第5話 特殊エレベーターで直ぐに
「浅川、千鶴はどうしている」
「はい、お嬢様は千年ビルにおられるようです」
「ようですって、何言ってんのよ」
未来沙月は黒いサングラスを白い丸テーブルの上に乱暴に置いた。
メガネフレームのつる(テンプル)に指を絡めてテーブルの上で弄っている。
沙月の悪い癖が彼女の苛立ちを現す。
黒スーツの男が沙月夫人の手招きで駆け寄り腰を屈め顔を寄せた。
「もっと、耳を寄せて」
黒スーツの男は沙月に耳打ちされて緊張しているようだ。
「はい、確認してみます」
傍にいた浅川は、その様子に警戒心を強める。
無意識が沙月からの距離を置くように静かに後退りした。
形容出来ない不安と恐怖が黒い霧になってじめじめと浅川の心を蝕む。
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カフェの白いガラス扉が荒々しく開き若い女が顔を出した。
沙月がいるテーブル目掛けて真っ直ぐ歩いてくる。
沙月に似た風貌の若い女は、怪しげな薄手の黒いワンピースドレスを着ている。
赤いエナメルのハイヒールの靴音が、コツコツ真っ直ぐ近付いて沙月の前で止まった。
「こんにちは、沙月叔母さん」
「ーー あら、素敵なワンピースね」
「ホテルのブティックで偶然見つけたの」
「そう、今日は」
「ちょっと気になることがあって」
「それって、ビジネスのこと」
「わからないわ」
女は急に他人行儀になって言葉を濁し、浅川を見つけた。
「あら、この男、どうして此処に」
「私が呼んだのよ」
女と沙月は、獲物を見る目つきで浅川を見て言った。
「浅川、今日は仕事を終えるまで出られないわよ」
「沙月、叔母さん、仕事ってアレ」
「そうね、アレがクリアされないとね」
「・・・・・・ 」
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千年ビル特別社員食堂の廊下に響く、違和感のある雑音。
調査中の巫女が気付いて反応した。
千鶴は、脳内に響く音との境目で気付くのが遅れた。
「優さん、聞こえるわね。変な音」
「うん、何の音かな」
もうひとりの巫女がロボット掃除機の異常を別の巫女に伝えた。
「でもーー この音はロボットじゃないわ」
如月優の隣にいた巫女が言った。
「じゃあ、アレじゃないかしら」
巫女はテイクアウト用のバスケットを指差した。
「巫女さん、これ関係ないよ」
優はバスケットを抱きしめて反論する。
未来千鶴は、無邪気にバスケットを抱きしめている優にそっと呟いた。
「優さん、この音、“時限タイマー”に似ていない」
「ええーー そんな」
優はバスケットをゆっくり床に置いた。
千鶴と一緒にバスケットから離れ、碧の携帯を呼び出す。
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「お姉ちゃん、まだ特殊エレベーターに乗っていないけど」
「優、乗れないの」
「その前に、食堂のバスケットからタイマー音が」
「あそこの食堂のバスケットね」
「うん、そうだけど」
「それ、賞味期限タイマーじゃないの」
「そんなのあるの」
「心配なら食堂に聞いてみて」
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特別社員食堂の受付。
「はい、賞味期限タイマーはありますが、このバスケット変ですね」
「ええ、変」
「専用バスケットの色と形に違和感が」
一緒に同行している巫女がバスケットを見て頷く。
「これ、きっとーー 何者かにすり替えられているわよ」
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巫女がテイクアウトバスケットからサンドイッチの一部を取り出して検査を試みた。
「優さん、これ僅かですが睡眠薬が混入しています」
「何でーー 」
「多分、狙われているみたいですよ」
「誰がーー 」
「変わった訪問者ありませんでしたか」
「先日、千鶴さんを訪ねた浅川という男」
「優さん、その男、千年ビルの関係者ですか」
「多分、外部の人」
巫女は、続けて説明して言った。
「千鶴さんの居場所、その男、なんでわかったのかしら」
「あの時、千鶴さんは携帯と機密ファイルだけ所持していました」
巫女は、千鶴から携帯を受け取り調べて言った。
「これーー 盗聴器とGPSが反応しているわ」
おそらく、騒ぎに乗じてピンポイントで特別社員食堂に潜入したのかと・・・・・・。
巫女と優は考えて碧に連絡を入れた。
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「優、千鶴さんと一緒に展望台特別室に上がって」
「わかったお姉ちゃん、特殊エレベーターで直ぐに上がるから待っていて」
「優ーー 今、別の場所にいるわ。直ぐに済むから」
優はため息と一緒に深呼吸をした。
千鶴の手を強く握っている。
「優さん、手が痛い」




