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18話 悪神

お久しぶりです。

 彼女たちは捉えた同胞を檻に閉じ込め元の国に撤退する構えを見せていた。


「早くしろッ!我らに女帝様の加護がある限り負けはしないだろうが、相手も聖女様だッ!何が起こるかわからんのだから理解したらさっさとしろッ!」


 そう大声で怒鳴るのは指揮官の女性だ。

 女帝――――聖女に付く女神によって加護を与えられた存在であり、聖女の考えに嬉々として賛同する者の一人。


「ふん……汚らわしいゴミ共にはお似合いの末路だな」


 そう言いながら眺めるのは死体の山。

 その死体は男性のものしかない……それも辛うじてそう認識できるほどに死体の損傷具合は酷い。


「あなた達は安心しろ。帰ったら女帝様と聖女様の御二人が相手をしてくれるかもしれないし、されないなら私達が……な?」


 彼女が話しかけるのは馬車牢の中にいる女性たちである。

 先の戦闘に魔術師の女性も幾人かいたため捉えていた。

 そして――――


「あんた達だけは絶対に許さないッ!」


 リツに助けられた女性の姿がそこには在った。

 両手にはまだ幼い少女たちを抱き締めて、庇い守るようにし、それでも相手に強く睨み付ける。

 育ててきた少年たちが皆殺しにされたという報告を捉えられた少女たちに聞いたときはあまりのショックに気を失いかけた。

 しかし、それ以上に少年たちを殺した彼女たちに強い殺意を抱いていた。


「今は随分と粋がっているけれど、女帝様に掛かれば貴方のような女でも素晴らしい世界に連れて行って貰えるわ」


 ニヤニヤと笑いながらそう言い放つと、舞台の方に戻っていく指揮官。

 その後姿をただ強く睨み付けることしか出来ない自分が、只々恨めしかった。


「私にッ……もっと力があればッ」


 今の彼女には、そう呟くことしか出来なかった。






***






「部隊全員しっかり揃っているなッ!?」


「「「「はいッ!!!!」」」」


「それでは全員本国にも――――」


 それは唐突であった。

 大地を揺るがす大きな衝撃と共に化物が現れたのだから。






***






 その存在は上空から落ちてくる、それが落ちてきた地面は広く深く陥没し、天変地異が起きたかのような惨状を引き起こす。

 それの見た目は子供の頃に母に聞かされた恐ろしい狼を彷彿と……いや、狼そのモノであった。

 目は小さな黄金の宝玉を嵌め込んだかのように綺麗だが、その目に映る者たちにはそんな綺麗さは一切分からない。

 その目に見つめられるとまるで、心臓を鷲掴みにされているかのように錯覚し、呼吸が荒くなる。

 彼女たちにとってその目は狼の獲物を狙うものにしか見えなかった。


 その場の全員が一歩も動かずに辺りは静寂に包まれる。


“神装【ラグナロク】による神装【レーヴァテイン】の仕様を確認”


 しかし、その静寂は仮初のものに過ぎなかった。


 何時の間にか、銀狼の手には刃が真っ赤な一振りの剣を握られており、彼の目を見ても何故か先程までの威圧感を感じない。

 だが、その目を見つめていると、言いしれない不安に彼女たちは駆られていた。

 そしてついに銀狼が言葉を放つ。


『さぁ、ラグナロクを始めよう。楽しい楽しいお遊びだ』






***






 眼の前の銀狼が何やら言葉を発しているが、彼女たちにその言葉が通じたかのかといえば答えはNOだ。

 なぜなら彼女たちはあまりの力の奔流に飲まれてしまい、静かにパニックを起こしていた。

 その証拠に皆、足はガクガクと震え、歯をガチガチと合わせ、手に握る剣は型に収まろうとせず、頭に浮かぶのは自分たちが殺される光景しか思い浮かばなかった。

 しかし、その中でも隊長である彼女だけはなんとかその溢れるようなエネルギーから意識をそらすことに辛うじて成功した。


「ぜ、全員ッ!奴を囲めッ!」


 強大な力を前に、声を振り絞り命令を出す。


「相手はたった一体だッ!この人数で囲めばいくら強かろうと勝てるッ!」


 まるで、自分に言い聞かせるように隊全体に聞こえるよう精一杯声を張り上げ、そして遂に彼女たちに命令を下す。


「かかれッ!」






***






 女が命令を下す。

 その姿を見て、笑みを溢す。


『クフフ……俺に怯えながらも勇敢に立ち向かうか。いや、この場合無謀と言ったほうがよいか?』


 真っ赤な剣を肩に添える。

 行動一つ一つは何ともない行動の筈であるのに、妙に重圧感があり、その行動一つで周りの温度が数度下がったかのような錯覚を誰もが感じるだろう。


 一人の女が目の前まで迫って来る。

 女は剣を上段に構え、敵である銀狼に切りかる……つもりであったのだろう。

 自身に何が起きたのか少しでも知覚出来たのだろう。両手を見る。

 だが、そこにあったはずのものは全て無かった。

 剣……そして、腕も。


「あ、あぁぁ……」


 そう声を上げる女を傍目に銀狼は言う。


『運がなかったな。女』


 そして一気に両腕をなくした場所から血を吹き出しながら、その女は絶叫する。

 それを見た全員が目の前の惨状に足を止める。


『何だ?来ないのか?ならば、此方から行ってやろう……レーヴァテイン』


 そう言った瞬間、彼の剣は炎を身に纏い始める。


『もっと俺を楽しませてくれよ。なぁ』


 天に掲げられた炎の剣は熱量を増す。

 更に、炎は刃と成ってその剣身を伸ばしていく。


「全員ッ!散開しなさいッ!」


『遅い』


 隊長格の女が命令を下すが、判断が遅すぎた。

 炎剣は銀狼の周りを薙ぎ払い……辺りには上下半分になった大量の死に体が転ばるのみ。

 分かたれた断面は炎剣による熱で焼け焦げているが、それによって僅かながらも生の時間を得られているのであった。


『ふん、つまらん。異世界人共の実力を過大評価しすぎていたようだな。遊びにも……ウォーミングアップにもならん。ラグナロクを始めようにも始められんではないか』


「こん……な、ことを、して……どう、なっても――――――」


『俺には関係ない事だ』


 そう言うとなんの躊躇もなく、元は隊長格であっただろう女の頭を踏み抜く。


『俺はロキであって、そうではない。だが、やるべきことは何も変わらんさ。ラグナロクを再び起こそう、それはきっと、いや必ず、面白いものになる。例え俺がいなくともこいつは必ずラグナロクを引き起こす。解るんだよ。クククッフハハハハッ!』


 めちゃくちゃ遅くなって申し訳ないです。

 そして、こんなにも期間が空いたというのに最後まで見てくださった読者様には感謝の言葉しかありません。本当に有難うございます。

 次話は全く構想が出来てなくてまた時間がかかるかもしれませんが、読んでくれている読者様方のためにも何とか続けていきたいと思っています。

 それではまた次回、お会いしましょう。

 

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