ガムテの人
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カラァン
まるで喫茶店のようなドアベルが来客を知らせる。
カウンターにいる女性店員はちらりと一瞥して声を掛けて来た。
「らっしゃい、ゆっくりどうぞ」
声に覇気はないが、歓迎されていない雰囲気は感じなかった。
「あの、ココ……眼鏡屋ですよね?」
「ええ、看板にも書いてあると思いますが」
ふくろうの目には丸眼鏡がかかっていて、全てを見通すと言わんばかりの力強い眼光に惹かれて店に入ったのはナイショだ。
「眼鏡がその、壊れちゃって。車の運転もあるので応急処置でいいので、出来ませんかね?」
珍しく当たった営業トークの役得で、タダ飯にありつけることになり、いつもの昼よりかなり早い時間に食べたせいか、強い眠気もあってクーラーを利かせた車の中で少し寝ていたところに突然の着信。
慌てて飛び起きたら体を打ちつつ落とした眼鏡は足もとにキレイに着地。
「あっ」という言葉しか出なかったが、眼鏡が無いと運転も出来ないので、駐車場で無理やり直した眼鏡をかけて慌てて探した店がココだった。
「どんな状態の眼鏡です?」
「あ、これです」
車に常備していたガムテープでテンプルを補強して、ヒンジも無理矢理くっつけたガタガタの眼鏡を目元からそのまま渡す。
「……修理は無理ですね。完全に折れているので新しいフレームを探した方が早いと思います」
「あの、それは分かるんですけど、この後に運転とお客さんが待っていて、それに時間も無くて」
「あー。因みにご予算は?」
「……できるだけ安くしてもらえると」
「はいはい。少々お待ちくださいね」
そう言って、渡した眼鏡を持ったまま少し奥の方へと女性店員が行ってしまった。
眼鏡が無いと殆ど水の中と同じような視力しかない自分としては、正に溺れそうな状態になるわけだが、一分もしないうちに彼女が何かを持って来た。
「とりあえず、コレと、コレ、後は……一応これもギリギリ……ですね」
そう言って、目の前に出してくれたのは多分、眼鏡のフレーム。
「あ、眼鏡が無いんでしたね。少々お待ちを」
椅子に腰かけた彼女は、くるりとうしろを向いて何かをすると、カチャカチャと音を立てる。
「はい、どうぞ」
そう言われて目の前に渡されたのは視力検査の後にかけることのある眼鏡。
「これって、高いんですよ。……って、今はそれどころじゃなかったですね。これで見えます?」
ようやく自分は水の中からいつもの地上に視力が戻った。
「ああ、ばっちりと。この五つのフレームは?」
「今まで使っていた眼鏡のレンズを多少削る必要はありますが、殆ど同系統なので枠替えみたいに使えそうなフレームです」
ボソッと、彼女が小さい声で儲けないんですけどねと言っているのが聞こえる。
「時間がない時の最終手段みたいなものですけどね。耳が痛くなりにくいシリコンの先セルタイプは使い慣れるともう戻れないですけど、こだわりとかあるんですか?」
先セルの意味は分からないが、多分耳にかかるところだというのは話の流れで分かった。
「別に、何もないです。えーっと……」
そう言って、自分の財布を後ろのポケットから取り出すと中身を確認する。
ギリギリ万券が一枚。いや、これは支払い用だった気がするが目が見える状態になればあとでまたお金を下ろすことは出来るだろう。
「一番安く済むので頼めますか?」
そう言うと、何故か悩む女性店員。
「値段も大事ですけど、自分の体の一部みたいなものですよ?いいんですか?人任せで」
正直薄給の自分に高いものを売りつけたい様に聞こえた部分もあっただが、その目は全然違った。店員からの気配は気のせいかもしれないが、少しばかり怒りがにじんでも見える。
「あ、じゃあ、シリコンのさきせる?の奴をかけさせてもらっても?」
「ああ、これですね。ええ、どうぞ。時間がないのも理解していますから、順番にかけてみて、一番しっくり来たものをとりあえず選んでください」
そこから三つの眼鏡を順番にかけるのだが、どれもこれも今まで自分がかけていた眼鏡よりはかなり軽く、つけ心地は悪くない。そして、この中で一つだけ選べと言われるとなかなか難しいかと思っていたのだが、悩みそうになったタイミングで女性店員が声を掛けてくれた。
「どれもこれもあまり変わりない感じでしたら、重さを自分が一番感じにくかったものがいいですよ」
「重さを感じにくかった……ですか?」
「基本的にずっとかけるものですからね。つけ心地がいい、悪いっていきなり言われても分からない人が多いので、そういう時は別の感じ方を提案しているんですよ」
「なるほど。……重くないだったら、これかな?」
正直三つともほとんど変わり無かったのだが、耳にかかる感じが全くと言っていいぐらい感じにくかったのは先セルがシリコンだと言っていたものだった。
「多分、これですね」
「……おすすめしておいて、何ですけど……もう、普通の先セルに戻せませんよ?」
「そんなに、ですか?」
「ええ。初めの一週間ぐらいはなんてことないんですけど、次に買った時、後悔しかないぐらい……」
なんてものを売りつけるんだと思って女性店員を見たのだが、真面目な顔が一気に崩れた。
「まあ、すごく気にする人はってだけなので、そこまで気負わなくても大丈夫ですよ。じゃあ、これでいいですね。すぐにハメ替えて来るので……その眼鏡かけたままでいいので、少々お待ちください」
冗談交じりだったみたいな事を言いながら、裏に女性店員が行ってしまったのでポツンと一人残される形に。
待ち時間に何をして居ろとは言われていなかったので、とりあえず他の眼鏡を見て回ったのだが、どれもこれも見ているとなかなか色々な特色があった。ただ、値札を見てしまうと、一気に現実に引き戻されるというのを数回繰り返したので座っていた最初の椅子に再び戻った。
視力確認をする眼鏡は鼻の上がやや重く、もしかしたらこの眼鏡をかけていたからさっきの眼鏡のフレームがとても軽く感じたような気もしたのだが、今更もう何を言っても遅い事は分かっていたので、静かに待つことに。
奥に入った女性店員が何をどうしているのかはわからないが、何かしらの機械が動く音はしていて時折甲高い音がきこえるが、音は一定のリズムにもなっていて、聞いているだけでも心地の良い感じ。そんな音が聞こえてから気が付いたのだが、どうやら店の中は無音だったみたいで、自分がそんな事にも気が付かない程焦っていたというのが分かる。
「ああ……そう言えば、次のお客さんまであんまり時間、無かったんだ」
時計を見ようとしたら、思った以上に眼鏡が重くカクンと首に重さを感じた。
いつもの眼鏡もそう考えてみるとつけ心地が良かったんだと思っていると、奥から眼鏡を持った女性店員が出てきた。
「とりあえず、応急処置は終わったのでかけてみて下さい。調整をもう少ししますから」
眼鏡拭きでレンズを拭って、コトンと置かれた眼鏡には自分がさっきまで使っていたレンズがはめられていた。
重たい眼鏡をそっと机の上に戻し、新しい自分の眼鏡を両手でかけてみる。
視界はいつも通りくっきり見え、何も問題はなさそうだった。
「あ、そのままで少々お待ちください」
そう言われて、何故か両手は膝の上に置き背筋を伸ばす。
「んー、耳のかかりは大丈夫ですか?」
「ええ、問題なさそうです」
「鼻のパッド、のっている感じはありますか?」
「あんまりない気がしますが、逆に重くならないのでいい感じです」
「あー、それだとズレやすいので……ちょっと調整しますね」
眼鏡をはずしてくれと言われたので、机に置くと視界はまたも水の中。
ただ、何かしらの工具を使って直している様子は見えた。
「鼻に乗っていないと耳に負担が大きくなりすぎて、耳ばかりだと今度は眼鏡がズレて、バランスが大事なんですよ」
そう言いながら直しが終わるとどうぞといわれ、もう一度同じ眼鏡をかけてみる。
すると、さっきとは違い鼻に眼鏡が乗っている感じがしっかりとある。
やや、自分としてはバランスが悪いのでは?と思ったのだが、女性店員は満足そう。
「その状態でわざと左右に目をずらしてみて下さい」
「え?」
わざと目を左右に?と思いなが、キョロキョロとしてみると、何を言われていたのかの意味が分かった。
「これは……ちょっとだけ像が歪みますね?」
「ええ。その眼鏡の為のレンズではないので、前の眼鏡に合わせたレンズだとどうしても横の部分の歪みが出ちゃうんですよ。ただ、鼻に乗っていれば歪みも多分最小限だと思いますけど、どうですかね?」
言われてから最初の時はなんか視界の奥の方が湾曲していたような気がしたが、そんなに変わるのかと言いたい気持ちと、ちょうど店内にあった時計の時間がちらりと見えて、自分にあまり時間がなかった事を思い出した。
「これで十分です。あの、時間があんまりないんで……」
「ああ、そう言えばそうでしたね。えーっと、まあ、初回特典ってことで、フレーム代だけでいいので、三千円ですね」
「え?安っす」
思わず声が出ると、ふっと笑う女性店員。
「眼鏡屋ですからね。阿漕な商売をしているわけではないんで。まあ、気が向いたら新しい眼鏡でも……ああ、その眼鏡にそのレンズ自体は別々なので、近日中に眼鏡を作る事をお勧めしますよ」
「あ、そうですね。これは一応応急処置でしたね」
「ですです。あー、かけ心地とか何かあればまた相談にどうぞ。軽い手直しは基本的にお代を頂かないと思いますから」
ちょくちょく気になるような言い回しはあるものの、財布からお金を出してお店をあとにした。
「飛び込んだ眼鏡屋さんにしては……よかった……のかな?」
時計を見ると三十分程しかたっていなかったので、お店をあとにしていつもの仕事に戻った。
新しい眼鏡のお陰だったのか、それとも昼寝が良かったのか、その日の午後はちょっとだけ調子のいい午後を過ごせました。
カラァン
坂の上にある喫茶店に入ると、そのままいつもの席へと座る。
「今日のランチは何になります?」
「ナポリタンかな。今風でもいいし、昔風でもいいよ」
「折角なので昔風で」
「はいよ」
慣れたいつものやり取りの後勝手に、温かくなっているおしぼりを専用の保温機から取り、水をコップに注いで席へと戻る。
少し経つと、食欲を刺激する懐かしい香りが奥から漂って来た。
「お待ちどうさま。昔風ナポリタンだよ」
ナポリタンを置いた後、スープとサラダもひょっこりと出て来るのは嬉しい限り。
「その顔の様子だと、本日の一食目かな?」
「あー、ちょっと昨日は夜更かししちゃって。朝起きたらギリギリで」
「まあ、無理はしないでいいからね?」
「はい」
返事を済ませたら、早速いただきます。
昔風をお願いしたのもあって、ケチャップが多めなのか、砂糖でも入っているのか、甘めの味付けのナポリタンをぺろりと平らげ、スープとサラダも食べ終わったタイミングで食後のコーヒーも出て来る。
「いつもの事ですけど、凄く美味しいです」
「お粗末様です。この後はいつも通り?」
コーヒーを一口飲むと、何も言わなくても砂糖まで入っているのでスルッと飲める美味しいコーヒー。
「ええ。まあ、この間ガムテの人が来た時はびっくりしましたけどね」
「あー。素人修理でガムテを巻いた人だっけ?」
「ですです。レンズの際を見るとどうしても像が歪むので、運転をするって言っていたので、多少気になりますけど、事故のニュースもない所を見ると、イイ感じなのかもですね」
客商売というのは面白く、ガンガン売りに行くタイプとどっしりと待ちに構えるタイプと大まかに分ければ二種類あって。
私が働いている眼鏡屋さんはどちらかと言えば、後者の待ち構えるタイプ。
さらに言えば、オーナーさんの計らいもあって、ガンガン売りにいかなくても怒られる事はないのもあって、のんびりいつもお客さんを待つ形。
「お客さんが少しずつ気になるようになってきました?」
「あー、どうなんですかね?でも、出来る限りの対応は頑張って……いるのかな?」
やれる範囲の事は出来るだけやっているつもり。
ただ、その姿勢を何処まで評価してもらえるのかは正直分かっていない所も。
「十分でしょう。ああ、今日もまた暑いみたいなので、必要に応じて休憩にいらしてくださいね?」
「わかりました。って、いいんですよね?」
「ええ。お休みも仕事の中の権利の一つですからね」
ニコっとマスターが笑ってくれるので、若干の愛想笑いみたいな曖昧な応答を返し、お店をあとにしましょう。
「ご馳走さまでした。じゃあ、いいタイミングでまた来ますね」
「ええ。お待ちしています」
カラァンといいドアベルの音を鳴らすと、外はむわっと蒸していて、時期特有の嫌な感じ。
私は思わず目を一度だけ閉じますが、パッと開けたら気持ちを切り替えて、だらだらと眼鏡屋へと坂道を降りる。
そこまで長くない坂道を降り切って、通りに当たったら通りにそって少しだけ歩く。
少しだけ歩いた先に鋭い目を優しい目にレンズを通して誤魔化しているフクロウがジッと私を見つめてくれた。
「ただいまもどりましたよ」
返事を貰いたい訳ではないが、なんとなくいつも目で挨拶をしてくれている気がするから、首をコクンと下げ、ぼそぼそと声を掛ける。
鍵をかけていた入り口を開け、ひっかけていた伝言板を無造作に持って店に戻る。
店の中はクーラーが効いているのもあって、涼しいというよりはやや寒かった。
「居ない間の連絡は、無しっと。お客さんに渡す分は作り終わっているし、とりあえず三時、いや夕方ちょっと前ぐらいに三十分ぐらいの休憩がいいかな?」
坂の上の喫茶店でのコーヒー休憩時間をいつにするか考えながら、この後の予定を思案し始めたのだが、すぐにドアベルの音が鳴って、色々と予定が崩れそうな気配がスススっと寄ってきている気がした。
「あ、開いてる。よかった」
私が客に声を掛ける前に、お客さんが安堵していた。
「らっしゃい?ゆっくりどうぞ?」
なんとなく初めてのお客さんの空気は感じないが、よく知らない男性客が来たので私の中の仕事モードにスイッチが入っていく。
「あの、この間眼鏡……えーっと、フレームの入れ替え?をしてもらったんですけど」
「あー。ガムテの人?」
「え?ガムテ?」
「あ、いえ……。ガムテープで補修していた人ですかね?」
「あー。はい。その節は凄く助かりまして」
ぽろっと出てしまった言葉を引っ込めることは出来ないのですが、お昼休みの後でお腹一杯の満足感と気を緩め過ぎていたのもあって、ついつち接客的な対応ではない状態をみせてしまった事に恥ずかしさを覚えますが、そこまで怒るタイプの人ではなかったみたい。
「その後はどうでしょう?鼻のあたりか耳のかかりに違和感でも?」
「あ、いえ。寧ろ交換をしてもらってから、色々と上向きになったぐらいなので、折角だったらここで眼鏡を作ろうかと思いまして」
「それはまた、律儀な事で。こちらとしてはありがたい限りです」
頭を下げながら、どういう眼鏡が欲しいかを確認しましょう。
「では、本日はどういった眼鏡をご所望で?」
「え?」
「フレームの入れ替えをしたものを見やすいレンズにするのも一つですし、新しく眼鏡を作るのもまた一つ。あとは、運転用ではなく自宅用の眼鏡を作るなんていうのもいいですよね」
ガムテの人が何の話?と言わんばかりに不思議な反応をしてきます。
「眼鏡って、見えればいいんじゃないんですか?」
ああ、なるほど。
どうやら、ガムテの人は眼鏡素人さん。
いえいえ、どんな人間もまずは素人からなので、それは問題ないのですが……。
「本日は、お時間に余裕はありますか?」
「あ、はい。あと、そこまで大枚はないですけど、この間よりは予算も」
「その辺りは、ご自身で判断を頂ければと思いますが、運転とは別の眼鏡……そうですね、家用の眼鏡なんていうのがあると、よかったりしますが、そういうのはご興味あります?」
セールストークにしては拙く、ガムテの人は何を言わんとしている?という顔にも見えますが、取っ掛かりとして一番わかりやすい家用の話をしてみます。
「興味というよりは、家用の意味合いがあんまり分かっていないんですけど」
そうは言いながらも、どういう眼鏡?という気持ちはあるのか、若干前のめりに聞いてきてくれるので、手始めに重さをほとんど感じないメガネフレームを二つと重さがズシリとある分かりやすい黒ぶち眼鏡を用意して、この間と一緒の机に案内します。
「運転用というのは最低でも1.0の視力、まあ両目合わせて平均で0.7近くの視力が必要なわけですが、家用は0.5前後あれば十分です」
「はあ」
「その為、運転は出来ません」
「まあ、そうですね」
「代わりに、ちょっとだけ見えづらくなります」
私なりの微笑を浮かべたものの、無反応に声だけが帰って来る。
「それって、意味があるんですか?」
「意味と言われると、難しいですけど、個人的な見解で言うと、休めます」
「休める?」
言葉にはどうやら反応するみたいだったので、右手で三つの眼鏡をかけてみて貰います。
「家用メガネというスイッチみたいなものです。なので、今回は三種類を選んでみましたが、かけてみると違いがあって分かりやすいかと」
ガムテの人は半分分かったという感じに、頷いて一つ、また一つと眼鏡を順番にかけていくと、やっぱり黒縁の重たい眼鏡で驚いた顔に。
「かなりこれは、かけているって感じが強いですね」
「ええ。重さもあって、いつもかけている眼鏡と別物と理解できるタイプを選んだので」
ただ、その重さがガムテの人にはしっくり来た様子。
「今は度数が入っていないので、ぼやけた視界だと思いますが、多少見えると生活には困らないんです。代わりに、出来る事が減って、出来ない事が増えるんです」
私の言葉に、やはり首を傾げます。
「家の中ぐらい、気を張らないでゆっくりしたい。そういう時に私は緩めの度数の眼鏡をかけるんです。慣れて来るとゲームや本を読むぐらいは出来ますし、でもちょっと外に出るには怖いっていう絶妙なバランスになるんですよ」
本を読む専用の眼鏡は軽く、ゲーム用は重く。
時間をかけすぎるとどうしても集中力が分散しやすいので、その傾向に自分なりに合わせた眼鏡があるわけですが、この辺りでハッとします。
「って、あー、やっちゃいましたね。すみません、ちょっと調子に乗って、喋り過ぎちゃいましたね。たまーにあるんですよ。余計な事をついついペラペラ喋っちゃう事が」
すみませんと二度頭を下げていると、不思議な返事。
「へー。面白いかも」
その言葉の後に、黒ぶち眼鏡に度数を下げたレンズを入れてほしいとお願いされます。
「眼鏡って、見えるようになればいいだけだと思っていました」
「その認識で間違いは無いんですよ。でも、せかせかしている時はゆっくりも必要だと思うので」
これ以上は多分、自分で体験したほうがいいハズ。
「幸いにお客さんの度数のレンズはあるので、パパっと作りましょうか?」
「ええ、お願いします」
私は工房に入ると、すぐに作業を開始した。
殆どの作業は機械が勝手にやってくれる。
私は技術職のようなあれこれなど殆どなく、ちょっとしたクセに付き合って、削ったり嵌めたりするだけだ。
「お待たせしました。後は調整をしますので、まずは見え方を確認してください」
耳と鼻のあたりの調整をしつつ、月曜日の新聞を渡すとガムテの人は驚く。
「結構、読めるんですね」
「ええ。テレビの字幕も多少見えづらいかな?って程度で見えると思いますよ」
逆にそれがやきもきする場合もあると伝え、ある程度使って合わない場合もある事を更に伝えた。
「人によっては、見える方がいいって方もいらっしゃいますから、やっぱり見える度数がいいと思ったら、また来てください。基本的には一回、理由があれば二回まではレンズ交換しますので」
ウチのお店はアフターサービスもなかなかなのです。
「なんというか、面白い買い物をした気分です。来てよかった。ありがとうございます」
ちょっとだけ嬉しい一言を貰えた、ガムテの人の再来店。
もう少ししてお客さんが来なかったら、喫茶店で休憩でもしますかね。
続きを書きたいような、ここで終わっても大丈夫なような。
読んで頂いた方々に委ねるのも一つかな、と。
書きたくなったら、何処かの大安でひとりでに話数が増えるかもしれません。




