質問会3
ぷるぷると涙目で震えるクレアに、どうフォローしようかと考えていると、アリスに声をかけられる。
「クリス! 次の質問! 早く!」
アリスの視線は明らかにクレアに行っており、『犬が黙っている間に早く!』といった意図が感じられた。
語尾に『にゃん』とつけていた癖に変り身が早いやつだ。アリスのにゃんは意外にも悪くなかっただけに残念である。
さて、急かされたは良いもののクレアを放置して良いものかと悩む。こうなってしまったのは俺のせいであるので、なんとかしたいと思うのが本心だ。
「クリス君、次の質問はまだかい?」
「そうそ、時間がないんだから早く!」
しかし、そんな隙を与えまいとアリスとミストが急かしてくる。
本当、悪魔みたいなやつらだな、とは思うも、同時にクレアを蹴落としてまで俺と結ばれたいという想いが伝わってくる。嬉しいような悲しいような、複雑な感情が胸中を満たす。
「クリス……」
赤い目で見上げてくるクレアの瞳は何かを訴えかけてくるようだ。チワワにじっと見つめられている時のような保護欲が湧き出してくる。
これは、ほっておくわけにはいかないよな。
もともと、たった2問で自分の精神的にかなりきていたので、何か手を打とうとは思っていた。最初は侮っていたが、予想以上にアプローチが凄まじく、ハニートラップに嵌められているような気がして、実際胃がきりきりしてきたところだった。
「安心してクレア。これからの質問は全員にするのは難しいから、ランダムで一人に向けて出そうと思う」
「どういうこと?」
アリスは首を傾げた。
「多分このまま続けると、時間的に足りなくなる。だから、ランダムで当てることにするよ」
もっとも大きな理由は自分の精神的理由が大きいのではあるが、時間的にも問題があるのでそう答えた。そして、反論の余裕をなくすためにすぐさま質問を投げかける。
「じゃあ、アリス。第8問目から、好きな食べ物は?」
「え、ええっと、高い肉だけど……って、あ! ケーキ! 甘いデザート! 女の子っぽくて可愛いやつ!」
アリスは慌てて取り繕ったけれど、高い肉が好きなのだろう。
この提案は、クレアの救済措置、時間の問題に加えて、皆んなの本当の姿を見抜くことも目的である。
正直、皆んなが落としに掛かってくるのはわかるけど、行動が偽物なんじゃないか、と疑念を抱いてしまってきていた。完全にそうなれば、俺が本当にその人を好きになる可能性は下がる。まさか、仮初めの姿だとわかっていて、それに恋したいと思う人はいない。
俺がやるべき事は本気で落とされに行く事だ。だから真剣に全力で挑まなければいけない。
「じゃあ、次の質問はミスト、問題9から……」
「趣味は楽しい事かな。例えば、クリス君が発案のボードゲーム。それをさ、風が心地良くて涼しい高原で、紅茶と美味しいサンドウィッチを食べながら遊ぼうよ。終わったら二人でボードゲームも考えて、ケラケラ笑って遊んでさ、眠くなったら二人並んで昼寝する。それで起きたら、沈む茜色の夕陽を見ながら、極上のステーキと良い香りのお酒を嗜みつつ、くだらない話をしようよ」
「……」
「それでさ、そのままほろ酔い気分のまま、最高の演劇を観に行こうよ。演劇で笑って、ドキドキして、泣いて、爽快感を愉しもう。演劇が終わった後は、感動を冷めやらないままさあ。満天の星空の夜道で、感想を言い合いながら帰りたいね」
「……」
「帰った後はさ、1日の疲れを癒すのに檜の露天風呂に2人で入りたいな。特に何を話すでもなくさ、2人身を寄せ合って、白い湯気と夜風が木々を揺らす音だけを聞いてさ」
「……」
「どうかな? 趣味の楽しい事でパッと思いついたんだけど、時間をかければもっと楽しいことを考えつくと思うんだけど?」
最後にミストはそう言って、優しい笑みを浮かべ尋ねてきた。しかし、俺は何も答えず、ただ自分の持っている紙に視線を移す。
『第9問.あなたのご趣味は』
心の中のごちゃごちゃと混雑していたものが、マンホールを吹き飛ばす水みたいに、一気に吹き上げてくる。
なんだよそれええええええ!
ああもう! まず、なんで覚えてんだよ! 俺の提案まじで意味ないじゃん! それにめっちゃいいじゃん! 最高じゃん! ご趣味は? って中々答えづらい質問で、ここまで好印象残せるの!? 絶対に考えてないと出ない答えだよね!? でも、最後にパッと思いついたって言ってたし、ああああああああ!!
今すぐ叫びたい衝動に駆られたが、手を口で抑え俯き、必死で我慢する。
「クリス君の趣味には合わなかったかな?」
ミストの自信なさ気な声を聞いて、顔をあげた。声の主のミストを見ると、不安そうな表情をしており、いつもより数倍マシで可愛く思ってしまう。
完全にミストはわかっていてやっているだろう。俺もミストがわかっていて落としに来ている事はわかる。だけど、だけど、あああああああ!
もうミストに決めてしまいそうだが、全精神力をつぎ込む。喉を締めて、大きく息を吸い込んでなんとか落ち着ける。そして、気を紛らわせたくて口を開いた。
「と、とてもいいと思う。それじゃあ、クレア! 問15から、俺に一番してほしい事は!?」
「子供が欲しい」
「え?」
クレアから即答が帰って来て、間抜けな声が出た。さっきまでの空気は嘘かのように冷たいものへと変わる。ミストの話をぐぬぬと黙っていたアリスも、驚愕に目を見開いている。
「ね、ねえクレア? 私の聞き間違いかもしれないんだけど、今なんて?」
アリスの質問につられて俺もクレアを見る。クレアは、ハイライトが消えた虚ろな目を俺に合わせて来た。どこか、寒気を感じる。
「子供が欲しい」
聞き間違いでなかったとわかる。でも、そんな目で、子供が欲しいなんて言われると、どうしようもない恐怖に身が震えてしまう。
大蛇に鼻をチロチロと舐められたみたいに身がすくみ、何も出来ずにいると、クレアは自嘲気味の笑みを浮かべた。
「あいつが最高のデートを提案した一方、私は犬の物真似だ。しかも、結構本気の物真似だ。結果は火を見るより明らか。勝負がついていない今なら、せめて子供だけでも、子供だけでも欲しい。私の唯一の支えになるか……」
「ま、まだまだ全然! これからがあるから! は、はい、時間ぎれ! さ、さあ休憩は終わりだ! よし行こう! 今すぐ行こう!」
俺はそう言って最速で立ち上がり、階段を登った。
八月中に改稿終えて、投稿したかったのですが、内容に納得いかないので無理そうです。改稿は9月中になると思います。





