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〇 第2話 エルフと人間と異世界人(わたし) ―3

 少し軽率な発言だっただろうか。決してエルフという種族を馬鹿にしたわけではなく、私の中のエルフ観を率直に口にしてみただけなのだが、よく考えたら、私は実際にエルフを見たことも話したこともないのだ。この世界のエルフがどういった物の見方をしているのか知っているわけではない。

「ちなみにエルフって寝るの?」

「どういう意味? 家にベッドがあったでしょう? 昨日もあなたの横で寝たわよ。あなたが起きる前に起きたけれど」

「えっ。あ、ああ。そうなんだ……」

 中つ国のエルフは寝ないという話を思い出したので、いちおう聞いてみが、どうやらこの世界の創造主はJ・R・R・トールキンではないらしい。

 というか、そんなことよりも知らないうちにルィイと寝所を一緒にしていたということが衝撃的だ。たしかにあの家では他に寝る場所などないから仕方がないのだろうけれど。そんなにあっさりと言われると、正直びっくりする。

 今日の夜も一緒なのかな。……って待て。なんで私はこんなにドキドキしているんだ。

 いやいや。他人と一緒に寝ることに不安を感じているだけだってば。いびきとか聞かれていたら恥ずかしいもんね。

「確かに、エルフって自然のものを大事にする傾向はあるのよね。でも、品種改良の是非を問う話でそれよりも本質的なのは、人間はその場にあるもので満足しないっていうところにあると思う」

 ひとりで勝手に懊悩している私をよそに、ルィイはなんだか妙に哲学的というか、難しい話を続けている。私は彼女とそんな話がしたいわけじゃないのに。

 だったらどんな話がしたいんだと言われると、答えるのは難しいのだけれど。

「エルフだって、何かを工夫してよりよいものを作ることはあるわ。でも、人間は工夫のレベルが飛びぬけている。絶対に他の亜人には考え付かないようなことを、考え付いてもやろうと思わないことを、平気でやってしまう」

 他の亜人という言葉が出るということは、どうやらこの世界にはエルフ以外にも、人間に似た種族がいるということらしい。トールキン的にはホビットとかドワーフとかだろうか。

 あるいは、定番の闇の種族みたいなものもいるかも。もしも魔族を統べる魔王がいるのなら、異世界から来た私はそれを倒す運命を背負わされているのかもしれない。

 絶対に無理だけどね。それこそ死んでしまう。

 ああ勇者よ、死んでしまうとはなさけない。自殺はもっと情けない。

「そんな人間の飽くなき欲求があればこそ、この世界で人間は、他の種族を圧倒するほどの支配領域を獲得しているのでしょうね」

 ルィイはそう言って、納得したようにうんうんと頷いた。

 私の世界では人間以外の亜人族とやらは当然いないわけだけれど、それが理由かはわからないが、人類は世界の全てをその手中に置いていると言っていいほど支配している。

 逆に言うと、この世界が私の世界よりいろいろなところで劣った文明力であるのは、どうやら人間以外の種族がいるというところに理由がありそうだ。

 だとしたら、私の暮らしやすい世界にするために、人間以外の種族にはもう少し遠慮して生きてほしいところだ。エルフであるルィイの前でそんな差別的なことはとても口に出せないが。

「……そういえば、ルィイは私と出会ってすぐに私のことを異世界人さんって呼んだけれど、どうしてわかったの? 異世界人って言葉があるということは、この世界には私以外にも異世界から来た人がいるってことだよね?」

 もっとも、異世界人という言葉があれば異世界人がいるという理屈が通るのなら、私の世界にも異世界人が来ていないとおかしいことになる。当たり前だけれど、残念ながら私はそんな話は聞いたことがない。

 ……いや、聞いたことはあるな。『はたらく魔王さま』とか『パリピ孔明』とか。逆異世界転生ってやつだ。そんなジャンルがあるのかは知らないけれど。

「そうね。昔から、空から落ちてくる者は、他の世界からやってきた選ばれし者であるっていう話は、よく聞くわね。だから私はあなたが異世界人だってわかったの」

 私はいったい何をもって選ばれたのか。当の本人だが、まったくもってわからない。もし神様なる存在がいて、意図的に私を選んだのなら、ぜひ理由を聞いてみたいところだ。


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