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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第二章 三十六枚銅貨
12/33

 7

 低いテーブルに甲斐雪人はあぐらをかいて座る。右隣には神田隆志が座っていて、上座には神田剛がいる。正面には神田珠とその隣に篠塚桃花がやはり抱えられるようにして座っている。

 下座から家政婦の木林真雪と小倉桂子が次々に料理を運んできていて、すでにテーブルの上には所狭しと料理が並んでいる。結構な量だ。

「さあ、どうぞ遠慮せずに食べてくれたまえ」

 上機嫌に神田剛が両手を広げる。先ほどの言の通り、見た目からしてかなりおいしそうである。宿舎の学食や、自分で作る料理とは比べようもない。合宿で坂崎陽菜が作ってくれた料理とは系統が違い、家庭向けの料理だ。

「えっと」

 隣の神田隆志はすでに料理に手を出している。甲斐の視線に気がついたのか、神田剛がもう一度、遠慮しなくてよい、と答える。

「家内はもうしばらくしたら来るから。それよりも甲斐君は飲める口か?」

「こら、親父!」

「どうなんだ?」

「いいえ、僕は飲めませんけど」

「ではわたしが飲もう」

 正面に座った桃花が手を上げる。

「こら、もも!」

「わたしに指図するな」

 上げた手をまっすぐ甲斐に向け指を刺す。

「いやーん、ますます可愛いわ。それじゃあ、わたしと一緒にこの赤い液体を飲みましょうか」

「珠も!」

「大丈夫。これはイエスさまの血よ」

「全然大丈夫じゃないじゃないか」

「うむ、赤か。嫌いではないぞ」

 すでに篠塚はワイングラスを手に持ち、神田珠から赤く通る液体を注がれている。もう一度注意すべきだが、効果はないだろう。ため息をもらし、神田隆志を振り返ると、同じように首を振っていた。そちらには目を瞑るとして、甲斐は手前に置かれた箸を手に取ると、テーブルの上に並べられた料理に手を出した。

「時に甲斐君は、今後どのような方向に進もうと考えているのかね」

 料理を食べながら、神田剛がこちらを覗き込んでくる。

「うちの息子はいまだ決めかねておると言って、情けない限りだ」

「うるさいな、まだ一年だよ」

「だが、すぐに理系と文系の選択の日が来るだろう」

「僕も決めていません。今のところ両方を習得する予定です」

「ほぉ。エリートコースか」

「一割が。そこで落ちこぼれたらもう戻れないと聞きますから」

「甲斐はどちらかというと文系だ。神田は理系に進むべきだ」

 と、正面から篠塚が赤く染まった頬を揺らす。

「お兄様に理系は無理よ」

「べきだ、ということだ」

「甲斐ちゃん、それは興味深いお話だね」

「甲斐ちゃんか、それはわたしのことなのだな。だが、その通りであろう?」

 一瞬部屋が静かになる。

「と、とにかく、俺はまだ決めていない。期日までまだ先なんだ。もう少しゆっくり考えるよ」

 しばらくすると神田友里恵が食卓に入ってきて、失礼しますと断りながら下座に座る。それから何事もなかったように、箸を持つと静かに口へと運んでいる。

 テーブルの上に料理のあらかたがなくなるまで、話題は当たり障りのないものだった。そのタイミングでデザートが運ばれてきて、甲斐はすでにお腹が窮屈であったが、それでもそのデザートはおいしく頂くことができた。

「さてと」

 と、両手をテーブルについて神田珠が立ち上がると、隣の篠塚を引っ張るように立ち上げる。二人とも顔が赤い。

「わたしたちお風呂を先に頂いてくるから」

「食べてすぐの風呂は体によくないらしいよ」

「大丈夫、すぐ湯船に入らないようにするから」

「大丈夫じゃないと思うけど」

「わ、わたしも一緒なのか?」

「そうよー。だって桃ちゃん可愛いんだもの」

「おい、甲斐、どうにかならんか」

「ワインを飲んだ罰ということで」

「罰なんてひどい言い草!」

「仕方がないか。では、その風呂とやらに案内してもらおうか」

 神田珠は嬉しそうに篠塚の背中を押しながら部屋を出てゆく。篠塚が神田珠に何か言っているようだが、声が小さくて聞き取れなかった。甲斐はもう一度ため息をつくと、神田隆志を振り返る。

「いつも飲んでるのか?」

「まさか。お客さんが来るときだけだよ。それでも、今日は結構飲んでたと思う。それにお前の妹もそうだろう」

「だから背が伸びないんだな」

「はは。それじゃあ俺たちも部屋に行こうか」

「ご馳走さまでした。本当においしかったです」

「いいえ、つまらないものですが、楽しんでいただけたのでしたら光栄です」

 甲斐はもう一度頭を下げた。


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