これは汗でアレではありません
来客のために席を外していたポン○が帰ってきて、手招きでわしを居間から客間の前まで連れ出した。
「どうしたんです?」
「ほら、横やりしちゃったこの前の連中おぼてるでしょ」
「えっ、ええそりゃね。ドロップアイテムもらっちゃったのまずかったっすか」
「その件では無いんですが」
苦笑いして、ドアを開けた。
中には、上流階級な男女二人。
生意気そうな女は長いすに掛け、長身の男は傍らに立っている。
女は縦ロールであのオンナ冒険者だとすぐ分かった。
男は兜を被っていたので、顔に覚えはないが体格と手首がプラーんとして力が入らないようだから、片手を失っていた盾の男だろうか。クソっ、イケメンじゃない渇。
わしらが入っていくと女は立ち上がった。
「チームリーダーを務めますアンナ・パリス=バケットです。この度は、ご助力いただき感謝しますわ」
家名持ちの女は、名乗り長々と口上をしゃべり始めた。
立たせたままでは、こちらもつかれるので、座るように進めたが、シュウロと名乗る男は、このままでいいと立ったままだ。
女の話はまるで耳に入らなかった。てきとうにポンにあわせて相づちを打つ。
ウィの念話で、この女はこの街の領主の娘だろうと返ってきた。
なんで領主の娘が冒険者をやっているのか疑問だが、所詮他人だ。
昔商業で大きくなった、このバケット街を、パリス家が領地としたらしい。だからこの街の領主の家族は『パリス=バケット』を名乗っている。
うーん時代劇ふうに言えば『バケットの守パリスのアンナ』かな。あんましおもしろくなかったな。反省。
「結論だけ言う。わしは、あんたの一味にゃならんから」
勧誘に来やがった。ソロで旅人のわしに手綱と首輪をつけようとしている。
「悪い話しじゃないはずよ。どおして分からないのです。これ以上ナニが不足なのよ」
足りないのはアンタの理解力だよ。
家を用意してやる? プレヤーにとって宿すら形だけの物だし定住する気もない。
代わりに、クエストに参加しろとか、プレヤー用の回復役を定期的に提供しろだとか。
価値観の違いが分からないからって図々しいにもほどがある。
「話しは決裂と言うことで」
このままだとバカの鼻っ柱に拳を叩きつけたくなった。わしは席を立ち、即ログアウトした。
ポン○には既知だし、NPCだしな。
<SideChange name = "We" >
ログオフで、接続は切られた。
聞いていた話では、マレビトには、不干渉だったはずなのになぁ。
居なくなったからって、わしに矛先を向けられるかもしれんのぉ。
あの欠損部回復は、わしの巫術ではなく、マレビトのアイテム使かったと説明してるが。
あのババァが絡んでくるようなら、巡礼に旅立ってもいいんだし。
縦ロールは帰ったようだ。ふぅ。現実逃避もここらでやめだ。
保育園の行きと帰りにギルドに入り浸り、おやつをもらいながら情報集めで仕上げた手作りの地図もあるしな。
わしはフードをめいっぱい深く被っていても日中の移動で、体力とスタミナが減ってしまうからな。
ちなみにおやつをもらっていたのは、とってもかわいい幼児として不信感をもたれないようにする、わしなりの気づかいで、たしなみなのだ。
敢えて言おう! わしはカワイイのだ。
しかしだ。しかしなのだ。陰を求めて、早く到着したわしよか、のんびり後から現れたミィに男女の注目は集まるのだ。
日頃のわしの行動は、かまってほしがる妹として移り、口数の少ないミィが、クールなお姉さん扱いをされていて人気があるのはなんでじゃー?
納得いかんわい。
いつの間にか周辺では、相方が落ち着きのあるクールな姉で、わしが体力無いのにちょこまかと動きすぐにぐったりとしてしまう痛い妹だなんて。
そう、対地域へのカモフラージュ目的で通っている保育園でもだ。
身体の構造にまだ慣れていないわしが、ほんの数回おもらしをして相方に助を求めただけだろ。
なぜ妹の面倒見がいいお姉ちゃんなんて評価になるのか、さっぱりわからんわい。
これが飲まずにいられるかいっ。わしは目の前にあるジュースを一気にあおった。
さて何杯目かで、キタ。
わしは落ち着いて椅子から降りる。決して思っているような事じゃないからね。
ゆっくりと余裕の表情でトイレに向かう。
あと少しだ。わしはミッションの環椎を確信した。どんなもんだい。
ノブに手を伸ばそうとしたら……ミィが割り込んで先に入ってしまった。
なんてこったい。
店舗側にある、お客様用を使おう。きびすを返し、余裕のある足取りで、慎重に、おだやかに、ゆらさないように、こぼさないようにわしは進む。
オーマイガーッ!
入口に清掃の看板が出ている。今日の当番は、ゆずうがきかないNPC店員だ。
ぺたりとしゃがみこんだわしの股間が生暖かい涙を流し始めた。
</SideChange>
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