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19 初めてのお買い物

「ショータ、怪我人よ。」

図書館に居たらズンさんが来た。

いつもは他の職員なのでズンさんが来るのは珍しい。

ズンさんが急ぎ足で近寄って来たと言う事は、緊急事態らしい。

「魔獣に跳ね飛ばされて全身を打っているの。あちこちを骨折しているかもしれないわ。」

ズンさんの言葉を聞いて、すぐさまギルドに走った。

全速で走ったが、ズンさんは息も乱さずに付いて来る。

筋肉はあまり多くはなさそうなので、魔力操作の練度が高いのだろう。

ズンさん、恐るべし。

絶対に逆らわない様にしよう・



治療室に飛び込むと、ベッドにバンさんが寝ていた。

ベッドの横にはビンさん、ブンさん、ベンさん心配そうな顔で立っている。

「どいて下さい。」

俺の声を聞いて3人がすぐに横に動いてくれる。

ベッドの横で、バンさんの様子を確認した。

意識を失っているようだが、呼吸がかなり荒い。

「革鎧をそっと外して。」

ビンさん達に声を掛けた。

ビンさんがナイフで締め紐を切る。

ブンさんとベンさんが体を支え、ビンさんが革鎧をゆっくりと外した。

「服の前を開けて。」

ビンさんがバンさんの服をはだけた。

胸の所の形が一目で歪になっていると判るほど、ぐちゃぐちゃに変形している。

あちこちに内出血も有る。

たぶん、肋骨が何本か折れている。

呼吸が荒いのは、肺に突き刺さっている骨があるからだろう。



胸の骨格をイメージする。

背骨に胸骨、肋骨が12本。

折れた骨が元の位置に戻って、折れた所がくっつく。

傷付いた肺を治す。

周辺に傷があればそれも治す。

手順が複雑なのでイメージの固定が難しい。

折れた骨が元の位置に戻って折れた所がくっつく。

傷付いた肺を治す。

周辺に傷があればそれも治す。

出来るという手応えが感じられるまでイメージ作りを繰り返す。

重傷者の怪我を治すには、回復を発動する前にイメージをしっかりと固める事が大切。

きちんとイメージが出来ていないと、後遺症や傷跡が残ってしまう。

折れた骨が元の位置に戻って折れた所がくっつく。

傷付いた肺を治す。

周辺に傷があればそれも治す。

もう一度イメージを練り直す。

何となく治せるという手応えが感じられた。

良し。

バンさんの胸の上に両手を翳す。

「回復!」

気合を入れて魔法を発動する。

バンさんの胸がボワッと光った。



掌から俺の魔力がバンさんの胸に流れて行くのが見える。

そう、魔力が視えた。

恐らくいつもよりもずっと大きな魔力の流れだったから。

魔力が肺や周辺へもじわじわと広がって行くのが視える。

背骨や腰骨にも広がって行く。

背骨や腰骨も折れていたらしい。

俺の体から魔力がどんどんと吸い出されるのを感じる。

いつもよりずっと明るい光がバンさんの全身に広がっている。

じっと魔力の動きを追う。

脛や腕にもゆっくりと魔力が広がって行く。

いつもの何十倍もの時間が掛かっている。

どれくらい時間が経ったかは判らないが、魔力の流れがゆっくりと細くなって来た。

細くなって、細くなって、止まった。

光が消えた。

「ふぅ~っ。」

流石に疲れた。

体力もだが、ずっと意識を集中し続けたので精神的な疲れの方が大きかった。



「どうだ、バンは大丈夫なのか?」

ビンさんが心配そうに聞いて来た。

「多分大丈夫。目が覚めるまで付き添ってくれ。酒場に居るから、目が覚めたら呼んでくれ。」

ゆっくりと立ち上がって背筋を伸ばす。

首を動かすと、コキコキと音がした。

集中していたので体にも力が入っていたらしい。

後はベルンの灯に任せて治療室を出た。



一杯やりたいところだが、俺は10歳。

「おっちゃん、果実水1つ。」

酒場のカウンターで果実水を注文する。

「おう、銅貨2枚だ。」

時々冒険者さんに奢って貰う果実水。

銀貨を1枚おっちゃんに渡す。

「釣りは銅貨8枚だ。」

おつりと一緒に果実水の入った木鉢を渡してくれた。

「ありがとう。」

この世界に来て初めてのお買い物だった。



果実水を飲みながら、バンさんの治療を思い出す。

はっきりと魔力の流れが視えた。

自分の体に意識を集中する。

体の中を魔力が流れているのがはっきりと判る。

”腕に集まれ“

魔力が腕の筋肉に集まる。

”太腿に集まれ“

魔力が太腿の筋肉に集まる。

”足に集まれ“

足の筋肉全体に魔力が集まる。

何度も繰り返して体内の魔力を動かすイメージを体に叩き込む。

魔法が旨く発動した時は、イメージをすぐに体に覚え込ませる事が大切。

イメージは旨く出来た直後に固めないと、すぐ朧げになってしまう。

後で思い返そうとしても、“イメージは遠くなりにけり“で思い出せなくなる。

ショーワも既に遠くなっているのだ。

イメージはあまりにも遠すぎる。


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