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肝試し開始と男女の悲鳴

 僕と東さんが引いたくじは、10番だった。ここには10のペア(解消済み含む)がいるわけだから、僕らは最後の出発となる。

「最後って、なんかドキドキするね」

「そうね」

 東さんは平常運転で、暗闇に明滅する懐中電灯の光を見ていた。

 と、1つの明かりが僕の顔を照らした。まぶしさに顔を覆うと、「あー、やっと見つけた!」と聞きなれた女子の声がした。

「二見さん……」

「やっほ」

 懐中電灯を持っていない方の手を軽く振り、二見さんが笑顔で近づいてきた。傍らには背の高い、眼鏡をかけた男子がいた。見たことがない人だが、彼が二見さんの相手だろう。

「なになに、一ノ瀬くんは、見事千歳とペアになれたわけ?」

 僕と東さんを交互に見比べて、二見さんがニヤつく。「うん、まぁ…」と小さく返事をすると、二見さんは僕の耳元に顔を寄せた。

「頑張って好感度アップ目指してね!」

「いや、ええと……」

 たじろぐ。そんな僕を、二見さんはニヤニヤして見つめた。

 ……いま気がついたのだが、五十嵐と言い二見さんと言い、もしかして僕が東さんに、その、まあ、なんだ、お近付きになろうとしていることって、周知の事実なんだろうか。そりゃまあ、毎朝毎朝しつこく東さんに話しかけているのだからバレバレだとは思うが、改めて突きつけられると、かなり恥ずかしい。

「そ、それより、そちらの彼は?」

 僕は、二見さんの隣で困惑している男子を見た。

「私も初対面なんだけどね。えーっと……」

 二見さんは男子の顔を見上げた。

「3年の八木やぎです。よろしく」

 渋い声だった。着ているTシャツにも、毛筆で「港」と書かれていて、漢っぽい。何故港なのかはわからないが、海の男をイメージしているのかもしれない。

「2年C組の一ノ瀬です。僕のペアは同じクラスの…」

「東です」

 東さんがペコリ、と頭を下げた。辺りはざわついていたが、東さんの小さな声は、不思議と良く通った。

「みんな2年生か、そっか」

 八木さんは照れくさそうに、頭を掻いた。

「他に3年生っているんですか?」

「何人かいたぞ。あと、1年生もいるはずだ」

 顔広いな五十嵐くん。

「受験勉強しなくていいんですか?」

 二見さんの質問に、八木さんは苦笑した。

「勉強したら負けだと思う」

 真面目そうな眼鏡男子の見た目に反し、意外とダメな人なのかもしれない。

「二見さんたちは、何番だった?」

「私たちは9番。そっちは?」

「へえ、近いね。僕らは10番。最後だよ」

 肝試しだというのに、僕らの中には恐怖心がまるで無かった。周りもそうらしく、そこここで笑い声も聞こえる。

 しばしの談笑を楽しむと、「じゃあ、10分経ったから」と言って、2人組の男女が懐中電灯を振った。

「みんなー、行って来るねー!」

「先に屋上行ってるからなー!」

 行ってらっしゃーい、と17人が声をそろえて言った。相当テンションが上がっている。ちなみに声を出さなかった1人は東さんだ。さっきからずっと眠たげな表情をしていて、このまま寝てしまうんじゃないかと心配になる。そしたらどうなるのだろう。僕が抱っこして上まで運ぶのか。

 ……それはそれでありだな、とか思ってしまった。

「9番だと」と二見さん。「何分後に出発するの? 45分後?」

「いや」と八木さん。「男4人が1人ずつ行くから、12組になるんだろ? 俺らは11組目になるわけだから……」

「55分後か」

「50分後だと思う」

 小声で東さんが指摘した。

「え?」

「二見さん達の前には10組が出発して、1組ごとに5分空けるのだから、10組×5分で50分でしょ?」

「……あ、そっか、あはは、やだもー!」

 バシン!

 何故か二見さんが、僕の背中を力強く叩いた。

「いってっ!? 何するんだよっ!?」

「あはは、ごめーん!」

 意味がわからない。相当テンションの高い二見さんだった。

 それからまた5分が経ち、2組目が出発した。今度も男女のペアである。みんな、元気に2人を見送った。


 事件が起こったのは、その1~2分後だ。


「うわああああああああああぁぁぁーーーーーーーっ!!」

「きゃああああああああああぁぁぁーーーーーーーっ!!」

「!?」

 階上から、男女2人の悲鳴が聞こえてきた。

 途端に、昇降口を賑わせていた談笑が、ピタリと止む。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 全員、互いに顔を見合わせて、凍りついた。

「え、なに、いまの……」

 最初に口を開いたのは、二見さんだった。それを皮切りに、女子達が騒ぎ始める。

「いまのって、悲鳴?」「最初の2人の声だったよね」「うそ、やだ、怖い!」「五十嵐なに仕掛けたの!?」

 女子のざわめきが、次第に男子にも伝播していく。八木さんなんかは、既に真っ青になっている。

「東さん、大丈夫?」

 僕は傍らの東さんの顔を覗き込んだ。特に怖がる様子も無く、眠たげな表情を僕に向けた。

「千歳、怖くないの!?」

「そんなことは無いけど……」

 とてもそうは見えない。さすがクールキャラだ。

 3組目は、初の男ペアだった。なんだか顔が引きつっているが、最初の宣言どおり、1人で行くらしい。みんなから激励を受けながら、彼は旅立った。

 その、すぐ後に。

「ぎゃあああああああああああああああああっ!!」

「ひゃあああああああああああああああああっ!!」

 2度目の悲鳴が聞こえた。

「すごいね、五十嵐くん。いったい何を仕掛けたんだろう」

「そうね」

 素っ気無く答えてから、東さんは僕に顔を向けた。その表情に、わずかながら笑みが浮かんでいることに、僕は気がついた。

「……どうしたの、東さん?」

 東さんは赤い唇に弧を浮かべると、

「ちょっと、君にお願いがあるんだけど」

「え、なに?」

 もしかして、手をつないで欲しい、とかだろうか。

 期待に胸を膨らませたが、東さんのお願いは、予想だにしない内容だった。

「悲鳴の回数、数えてて」

 …………。

 はい?

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