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第2章 第1節 あの不思議な浄化体験から数日後。ミオは無心で資料整理を続け、地下室を整然とした空間へと変貌させていた。そこへ、社内で冷徹なエースと恐れられる監査部のレイが現れる。

第2章 エースの驚愕と検索機能


第1節 あの不思議な浄化体験から数日後。ミオは無心で資料整理を続け、地下室を整然とした空間へと変貌させていた。そこへ、社内で冷徹なエースと恐れられる監査部のレイが現れる。


 あの日、謎の毛むくじゃらな『おつまみ』によって私の心に渦巻いていた嫉妬や絶望といった黒い澱が完全に浄化されてから、数日が経過していた。

 他者からの評価や地位への執着、理不尽なマウントといった世俗の欲求から解放された私の心は、相変わらず澄み切った水面のように穏やかだった。

 左遷先である地下資料室での毎日は、傍から見れば孤独で過酷なものかもしれない。しかし私にとっては、過去の人々が繋いできた仕事の軌跡を辿り、それを美しく整理していくという至福の時間へと変わっていた。

 驚異的な集中力と情報処理能力は衰えるどころか、日を追うごとに研ぎ澄まされていった。

 天井まで無秩序に積み上げられていたカビ臭い段ボールの山は、私の手によって中身を確認され、プロジェクトの年代や規模、地域ごとに新しいファイルボックスへと移し替えられた。スチールラックの配置を変え、ラベルを貼り、誰もがすぐに目的の書類に辿り着けるよう物理的にも整頓を進めた。

 かつて「姥捨山」と揶揄されていた薄暗いゴミの山は、今や図書館の書庫のように整然とした美しい空間へと変貌を遂げていたのである。

 その日の午後。私がパソコンに向かい、いつものように無心で過去の請求書データをエクセルに入力していた時のことだった。

 ギギギッ、と重い鉄扉が軋む音を立てて開いた。

 普段は清掃の業者すら寄り付かないこの地下室に、珍しく来客があったのだ。

「……こんな場所まで、なんの用事だろう」

 私はタイピングの手を止め、入り口へと視線を向けた。

 そこに立っていたのは、長身で隙のないオーダースーツに身を包んだ男性だった。整った顔立ちは彫刻のように冷たく、鋭い眼光がレンズの奥で光っている。

 私は小さく息を呑んだ。

 彼の顔には見覚えがあった。というより、この大都ゼネコンの社員で彼の顔を知らない者はいないだろう。

 レイ・カイドウ。三十歳。

 会社のあらゆる不正を監視・摘発する監査部において、若くして部長の座に就いた「冷徹なエース」である。情実や社内政治に一切流されず、どんな大物の不正であっても容赦なく切り捨てるその手腕から、社内では『氷の監査官』と恐れられている人物だった。

 ヒエラルキーの頂点近くにいる彼が、なぜ最下層の地下資料室などに足を運んできたのだろうか。

 疑問に思いながら立ち上がると、レイ部長は怪訝そうな顔で室内を見回していた。

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