閑話 帰宅3
すみません、かなり遅くなりました。
風呂から出て、急いで服を着る。袖を通しきらないまま、廊下を歩く。
会議室の扉を開くと、ユリスとハルがテーブルを挟んで向かい合わせに座っていた。
「ごめん、遅くなった」
俺がそう言うと、ハルは苦笑する。
「そんな慌てなくてもいいのによお。どうせ、クリス様のことだ。どうしても3人娘を連れて逃げ帰らなきゃいけない状況に追い込まれたんだろう?」
「いやまあ、そうなんだけど」
「だったらそう慌てなくても良いじゃねえか。これから対策を考えないといけないんだから、ゆっくり、落ち着いて、話を纏めた上で、正確に話すことの方が大事だぞ」
「いやまあ、それはそうなんだけどさ……」
ハルに正論を突きつけられ、バツが悪くなる。
だけど、早く話したい、という感情は変わらない。ユリスとハルには、俺が責められることを恐れて弁解を急いでいる、と思われているかもしれない。でも、そんな気持ちは一切ないのだ。
「わかってくれているのは、本当に嬉しいんだけど、ただ単純にスッキリしないから、話してもいい?」
ハルとユリスは肩をすくめた。
「まあクリス様が、すぐに話したい、と言うのなら、私達にも損はないですし」
「それはそうだな。じゃあ、クリス様、話してくれ」
二人の優しさに感謝して、椅子に座らず、立ったまま話しはじめる。
「ありがとう、どうして今にいたるかってことなんだけど……」
ハルとユリスに順を追って説明し、全てを話し終えると、ため息が返ってきた。
「はあ。なるほど、クリス様が嵌められた、というわけですね」
「それで、命からがら逃げ帰ってきた、と」
「うん、本当にごめん」
俺が謝ると、ユリスは首を振った。
「起きたことは仕方ありません。対策を考えるだけです」
それに、とユリスは続ける。
「謝罪は無用です。クリス様が悪いわけではありませんので」
「そうだぞ。謝ることじゃねえし、謝っても仕方のないことだ。元々、そんなとこだろう、って思ってたしな」
ユリスの言葉に便乗してハルがそう言った。
そんなハルとユリスに、やっぱりだ、と思う。だからこそ俺は謝る。
「いや、それでも謝らせて。本当にごめん」
ハルもユリスも俺を信頼してくれている。それに、俺が悪い、と思ってないし、仕方のないことだ、と割り切っている。
でも、気にならないわけがない。
今後、オラール家と戦になるかもしれない。命が危ぶまれる状況に変わるかもしれない。そんな不安に襲われていることだろう。
理不尽に悪化する環境とか、ほかにも内心思うところはあるはずだ。だけど、俺を責められないし、仕方ない、と割り切るしかない。そして行き場のない憤りを抱えこまないといけない。
そんな感情とうまく付き合っていくのが大人だけれど、それが普通、と済ましたくない。俺は信じてくれた人にそんな思いを抱えさせたくない。
だから責められないことに、スッキリせず、自慰行為にすぎないけれど、早く謝りたかったのだ。
「はあ……」
またも二人からため息が返ってきた。それに、めんどくさそうな目で見られる。
「うっ、言いたいことはわかるけど、謝らせて欲しいんだ」
俺がそう言うと、ユリスが「もういいです。わかりました」と言って続ける。
「仕方ないから聞きますよ」
「あ、ありがとう。えっとまずは心配させてごめん」
「はい」
ユリスには心配をかけた。痩せた俺の姿に不安にさせただろうし、風呂にまでついてこさせるほど心配させてしまった。
「俺の力不足で、みんなを危険にさらすことになって本当にごめん」
「はい」
「これからもっと悩ませるし、不安にさせることになって、本当にごめん」
全て謝ると、ハルは苦笑した。
「別に言葉にしなくてもいいのに。おっさんとしては小っ恥ずかしくて聞いてられねえよ。でも、ありがとうクリス様、器が小さいけど、ちょっと気が楽になった」
ハルとの間にどこか温かい空気が流れる。だが、一瞬でそんな空気は吹き飛んだ。
「兄さんがおっさんを自称するのは勝手ですが、おっさんの妹になる私がどう思われるか考えてください」
「えっ……いまそんなこと言うか?」
「どう思われるか考えましたか?」
「す、すいません。俺はまだまだ若いお兄さんです」
ユリスの言葉には棘があって恐ろしく、ハルは一瞬で自己評価を改めてしまった。
恐怖に呑まれて何もできずにいると、不意にユリスが顔を向けてきた。
「クリス様、謝ることはそれだけですか?」
「ひっ、あの、何か謝る内容がまちがっていたでしょうか?」
「いえ、全て正解で私は嬉しいです。ですが、一個足りない、と思いませんか?」
な、なんだろうか。謝り損ねていることをユリスは一番気にしているような気がする。
がんばれ、俺。探せ、探せ、なんとか探し出すんだ!
ユリスが怖くて、必死になって頭を回す。
心配させたこと、危険な状況に陥らせてしまったことは全て謝った。あとは、あとは、ああ!
「ごめん、3人も大貴族の令嬢を連れ帰って来ちゃって。かなり気を遣わせるよね?」
俺がそう言うと、ユリスはむすっとする。
「半分正解です。まあ、いいことにしてあげます」
「あ、ありがとうございます!」
俺は勢いよく頭を下げた。そして、3人のことを口に出したことで、凄く気になって来た。
「ハル、3人はどうしてる?」
「全員寝てるぜ。王女と侯爵令嬢は今日中に起きるだろうけど、もう一人は今日には目覚めないかも、って医者が言ってたぞ」
どうやら3人無事なようで、ほっと胸をなでおろす。だがすぐに、答えを出す、時がすぐ迫っていることを実感し、緊張感が走る。
それに、その時間をもらわないといけない、という事を理解する。だが、謝ってすぐに頼み辛い。いやほんと、マジで。めちゃくちゃ頼みづらい。
ちらりとユリスを見た。何故か汗がだらだらと流れ出てくる。
「どうかされましたかクリス様?」
「い、いやあ……」
「気持ち悪い笑顔を浮かべてどうされましたか? 過ちを謝ってすぐに、その過ちを繰り返すような顔をして」
ピ、ピンポイントすぎる。
ハルは何かを察したのか、立ち上がり、そろそろと部屋から抜け出そうとした。だが、ユリスの背後まできたところで、腕を掴まれてしまう。
「い、妹よ。離してはくれまいか?」
「まあいいじゃないですか。クリス様の言葉を一緒に待ちましょう」
ハルが涙目を向けて来た。
す、すまないハル。俺も言わないわけにはいかないんだ。
「じ、実は、3人と過ごす時間をもらいたくて……本当にごめん! 対策とか、いろいろやらなきゃいけない事は山積みなのはわかってるんだ!」
俺がそう言うと、ハルは絶望した顔に変わる。
「仕方ありませんね。ピアゾン様が目覚めるまでですよ」
とユリスは言って、ハルに目を向ける。
「大人はどうしようもない事への憤りとうまくつき合わないといけません。兄さん、少し付き合っていただけませんか?」
誘われたハルの目から光るものが溢れた。
活動報告あります。
次回更新もうちょっと待ってください。プロットがもうすぐ仕上がります。
その間に発売日でちょうど完結するように作品を上げてますので、よろしければどうぞ。
公園の遊具で戦う物語です。
https://ncode.syosetu.com/n3651fq/





