↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一体契約のテイマーと十三番窓口〜眠そうな学園生は、裏で魔物案件を片付ける〜  作者: じぇいじぇい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
144/144

第76話 十三番窓口の十一番

お読みいただきありがとうございます。


最終話です。

 それからの半年は、静かに過ぎた。

 冬の帳場は繁盛して、詰所には新入りが二人増えた。ノアは獣舎の主任代理になって、一年に決まりを教える声が年々誰かに似てきた。セナの獣医師会入りが決まり、十二匹は王都に残ることになった。カイルは騎士団の誘いを三つ並べて、一番強いやつがいる所へ行くと宣言した。ホムラの返事は「飯が出るなら、どこでもいい」だった。

 エルムの商会はルヴィナとの定期航路を開き、テッサの工房には弟子が二人入った。瓦版は相変わらず窓口を書き立てたが、書かれるのはもう良いことばかりだった。

 そして、春が来た。


     ◇


 卒業式は、晴れた。

 講堂で名簿を読み上げる臨時司書の声は、いつも通り眠たげだった。読み終えた白紙先生は、証書の束を几帳面に揃えながら小さく言った。


「……静かに、卒業していきますね。あの学年が」

「静か、ですか」


 隣の教官が聞き返した。瓦版と審問と、あれだけ王都を騒がせた学年だ。


「ええ。学園の中では、最後まで」


 それは、そうだった。契約量の欄が三年間ゼロのまま卒業していく生徒は、最後の最後まで居眠りの名人でしかなかった。


「あれは結局、何だったんですかな」

「さあ。……獣に好かれる体質、だそうですよ」


 首席の答辞は、セナだった。壇上のセナは一度だけ、下から三番目の席の方を見た。見られた方は、起きていた。三年で一番大事な日くらいは、起きていると決めていたらしい。

 教官たちの会話を、窓の外の春風が運んでいった。


     ◇


 その夜、帳場に全員が揃った。

 ガルドとネムとバルカ。リッツにミラ、シェラに翁とハインツ。白紙先生が司書の顔のまま隅に座り、ラウルは黒い楽器箱を壁に立てかけた。受付の事務員も算盤方も詰所の連中も、階段まで溢れている。

 卒業祝いだと聞かされていた。

 酒と大皿が並ぶ前に、グラントが手を上げて場を鎮めた。


「先に、仕事の話をする」


 帳場の主は、戸棚から古い台帳を出した。

 窓口の、番号の台帳だった。


「ナンバーズの席の話だ。……リオ。お前には今いるのは一番から十番までの十人、と教えてきた。嘘じゃねえ。だが、全部でもねえ」


 台帳が、開かれた。


「席は、本当は十二ある。十一番と十二番は、十年前のあの夜から空いたままだ。この二つだけは、誰にも回さねえと決めていた。……誰も座れねえ席だったからだ」


 帳場は、静まり返っていた。

 古参たちは、全員知っている顔だった。知っていて、十年黙っていた顔だった。


「十一番、エマ・アルクス。十二番、ヨナス・アルクス」


 グラントは、空白の二行を指でなぞった。


「で、だ」


 顔が、上がった。


「十一番。……お前のお袋の席だ。継ぐ気は、あるか」


 リオは、台帳を見た。

 母の名前の載っていた行と、その下の空白を見た。

 一拍だけ、置いた。


「一つ、確認が」

「なんだ」

「番号をもらっても、まかないは出ますか」


 帳場が、爆発した。

 バルカが腹を抱えた。ネムが歌うように笑って、ガルドが膝を叩いた。グラントは天井を仰いで、それから笑いの残った声で答えた。


「出る。倍にしてやる」

「なら、受けます」


 笑いが、拍手に変わった。

 壁際で、ラウルが黒い箱を開けた。


「……祝いの楽は、初めて弾く」


 葬送の楽師が祝いの席で弾くのを、この帳場の誰も聞いたことがなかった。流れた一節は送りの曲と同じ弦から出て、まるで違う色をしていた。

 グラントは筆を取って、台帳の空白に書き込んだ。

 ――十一番、リオ・アルクス。

 名前を書く欄のある帳面に、名前が載った。それをリオは、奇妙に長いこと眺めていた。


     ◇


「それと、もう一つ」


 宴が始まる前に、グラントは懐から薄い帳面を出して卓の上を滑らせた。

 商業ギルドの、預け帳だった。表紙にリオの名前がある。


「お前の給金だ。……学生バイトの手当の、残り全部」

「残り?」

「依頼料だ。覆面の仕事の分は、学生の相場を超える。超えた分は、全額ここに積んできた。十五の春からの、全部だ」


 リオは預け帳を開いた。

 開いて、最後の頁の数字を見て止まった。

 覗き込んだ詰所の連中が、順に凍っていった。


「……おい、桁」

「待て待て待て、俺の店が三軒買える」

「三軒どころじゃないわよ。王都の一等地に家が建つわ。庭付きの」

「一生遊んで暮らせるぞ、これ」


 騒ぎの真ん中でリオは預け帳を閉じ、しばらく考えて、言った。


「……飯には、困らないですね」


 帳場が、二度目の爆発をした。


「家が買えるんだよ!」

「一等地がな!」

「感想がまかないの延長なのよ、この子は!」


 ひとしきり笑われたあとで、グラントが言った。


「家でも土地でも、好きに買えばいい。……だがまあ、どうせお前のことだ」

「はい。飯は、ここで食います」

「知ってるよ」


 乾杯の声が上がって、宴が始まった。

 燭台の上で、あかりが宴の間じゅう一番明るく灯っていた。


     ◇


 後日、リオは一人で南へ行った。

 夏の初めの村の跡は、緑が濃かった。石碑の周りの草は刈られたばかりで、供えられた花が新しかった。広場の井戸の跡のそばでは、鹿が脚を畳んで眠っている。

 石碑の脇では留守番の灯りがまだ小さく灯っていて、ポケットから出たあかりと音のない挨拶を交わしていた。

 リオは石碑の前に膝をついて、手を合わせた。


「……十一番、もらいました」


 風が、葉を鳴らした。


「母さんの席、借りてます。……親父の席は、空けてあります。いつか、座るやつが来るまで」


 池の面で、水音が一つ跳ねた。機嫌のいい水音だった。

 報告は、それで全部だった。

 帰りの坂で、リオは一度だけ振り返った。足に残った癖の通りに。夕日はまだ高くて、石碑と池と緑の村が明るい光の中にあった。

 ――王都の十三番窓口には、新しい十一番がいる。

 依頼があれば夜を走って、糸を結び、誰も死なせない。依頼がなければ、帳場の隅の定位置で。

 今日も、良く眠る。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


「一体契約のテイマーと十三番窓口」、これにて完結です。

リオと十三番窓口の物語に、長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございました。


ブックマーク、評価、感想のひとつひとつが、この物語をここまで運んでくれました。心からお礼申し上げます。


それでは、また別の物語でお会いできますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。