表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/100

〇九四

 風は依然として吹かない。前日の勢いが嘘のようだ。

「さて、と」

 彼が、眼鏡を外し、また掛けなおす。

「……まだ、私がここでお前を待っていた理由を言っていなかったね。本題に入ろう」

 ……本題があったのか。まあ確かに、無駄話をするために待っていたのは、少々おかしいが。

「私は悲しい。親友が死んだ」

 繰り返すように、そう言う。

「お前も悲しい。友達が連れていかれた」

 対句法でも使いたいのだろうか。そう私は、あまり本意にそれを聞こうとしなかった。なんとなくではあるが、彼から狂気のようなものを感じとったのだ。

 だが、次の言葉ですぐに撤回することになる。

「手を組まないか」

「手を……組む?」

「そうだ。互いに、利害は一致しているだろう。私は人情として、組織にニルの賠償を払わせたい。お前は組織から少女を救い出したい。互いに、標的は組織だ」

 彼が手を差し出す。オレンジジュースのしみを縫うように、彼の腕が差し出された。だが、彼と握手をするには、私の足はもう何歩か、前に進まねばならない。前に進めば、細い糸を踏んでしまうだろう。

「案じなくとも、糸を踏んでもなにも起こらない。まわりをよく見ろ」

 まわりを見渡す。特に、変わったところはない。

 ドアの外はやけに静かだが。

「あ」

 気付いた。風が吹かない。

 この空間は、すでに歪んでいる。AF-117が作った空間のように、ここに、風は入り込んでこない。

 いやだが、歪んだ空間では声を発してはいけないのではなかったのか――いや。そうか結局、あの公園も。

「さあ行こう」

 私と彼は、手を交わした。家屋の中がしだいにぼやけていき、完全に薄暗さは消えていった。

 向かうは、組織の本拠地。きっと彼女は今頃、そこに送られて、組織におけるルールでも練りこまれているだろう。

 私たちは、大山を、旧鳥取を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ