今後
俺は頬を摩りながら廊下を歩いていた。
ミストに打たれた頬がひりりと痛む。というよりは、アリスとクレア……いや主にクレアのビンタが後を引いて痛んでいる。
振られてしまった……。こうなる事は予想出来ていたが、それでも気分が落ち込む。こんな答えでも、必死で考え、言葉通り命懸けで見つけ出した答えなのだ。本気だったのだから、拒絶されて後を引くのは仕方ない。
だが、くよくよしたままではいられない。皆に対しては、これから努力して納得させるくらい惚れさせればいいのだ。そんな方法は検討もつかないけれど、自分がその気持ちになれたのだから、どこかに答えはあるだろう。
今しなければいけないことは、今後の行動を決めることだ。オラール家がどう出てくるか、何をしてくるか、どう対策するか、考えるべきこと、やるべきことは山積みになっている。
一つ一つ片付けていかなければいけないけれど、早くしないと間に合わなくなるものもある。まずは状況の整理をしなければいけない。
「あ、クリス様……また振られたのか?」
廊下を歩いていると、書類を抱えたハルと出会った。
「ああ、ハル。ちょうど良かった。ミストが回復したからさ、今日の夜にでも会議を開けない?」
「まあ、大丈夫だ。子爵家の面々には俺から声をかけておくよ。ところで、また振られたのか?」
「ありがとう。都合の良い時間を聞いといて。3人には俺から聞いとくよ」
「わかりました。後でまた部屋に行くからその時に時間を合わせよう。それはさておき、振られたのか?」
「うるせえ!! 敢えて無視してるんだから聞いてこないでくれ!」
しつこさに耐えきれず、つい怒鳴ると、ハルはくつくつと笑った。
「いや〜、すまねえ、クリス様。昨日妹から聞いてさ、冗談みたいな話なのに、クリス様は本気なのが面白くって、ついからかっちまったよ」
「本気だから傷ついてるんだよ……」
「わりい、わりい。その辺のことは互いに区切りがついてるんだろ?」
「うん。まあ、皆には振られたけど、それが理由で家に迷惑がかかったり、今後不利になることはないと思う」
皆には拒絶されたけれど、関係が悪くなるような感じはしなかった。そう思いたいだけかもしれないけれど。
「じゃあ、俺たちが言うことはねえよ。元々は寂れた子爵家の当主だったんだ。初めっから無理な話だよ」
「うっ、不相応だっていうのはもう、重々承知だよ」
俺がそう言うと、ハルは「まあ、若くて可愛い女の子だから仕方ねえわな。応援するぜ」と笑った。が、すぐに表情が強張り、どこか追い込まれたような顔つきに変わる。そして俺の後ろに目を向けながら早口で話しだす。
「うそうそ、冗談! クリス様ったらおっちゃめー! 冗談を本気にしちゃった? 嘘だよ、わかって欲しいな! ねえ、本当に本気にしてないよな? 今からちゃんと証明するから! クリス様には、手近で行き遅れたじゃなくて、一周回って旬な女性がぴったりだって。いや本気でもらってくれると少しは丸くなる筈だから嬉しい、じゃなくてもらうべきだ! その女性をもらうと良いことある! えとえと多分、風水的に良くなるぜ! 運気とか上がって金持ちになれるし、素敵な恋人もできるし良いことずくめだ!」
「ど、どうしたんだハル!? 意味がわからない!?」
その時、真後ろから声をかけられる。
「クリス様、そして兄さん。随分と楽しそうなお話をしていますね?」
なぜか冷たいものが背筋に走る。
俺は振り返らないまま口を開く。
「ユ、ユリス。いつからそこに?」
「クリス様が思ってるより前からですよ」
季節外れのホラーなセリフを聞いて、慌てて話題をそらしにかかる。
「そ、そうだ。今夜会議を開こうと思うんだけどさ、皆は今どこにいるかな?」
「わかりませんが、クリス様が看病から帰ってきた時に後ろにいましたよ」
「なんで!? どうして後ろにいるんだよ!?」
尋ねたが答えは返ってこず、代わりに「今夜の会議、承知いたしました」という声と遠ざかっていく足音が聞こえた
。
次回は明日の22時登校です。プロットできましたので、明日から本編進みます。





