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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第四章

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2025年5月11日(日)魔法使いになった俺

 吉野さんの機嫌も直ったようだし、じゃあダンジョンに行くかというところで待ったがかかった。


『真司さんがしばらくこの家に住むなら、まず掃除をしないと』

「えー、別にいいよ。そんな気を使わなくても。ホコリじゃ死なないって」

『山村さんはホコリで死ななくても、アタシが気になるのよ。汚部屋で生活してる女だと思われたくないの』

「じゃあ、吉野さんに交代するから、気が済むまで掃除するか? ……どうせ5分で飽きるだろうけど」

『言ったわね。やってやろうじゃない。さっさと交代するわよ』


 そういうと、吉野さんは俺の意識を押しのけて、フルパワーで掃除を始めた。



 ***



 気がつくと、テーブルに座って簡単に昼メシを取ったあとだった。


「え? 昼過ぎたの? 今、何時だ。もう1時?」

 時計を確認して部屋を見回すと、かなり片付いていた。


『客用の布団を干して、全部の部屋に掃除機を掛けて、お風呂とトイレの掃除はしたわよ。いらなそうな荷物は2階のクローゼットに突っ込んでおいたから』

「おー、なんかスゲえな。だいぶマシになったじゃん」

『エアコンとか窓も掃除したいけど、もうムリ。お風呂もいまいちキレイにならなかったから、あとは業者にでも頼んで』

「おつかれー。いやいや、十分よ。こんだけキレイになれば」


 家中を確認してみたが、ふみかと暮らしていたときと同じくらいにはなった。


「なんか、部屋中いいニオイがするな」

『カーテンがホコリっぽかったから、全部洗濯したわ。洗剤のニオイじゃない?』

「え? もう全部乾いたの?」

『洗ったあとにベランダに広げて、風魔法で水分を飛ばしたの』

「そんなワザが……便利過ぎる」

『っていうか、カーテン変えない? 家の雰囲気に合ってないんだけど。誰の趣味よ』

「コレは、ウチの母親が新築祝いだって言って持ってきたんだよ。変えられないだろ?」


 俺がそう言うと、吉野さんは引きつったような声を出した。


『うわっ、サイアク』

「なんで?」

『この家は、山村さんの家だけど、ふみかさんの家でもあったわけでしょ? それなのに自分の趣味でもないカーテンを毎日目にするなんて、アタシだったら絶対イヤ』

「そこまで気にすることかな」

『自分の好きなようにできない家なんて、愛着が持てないでしょ。意外と、ふみかさんが出て行っちゃった原因の一つがコレかもよ』

「たかがカーテンでそんな……」

『カーテンそのものというより、色々な不満が積み重なって、最後のダメ押しでクソダサいカーテンが目に入って、全部投げ捨てたくなった──っていうのはあるんじゃない?』



 思い返してみれば、ふみかは幾度となくカーテンのことを口にしていた気はする。


「そういうことだったのかな……」

 俺はふみかがどんな表情をしていたか思い出そうとしたが、覚えていなかった。



『──ま、今さら言ったところでしょうがないわね。じゃあ、ダンジョンに行く?』

「そうだな。だいぶ遅くなったけど、晩メシの前に3時間くらいならできるかな。サクっと風魔法を試してみるか」



 ***



 ナンブまで来て、周囲をうかがいながらソロでダンジョンに入った。

 万が一チンピラに絡まれたらすぐに対処出来るよう、この前使わなかった魔石の残りをポケットに入れておく。

 鈍器と化した魔法のステッキも、血糊を拭いてある。今日はちゃんと魔法のステッキとして使うつもりだ。



「よし、いくぞ」

『おー』


 警戒しながら、ダンジョンの中を進む。


「第一村人発見」

『……スライムね。さっそく、風魔法を試してみようよ』

「よし。任せておけ」



 俺はステッキをスライムに向かってかざし、意識を集中させる。

 キラキラとしたエフェクトが俺の周囲に立ち上る。


「キタキタキターーーっ!」

『集中を切らさないように』


 周囲の空気が変わっていく。

 俺はイメージしたものを現実の世界に呼び出そうとする。


 今日が俺の初舞台。絶対に成功させてみせる。


「風よ……、我が手に集まれ」

 俺がそう言うと、ちいさなつむじ風が手のひらに現れる。


『その調子!』

 吉野さんが声をはずませる。


「いくぞ! ウィンドブラストーーーっ!」

 俺はステッキを振り、スライムに向かって魔法を解き放った。


 風がチキューーンっと音を立てたと思ったら、スライムに小さな穴が空いた。


 思ったより威力はなかったが、それでも魔法だ。



 どうだ? 効果はあったのか?



 スライムは穴を開けたままぷるぷると震え──、やがて崩れるように灰になった。



「やった……。やったぞーーーーっ。風魔法が使えた!! 俺は、俺は……魔法使いになった!!」

 俺は飛び上がって喜んだ。


『おめでとう。これでできなかったら、アタシがハダカにされて、モザイクまで掛けられた甲斐がないから』

「……根に持ってるな」

『当たり前でしょ。はい、練習を続けるわよ』

「よっし、どんどんいくぞっ!」



 風魔法が使えるようになったと言っても、俺と吉野さんでは、魔法のイメージがかなり違う。俺の魔法は空気銃というより、レーザービームみたいだ。

 昨日、カマイタチより、ライトセーバーのほうが強いって思ったせい……なのか?


 ただし、威力のほうは強くない。正直、吉野さんの半分程度の威力しか出ていない。



「これじゃ強い異生物は倒せる気がしないな」

 俺は渋い顔をした。


 せいぜい、敵に囲まれたときに、牽制出来る程度か。


『ピンチになったら、アタシに交代してくれればいいわよ』

「それはそれで、カッコ悪いなあ」


 せっかく魔法が使えるようになったのに、吉野さんに頼らざるを得ない場面があるというのは少々シャクだ。




 ダンジョンの中を進みながら、出てきたゴブリンを魔法で瞬殺する。


「一応、ゴブリンまでは一発で倒せるな」


 ゴブリンの魔石は、相変わらず独特のニオイがする。


「コイツだけは、別の採集袋に入れよう。ニオイが伝染りそうだ」

 俺は顔をしかめてゴブリンの魔石をつまみ上げた。


『そこはおまかせするわ』

「──にしても、魔法って最高だよな~。撲殺しないで済むっていうのが、これほどラクだとは。やっぱ俺は肉弾戦に向いてないわ」

『そうかしら? いざとなったら物理攻撃もできるようにしておいたほうがいいわよ。とっさに魔法が撃てない場合だってあるだろうし』

「それは確かに」

 コクコクと頷いて同意する。


『今日はサーベリオンの手前まで行ったら帰りましょ』

「それだったら、俺にもサーベリオンが倒せるか試してみない?」

『もっと強力な派生スキルが生えたらできるかもしれないけど、今はまだムリよ』

 俺の提案は素気なく却下される。


「チキショー。んじゃ、吉野さんが倒してよー。この前は有田さんと一緒だったから売っちゃったけど、アイツの魔石もキープしておきたい」

 少々すねた声が出てしまう。


『なんか……山村さん、子どもみたいね』

「ふっふっふ、男はいつだって少年の心を忘れないものさ」

『アタシは大人っぽい落ち着いた人のほうがいいわ』

「それは、失礼」



 2層の黒柴っぽい犬を通り過ぎたら、でっかいネズミみたいな異生物がいた。

 外見はネズミだが、スケール感がおかしい。


「これって、ゴブリンが乗っててもおかしくないよな。小学生が見たら、間違いなく乗ろうとするぞ」

『ちょうどポニーサイズだね』

「だろ? もし、ダンジョンが未成年者にも開放されたら、絶対、帰りたくないって泣くぞ」

『動物じゃないんだから。すぐに事故が起きて未成年者は立入禁止に逆戻りよ』

「ありそうだな」


 3層に入ると、このデカいネズミと、相撲取りみたいなゴブリンがいる。


「相撲取りのほうは、俺の魔法じゃキツそうだ」

『交代する?』

「いや、一度だけ試してみよう。2発撃てば倒せるだろう」


 異生物までの距離は、およそ100メートル。重量級なだけに、相手の動きは鈍そうだ。


 俺はイメージを膨らませようと集中力を上げる。



 相手が走ってきたところに、2発叩き込む感じ。

 シュッシュっと連打。



 弱いながらも攻撃魔法が使えるようになったお陰で、気分だけは早打ちガンマンだ。


 早打ちといえば、クリント・イーストウッドか。

 今はお年寄りのイーストウッドだが、続・夕日のガンマンに出てくる彼は、痺れるくらいにカッコいい。俺も、あのマントみたいな被り物が欲しい。


 そういえば、バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3で、マイケル・J・フォックスも似たような被り物を着ていた。あれは、西部劇の伝統的なアイコンなんだろうか。


「あのマントみたいなやつ、ポンチョっていうんだっけ? 探索者でもおんなじようなものを着ている人いるよな?」

『うーん、言われてみると……そうね。何人か見掛けたかな』

「もしかして、奥田くんが言ってた、トイレのとき目隠しに使うポンチョってアレのこと?」

『……クリント・イーストウッドが穢れる気がするから、それ以上考えるのはやめましょ』

「確かに……西部劇に対する冒涜だな。ロマンは大事にしよう」



 みたいなことを言い合っているうちに、俺の体が光り出す。

 周囲の空気が変わり、右手に魔力が集まってくる。


「お、これはさっきより強い魔法が撃てる予感」

『はい、イメージをしっかり』

「おう! 一発は弱くても連射すればイケるだろっ!」


 俺はステッキを重量級のゴブリンに振りかざした。


「レーザービームの連射だ! オラオラオラっ!」


 チュン、チュンチューンっという鋭い音と共に、白い光が連続して発射された。

 走ってきたゴブリンの頭がズタズタになり、すっ転ぶような格好で灰に変わっていった。


「おお~、いい感じ~。早打ちガンマンごっこができそうだな」


 人差し指の先を口の前にやり、息を吹きかける。


『今の、派生スキルだよね? 山村さんのスキルってどうなったのかしら』

「そうだ、図鑑、見せてくれよ」

『はい。ちょっと待って。あ、なんかSFっぽくなってる』



 ━━━━━ SYSTEM ACCESS GRANTED ━━━━

     ▓▒░ 名前:山村 荘太郎 ░▒▓    

  ─── ─── ─── ─── ─── ───

 分類:無職

 タイプ:こだわりが強い

 身長:--

 体重:--

 特性:

 擬態

  ├─ 図鑑

  │  ├─ 人格形成

  │   ├─ オートアシスト

  │   └─ 丸投げ

  ├─ 特殊効果

  │  ├─ 女優エフェクト

  │  ├─ 小悪魔モード

  │  └─ モザイク

  ├─ 能力吸収

  │   ├─ 風魔法

  │  │   ├─ レーザービーム✩⋆

  │   │   └─ パルスレーザー✩⋆

  │   ├─ 大食い

  │   └─魔石摂取

  └─ 再生能力

 〓〓─〓〓─〓〓─〓〓─〓〓─〓〓─〓〓



「ウィンドブラストと叫んだはずなのに、レーザービームとは……ナゼだ」

『最後は自分でレーザービームって言ってたわよ』

「あれ? そうだった?」

『っていうか、レーザーって風魔法かなあ……? いい加減なところは、山村さんっぽいかも』

「そこはイメージの世界だからいいんだよ。スターウォーズみたいでカッコいいじゃないか」

『スキルを横に伸ばしていくとレイアウトが崩れるから、下に伸ばすスタイルになったのはいいわね』


 スキルの説明を確認すると、パルスレーザーは、レーザービームより威力は劣るが、連射が出来るのが強み。

 マシンガンというよりは、フルオート機能のついたハンドガンみたいな感じか。


「連射できてもこの威力じゃなあ……。これで倒せってのはキツいよな。牽制には使えるかもしれないが」

『現実の拳銃だったら、連射したらすぐに弾切れになっちゃうんでしょ? 魔法だったらその心配はないんじゃないの? 倒せるまで撃てばいいじゃない』

「あるいは、対人戦のときに使えるかもな。死なない程度のダメージを与えるのにちょうどいいんじゃないかな」

『対人戦がある前提なのが怖いわね。でも、あんまり雑に狙ってると、魔力切れになったりするかしら』

「使える魔力は無限じゃないからな。できるだけ魔力の消費を抑えるつつ、複数の敵を倒すにはどうしたらいいんだ?」

『範囲魔法を使う?』

「レーザービームって、焦点が狭いだろ。範囲魔法に応用できるか?」

『そこはイメージ次第だから。どうにでもなるんじゃない? 山村さんの宿題ね。次にダンジョンに来るときまでに、イメージを膨らませておいて』

「軽く言ってくれるぜ」



 4層に現れるキツネみたいな異生物は、異様に動きが早い。

 パルスレーザーでも、当たれば倒せそうだが、全然当たらない。


「こりゃ、ダメだ。魔力のムダ遣いだな」

『頭がいいのね。あのキツネっぽいやつ、こっちの動きをよく見てる』

「範囲魔法があれば一発なんだけどなあ……、クソ」

『じゃあ、ここで交代して、サーベリオンのところまで行っちゃおう』

「了解」

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