〇 第2話 エルフと人間と異世界人(わたし) ―2
「凄いね。話に聞く人間の大国、百年王国の王都みたい。私、一度でいいから王都に行ってみたいんだ」
この世界でも上下水道が整備されている都市があるのか。もしそれが本当なら、私もぜひ行きたい。いや、行きたいという希望だけでは済まされない。行くべきだと断言できる。なぜならそこでなければ私は死んでしまうからだ。
「ちなみに、その王都っていうのは、どこにあるの?」
「うーん。私も詳しくは知らないけれど。ここからだと馬車で十日くらいと聞いたことがあるわ」
「馬車……」
全然距離がピンとこない。馬車って車よりどれくらい遅いのだろう。
というか、異世界ってもっとこう、ファンタジーな移動手段があるものじゃないのか。瞬間移動できるワープ地点とか、空を飛ぶとか……。
「あ、空を飛ぶといえば……。あの鳥に乗って行けばもっと早くつくんじゃないの?」
昨日ルィイが乗っていたあの巨大な鳥は、空から落下する私を受け止めた時、とんでもない速さで飛んでいたように思う。あれだけの速度が出せる乗り物があるのなら、利用しない手はないだろう。
「あの鳥って、グリムのこと? そんなの無理よ。あの子は乗り物じゃないんだから」
私の安易な言葉に、ルィイは首を横に振った。
「昨日はグリムがすごく機嫌がよかったから、夜のお散歩に一緒に連れて行ってもらえたけれど、普通は人を背に乗せて飛ぶなんてしてくれないわ。ましてや、運ぶためだなんて、彼のプライドが許さない。それに、グリムはあの森の主だから、森から離れることはないの」
ペットの鳥をルィイが散歩させていたわけではなく、ルィイのほうがあのグリムという怪鳥の散歩に付き合わせてもらっていたらしい。そういうところはかなりファンタジーな世界観だ。
しかし、ルィイのペットではないと言うのなら、起きたばかりの私を川に連れて行ってくれたあの鳥はかなり紳士的だ。今後出会えるのかわからないけれど、出会えたらお礼を言わなければならないだろう。通じるかはわからないけれど。
「他には? あなたの世界にあって、この世界にない物、もっと聞きたいな」
ルィイは私の世界に興味津々といった様子である。
「うーん。実を言うと、果物はもっと美味しいよ。品種改良って言って、おいしい種類を掛け合わせたりして、よりおいしい種類を作るんだ。収穫量とかもそれで増えているはず。詳しくは私もしらないけれど」
「へぇ。じゃあ、さっきの朝ご飯は美味しくなかったんだ?」
「……うん。実は、あんまり」
「やっぱりね。口に入れた時、変な顔していたもの」
どうやらばれていたらしい。そんなに変な顔だったのだろうか。つくづく嘘がつけない性質なのだ、私は。
しかし、トイレと同じように、食べ物事情も深刻である。私がこの世界で生きていくならば、まずい食べ物も食していかねばならないだろう。そして水も。
うーむ。やっぱり死んじゃおっかな。私、この世界で生きていける気がしないや。
「それにしても、人のエゴにあわせて果実の性質を変えるなんて、ずいぶんと人間本位なのね……」
「……エルフっぽい発言だね」
かなり後になって知った話なのだけれど、私の世界ほど発展はしていないものの、この世界にも品種改良という概念は既にあるらしい。特に私の世界で小麦や米にあたる主要作物は病などに強い種を掛け合わせた品種を生産しているということだ。
そもそも、私の世界でも品種改良というのは紀元前から行われている行為なのである。それを人間のエゴと表現するのは、かなり過激な思想ではないだろうか。
「うーん。私がエルフだからそう思うのかな? 別に人間本位であることを否定したいわけじゃないのよ」
私の言葉に、ルィイは首を傾げた。




