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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第三章

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2025年5月9日(金)君の名は

「じゃあ、ボクが精算してきますね。少し待っていてください」

 金子さんはそう言うと、精算の長い列に並んだ。



『今日もまた預り証だけ溜まってくのか……』

(それなんだけど、ちょっと考えがあるんだ。ここで意識の交代をしよう)

『……また、なんかろくでもないことを考えてるんじゃないでしょうね?』

(失礼な。俺がいつ、ろくでもないことをした?)

『ははは、それは失礼』

(さりげな~く、金子さんに換金方法を聞くんだよ)

『本人認証なしで換金できるか? ムリじゃない?』

(まあ見てろって)



 換金が終わると、金子さんがやってきた。


「魔石と今日採った魔水の分で、13万円でした。税引き後、9万1000円で、それを等分して4万5500円ずつになります」

 そう言って、預り証を渡してきた。


「最初に有田さんと一緒に15層まで回った日を除けば、一日でこの金額って、すごくないですか?」

「魔水が最低ランクでも、10万ですから」

「じゃあ、魔石だけだと大した儲けにならないんですね」

「ファン層を抜けると、魔石のサイズも大きくなってくるので、奥に行くほど稼げます。吉野さんの魔法ならすぐに稼げるようになりますよ」


 俺は預り証を受け取った。


「……あの、吉──」

「そういえば……って、あ、どうぞ」

「いえ、吉野さんからどうぞ」

「あー、えっと、じゃあ……、ものすごくヘンな質問になるんですけど。金子さんって事務の仕事は長いんですよね。有田さんの代わりに事務仕事をしてるって聞いた覚えがあるんですけど」

 俺はさりげなく話題を変える。


「ええ、そうですね。ダンジョンに潜るようになったのは2年前からですけど、事務仕事はそれより前からやっていました」

「じゃあ、換金って、本人認証をしないでする方法を思いつきません?」


『どこがさりげなくよ。思いっきりストレートに聞いてるじゃん』

(まあまあ)


「本人認証ですか?」

「ええ、さっき金子さんに買い取り手続きをしてもらったけど、毎回そうするわけにいかないだろうし、違う方法はないのかなって。あっ、別に非合法なことをしようとしているわけではなく。えっとですね、例えば、アタシがものすごく稼げるようになったとして、みんなが見ている場で換金すると、怖い人に絡まれたりしないかなって」

 少し怯えたふりをする。


「ああ、それは確かにありますね。買い取りカウンターって、暴力団が居座ってることが多くて」

「あ、やっぱりそうなんだ。現金で持って歩かなければ大丈夫ってわけでもない感じですか?」

「魔法が使える人は目立つので、目をつけられる可能性があります。買い取りカウンターで、直接自分の銀行口座に振込も出来るんですが……」

 金子さんは少し考え込んだ。


「ですが?」

「口座にまとまった金額が入ってるのがバレたら、そのまま誘拐されて、どっかのATMまで連れて行かれるかもしれないですね」

「全然ダメじゃないですか!」

 かわいらしくすねたような表情を浮かべる。


「……うーん、あとは……何かあったかな。パーティーシステムを使えば、出来なくはないかも……」

「どんなものなんですか? その、パーティーシステムって」

「報酬の分配で揉めないようにするのと、脱税防止のためのシステム、ですかね。パーティーで採取した資源は、一度パーティーの口座に入れて、そこから各メンバーの銀行口座に分配します。いちいち窓口で決済しないので、待たされないし、大手の企業だと所属している探索者に適用することが多いです。お金の流れが一目瞭然なので、お役所と揉めないで済みます」

「それ、すごくいいじゃないですか」

 俺は瞳を輝かせた(当社比1.2倍に微調整)。


「ただ、最低限二人の探索者が在籍している団体であること。それに、法人格がいります。信用第一ですから。少なくとも、有限会社とか、合資会社を作るかって話になりますね」

「そうなんですか……。ありがとうございます、すごく参考になりました。ちょっと調べてみますね。──それで、金子さんのほうは?」

 かわいらしく首をかしげて聞いてみた。


「へ? ……あー、ボクのはいいです。別に」

「はい。わかりました。あの……色々お世話になったんですけど、明日からちょっと一人でスキルの検証をしたいので、パーティーでやるのは今日までにしましょ。3日間、一緒に組んでくれてありがとうございました」

 俺は金子さんにお辞儀をして、立ち去ろうとした。


 金子さんは、一瞬戸惑ったものの、俺に声を掛けてきた。


「あ、あの……吉野さん、また、そのうち……パーティー……を組んでくれますか?」

 かなりしどろもどろだが、言いたいことは言い切った。



(お、えらーい。ちゃんと自分から声を上げたぞ)

『なに、お父さんみたいなこと言ってんのよ』

(クックック。俺はお父さん以外のマネもできるんだぞ)



 俺は振り返って、金子さんの目をじっと見た。


「それは、金子さん次第かな」


 ほんの一瞬、俺の瞳が意味ありげに煌めく。


「──女心は並んで待ってるだけじゃ、手に入らないですよ」


 金子さんは、何か言いたげに口を開きかけたが、結局、何も言わなかった。


「アタシ、さっきのナタを受付に届けてくるので、じゃあ、ここで」

 俺はそう言うと、金子さんに背を向けた。


 受付に向かい、スタッフにナタを渡して、拾った経緯を簡単に説明する。


 金子さんはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 ちょうど学校や会社帰りの一般探索者が、建物に入ってくる時間だったため、彼の姿は人波に紛れ、すぐに見えなくなった。



『な~にが、女心は……よ。山村さん、いつから女になったのよ。しかも派生スキルが増えてるし』

(え? マジで? 今度はナニナニ?)

『こんな感じ』



特性:擬態→図鑑→人格形成→オートアシスト→丸投げ(完全におまかせ)

 |→特殊効果→女優エフェクト→小悪魔モード(瞳に星が入る)(*NEW!)

 |→能力吸収→風魔法(グレー文字)

      |→大食い(とにかく死なない)

      |→魔石摂取(一日一回、一定時間全ての能力が上がる)



(ダーーー、ハッハッハッ! マジかよ、“小悪魔”って! ぶっふふふ)

『こんなしょうもないことで、派生スキル増やして、バカみたい』


 そう言いながら、吉野さんの声も笑って震えていた。


(これも俺の願望から生えてんのかな。だんだん俺も女性化してきたってこと?)

『女性化っていうか、ネカマ化? まあ山村さんらしいのかな、こんなスキルの育て方も』

(あー、笑った)



 心の中とはいえ、久しぶりに大笑いしたせいで、つい顔が緩んでしまう。

 きっと傍から見たら、思い出し笑いでもしているように見えるだろう。



(まあいいや。バスが混むから早く帰ろうぜ)

『金子さんにあんなこと言って、またおかしなことにならなきゃいいけど』

(ああいう不器用そうな男を見ると、放っておけないんだよ。俺は、ほんのちょっとタネをまいただけ。あとは本人次第よ。なんでもお膳立てしてもらえると思うなよ。だいたい──)


 そこまで言って、俺は足を止めた。


『だいたい、何よ』

 吉野さんが不審そうな声を出す。



(えーっと……、今、俺の目の前にいる人は、誰でしょうか?)




 吉野さんが、俺たちの目の前に立っていた。

 学校帰り、そのままダンジョン来ましたという出で立ちで……。

第三章はここまで。読んでくれてありがとうございます。

面白かったら、応援してくださいね。

※ストックが尽きましたので、明日から不定期更新になります。なるべく毎日更新は心掛けます……

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