質問会2
みんなの目がギラギラとし始めたところで、少し仰け反りながら読み上げる。
「ええ、じゃあ2問目。どんな女の子がタイプですか……ってこれ俺への質問?」
2問目から突然、俺へと矛先が向いたことに、動揺を隠せず、紙からふっと顔をあげた。
「そうだ。私達もクリスの理念を知った上で、有用な人材になるべく努力せねばならない」
未だ面接気分が抜けきっていないクレアに、苦笑いが漏れそうになる。だが、顎と力を入れて唇引き結び我慢した。
「そうだよ。私のタイプはクリス君だけれど、クリス君のタイプがわからないのはズルいじゃないか」
またも顔が熱くなる。さらっと、タイプが俺だなんて恥ずかしいことを言わないでほしい。冷めたり熱くなったりと風邪をひいてしまいそうだ。
俺の様子を見てか、アリスとクレアはミストに厳しい視線を突きつけた。けれど、当のミストは飄々とした様子で話し始める。
「質問形式といってもクリス君に対する質問もあるからね。たった一問で詰まってたらこの先が思いやられるよ?」
そうは言われても、いきなり好きなタイプなんて思いつかない。
自分のストライクゾーンが広いってわけじゃないけど、狭くはないと思う。そもそもの話、投げられて打ちづらくなる位置がボールなら、投げられないと始まらない。
そしてそれは、何度も何度も投げられて「ああ、打ちづらいなぁ」と定められるものである。結果として、投げられた数、つまり数々の女の子を経験してるわけではないので、ストライクゾーンは自身の中に存在しない。ということで、好みのタイプも存在しない。
なんて、自分で自分を正当化したところで何も始まらない。こんなことを言っても、仕方ないことくらいはわかっている。
犬、猫、どの犬種が好き? みたいな軽い感じで考えよう。
ラブラドールレトリバーとか大きくていいよなあ。もふもふしてるし、優しそうだ。ダックスフンドもいいなあ。胴が長いのに足が短くてかわいい。猫なら、ロシアンブルーかなあ。あのクールでツンケンしてて、振り回されたくなる。バーマンもモフモフで柔らかそうで人懐っこそうでいいなあ。
う〜ん、こう考えると犬猫どっちがいいのだろう。いや、こんなに優柔不断ではダメだ。犬か猫どちらが好きかすら決められなければタイプなんて答えられるわけがない!
「猫……いや、犬かな」
「えっ!?」
突然、アリスが俺に驚愕した表情を向けてきた。そんなアリスの様子からさっき独り言が漏れてしまったのだと理解する。弁解しようと、口を開きかけるとアリスに遮られる。
「待ってクリス、えっ!?」
「いや、ごめ……」
そう謝りかけたところで自らの口をふさぐ。
俺は今なんて弁解するつもりだったんだ?
休憩中のみという時間の限られたこの状況。冷静になれば、未だ2問目でまだまだ質問が残っているというのに、「趣旨から外れた犬と猫の事を考えてました。やっぱり犬の方が好き! みんなはどっちー?」とでも弁解するつもりか。
そんなことはできない。どうせタイプなんて俺にはないんだから、ここはこのまま突き通そう。
「うん。犬か猫がタイプだ」
刹那、空気が凍りついた。まさにブリザードと形容できそうである。
皆んなの瞳からはハイライトが消えて暗い。しかも、憐れみというか哀れみというか、地面に這う虫を見るような視線を突きつけられる。
辛い、悲しい。けれどこれは、完全に間違えた俺が全体的に悪い。しかし、こうなっては引くに引けない。
俺はこの空気を流すべく、次の質問を読み上げる。
「えっと、じゃあ3問…」
「待ってクリス……えっ!?」
アリスに止められる。わかっている、本気で犬猫がタイプなのかという確認だとわかっている。けど、ここは引けないんだ。
精一杯平静を装って答える。
「な、何アリス?」
「え、ええ〜。マジなのね……」
アリスはそんな事を言った後、一度俯く。そして大きく呼吸した後俺に顔を向ける。
「わかったにゃん。3問目に行って欲しいにゃ」
く、苦しい。理解させてしまった。
それで通したかったけれど、わかられてしまうのもそれはそれで苦しいものがある。その上、タイプに沿おうと語尾につけられると余計に苦しい。
吹き上げ花火に四方囲まれ煙で噎せ返ってしまう、そんな息苦しさに、容赦無く襲われていると、足元に黒い影が見えた。何かと思い、良く見ると、クレアが四つん這いになっていた。そして凄くリアルな餌を待つ子犬みたいな仕草をし始める。
「ハッハッハッハ!」
罪悪感に胸が痛すぎるほどに痛む。心にズンと重いものがのしかかり、目には涙がにじむ。
犬猫が好きなのは嘘じゃないけど、不用意な事を言ってしまって本当にごめん。そこまでさせてしまって本当にごめんなさい。
しかし、いくら後悔しようとも現状は変わらない。まずはなんとしても、クレアの決死の物真似を無意味にしてはいけない。
「わ、わ〜。かわいいワンチャンだぁ〜」
「あん!」
一つないて、クレアが擦り寄ってくる。ふと、アリスとミストを見ると冷たい眼差しを向けていた。というか引いていた。ドン引きだった。
ごめんクレア。絶対にクレアを一人だけ死なせないから。
俺は頭を差し出してきたクレアを、犬にするみたいに撫で回す。
「よ、よ〜し、よ〜し!かわいいなあ」
「ふにゃあ」
撫でられて、猫の声を出すキャラぶっれぶれさを気にせず撫でていると、ミストにどこか呆れたような声をかけられる。
「クリス君、引けないのもわかるけど、タイプは犬猫じゃないんだからその辺にしときなよ」
瞬間、ピタッとクレアの動きが止まる。
「いや、そんなわけ……」
「あるよね」
ミストが口を挟み、厳しい視線を投げかけてくる。抵抗しようと試みたが、あまりにミストから放たれる圧力が激しく心が折れてしまう。
「……はい」
俺が非を認めると、ミストはふぅと一息ついて雰囲気を和らげた。そして、落ち着いた口調で呼びかける。
「だってさ、クレアさん?」
ミストの言葉に恐る恐る目をクレアに向ける。
そこには、正座し、両手でリンゴみたいに赤くなった顔を押さえ、プルプルと震えているクレアの姿があった。
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