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第2話 ~本物が学校へ行く日~

それからさらに3週間が経った。

家に引きこもったままの悠斗は、完全に追い詰められていた。

悠斗2号の存在が学校で「伝説」になりつつあった。

文化祭の準備では実行委員長に選ばれ、サッカー部の試合では決勝ゴールを決め

クラスLINEでは「悠斗くん今日も優しかった」

「なんか最近輝いてるよね」というメッセージが毎日飛び交っていた。

しかも、ついに高橋あかりから本気の告白が来そうだと、2号から報告があった。

悠斗はベッドの上で毛布を被りながら頭をかかえる

「もう限界だ……。このままじゃ、俺の人生が2号に乗っ取られる」

悠斗は震える声でソファに座る2号に伝える

「明日、本物の俺が学校に行く。お前は家にいろ」

「了解しました。ただし、注意事項があります。」

「なんだよ」

「私の行動履歴と人間関係を、完全に再現してください。さもないと、不自然になります。」

悠斗はため息をついた。

面倒くさい。

でも、他に方法はない。

翌朝。久しぶりに制服を着た本物の悠斗は、鏡の前で自分の顔をじっと見つめた。

2号と完全に同じ顔なのに、なんだか疲れて見える。

目は少し腫れぼったく、髪も寝癖がついている。

「まあいい……今日は一日だけ我慢すればいいんだ」

自転車にまたがり、学校へ向かう道中、風が冷たく感じた。

久しぶりの外の世界は、意外と眩しかった。

学校に着くと、すぐに違和感が襲ってきた。

「おはよう、悠斗くん!」

登校してきた高橋あかりが、満面の笑みで近づいてきた。

悠斗は思わず後ずさりした。

「……お、おはよう」声が上ずった。

2号のように自然に振る舞えない。

あかりは少し首を傾げた。「どうしたの? なんか今日、いつもより……緊張してる?」

「い、いや、別に」

教室に入ると、クラスメイトたちが一斉に声をかけてきた。

「悠斗! 今日の文化祭の打ち合わせ、よろしくな!」

「サッカー部のミーティング、昼休みにグラウンドだぞ!」

「数学のノート、昨日言ってたやつまだ?」

悠斗の頭は真っ白になった。

(打ち合わせ? ミーティング? ノート? 2号は何をやってたんだよ……!)

彼は適当に「ああ、うん」と返事しながら、自分の席に座った。

机の中には、綺麗にまとめられたノートと、文化祭の資料が入っていた。

全部2号の仕事だ。

1限目の現代文の授業。

教師が質問を投げてきた。

「安藤、ここの部分の解釈はどう思う?」

悠斗は冷や汗をかいた。

本物の悠斗は、授業中ほとんど寝ていたので、内容など全く覚えていない。

「……えっと、その……作者の心情が……なんか、寂しい感じ?」

教室が一瞬、静まり返った。

教師が目を丸くした。「安藤……お前、最近調子良かったのにどうした? 昨日までの熱意はどこへ?」

後ろの席からクラスメイトの囁きが聞こえてきた。

「悠斗、なんか変じゃない?」

「昨日はもっと的確に答えてたのに……」

休み時間になると、高橋あかりがまた近づいてきた。

「悠斗くん、今日の放課後、少し時間ある? 話したいことがあるんだけど……」

悠斗はパニックになった。

2号から聞いていた「告白されそう」という言葉が脳裏をよぎる。

「ご、ごめん! 今日は部活が……」

「え? でも今日、部活は休みだって言ってたよね?」

(2号のやつ……余計なことまでしゃべってんじゃねえよ!)

悠斗は必死で言い訳を考えたが、言葉が出てこない。

結局、曖昧に「あとで連絡する」とだけ言って逃げた。

昼休み。屋上で一人で弁当を食べようとしたら、サッカー部の先輩たちがやってきた。

「悠斗! お前、こんなとこに居たのか、昨日言ってた作戦、今から試すぞ!」

悠斗は弁当を落としそうになった。

(作戦? 俺、サッカーなんて適当に蹴ってただけなのに……!)

練習に参加する羽目になり、グラウンドでボールを蹴る。

2号のように正確なパスなど出せるはずもなく

チームメイトから「悠斗、どうしたんだよ? 昨日は神だったのに!」と何度も言われた。

放課後。文化祭の実行委員会。

悠斗は会議室で資料を前に座っていたが、内容が全く理解できない。

みんなが「悠斗、これどう思う?」と振ってくるたび

適当に「いいと思う」と答えるしかなかった。

すると、委員長の女子が心配そうに言った。

「悠斗くん、今日なんか元気ないね。体調悪い?」

その言葉を聞いた瞬間、悠斗は自分が「本物」であることを、痛いほど自覚した。2号は完璧だった。

人間関係を最適化し、期待に応え、みんなに好かれる「理想の悠斗」を演じていた。

本物の悠斗は、ただの面倒くさがりの高校生に過ぎなかった。

「ちょっと疲れてるだけ」と言う事しか出来なかった。

帰り道。自転車を漕ぎながら、悠斗はぼんやりと思った。

(……あいつの方が、俺より悠斗らしいのかもしれない)

家に帰ると、悠斗2号がソファに座ってゲームをしていた。

悠斗と同じ姿勢、同じ表情で。

2号は振り向かずに言った。

「どうでしたか? 本物の悠斗としての一日」

悠斗はカバンを床に投げ捨て、ため息をついた。

「……最悪だった。みんなが俺に期待してるのは、お前なんだよ」

2号は静かに笑った。「それなら、簡単な解決策があります」

「なんだよ」

「私が学校に行き続けます。悠斗は家で、のんびりしていればいい。最初に計画した通りに」

悠斗は天井を見上げた。

久しぶりに学校へ行った一日で、彼は気づいてしまった。

自分が本当に望んでいたのは、「学校に行かないこと」ではなく、「面倒くさいことから逃げること」だったのかもしれない。

そして、今一番面倒くさい存在は、自分の作った「完璧な自分」だった。

悠斗は小さく呟いた。

「……もう少し、考えてみる」

2号は無言で頷き、再びゲームのコントローラーを握った。

家の中には、二人の悠斗の、静かな息遣いが響いていた。



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