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〇 第2話 エルフと人間と異世界人(わたし) ―7

 ルィイはニッコリと笑って、私の手からやさしくミカンの房を取り上げると、私の口の中に放り込んだ。

 うわ。やっぱり不味いじゃないか。甘味よりも苦味のほうが強い。子供に苦い薬を飲ませるためのゼリーみたいな味だ。いや、実際、私はあれを使って薬を飲んだことはないけれど、でも、そんなイメージの味だ。

「言の葉の精霊の指輪っていうの。これ、エルフ族の三十七の秘宝のひとつだから、絶対になくさないでね」

 ルィイが私の左手の人差し指に、その指輪を通してからそう言った。

「え、え、ええっと……」

 絶対になくしてはいけないような貴重なものを、昨日会ったばかりの人間に渡すんじゃない。

 そう言いたかったけれど、美人に手を取られて指輪を付けられるという状況に動揺しすぎて、言葉が出ない。なんだこれ。ルィイが男だったら、少女漫画のワンシーンみたいだ。

 というか、言の葉の精霊の指輪ってなに? 急にファンタジーな名前のアイテムを出してきたな。

 エルフ族の三十七の秘宝とかいうのもちょっと中二病というか……。絶対に作者は三十七個も内容を考えてないだろ。

 三十七個ぜんぶ出せるくらい、この投稿が続くといいね。

「この指輪をつけていれば、誰とでも自分の言葉で会話ができるようになるの。だからユリコは、これを付けていた私の言葉はわかって、アルスルさんの言葉はわからなかったのよ」

 ええっと。想像をはるかに超えるとんでもないアイテムだった。私の世界では自動翻訳とか言われている技術だ。それって今まさにAIとかが頑張ってやろうとしているところだと思うのだけれど。

 このマジックアイテムのおかげで私がルィイとまったく違和感なく会話できていたことを思うと、私の世界よりもはるかに進んだ技術だ。トイレもないような非文明的な世界で、私の世界を超えているものは鳥の大きさだけだと思っていたが、魔法という異世界モノの定番要素はしっかりと押さえてあるらしい。

 異世界モノの定番というか、ご都合というか……。

「ああ。今朝、川の水浴びしてるとき、全裸なのにこの指輪をしたままだったのはそういうことだったんだね。私がいつ起きてくるかわからないから、いつ来ても話せるようにしてくれていたんだ。ありがとう」

「ううん。違うよ。その辺においていたら、森の動物たちに持ってかれちゃうから」

「……ごめんなさい。自意識過剰でした」

 一瞬で頬が赤くなったのが自分でもわかった。そりゃエルフ族の三十七の秘宝なんだもんね。カラスに飲み込まれでもしたら大変だ。この世界にカラスがいるのかは知らないけれど。

「だとしたら、やっぱりそんな大切なもの、借りられないよ。わたし、なくさない自信がないよ」

 私は指輪を外してそう言ったが、どうやら本当に外したら言葉が伝わらないようで、ルィイは笑みを浮かべて首を傾げた。

 また馬鹿っぽいことをしてしまった。私はもう一度指輪を右手の薬指に付けなおして、ルィイに向き直った。

「これ、大切なものなら、私なんかに渡さないで。もし私がこれを盗んでどこかに持って行っちゃったらどうするの」

 私は当たり前の防犯意識を述べたつもりだったのだが、ルィイはそれを聞いて、うふふと声をあげて笑った。

「いいえ。ユリコはそんなことしないわ。あなたは他人から物を盗むなんてこと、絶対にできない人よ」

 昨日会ったばかりで、私の何を知っているっていうんだ。

 そう言ってやりたかったけれど、昨日会ったばかりのルィイの胸で大泣きした上に、恥も外聞もなく胸の内をさらけ出したのは私のほうだった。その節はお世話になりました。


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