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(回想)呪いの魔石の正体(シトラール・バウム視点)



イーズ侯爵家に到着すると、見知った家令が出迎えてくれた。


ローレル殿下が同席していることに一瞬だけ驚きを見せたが、すぐに表情を整える。

さすが名家の家令だと、改めて思う。


だが、今はそれどころではない。


メリッサの様子を、一刻も早く確認したい。

倒れた――それしか聞いていないのだから。


倒れた理由は?

イーズ侯爵家に運ばれた理由は?


分からないことばかりである。

なぜメリッサはハーツ様と一緒にいたのか?


普段、メリッサからハーツ様に近寄ることは絶対にない。

ハーツ様もメリッサが一人の時に声をかけることはないだろう。


だからこそ、疑問だった。

どういう状況だったのか、想像も出来ないのだ。


ハーツ様の侍従に案内され、部屋へ向かう。


廊下ですれ違ったのは、初老の医師だった。

診察を終えたばかりなのだろう。


俺は軽く医師に一礼した。


「ハーツ様!」


部屋に入り、姿を確認して声をかける。


ハーツ様は、わずかに疲労の色を滲ませていた。

本当に何があった?


「シトラール……ローレル殿下?」


俺だけでなく、殿下の存在に驚いている。

どうやらハーツ様にもローレル殿下の来訪は事前連絡がなかったらしい。


俺はそれ以上言葉を交わさず、すぐに視線を奥へ向けた。

妹が最優先だ。


ベッドの上。

メリッサが、静かに横たわっていた。


……息を吐く。

無事だ。


それだけで、ひとまずはいい。


だが、顔色は悪い。

血の気が引き、普段の面影が薄れている。


(……何があった?)


ここまで消耗するほどのことを。


「シトラール、すまない。勝手な判断だった」


ハーツ様が静かに言う。


「いえ。こちらこそ、ありがとうございます」


俺は頭を下げた。


学園の医務室では不安が残る。

しかもメリッサは貴族令嬢だ。


下手な対応は、噂になりかねない。

そうなったらメリッサの致命的な瑕疵になる。


メリッサ本人は気にしないかもしれないが。

少しは気にしてほしいのが俺の本音ではあるが。


ハーツ様がイーズ侯爵家へ運んでくれた判断は、正しい。

感謝しかない。


「極度の魔力切れだ。医師からは一週間の静養を勧められている」


「……そうですか」


思った以上に重い。

今までもメリッサは魔力切れを起こしたことがある。


だからこそ、魔力の加減は分かっているはずなのに。

メリッサは魔法の危険性も十分理解しているのだ。


(どれだけ無茶をした)


その時だった。


「ハーツが、意識のないメリッサ嬢を自宅へ連れ込んだ――それは、かなり重大な問題だろう?」


ローレル殿下が口を開いた。


明らかに、苛立ちが含まれている。

ちなみに、俺はその件に関しては全く問題視していない。


ハーツ様がメリッサに何かするとは到底思えない。

もしそれが本当だったら……。

後日メリッサが物理的にも精神的にも社会的にも確実に反撃してくるのをハーツ様は分かっているだろうし。


「しかも、気を失う直前に手を取り合っていたと聞いたが?」


ローレル殿下の言葉に、空気が、一気に張り詰める。

冷たい視線をハーツに向けている。


ハーツ様がメリッサを連れ込んだように聞こえる言い方だった。

だから、絶対にそれはない。


そう言いたいが言えない。

ハーツ様に迷惑をかけているのは絶対にメリッサである。


「僕が悪いみたいではないですか!」


ハーツ様が即座に、そして呆れたように返す。

とても嫌そうな表情をしている。


「ハーツ様、メリッサがご迷惑をおかけして申し訳ありません」


俺は間に入る。


状況の全ては分からないが――。

メリッサが何かしたのは間違いない。


過去の経験上、迷惑をかけたのは絶対にメリッサだ。

断言できる。


ハーツ様は深く息を吐き、気持ちを切り替えているようだ。

そしてポケットから、小石を二つ取り出す。


「意識を失う直前に、メリッサから渡されたものです」


「……魔石か?」


ローレル殿下が眉を寄せる。

だが、次の瞬間。


「いや……違うな。これは――」


殿下の視線が鋭くなる。


俺もその魔石になぜか違和感があった。

昼休みに見せられた時とは、あきらかに何かが違う。


「意図的に“存在を薄くされている”」


(……それか)


違和感の正体に、納得がいく。


俺もポケットから石を取り出した。

メリッサから昼休みに渡されたものだ。


「これは、今日の昼にメリッサから受け取ったものです」


ハーツ様のものと違い、こちらははっきりと魔石の存在を感じる。


「シトラールも“呪いの魔石”を渡されたのか!」


ハーツ様の言葉に、思わず眉をひそめる。


(呪い……?)


……あいつ、何を言って渡したんだ。


だが、想像はつく。

“絶対に手放すな”――そう伝えたくて言ったのだろう。


(……メリッサらしいな)


「こちらは存在感がある」


ローレル殿下が言う。


「昼に見た時は、ハーツ様のものも俺が渡された魔石と同じ状態でした」


つまり――

この短時間で、メリッサは魔石に追加の魔法を付与した。


(だから、ここまで消耗したのか)


「魅了魔法の無効化……か」


ローレル殿下が、ぽつりと呟く。


一度、部屋の外へ出る。

そして廊下から室内を見渡した。


「……なるほど」


再び戻ってくる。


「ここまで距離を取ると、微かに感じるな。完全に消えているわけではない」


そして、断言する。


「ハーツの持つ二つは、半径二メートルほどの範囲で効果を発揮している」


思わず目を見開く。

そこまで読み取るのか。


(さすが、か)


俺の持つ石は接触型。


ハーツ様のものは範囲型。

さらに、存在隠蔽。


(確実に、メリッサが何かしらの意図を持って作った魔石だ)


メリッサは、そこまで考えて作った。


俺はここ数日の出来事を思い返す。


思い出せ。

考えろ。


断片が、繋がっていく。


「……この二つの魔石は、本来――」


俺はローレル殿下を見た。


「一つは殿下にお渡しするつもりだったのだと思います」


「……私に?」


わずかに、意外そうな声。


当然だ。

子爵令嬢が王太子に直接渡すなど、不可能に近い。


だからこそ――。


メリッサは魔石をローレル殿下の側近であるハーツ様に託した。


「ラズベリー・ハーブ男爵令嬢への対策です」


俺は、はっきりと言い切った。

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