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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第四章 祭りの夜
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 3

 朝起きると、すでに篠塚桃花の姿はなかった。甲斐雪人はあれから、まるで赤子でもあやすかのように、篠塚が眠るまで抱きかかえていたのだが、ベッドに寝かせ、自分はあらかじめ用意してあった床の布団で暗号を考えながら目をつぶっていた。

 一桁で完全な数といえば、六である。

 因数分解すれば六しか存在しない。

 六枚銅貨は寄せ集め、彼を造る四つの調べ。お尻をすべて掛け合わせ、狂った数字の協奏曲。だけど大事な六枚の、最後の行は失われ、旅に出たと、かの人は言う。どこへ行っても六枚は、最後の最後に現れる。

 この六番目の連だけは、なぜか五行しかない。そして変わりに八番目の連には九行目が存在する。

 六をつくる四つの調べとは、一と二と三と六自身のことだろう。それぞれの連のお尻は、「く」「に」「よ」。数字で書くならば「九」「ニ」「四」。そして、六連は最後の最後、八連目の九行目のことなのだろう。立って、立って、立って、座って、立って、立って、座って、立って。この行の意味が分かれば、あとは掛ければ求める答えがでるのではないか。

 という辺りで、甲斐の意識は途絶えた。

 そして、朝目が覚めてみると、篠塚の姿が見えないのだ。昨日の夜から変わった様子は見られないが、おそらく部屋を出たのだろう。壁にかかった時計を見ると、まだ朝の七時半だ。甲斐は夏休みということもあり、最近は八時ごろまで眠っていたので、早起きといえば、早起きだ。

 立ち上がろうとすると、部屋の戸が静かに開いた。

「……おはよう」

 起きている甲斐に気がついたのか、一瞬顔を横に向けてから篠塚が言った。すでに着替えていて、昨日と同じ黒く広がったゴシックのドレスを着ている。ただ、胸元のリボンの色が今日は真っ白だ。昨日は確かピンク色だった。

「おはよう、早いね」

「甲斐が遅いのだ。朝とは最も頭が回転する時間なのだぞ。そのときにこそ、ここで何が起きたのかを知る機会だというのに」

「元気みたいだ」

「さあ、甲斐も起きたならすぐに行くぞ」

「行くってどこに?」

 中途半端に起きていた甲斐だったが、一度背伸びをすると、頭をくるりと回した。

「いつまで寝ぼけておるのだ。妙の部屋に決まっておろう」

「そんな勝手に……」

「すでに許可は得てある。甲斐とともに調べさせてもらうとな。さあ、準備ができたなら行くぞ」

「なんつーか、全然準備なんてできてないんだけど」

「顔を見れば分かる。しょうがない奴だ。まずは洗面所に案内してやるから、ついて来い」

「はいはい」

 言葉こそ生意気な口調だが、その間一度も篠塚は甲斐の顔を見なかった。少しずつ視線を外していて、ときどき気まずそうに頬を赤くしている。甲斐は気づかない振りをして、篠塚に続いて部屋を出ると、軽く篠塚の頭を叩いた。

「こら、乱れるだろう」

「洗面所はどこにあるの?」

 こっちだ、と篠塚は答えながら甲斐を手引きする。きしきしと軋む廊下をまっすぐ進むと、正面にある扉を開ける。考えてみれば、昨日隆志と来た風呂場と同じだ。

「あ、おはようございます」

 洗面所には先客がいて、ちょうど床の雑巾がけをしていた。きちんと三角巾をして、腕をまくっている。見たことのない女性だ。大学生くらいだろうか。彼女は立ち上がると膝を払ってから、もう一度頭を下げた。

「甲斐雪人さまと、その妹の桃花さまですね。わたくし木林さゆりと申します。隆志さまからお話は伺っております。どうぞお使いください」

「あ、ありがとうございます」

 甲斐はぼさぼさの頭を隠すように一度頭を下げた。母である木林真雪とは違い、すらっとした体系をしている。

「お二人ともお早いですね。朝食はすぐに食べられますか?」

「うむ。これから妙の部屋を見て、それから頂く」

「妙さまの?」

「そうだ。許可は得てある」

「でしたらご案内いたしますわ」

 そう言うとさゆりはもう一度お辞儀をして、さっと洗面所を出た。甲斐は急いで顔を洗うと、鏡を見ながら髪を整える。思ったほど寝癖は付いていなかったようで、心の中で安堵の息をもらす。

「何だ甲斐よ、お前はああいうのが好みなのか?」

「え?」

 驚いて鏡越しに篠塚を見ると、低い位置から甲斐を睨みつけている。

「鼻の下を伸ばしおって」

「ち、違うよ、誤解だよ、誤解。朝一だったから、寝癖がないかあせっただけだって」

「ふん、まあいい。とにかく行くぞ」

 ぷいと顔を横に向けると、篠塚はさっさと洗面所を出て行ってしまった。甲斐も慌てて付いていく。


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