第20話 ほんとにござるかぁ?
「ギャア!」と悲鳴をあげたワイバーンが飛び立つ。追撃しようとする騎士もいたが、羽ばたく翼に当たり吹き飛ばされてしまう。
「ワイバーンが!!」
と叫ぶ者もいる。そんな騎士に、
「大丈夫です!!」
と返し、僕は瞬時に組み上げた雷属性魔術を放つ。
「《雷光一閃》!」
《雷光一閃》はひたすらに速い雷電を発射する魔術だ。「一閃」の名の通り、拡散せず一筋の雷が飛んでいくのだが、では威力が無いかというとそうではない。電力というのは電圧×電流で求められる。電流が変わらなければ影響するのは電圧である。つまり力を込めて速く撃ち出した《雷光一閃》はかなりのエネルギーを秘めているということだ。
自然の雷とは違い速度に制限があるのか、僕の力量がまだまだなのかはわからないが、雷速には程遠い、けれど回避するのも困難な魔術に対し、魔物の本能なのかワイバーンは回避行動をとってみせる。でも、
「無駄だよ」
回避したワイバーンに向けて雷が曲がっていき、僕が刺した槍に直撃する。雷は槍を通してワイバーンの体内を焼き、そして強敵だったブレードワイバーンは絶命して墜落した。
「「今のは何ですか!?」」
異口同音に尋ねてきたのはライラ殿下とグラム隊長だ。ただ、殿下は目を輝かせて、グラムは驚きを隠せずにという様子ではあったが。
「ワイバーンは硬い鱗と魔術を軽減する膜を持ち、傷つけるのが難しいと思いました。なので、皆さんがつけてくださった傷に金属の槍を撃ち込んでそこから体内に雷を流しました」
「雷が曲がったのは!?」
「雷は細く尖った突起に引き寄せられやすいんだそうです。なので槍に引き寄せられたんですよ」
「「「へぇー!!」」」
おや、いつの間にか他の騎士たちも集まってきていたようだ。しかし皆結構傷ついているな。羽ばたきを喰らった人なんてボロボロだ。
「少しそのままで。回復します。《範囲回復術》」
「「「!?」」」
【神聖術】の治癒の力が一定範囲の味方に及ぶようにした術だ。街に入るときにボロボロだと格好つかないし心配されてしまうからね。
「なんという……。アイン様は何者なのですか……?」
怪我が酷かった騎士が言う。彼はきっちり無傷まで治療が済んでいる。鎧の損傷はどうしようもなかったけど。
「別に、ただの伯爵家の三男坊ですよ。そんなことより、ワイバーン、どうするんです? 持っていきます?」
「え、えぇ。ブレードワイバーンともなると貴重な素材と研究材料ですから。解体は必要ですが血抜きは必要なさそうで助かります」
おそらく解体担当だろう騎士が言う。血は雷撃で蒸発してしまったようだ。竜の血の効果とか気になったんだけどなぁ。竜の血を浴びて半不死身になった英雄もいたらしいし。いや、飛竜じゃダメか? まぁいずれにせよ無いものは仕方ない。
部位ごとに分けたブレードワイバーンの亡骸を荷台に乗せて、あと僅かの道のりを進んで行った。
王都の入り口である門に着くと、門衛が賞賛してくれた。どうやらワイバーンとの戦いは王都からも見えていたようだ。気持ち良く褒めてくれる門衛を見ると、ワイバーンを近づけさせなくて良かったと改めて思える。
確認はそれだけだった。王家の馬車に王女が乗っているというのはそういうことなのだ。気のいい門衛との僅かな交流を楽しみ、真っ直ぐ王城へと向かったのだった。
王城に着くなり応接間に案内される僕。メイドさんが紅茶を注いでくれたが、口をつける前に陛下がいらっしゃった。他の公務もあるだろうに、こちらを優先するなんて余程優先順位が高いんだろう。
「おお、アイン。息災であったか? すまぬな、手紙で要件を知らせることとなってしまった」
「は、陛下。ありがたいことに息災でございます。お手紙を頂戴いたしまして光栄の至りです」
「ふ、ライラは其方の……そう、『生徒』であろう? 私はその親なのだ。もっと気楽にすると良い」
まーたそんなこと言いますか貴方は。伯爵家の中ならまだしも、ここは王城、王家のホームグラウンドだぞ。そんなことしたら不敬で切られますわ。
「はっはっは。何を考えているかはわかるが、其方を不敬罪に問う者なぞこの城にはおらんよ。そんなことをすれば自らの身を危うくするだけだからな。それほどまでに其方の功績は大きく、皆に頼られておるのだ。自覚せい」
ええー? ほんとにござるかぁ? まあ多少生活改善はしただろうけどそこまでではないだろう。そもそも城中って何があればそうなるんだ?
「ライラが其方のことを手紙で伝え、自慢してくるのだ。『最高の環境で学んでいます』とな。それを私が城中に広めておる」
親バカ!! 親バカだよこの王様!! そしてどんな紹介をしているんだライラ殿下……。もちろん褒められて悪い気はしないけどね。
「さて、今回其方を呼びたてたのは手紙でも言った通り、集団教育を普及させたいのだがやり方がわからんのだ。そこで見事な授業をして見せた其方の知恵を借りようと思ってな」
「は、存じ上げております。そこで、私はここにくるまでの間に草案をまとめておきました」
「ほう、何をするつもりだ?」
「『学校』を作ります。詳しいことは資料をご覧ください」




