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「なるほど、それでお前はようやくことの重大さに気がついたわけだな」
「うーん、正確にはまだ、かなぁ」
床に座った篠塚桃花の髪をドライヤーで乾かしながら、神田珠は答える。
「そりゃぁ、悲鳴には驚いたけど。うちの場合だとね、違う可能性も高いというか。私も不意に見つけると叫んじゃう時あるし」
「見つける?」
「あれよ、あれ」
まだ理解できていないようで、篠塚の首が倒れる。
「うちって古いし。一匹いたら百匹ってね。家政婦さんたちは慣れたものだろうけど」
ようやく合点がいったのか、篠塚が頷いてから続きを催促する。
「それで、誰の悲鳴か、すぐに分かったのか?」
「お父さまやお兄さまじゃないことくらいかな。女性の悲鳴ってことは確実だったけど。えーっと、今考えるとお母さまか、家政婦の真雪さんかさゆりさんね。あの時は、誰の悲鳴っていうより、何事? ていう意識のが強かったもの」
正常な判断だわ、と篠塚が先を促す。
「それでとにかく私たちは部屋を出たの。三人揃って、声がした方向に行こうとしたんだけど、どっちか分からなくて。それでとりあえず階段に向かって。そしたら、お母さまが下からちょうど駆け上がってくるところで。お母さまは悲鳴が上から聞こえたように思えたって言うから、一緒に引き返した」
そこで珠は言葉を止める。篠塚がどうしたのかと思い顔を上げると、両目を瞑り、眉を寄せている。そこから先の話は、彼女にとって気持ちが良いものではないのだろう。もう一度篠塚は前を向くと、彼女も目を瞑り、相手の気持ちが整うのを待つ。
「ありがとう、もう大丈夫。廊下の突き当りに来たら、すぐに気がついた。妙お姉さまの部屋の前で、さゆりさんが尻もちを着いてて、扉が開いていた。私たちが来ているのに気が付かないくらい彼女は狼狽していて、部屋の中を指さしてて。それで私たちが部屋の中を見たら、妙お姉さまが……」
「珠、無理にとは言わないけど、どんな状況だったか、もう少し詳しく説明できる?」
「私も腰を抜かしちゃったけど……また明日にでも部屋を見てもらえばわかるけど。正面の右奥に大きな鏡があって、その前で、仰向け、に。でも、寝転んでいたんじゃなくて、多分、鏡の前に座っていて、斜め後ろに倒れた感じで。血がいっぱい出てて……分かんない、出てたのかは分からない……とにかく、血がいっぱい。もしかしたら、私も悲鳴を上げたかもしれないけど、詳しいことは覚えてないけど、聖子と寧々に連れられて私は自分の部屋に戻ってた」
「凶器は?」
「後で警察に、右の側頭部を銃で撃たれたことだと聞いた」
「つまりあの音は銃声だった」
「そうなるけど……」
「その銃が見つかっていない」
桃花は続ける。
「最初の銃声が聞こえてから、さゆりの悲鳴が聞こえるまで、どれくらい時間があったのか分かる?」
「正確な時間は分からないけど、多分3分くらいだと思う」
「3分あれば、銃を持って犯人は逃げることはできる」
「誰にも見つからずに? この家結構古いから、音が結構響くわ」
「家が古いこともあり、二階といってもそれほど高くない。窓から飛び降りればいい。窓がどうなっていたか覚えているか?」
「分からない」
「足音に注意して廊下を歩いて逃げたとしても不可能じゃない」
「でもさゆりさんが」
「いくらでもやり過ごすことができる」
納得出来ないのか、珠はうーんと唸っている。
「外部犯なら、誰でも可能、ということだ」
でも、と珠はまだ唸っている。
「が、残念ながら、警察は犯人を捕まえていない。あの権藤という警部はそれほど愚かには見えなかったな。結果、警察は内部犯の可能性を考え始めている」
「それこそ無理だと思うけどな」
「外部犯のときと全く同じ方法で可能だ。それに、銃を隠しておく場所もよく知っている。おそらくは一時的に隠すことができればその場はよかった。そして警察が内部犯を疑った時には、もうこの屋敷にはない」
「だけど、だからって、妙お姉さまを」
「話を変えよう」
身内の誰かが妙を殺すはずがない、と珠は考えているのだろう。だが、動機なら珠が知らないだけでいくらでも存在し得る。例えそれが些細な事であったとしても、犯人にとって重要なのかもしれない。そんな事例の多くを篠塚は過去に経験している。それに、動機を理解したくない。理解し難い動機だからこそ、動機になり得るのだから。
「金庫について、だ」




