正直に伝えることにしたっ!
「女神さま! お願いです。どうか異世界に行かせて下さい。そして出来ればチートまではいかなくても、最低限生きていける様な能力を俺に下さいっ!」
…………………──────。
女神さまが黙ってしまった。
どうやら、あまりにもストレート過ぎるお願いに引いているみたいだ。
「……えーっと、ここまでストレート過ぎるお願いを言われたのは初めてです」
ですよねー。自分でも分かってはいたが、やはり新たな人生を異世界で過ごせるのであれば、魔法だって使いたいし、それこそすぐに死んでしまいたくない。
前世が散々だったからこそ、次があるのなら、多少はちゃんと生きていきたいと思う。
「ふふっ。まぁ良いでしょう。あなたには特別な力を与えます」
「え!? 本当にいいんですか? 自分で言っといてなんですが、スゲー図々しいお願いですよ?」
まさか女神さまから承諾が得られるとは思っておらず、ひどく焦ってしまった。
「元より、あなたが異世界行きを希望した際には、力を与える予定でしたが、自らの言葉で思いを伝えたこと、そして先ほどお話ししてくれた『我がままに生きる』ことの実質的な第一歩が見られたという事で、ちょっぴりおまけしてあげます♪」
そう言った女神さまの声は、とても楽しそうだった。
─── 3 ───
「では、三つの中から好きなものを一つ選びなさい。それがあなたの力になるでしょう」
そう言って女神さまが提示してくれた能力は以下の通りである。
① 神器級魔道具一式(武器・防具・その他 計100品)
② チート能力(身体強化・探索・飛行などのアビリティー 計100種)
③ 莫大な魔力(ただし、魔法の習得は自分でおこなう事)
さて、どれを選んだものか。
確かにどれも捨てがたい。神器級の魔道具があれば、某未来の猫型ロボットの様に、あんな夢やこんな夢を叶えてくれそうだ。チート能力ならまず間違いなく最強になれるだろう。組み合わせ次第では、それこそ出来ないことなど無いかも知れない。
俺は10分も悩みに悩んでついに自分に相応しいものを選んだ。他の二つにも後ろ髪引かれる思いはあるが、後悔はしていない。
「本当にそれで宜しいのですね?」
「はい。これでお願いします!」
「わかりました。ではあなたの選んだものを授けます」
女神さまが一段と強い光を放つと、俺の体を包み込んだ。暖かく心落ち着くこの光に、ずっと包まれていたいと思っていると、次第に光は薄れ、1分もたたない間に消えて、もとの女神さまに戻っていた。
「これで本当に俺の力になったんですか?」
「はい。今は感じれませんが、すぐに実感も湧いてきますよ。それより一つお伺いします。どうして三番の魔力を選んだのですか?」
不思議そうに首を傾げる女神さま。俺が③の『莫大な魔力』を選んだのが予想外だった様だ。
「ん~。理由はいろいろありますが、せっかく魔法の世界に行くんだから、やっぱり魔法を使ってみたいってのが大きいですね。それに、道具や能力には限りや、種類の限界がありましたけど、多くの魔力があれば、あとは努力次第で無限に習得できるじゃないですか! チート無双も好きですが、どちらかと言えば、修行して強くなっていく系が好きなんです俺っ」
「ふふふっ。ではあなたがどれだけ凄い魔術師になれるのか、楽しみに見させてもらいますね♪」
─── 4 ───
女神さまとの、長いようで短かった話し合いは終わり、ついに俺は魔法が実在する異世界。エレフセリアに向けて旅立とうとしていた。
「女神さま。いろいろとありがとうございました。エレフセリアに行ったら頑張ります」
「はい。ですが無理はしないで下さいね。いくら魔力が莫大でも、魔法の使えないあなたでは、危険が多いです。ですので初めの内はしっかりと魔法の勉強をし、力を身につけなさい。いいですね」
「あははっ。まるで母さんに言われてるみたいだ」
昔は母さんのお小言がうっとおしいと思った事もあったけど、いなくなって、言われなくなって初めて母さんが俺の事を想って言ってくれていた事に気が付いた。
女神さまの優しくて温かく包み込んでくれる様な声と、心配してくれているという思いが伝わってきて、ついつい涙が浮かんでしまった。
「大丈夫です! いっぱい勉強して、女神さまがビックリするぐらいの魔術師になってみせますからっ! 楽しみにしていて下さい!」
俺はガッと目元を拭って、女神さまに笑顔を向けた。
すると、女神さまの方から、何やら泣いている様な雰囲気が伝わってきた。
「女神さま? どうかしましたか?」
「いえ。何でもありませんよ。では、今からエレフセリアに送ります。立派な魔術師になるのを楽しみにしていますね」
「はいっ! 必ず!」
俺が返事をすると、光が足元から浮かんできて全身を包み込んだ。
軽い浮遊感と共に、眠るように意識が薄れていった。
薄れゆく意識の中で、誰かの暖かな声が聞こえたが、意識を手放すと共に記憶から抜け落ちていった。
だけどその温かさは、しっかりと心に沁みわたっていった。
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「優人、幸せになりなさい。いつまでもあなたの事を見守っていますからね」




