ー第2節 姥捨山と呼ばれるゴミ捨て場を想像していたレイは、整然と分類された美しい資料室を見て言葉を失う。彼が求める三十年前の資料に対し、ミオは作成したデータベースを開く。
第2節 姥捨山と呼ばれるゴミ捨て場を想像していたレイは、整然と分類された美しい資料室を見て言葉を失う。彼が求める三十年前の資料に対し、ミオは作成したデータベースを開く。
「……ここは、本当に旧資料室か?」
レイ部長は、信じられないものを見るような目でスチールラックの列を眺めた。
彼の声は低く、よく響いた。
「はい。特務や過去のプロジェクト資料を保管している地下資料室ですが……何かお探しですか?」
私が答えると、彼はハッとしたように私へ視線を移した。
「君が、ここの管理者か。監査部のレイだ。過去のプロジェクト資料の原本を照会したくてね。正直、ただのゴミ捨て場だと聞いていたから、埃まみれになる覚悟で来たんだが……見事に整理されているな。業者が入ったのか?」
「いえ、私が一人で整理しています。まだ全体の三割程度ですが」
「一人で……これを?」
レイ部長はわずかに目を見開き、綺麗にラベリングされたファイルボックスの背表紙を指でなぞった。彼の指先に、埃一つ付着していない。
その事実が、彼に少なからず驚きを与えたようだった。
「それで、本日はどの年代の資料をお探しでしょうか?」
私が尋ねると、彼は本来の目的を思い出したように表情を引き締めた。
「一九九〇年代、バブル崩壊直後に手掛けた『湾岸エリア再開発プロジェクト』の関連資料だ。特に、当時の下請け業者への発注履歴と、資材調達の決済書を探している。だが、三十年も前の紙資料となると、さすがにすぐには……」
「一九九〇年代の湾岸再開発ですね。かしこまりました」
私は迷うことなく自分のデスクに戻り、使い古されたノートパソコンの前に座った。
「おい、どこへ行く。段ボールを探すんじゃないのか?」
「いえ、紙の原本をお出しする前に、該当するデータの目星をつけます。こちらへどうぞ」
私は画面の端で動かしていたエクセルを開き直した。
レイ部長は怪訝な顔のまま、私の背後に回ってパソコンの画面を覗き込んできた。彼の纏う微かな高級コロンの香りが、埃っぽい地下室の空気を一瞬だけ上書きする。
「データ? 情報システム部のサーバーには、二〇〇〇年以前の電子データは残っていないはずだが。君が独自に目録を作っているのか」
「目録というよりは、ちょっとした検索表のようなものです」
私はキーボードを軽く叩き、独自に組んだ検索窓に『湾岸再開発』『一九九〇〜一九九五』という条件を入力し、エンターキーを押した。
瞬間。
画面が切り替わり、膨大な数字と文字列が瞬時に並び替えられ、一つの巨大なシートとして展開された。
それを見たレイ部長の呼吸が、ピタリと止まったのがわかった。




