こうしょう
「……なるほど、そういった事情で戦になるというのですね」
会議の翌日。応接間のソファーに座るサザビーを前に、俺とマクベスは冷や汗を流していた。
現状の説明をしにサザビー商会を訪れ、そしてし終えた今、どのような反応が帰ってくるか気になって仕方ない……だけではない。むしろ、わけではない。別の理由があって、冷や汗が止まらない。
「この領で商売をする者としては、そのような情報、もっと早くに知りたかったんですがね」
サザビーに冷たい目を向けられて、より冷や汗が冷たくなったように思えた。
隣に座っているマクベスに視線をやると、明らかに逸らされる。君主を守る気概がない家臣の頼りなさに内心で嘆きつつ、君主らしさのない情けない笑みをサザビーに向けた。
「現状を把握する時間が欲しく……」
「そうであっても、ある程度の説明は出来たのではないですか? 少なくとも私が門前払いされた日のどれかは」
「申し訳ございませんでした」
俺とマクベスは深々と頭を下げた。
馴染みの商人相手に、ここまで低く出るのもどうかと思ったが、そんな考えはすぐに消えた。
サザビーからの『状況を説明してくださいませんか?』というお願いに「最速で明後日答えるよ」と2、3回答えたのである。自分でしたことながら、怒られて当然だと思う。
「私は、一生、明後日にならないのかと思いましたよ。明日はくるのに、明後日はこない世界、どうでしょう? 物語にすれば売れそうでしょうか?」
「ははは、それはチープだけど、売れそ……いや、ごめん。ほんと、すいません」
サザビーの目が冷たすぎて、笑ってごまかす方向から、謝る方向へ軌道を戻した。
それからもペコペコし続けていると、サザビーはふいに立ち上がった。ドアまで行ってノックをすると、扉が開いて使用人が部屋に入ってくる。
「お客様、どうぞ」
使用人はそう言って、紅茶の入ったティーカップを俺たちの前に置く。そしてくるりと踵を返して、部屋から出て行った。
目の前で湯気を立てる茶を見て戦慄する。
毒とか入っていないよね?
疑うのは、サザビーを怒らせたって理由だけじゃない。暗殺される可能性が大いにあるからだ。
今の情勢において、俺の価値は高い。数日前に嗅ぎつけていたのだから、もう既にサザビーが情報を掴んでいてもおかしくはなく、ドレスコード家の当主を崩すことを条件に、オラール家と既に取引している可能性もあるのだ。
そういった事情を鑑みて、護衛にマクベスを連れてきたわけだけど、
「……マクベス?」
マクベスの顔を見ると、首を振られる。飲んではダメ、というより、毒味をしたくない、ということだろう。ほんとつっかえ。
「別に毒なんか入ってませんよ」
冷たい口調でそう言われた。気まずすぎて、愛想笑いも出ない。ただただ目を伏せる。
一体どんな顔をしているのだろうか。
サザビーからすると、怒り心頭の中、出したお茶に毒が入ってないか怪しまれたのである。怒りを通り越して、こいつらは正気か、と思っているかもしれない。
地獄のような無言の空気がしばらく続き、やがてサザビーのため息が静寂をやぶった。
「クリス様、本題に入ってください」
サザビーに問われて、顔をあげる。まっすぐに目を向けられており、緊張に体が強張った。
たしかに、本題はある。それも一つ目にやらなければならないこと、大金を得るための策だ。
交渉に失敗することは許されず、話題を切り出すには、相手が受け入れやすい雰囲気の時の方がいい。少なくとも、正気を疑われている時にすべきじゃあない。
どうすべきか迷っていると、サザビーは口を開いた。
「出された茶にすら警戒する。つまりは、危険を冒してまで、私に会いに来る価値があるのではないですか?」
どうやら全て見抜かれており、正気であることも理解されているようだ。だとしたら、誤魔化さず、本題を切り出し方がいい。
俺は頷いて、口を開く。
「そうだよ。今日、訪れたのは頼み事があってね」
「頼み事ですか?」
「実は、戦争するにあたって大金が欲しいんだ」
そう言うと、サザビーは「はあ」と息をはいた。
「そんなとこだと思ってましたよ。戦争することになった領主が商人訪れるのです。それしかないでしょう」
サザビーは「それで」と続ける。
「借金しにきたというわけですか?」
「貸してくれるの?」
「危険と見返りが見合ってませんので」
「だよねえ」
やんわりと、借金の申し込みは断られてしまう。それもそのはず、得られる利子は微々たるものでしかなく、勝つか負けるかわからない領主に金など貸せるはずがない。莫大な利子をつけるというなら話は別だが、それでも安定択をとるのなら絶対にしない取引だろう。
「案外、すんなりと呑み込むのですね。頼み事は別のことでしょうか?」
頷いて質問に答える。
「ああ。税金を徴収するために、議会を興したくて。それについて、サザビーに協力して欲しいんだよ」
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