買い出し
弁当を作るための施設も借りられることが確定し、墓参りの日も決まった。
今日は明日に迫ったその外出のための、弁当用の食材を買い出しに城下町の市へとやってきていた。
城で出されている食材をわけてもらうという、かなり図々しいことも考えたが、ナルが市に行きたがっていたこともあり、こうして出てきている。
ジョットとアキは仕事が残っているので、今ナルと共に買い出しにきているのはレイド、リディク、そしてアカリである。
「さて、何を作るか」
「参考までに、言わせてもらうとサンドイッチが良いですね」
並べられている魚達をキラキラした目で見ているナルの横で、護衛であるリディクはアカリへそう進言した。
「特にマスタードの効いたハムサンド! タマゴでも良いですけど」
「誰もリディクさんには聞いてませんよ」
レイドが淡々と言う。
「まぁ、簡単だしいっか」
アカリは気にしていないのか、了承した。
と、そこで、ナルが隣の屋台へと移動して、売られている商品をじぃっと見る。
それは三日月のように弧の形をした、暖かい地域の果物に最近城で茶菓子として出されているチョコをソースにしてかけてあるお菓子だった。
「あ、チョコバナナだ」
アカリの言葉に、知らずナルの口からもその名前が漏れた。
「チョコバナナ」
まるで串焼きの肉のように、木の棒が突き刺さりそれが持ち手になっているようだ。
「ナルさん、食べます?」
金には余裕があった。
おそらくこの四人分の昼食代も含まれているのだろう。
ちなみに、財布を握っているのはアカリだった。
レイドの口添えもあって、管理を任されたのだ。
「え、でも」
「多目にお金は渡されてるんです。皆で食べましょう」
そうして人数分、アカリが購入しレイドが念のために毒がないかチェックし、ナルに渡した。
そうして、他の屋台を冷やかしたり必要なものを購入したりと歩きまわる。
その度に、アカリとリディクは周囲を警戒していた。
レイドはナルにぴったりとくっついて、何が起きても良いように、しかし素知らぬ顔で買い物を楽しんでいた。
「気づいてますか?」
アカリの言葉に、リディクが軽く顎を引いた。
「お昼くらい食べたかったですねぇ」
リディクの軽口に、アカリも同意する。
「ですねぇ。ま、様子を見ているだけな感じですから、材料は買ったしお昼食べてから帰るってのもありっちゃありですけど」
「ナルさんに何かあったら俺の首が飛ぶんですけど」
「何かあっても大丈夫なように、俺達がいるんじゃないですか?」
首が飛ぶことのないアカリはとってもあっけらかんとしているが、リディクには職務を遂行する責任がある。
「あんたはいいな、気楽な手伝いで」
少し嫌味を含んで言えば、アカリは得意気に笑った。
「これでも、こういうことに駆り出されるのには慣れてるんですよ、俺」
正直に言えば、とてもそうには見えない。
たしかに貴族の女性の付き人として、外見だけなら合格だが、荒事に対処出来るようには見えない。
まだナルの方が魔法も使えるし、動けるように見える。
しかし、この少女はあの邪龍が連れてきたのだ。
外見に騙されてはいけない。
「ナルさん、だいたいの物は買ったんで、お昼を食べて帰りましょうかね」
アカリの言葉に、飴細工の屋台を見ていたナルはその言葉に従った。
「なにか食べたいものはありますか?」
「チョコケーキ!」
それは主食ではなくおやつである。
さすがにリディクが苦笑して、嗜めてくる。
すると、今度は、
「向こうでドンモノっていう料理を出してる屋台があったから、それが食べたいです」
と、その屋台があるであろう方向を指差したのだった。
「マジカヨ」
少し棒読みで、アカリが呟いた。
レイドが何故か呆れていた。
「今更驚くことでもないでしょうに」




