表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/229

 

 それからは、アリスとミストに付き添いながら山を登っていた。


 険しい傾斜では、手を引き、時には背負って獣道を進む。


 標高が高くなるにつれ、寒さが増していき、風もではじめた。途中、木陰で休んだりしていたが、それでも筋肉は張り、疲労感が常につきまとうようになった。


 それに初めての山中だ。数十メートル進めばすぐに、空を見上げ星の位置や、自分が来た道を確認した。未だ暗い中、進んでいる方向があっているかどうか注意しなければ、すぐに道が外れてしまう。


 常に気を張っている状態なので、精神的にもかなり疲労していた。


 幼い頃ユリスの訓練で、何度も登山の経験はある。それにこの山はそこまで高くもない。しかし、厳しく、危険であるとひしひし感じる。


 やがて、木々の合間から見える空は青白くなり、夜目でかろうじて見えていた辺りの景色が鮮明になりはじめる。


 獣道を辿ると、木が斜めに生えた傾斜が強い地に出た。


 気を引き締め、アリスの手を引いて、踏み外さないように力強く登る。


 そして、坂を登りきると、目の前に壁のような岩場があった。足元を見ると、植物があまり生えておらず、表層に土が少なく、岩質でゴツゴツしている。


 隣に目を向けると、アリスは額に髪の毛を貼り付け、上下に体を揺らして大きく息をしていた。


「アリス、ここで火を焚いて休憩しようか」


 アリスはニカッと歯を出して笑った。


「やった! じゃあ、これから2回戦だね!」


 アリスの言葉に、心臓が大きく跳ね上がる。


 俺でさえ、体力も精神も疲弊しているのに、アリスならどれほど疲れているか想像すらつかない。だというのに、どこからそんな力が湧き出るのだろうか。


「クリス、もしかして嫌だった? ごめんね。私の手助けで疲れちゃったよね」


 気遣うように顔を覗き込んできたアリスに、真意が読める。


 ああ、から元気か。暗い雰囲気になるのを避けるために、わざと明るく振舞ってくれたのだろう。


 知らず知らずのうちに疲労の色が表に出ていたのかもしれない。


 勿論、アリスもしたい気持ちはあると思う。けれど、それ以上に、手助けしてもらった感謝や気遣いの気持ちが強いのだと感じた。


 そうだと分かれば、無理に気を遣わせて、アリスに苦を強いるわけにはいかない。


「いや、俺は全然疲れてないよ。だけど、休憩してからにしようか」


「じゃあ、クリスが休憩しながら出来る事にする? 後の二人も休みながらできるようなものにもしたいね」


「気を遣わなくても大丈夫だよ。休憩とは別に時間を取ろう」


 そう言うと、アリスは照れ臭そうな笑い声を上げた。


「あはは。バレちゃった? でもさ、私に出来ることなんて、皆んなの気を楽にするってことくらいだし」


 アリスは続ける。


「それにさ、厳しい状況が続けば気持ち的にも苦しいよ。クリスを落とそうとすることは楽しみ……って言うのもおかしいけど、支えだからやらせて!」


 目頭が熱くなり、魂が揺さぶられたように感じる。


 ああもう。普段は、我儘のお姫様なのに。こういう芯の強い所があるから。


 頬が熱くなり、心臓が血を送り出そうと激しく動く。


「それにしても、二人遅いね。大丈夫かな?」


 アリスは恥ずかしくなったのか、そう言って振り返った。俺も釣られて、体を後ろに向ける。


 薄暗い空、広がる山肌、遠くに小さく街が見える。傾斜はかなりキツかったのか、俺たちが登ってきた道は見下ろしにいかないと見えない。


 ミストとクレアより先に進んではいたのだが、もう登ってきていてもいい頃だ。


 心配になり、歩を進めると、黒い髪が見えた。すぐに、クレアの顔、体、背おわれたミストの姿が現れる。


「大丈夫?」


 先に行ったせいで苦労させたかもしれない、と尋ねると、クレアは首を振った。


「こいつは大丈夫じゃない」


「ミストが?」


 慌てて目を向けると、心配をよそに、ミストはクレアの背から俊敏な動きで降りた。


「いや、大丈夫だよ。運んでもらおうと思っただけだから」


 そう言って、ミストはからから笑った。


 そんなミストを見て、クレアは一つため息を吐き、俺に視線を向ける。


「クリス、そろそろ休憩しないか?」


 最も体力がありそうなクレアが休憩を切り出してきたことを意外に思う。けれど、休憩しようと思っていた所だったので、コクリと頷く。


「うん。ちょうど、俺も休憩しようと思ってたところだよ」


「休憩かい? それじゃあ、どうやってクリス君を落とすか考えないとね」


 ミストが楽しそうに話すと、クレアは再びため息を吐いた。


「そうだな。だが、火を焚いてからだ。クリス、ちょっと薪になるものを集めてくるから座って待っててくれ」


「いや、クレア。俺がいくよ」


「いいよクリス。私はそれほど疲れてないから」


 クレアはにこりと笑って、来た道を引き返していく。


 違和感を感じて、一瞬考え込む。しかしすぐ我に返る。


 クレアだけに負担させるわけにはいかない。


 「ちょっとだけ待ってて」


 アリスとミストにそう言い残して、後を追った。



大スランプ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



hsub8z5zdno020cehytofvvfdchw_iga_9s_dw_2
コミックス2巻6・26日に発売ですよろしくお願いします>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ