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くじ引きとルール説明

 翌日の夜。午後8時少し前に、僕は学校へ向かって歩いていた。隣では、東さんが同じ歩調で歩いている。偶然、すぐそばの公園で出会ったのだ。東さんはこの近くに住んでいるらしく、駅とは全然違う方向から歩いてきた(ちなみに、僕は電車通学だ)。

「東さんって、この近くに住んでたんだ」

「ええ」

「どの辺?」

「すぐそこよ。……歩いて20分くらい」

 正確な場所は言いたくないらしい。あるいは、説明が面倒なだけか。僕は話題を変えた。

「東さんって、普段はそんな格好なんだ」

 当たり前と言えば当たり前だが、いまの東さんは私服だった。袖口にフリルのついた半袖のワンピースを着て、小さなハンドバッグを手にしていた。スカート丈は普段のセーラー服よりも長く、膝下まであったが、むしろこっちの方が彼女の落ち着いた雰囲気にあっていると思った。

「何か変?」

 抗議するのではなく、不安げに尋ねるような調子で、上目遣いに僕を見てきた。

「いや、すごく似合う。大人っぽい」

 早口で答えると、東さんは再び前を向き、無言で歩き始めた。


 裏口には、8時丁度に着いた。どうやら、僕たちが一番最後だったようだ。裏口前には、クラスメートや、見たこと無い奴(たぶん、隣のクラスとかだろう)が、男女合わせて20人近くいた。

「おっそいぞー!」

 遅刻はしてないはずなのだが。僕は苦笑で答えた。

「しかも……」

 五十嵐は、なにやら意味深な視線を僕と東さんに投げかけた。五十嵐の隣に立っている女子(この子は知っている。クラスメートの二見楓ふたみ・かえでだ)も、ニヤニヤと笑っていた。

「す、すぐそこで、たまたま会っただけだよ?」

 思わず言い訳してしまった。東さんは無言で、僕の隣に突っ立っている。表情を伺うと、いつも通りの眠たげな目をしていた。

「ま、いいや。警備員さーん」

 五十嵐が、裏口の門から身を乗り出して、中の警備員室に呼びかけた。警備員室にはまだ明かりがついている。そこから、1人のおじさんが出てきた。この学校の警備員で、僕も何度か見たことがある。おじさんは裏口を開けながら、

「これで全員か?」

「はい。全部で21人です」

 五十嵐が礼儀正しく告げた。……なんだ、ちゃんと許可取ってるんじゃないか。

「天文部だったな」

「はい!」

 前言撤回。

 僕の隣で、東さんが空を見上げた。残念ながら、街灯のせいで星空は見えない。半月と、わずかに明るい星が2~3個見える程度だ。

「ほい、じゃあ入っていいぞ」

 おじさんが門の前から退く。僕らは五十嵐を先頭に、ぞろぞろと中へ入っていった。

 旧校舎は、学校の敷地の一番端にある。正門より裏口から入った方が近いが、それでも5分以上歩くようだった。旧校舎が使われていた当時は、旧校舎とその周りだけが学校の敷地だったが、生徒数の増加とともに敷地を拡大。現在僕らが使っている新校舎や体育館が作られ、10年以上前に旧校舎は使われなくなったそうだ。

 旧校舎に着くまで、僕たちは適当に駄弁っていた。東さんは相変わらず無口だったが、僕はテンションの上がったクラスメート達に絡まれ、東さんに声をかける時間は無かった。

 チラチラと東さんの様子を伺っていると、横から二見さんが近づいてきた。明るい色のノースリーブのシャツに、これまた校則に触れない程度に明るい色のポニーテール。尻尾の下に覗くうなじや、肩口から覗く下着の紐が、妙に目を引く格好だ。二見さんは僕の耳元に顔を寄せると、

「千歳のことが気になるの?」

「なっ、ちがっ……」

 僕は飛びのいてから、慌てて否定した。ちなみに「千歳ちとせ」とは、東さんの下の名前だ。二見さんは相手が女子なら、誰彼かまわず下の名前で呼ぶ。母親のことも、下の名前で呼んでいるらしい。

「ふぅん?」

 口元をニヤつかせながら、流し目で僕を見る二見さん。なんだかこちらの心を見透かされているような気がして、僕は目を泳がせた。

 何か言葉にしようと思考を働かせたところで、五十嵐の声が響いた。

「着いたぞー!」

 二見さんが顔を上げた。僕も釣られて、前方を見る。

 目の前には、木造3階建ての古い建物があった。塗装はされておらず、木そのものの色だ。少し離れた道路の街灯だけが、校舎を照らしている。周囲は雑草に覆われていて、あまり手入れはされていないことがわかる。正面には昇降口と思われる大きな引き戸があり、そこに嵌まるガラス窓はひび割れていた。

「それじゃ、みんな。いまからルールを説明する」

 僕ら全員が話を聞く体勢になったのを確認すると、五十嵐が言った。

「この旧校舎には、みんなの知っての通り、1つの怪談が伝わっている。――そう、リボンの花子さんだ」

 五十嵐は背負っていたリュックを下ろすと、中から段ボール箱を取り出した。縦横30センチ程度の、割と大きな箱だ。一緒に懐中電灯を取り出し、それで自分の顔を下から照らす。

「さて。この箱の中には、こんなリボンが入っている」五十嵐は、箱から赤いテープを取り出した。「これから俺が、これを3階の女子トイレの一番奥の個室に置く。みんなは2人1組になってトイレに行き、リボンを取って屋上を目指す。たったこれだけだ」

 よくある肝試しだが、「2人1組」のところが作為的である。僕はちらりと、隣に立っている東さんを見た。

「じゃ、これからチーム分けをするから、みんなもう少し近づいてくれ」

 言いながら、五十嵐はリュックからもう1つ段ボール箱を取り出した。ティッシュケースを2つ重ねたくらいの大きさだ。

「この中には、それぞれ1から10まで書かれた紙が、2枚ずつ入っている。同じ番号を引いた者同士がペアだ。……ただし」

 みんなの興味を引くように、五十嵐が言葉を区切る。全員が五十嵐の顔に注目したところで、続けた。

「今日集まってもらったのは、俺を除くと、男12人、女8人だ。当然、男同士のペアも女同士のペアも、男女混合のペアも出来る」

 なんだよー、というブーイングが、一部の男から上がった。気持ちはわかる。

「ま、それを覚悟した上で、慎重にくじを引いてくれ」

 それじゃみんな、一列になってくれ、という五十嵐の号令で、僕たちは素直に列を作った。先頭の人から順に、くじを引いていく。まだ開くなよ、と五十嵐がしつこく言う。僕も2つに折られたくじを引いて、そのまま手の中に握り締めた。

 全員が引き終わると、せーの、で開くからなー、と五十嵐が言った。

「行くぞ。せーのっ!」

 バッ。

 僕が開いた紙には、大きく「10」と書かれていた。

「おい、誰だ1番!」「4番いるかー!?」「3ばーん……ってお前かよ!」

 一気にみんなのテンションが上がる。僕もあたりを見渡して、まずは東さんを見つけた。

「東さん、何番だった?」

「じょうようたいすうのてい」

「……はい?」

 いまのは何語だ?

 東さんは僕をじっ、と見た後、くじを表に返した。そこには、「10」が書かれていた。

「よっしゃっ!」

 思わずガッツポーズを作る僕。それをみて、東さんは怪訝そうに眉をひそめた。

「どうして私の番号を見て、君が喜ぶの?」

「だってほら」僕は自分の「10」を見せた。「僕たちペアだよ」

「……私とペアになりたかったの?」

「えっ!? あっ、う……」

 眠たげな目で、ジトッと見つめられ、僕は言葉に詰まった。

「だってほら、あんまり話したことのない人たちばっかりだったから……」

 視線を逸らしながら答える。東さんは「そう」とだけ小さく答えた。

 ちなみに視線を逸らした先に五十嵐がいて、彼は僕と目が合うと、グッと親指を突き出した。……もしかして、あいつ何かやったのか?


 出来上がったペアは、見事と言うべきか、男女混同ペアが8組と、男同士ペアが2組だった。男同士のペアになった4人は、みな愕然とうな垂れていた。

「なんでお前となんだよー!」

「こんな奴と一緒に行けるか! 俺は1人で行く!」

 死亡フラグが立った。

「なあ五十嵐ー! 1人で行っていいか?」

「別にかまわないけど」五十嵐はリュックの中に手を突っ込むと、ビニール袋を取り出した。「懐中電灯は、10本しかないぞ?」

「ケータイあれば平気じゃね?」

 五十嵐に抗議した男子が、ズボンのポケットからケータイを取り出した。五十嵐も、特に止める様子はなさそうだ。

「じゃあ、これから各ペアに1本ずつ懐中電灯と、校舎の地図を渡す。各ペアは、この地図に示された道順どおりに、屋上を目指してくれ」

 受け取った懐中電灯で、地図を照らす。3階建ての校舎の見取り図が描かれていた。

 校舎は東西に伸び、北側に廊下、南側に教室が並んでいる。昇降口はちょうど中央の北側にあり、階段は中央と両端の3箇所にある。示されたルートは、やたらと遠回りを要求するものだった。まず中央の階段を2階まで上り、廊下を歩いて西端へ。そこから3階に上って、東端にある女子トイレを目指す。トイレの一番奥の個室にあるリボンを取ったら、そのまま東端の階段で屋上を目指す。

 地図は余分にコピーしてきたようで、1人で行くと宣言した男4人も含め、全員分ちゃんと行き渡った。

 全員がルートを確認したところで、五十嵐が大きなリュックを背負って、昇降口の引き戸を開けた。五十嵐が中に入り、僕らもそれに続けて中へと入っていった。

 旧校舎の中は、予想以上に暗かった。何人かの女子が、早くも悲鳴を上げる。街灯の明かりも、月の光も届かない校舎内は、人影がうっすらと見える程度で、懐中電灯なしでは足元すらおぼつかない。何人かが短い悲鳴とともに、転んだようだ。

「東さん、いる?」

 懐中電灯は僕が持ったままだった。慌ててそれを左右に振り、無口で小柄な少女を探す。

「こっち」

 声を頼りに懐中電灯を向けると、いつも通り眠たげな表情の東さんがいた。特に怖がる様子も無く、淡々としている。

「それじゃあ、みんな」

 五十嵐が、自分の顔に懐中電灯を当てながら言う。

「出発する順番は、くじの番号順だ。1番から順に出発してくれ」

「俺ら同じ番号だけど?」

 ペアを解消した4人のうち1人が言った。五十嵐は「あー」と頭をかきながら、「ま、そこは適当にやってくれ」と言った。

「で、だ。いまから俺が、さっきのリボンを3階の女子トイレに設置してくる。俺が出発して10分経ったら、最初のペアが出発してくれ。あとは、5分ごとでいい。何か質問はあるか?」

 特に無いようだ。五十嵐は、

「では諸君、健闘を祈る!」

 と言って出発した。……何と闘うのだろう。やはり、どこかイタい奴だった。

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