3 いざ、異世界へ
いい加減真面目に書けと俺の中の何かが言ってきた。
あれからどのくらい時間が経っただろうか。
スーパーを出たときにもだいぶ傾いていた日は今では完全に沈み、時刻は夕方となっていた。そんな目に見える変化もあるためか、何度も通ってきたはずの帰り道を私はいつもより長く感じていた。
「少しは運動もした方がよかっただろうか」
持っている袋がやけに重く感じる、と言っても実際は5㎏か6㎏程度だろう。いくら詰め込んだとはいえ非常食、そこまで重いわけはない・・・多分。
そうなると、だ。
「やはり、大学時代の自堕落な生活が原因か」
袋を一度足元に置き、ぐっと背を伸ばしながら、私は一人でそう呟いた。
そう、私は今現在一人で帰路についている。
「それにしてもあの野郎、まさか本気でこの私を置いて先に帰るとは・・・」
『こっちには荷物が有るんだから、歩くペースが遅いのは仕方がないだろうが』と思わず愚痴を言いたくもなったが、一人で寂しく愚痴なんか言っても虚しくなるだけである。
まぁ置いて行かれたものは仕方がない、文句を言うのは帰ってからでもいいだろう。
「さて、もうひと頑張りしますかね」
私は気合を入れ直して、帰路を急ぐことにした。
「・・・」
マンションに着いたのはいいが、部屋の前まで行っても佐藤の姿は見えなかった。てっきり部屋の前で待っていると思っていたのだが・・・。
『まさか帰ったんじゃないだろうな』そんな考えが頭をよぎるが、とりあえず荷物を置くためにも私は部屋の鍵を開けた。
扉を開けて部屋に入ると、玄関からでもリビングの明かりがついているのが見えた。今日は起きてから電気をつけた覚えはない、となると多分佐藤だろうか?どうやって入ったかは知らないが。
鍵をかけ、リビングに行くと、そこには思った通りに佐藤の姿があった。
部屋に置いてある安物のテレビを相手に悪戦苦闘していたが。
『鍵が掛かっていたはずなのに、どうやって入ったんだ?』など言いたいことは色々とあったが。
テレビのリモコンを片手に頑張り続ける彼の姿を見てか、私にはそんなこと言う気は萎えてしまっていた。
・・・とりあえず、気を取り直して。
「そのテレビなら映らないぞ、元からな」
元から映ることはないテレビを映そうと頑張り続ける佐藤を止めるためにも私は彼に声をかけた。
「おや、思ったより遅かったですね、何かあったんですか?」
私が声をかけると佐藤はやっと私に気がついたのか、振り返りがてらにそんなことを聞いてきた。
「ああ、マンションに着いたはいいが階段を上るのに酷く時間がかかってな、健康のためにも少しぐらいは運動をしておけばよかったと感じたよ」
「へぇ・・・。」
興味がないと言わんばかりの返事である、そういう返事は地味に傷つくのだが。
気を持ち直すためにも私は話題を変える。
「・・・それよりもだ、異世界の方へはまだ行かなくても大丈夫なのか」
「おっと、忘れるところでした、準備の方はもうできたんですか?」
そう聞かれ私は部屋を見渡した、荷物は部屋を出る前にまとめておいたし、もうやることはないはずだ。
ただ、こうやって部屋見渡していると。
あまり愛着と言えるほどのものはなかったが。
もうこの部屋に帰ってこれないと思うと、なんというかこう感慨深いものがあるものだ。
・・・感慨深いという言葉の意味を正確には覚えていないが。
「大丈夫だ、荷物の方は家を出る前にまとめておいた、後は買ってきた非常食をこの袋に入れるだけさ」
私は手に持った非常用袋を佐藤に見せながら、佐藤の問いかけにそう答えた。
これはいつぐらいだったか覚えてはいないが町内で行われた避難訓練の際、各家庭に配布されたものだ。ただ私が今日まで存在を完全に忘れれていたために、昼間見つけた時には非常袋はだいぶ埃を被っていたが、使う分には問題はないだろう。
かくして、私は佐藤に持っていてもらった分の非常食を受け取りこの袋に入れ始めた訳であるのだが、すぐに問題が発生した。
「・・・入りきらない」
用意した二つの非常用袋は買ってきた物を半分ほど入れた辺りで一杯になってしまったのだ。
「まぁ、あれだけ買っておいて全部入りきった方がおかしいんですけどね」
「ぐぬぬ、もう少し大きい袋だったと記憶してたんだが」
記憶違いか、一年以上前に貰った袋だし多少は思い出補正がかかっていたのかもかもしれない。それに非常食を持ち込みすぎたせいで動き辛くなってしまえば本末転倒だ、これぐらいがちょうどいいだろう。
「まぁいいか、佐藤、準備の方終わったぞ」
最後の準備を終えて私は佐藤に声をかけた。
「やっと終わりましたか、それにしても随分と大荷物ですね」
「そうか、これでも少ないと思うが?」
私が用意したのはリュックサック一つ分の荷物と、非常用袋二つ分の食糧。
『大抵の人はこれでも少ないと言うだろうが、これ以上は持ち運ぶ時に支障が出る可能性があるだろう』と私がそう言うと佐藤は少し意外そうな顔をしたが。一応納得したらしく『そんなものですかね』と呟いた。
「では行きましょうか、準備はよろしいですか?」
佐藤が私の腕を掴む。
「ああ」
彼の問いかけに、私は短く答えた。
この世界とも、これでお別れか。
・・・はて、何か忘れているような?
「ああそういえば、どこにも連絡入れてない」
少し、いやかなりの後悔と焦りにも似た何かを感じた後、私は急に浮遊感を感じた。
これが私にとって人生初の異世界行きだったな、まぁあの時はすぐに元の世界に帰ることになるとは思ってもみなかったが。
そういう意味では連絡を入れ忘れたのは幸運だったかな。
そのうち前に書いたやつを読みやすいように書き直すかも。




