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リファイン ─ 誰でもない男の幸福  作者: かおる。
第三章

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2025年5月7日(水)パーティープレイ

 昨日は帰りが遅かったので、今日は遅めのスタートだ。


 さて、どうやってダンジョンに入ったものか。

 出来ればソロで入ってスキルの検証をしたいが、昨日絡まれた三人組のことも頭に残っている。悩ましいところだ。


 普通、どうやってパーティーを組んでいるのかネットで調べてみると、パーティー検索が出来るマッチングアプリがあるらしい。


 早速試してみたのだが……。


 深域管理機構の公式アプリは、いちいち本人認証を求められるため、俺にとっては使い勝手が悪い。その他のアプリは、出会い目的みたいな男からのマッチング申請がわんさと来て辟易した。

 プロフィールに18歳・女性と入れてしまったせいだろう。せめて年齢は空欄にしておくべきだった。


 学生なら友だち同士でパーティーを組めるが、社会人は休みや力量がバラバラだ。 毎回知り合いと組めるとは限らない。

 しかも俺の場合、この姿でいる限り、知り合いと組むのは不可能だ。カメラをオフにしたネットミーティングに参加するのとわけが違う。


 ダンジョン前で、何となく顔付きや態度で判断しながら、メンバーを探すことも出来なくはないが……。


 世の中いい人ばかりではない。特に女性に対して。若くてかわいらしい俺を甘く見て、絡んでくる者もいる。



 ああ、まったく時間のロスだ。

 絶賛、マッチョな三人組に付きまとわれ中だが、正直、またかよとしか思えない。


「キミ、かわいいね」とか言われても、「はい、知ってます」としか答えようがない。



『だってかわいいし』

(外見だけならな。でも、中身の半分は36歳の男だぞ。俺にどうしろって言うんだ。吉野さん、相手する?)

『イヤよ。こんな汗臭そうな奴ら。面倒くさいから、このまま一緒にダンジョンに入って、2、3発体に穴でも開けてやれば大人しくなるんじゃない?』


吉野さんもうんざりしているらしい。言葉がスラム化している。


(吉野さん……変わったね。子犬のように震えていた、昨日までのアナタはどこへ……)

『アタシがやるわけないでしょ。山村さんがやってよ』

(俺は魔法が使えないし)

『直接手を汚すのは下僕の仕事よ。魔石を飲んでぶっ飛ばしてらっしゃい』

(おまっ、俺は下僕か!?)



「吉野さん」


 そんなマッチョメンに取り囲まれた俺に声を掛けてくれたのは──


 昨日一緒にダンジョンを回った有田さんだった。



「おいおい、その子はウチが目を付けてたんだ。遠慮してくれないか?」

「なんだてめぇは?」

「おい、やめとけ。ナンブの有田だ。オマエじゃ勝てねぇよ」

 マッチョグループのリーダー格の男が止めた。


「知るかよ、なめられてたまるか」


 掴みかかろうとしてくる男の手を、有田さんは瞬時に払って、捻り上げた。

 肩の骨が外れたのかもしれない。相当苦しかったようで、筋肉男が叫んだ。


「わかった、わかったよ」

「いい子だ」


 三人組は捨て台詞を吐きながら立ち去った。それを見届けると、有田さんが言った。


「かわいい子は大変だな。今日もダンジョンに入るの?」

「はい、そのつもりです。ただ、ソロで入ると、また絡まれるかと思ってどうしようかと……まあ、実際そうなってたところなんですけど」

 俺は、しおらしそうに言った。



 どうよ、この完璧な女の子らしさ。

 自分でも演技が板についてきた気がする。



「なるほど。じゃあ、今日も俺と一緒にパーティー組んでみる?」

「あ、今日は……浅い階層でゆっくりスキルの練習をしたいので……」


 有り難い申し出ではあるが、正直スキルの検証もしたい。

 軽く断りを入れる。


「あー、そうか、スキルの練習か……。でも、ソロだと色々危ないでしょ」

 有田さんがそう言いながら、チラっとベンチに座っている金子さんのほうに視線を向けた。


「そうなんですよね……。どうしよう」

「じゃあさ、ウチの章平を貸すよ」

「は?」


 有田さんは、金子さんを呼び寄せた。


「章平がいると、危険度がぐーっと下がるからさ。ちょっと使ってやってよ、ね? スキルの検証をするときは後ろを向かせておけばいいし。離れたところに立たせておくだけでも効果あるから」

 有田さんは、ニヤニヤした顔で金子さんを俺のほうに押し出した。


「じゃあ、あとは若い二人でごゆっくり」

 そう言いながら、有田さんは一人でダンジョンに行ってしまった。


 金子さんは真っ赤な顔で、何か言いたげに口を開きかけたが、結局目をそらして黙り込んだ。



(ははあ、これは)

 俺はピンと来た。


『え? なになに?』

(うーん、他人のプライバシーに関わることは黙秘します)

『何よ、もったいぶって。……ケチ』

(ふふふ、まあ、ここは俺に任せておけよ)



「さて……」と言いながら、俺は気合を入れるふりをして両手で頬を叩く。そして──



「金子さん、あの……巻き込んでしまってごめんなさい。今日は一緒にダンジョンを回ってくれますか?」


 俺はバラ色に頬を染め、そうっと両手を胸の前で握りながら、恥ずかしそうな女子大生を演じてみた。


 同時に、ほんの少しだけ女優エフェクトを掛ける。

 少女マンガでいうところの、登場人物の背景にかすみ草が浮かぶ程度の、細やかなキラキラをふんわりと飛ばす。



 ……どうよ。地上でも、その気になればスキルの微調整ぐらい出来るのだ。クックック。



 頬を叩いて赤らめるのは、「風と共に去りぬ」で主人公のスカーレット・オハラが、狙った男を落とすために使ったワザだ。

 化粧品が手に入らない時代、とっさに唇を噛んで赤みを出す。カーテンでドレスを仕立てる。どんな逆境でも“映え”を作ってみせる、女の意地と執念が詰まった映画だ。



『ハアっ!? ちょっ、ちょっと! 何で、ここでネカマ属性を発揮してんのよ!』

(わかってないな、吉野さん。男にはヒーローを演じてみたいときがあるんだよ。俺は、ほんのちょっとそれを手助けしただけ)

『えっ!? っていうか……、ええええっ??』



 というわけで、金子さんとダンジョンデートをすることになった。



『いや、どういうわけよ。これってデートなの?』

(二人きりで行動してるんだから、デートと言ってもいいのでは)

『でも、何を喋ったらいいのよ。だいたい、金子さん、昨日だってたいして喋ってなかったよね』

(うーん、会話のつかみは、鉄板だが天気の話か)

『ダンジョンの中に天気はないでしょ』

(普通に、探索のことでいいんじゃない?)

『はあ……、やっぱり何にも考えてないし。そんなに喋りたかったら、山村さん代わってよ』

(いや、俺だと、魔法使えないじゃん。ここから先は吉野さんの出番でしょ。せっかくだから派生スキルを増やしておけよ)

『まあ、確かに。魔法の練習もあんまりできてなかったね』



「じゃあ、あんまり遠くまで行かないで、夕方には帰って来られる範囲で行きましょう」

「……そうだね」

 金子さんは、それだけ短く呟いた。



『き、気が重すぎる……』

(そういえば、魔石を集めながら行こうぜ。この前の犬の魔石よりマシなやつを見つけたい)

『あー、それもあったか』


「あの、金子さん……ちょっと個人的なお願いがあるんですけど」

「……?」

「アタシ、魔石を集めてるんです。昨日は、パーティーの報酬を頭割りにしましたけど、今回は魔石がほしいので、アタシの報酬分から引いてください」

「異生物ごとの魔石を集めてるの?」

「そうです。ちょっとしたコレクションみたいなもので。一つずつ取って、残りは売って構いません」

「……わかった」



 それ以降、まったく会話が弾まないまま、ダンジョンを進む。

 異生物を見つけては魔法で倒す。魔石を拾う。──そんな淡々とした探索が続く中、途中で休憩を取った。



「はー……、金子さん。なんか付き合わせちゃってスミマセン。つまらないでしょ」

「……いや、ボクは大丈夫です」

「………」


『な、何か話題は………』

(じゃあ、ご趣味はーとか、あとなんだ、家族構成?)


「えっと、ご、趣味は?」

「ゲームですね」

「……金子さんは、有田さんと一緒に住んでるんですか?」

「うん」

「……いつもダンジョンに入ってるわけじゃないですよね。普段は何してるんですか?」

「株。叔父さんの代わりに事務とか」

「……」


『ぜ・ん・ぜ・ん・会話が弾まないんだけどっ! もう話のネタが思い浮かばないよ』

(デスネー)



 金子さんのスキルのおかげで、敵の位置はわかるし、不意打ちは一切なし。

 サクサクと進めるのはいいけれど、黙々と異生物を狩り続けるだけの行動が“3日”も続き、吉野さんが音を上げた。


 1日目。初めてのデートなら、ぎこちなくてもしょうがないと思った。

 2日目。テニスの壁打ちみたい。走り回ってるのは自分だけだと思った。

 3日目。ボールを拾ってくれない人と同じコートには立てない。そう判断するのに十分な時間はあった。



『ちょっと、さすがにこれはないんじゃない? 金子さん、ほぼ喋んないし、アタシ一人で攻撃してるだけじゃん』

(まあそう言わずに、ちょっとお試しで付き合ってみるっていうか、孤独な青年にほんの少し青春させてやってると思ってさ)

『そんなこと言って、もう3日もこの調子よ? 換金出来ない預り証がたまるだけで、山村さんのスキルの検証も出来ないし、アタシも気を使うし。だいたい、アタシは好きでもない人に時間も気も使うことに、何のメリットも感じないんだけど』

(スキルの検証が進まないのは、俺も気にはしてる)

『山村さんだって、のんびりしてるヒマはないでしょ。ダンジョンデートはもう今日で終了。異論は認めません』




 八つ当たりするかのように異生物を蹴散らして、10層の入口に到達。

 時間的に、ここで一旦休憩して、地上に引き返すことにした。



「あそこのグロークを倒したら休憩しましょう」


 このあたりにいる異生物は、上半身の筋肉が肥大した人型のグロークだ。


 吉野さんが魔法でグロークを切り刻んだ。

 グロークが灰になって消えると、持っていたナタが、カランという音を立てて地面に落ちた。



「あれ? そういえば、このグローク、ナタを持ってる。最初から装備してましたよね。ナタ持ちのグロークって、珍しくないですか?」

 吉野さんが、金子さんに声を掛けた。


「……探索者が捨てたものか、誰かの遺品を拾って使ってるんですよ。また拾われると危ないので、そこにいるスライムに食わせて処分しておきましょう」

 金子さんは、地面に落ちているナタを拾い上げた。


「こんな場所で武器なんて、捨てますかね? 壊れてる様子もないし。誰かの遺品の可能性があるなら、持って帰って、持ち主の遺族にわたすべきじゃないですか?」

「見たところ名前も書いてないし、ありふれたものなので、持ち主はわからないと思いますよ」

「……でも、ここで捨てちゃったら、もう二度と遺族に渡らないじゃないですか。遺族がいたら、という前提ですけど」

「もし、遺族がいたら、もう心の整理がついていて、余計なことになるんじゃないかな」

「そんなの、わからないじゃないですか。遺品が返ってくるだけでも嬉しいかもしれないし」


「──死んだら終わりだ。何の意味もない」


 思いがけず強い口調だった。



「……ヒロタ・ベーカー彗星の発見者の一人、広田さんがダンジョン災害で亡くなったとき──」



『ちょっと、いきなり話題が飛んだんだけど。こういう場合って、どうすればいいの?』

(あー……ボッチ属性が強いと、話が自己完結しちゃうっていうか。自分の中では話がつながってるんだけど、他人には唐突に聞こえちゃうんだよね)

『ハア?? ナタと彗星が、どうつながるのよ』




 ダンジョン災害の発端は、2016年4月、ヒロタ・ベーカー彗星の異常な軌道変化だった。


 規格外の大きさと明るさで注目されたその彗星は、既存の理論では説明できず、一部では地球外生命体との関連もささやかれた。やがて進路が地球と交差する可能性が浮上し、各国は協議の末、核ミサイルによる破壊を決定。2019年末、軌道上で爆破された。


 破片のほとんどは宇宙に散ったが、一部は地球に降下。大半は大気圏で消滅したものの、ごくわずかが地表に届いた。


 甚大な被害が予想されたが、事故や放射線汚染などは確認されなかった。破片は、降り積もった雪が日差しで溶けるように、地面に触れると痕跡を残さず消えてしまった。


 一見、何の被害もなかった──ように見えた。


 だが、翌2020年1月、破片の落下地点を中心に突如地盤沈下が発生。

 崩落した地盤の下から現れたのは、未知の構造物──“ダンジョン”だった。



 ダンジョンが形成される過程は、まるで昆虫が眠りに付く場所を探し、地下深く掘り進んでいくようだった。周辺の建物は次々と崩壊し、都市部においては多くの死傷者を出した。


 彗星を発見した広田もまた、その混乱の中で命を落とした。



「生涯星空を眺め続け、最後は自分が見つけた彗星に殺される。なんて虚しい死に方だったかと。世間じゃ、彼のことを愚かな男の象徴みたいに言っていた。有象無象の奴らが、馬鹿にして笑ってた。ボクはそれが忘れられない。彼の人生は無意味だった。生きるなんて、意味がない!」


 金子さんは、段々気持ちが高ぶってきたのか、最後は叫ぶようにそういうと、下を向いて黙ってしまった。



『……まあ、確かに最初の頃は、珍しい彗星が見れるって、みんなでお祭り騒ぎだったね。アタシが小学校の頃か。友だちと連れ立って、星空観測会に行ったな』

 吉野さんも当時のことを思い返す。


『広田さんも、何度もテレビに引っ張り出されて、コメントを求められたり。そうやって、散々持ち上げたあとにこき下ろされたんだもの。かわいそうなところはあったよね……』


 俺も当時の広田さんがどういう扱いをされていたか、記憶に残っている。


(……いや、俺はそうは思わなかったな)

『え?』

(ちょっと変わって)


 意識の主導権を移動させ、俺は金子さんに話しかけた。



「金子さん。アタシはね、広田さんは、すごく幸せだったと思うよ。だって、好きなものを追いかけて、それで死んだのなら、後悔なんてするはずないもの」

「でも、死んだら何にも残らない」

「んー、そもそも、人生に何か残さないといけないとか、決まりがあるわけでもないし、自分が生きた証って、そんなに大事なのかな?」

「……?」

「星を見てるとさ、太陽の寿命って百億年だっけ? もっと長生きする星もあるよね」

「……そうだけど」

「それに比べたら、人間の寿命なんてほんの一瞬よ。その一瞬でできることなんて、たかが知れてる。どんなお金持ちでも、英雄って呼ばれるような人でも、最後はみんな死んじゃう」

「……」

「でも、自分が夢中になったものを最後まで見届けて、その瞬間に納得して人生を終わりにできた。そんな人、他にいる?」

「むしろ、すごい人だったって言いたいの?」

「そうだよー。誰にでもできることじゃないもの。それに、世間の評価なんて、たいして意味ないじゃん。ワイドショーで、何の肩書もないのに、適当に喋ってるコメンテーターの言葉とか、そんなのどうでもよくない?」

「……意味が……ない」

「アタシは、アタシがしたいと思ったことをするの。それがアタシにとっては、一番大事なことだから。それについて、他人がどう言おうと関係ないし。だから、このナタは、アタシが持って帰る。それでいいでしょ?」


 金子さんは、しばらく何かを考えるように俯いたままだったが、やがて顔を上げて頷いた。


「じゃあ、そろそろ戻ろっか。地上に」

 俺は、座っている金子さんの手を繋いで引っ張り上げた。


 ──彼が陥っている泥沼から抜け出せるように。




『……、広田さんって、ホントに幸せだったのかな』

(星好きな連中からすれば、彗星は、自分の子どもみたいなものだからな。どんな姿になろうと、最後まで見届けられたと思えば、幸せだろ?)

『子育ての経験から来てるのかしら、その考え方は』

(かもな。子どもが生まれる前は、元気に生まれてくれれば、それだけでいいと願って。あとから、あれこれ文句をつけるのは違うと思うし。どんな姿であろうと、愛しき、我が子、だ)

『はあ、なるほどね。……そんなふうに考えたことってなかったかも』

(でも、ふみかは……ちょっと違ったかな。心菜にあれこれ自分でやらせようとしてたっけ。俺からすると、そのうちできるようになるから放っておけよと思ったけど)

『うーん、子どもの育て方か。夫婦で考え方が違うと子どもが混乱しない? お母さんは白って言ったものを、お父さんは黒という、みたいな場合』

(さあな。色んな価値観に触れる機会があるほうが大事だと、俺は思うけど──)



「あ、ちょっと待ってください。異生物が……」

 突然金子さんが大きな声を出した。


「え? なになに?」

「こっちに来てください」


 金子さんに誘導されるまま進むと、一旦止められた。

「この先に、三体います」


 少し覗き込むと、グロークたちがうろついているのが見えた。


「あれ、一度に倒せますか?」


(吉野さん、魔法を使うぞ。チェーンジ。あとは任せた)

『はい、はい』


「少しバラけてるね。でも範囲攻撃の魔法を使えばいけそう。一応練習はしてたんだけど……、ちょっと待ってね」


 吉野さんはそう言うと、イメージを固めるためにほんの数秒目を閉じた。

 目を開けると、吉野さんの体から魔力が噴き出し、周囲の空気がざわめく。


「敵を巻き込む大きな渦を起こせ! ヴォルテックス・ド・レジャンデ!」


 渦巻く風がグロークたちを飲み込み、その体を切り裂くと、魔石ごと遠くに飛び散っていった。


「す、すごい威力ですね」

 金子さんは、間近で見る魔法のすさまじさに少し引いたようだ。


「またオーバーキルしちゃった。ぜんぜん力加減がわからないのよね。魔力の調節って難しいな」

(そんなに大きい魔法ばっかり撃ってると、いざってときに魔力が尽きるぞ)

『わかってるんだけど、感覚頼りで……ちょうどいい量がどこなのか、わかんないの。ホントにゲームみたいなゲージがあればラクなのに』

(そこは、反復練習で必要な魔力の量を覚えるしかないな)

『はあ……、そうね』



「ちょっとこっちへ来てください、ここ」


 金子さんが指差した壁面を見ると、水が染み出しているのが見えた。


「これって、もしかして魔水? でも、低階層には残ってないって……」

「見つけにくい場所なら、意外と残ってるもんなんですよ。ちょっと場所が悪いけど、採取してみましょう」


 金子さんは、慣れた手つきでチューブを壁の亀裂に差し込み、魔水をペットボトルに詰めた。


「湧き出す場所が、岩に隠れてる場合が多いんですよ」

「へー。そうか。こういう場所だと、採取は諦めそうだもんね」


 魔水がペットボトルに貯まると、金子さんはフタをして吉野さんに渡した。


「これ、どうぞ。腕のバンドでスキャンすると、買い取りコーナーで買い取ってもらえますよ」

「えー、でも、金子さんが見つけたんだし、金子さんどうぞ」

「グロークを倒したのは吉野さんだから、吉野さんのものでいいのでは?」

「うーん、じゃあ、半分こにしましょ。この前、有田さんもパーティーなら頭割りって言ってたでしょ。お互いの協力で手に入れたわけだし。スキャンは金子さん、お願いします」

「じゃあ、ボクが預かっておきます」


 金子さんは、そういうと、ペットボトルに貼ってあるバーコードを、腕のバンドで読み取った。


「そうだ、さっき飛び散った魔石も探さなきゃ」

 吉野さんはそう言って、周囲を見回した。


 だが、どこに飛び散ったかわからない魔石を、探すのはなかなか難しそうだ。


「グロークの魔石なんか、たかだか一個500円ですよ。そこまでします?」

 金子さんが怪訝な顔をした。


「たかが500円じゃないよー。500円()あるんだよ? コンビニでお弁当が買えるじゃん」

「なるほど。おにぎりなら三つ買えますね」

「魔石一個がお昼ご飯になると思えば、ムダにできないでしょ」


「そういうことなら……」

 金子さんは、しばらく目をつぶって意識を集中させた。


「見つけました。こっちです」

 金子さんはそういうと、少し離れた岩陰に落ちていた魔石を拾い上げた。


「えー、そんなのどうやって見つけたの? ソレ、完全に瓦礫に埋まってなかった??」

「……派生スキルですね。急に出来るようになりました。敵が出す魔力ではなく、物体そのものの魔力に反応する感じです」

「へー、スゴいスキルだね。便利すぎる」

 吉野さんは金子さんの顔をまっすぐ見つめて、素直に褒めた。


「そんな、別に……。あ、こっちにもありますよ」

 金子さんは、赤くなった顔を見られないように背を向けると、次の魔石を探しに行った。



 ***



 地上に戻って、買い取りコーナーに向かった。

 少し早い時間ではあったけれど、カウンター前には長い列が出来ていた。


 横から見ると、カウンターでスタッフに荷物を渡して、腕に巻いたバンドをスキャナーにかざし、本人認証をしている探索者の姿が見えた。


(本人認証か……)


 ダンジョンの奥まで探索出来るようになっても、このままじゃ、今日も換金できない預り証を溜め込むだけだ。

 何とか、コイツをかわす方法はないものか……。


 いい加減、真剣に考えなくては。

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